香田さんの死 パリで悼む イラク人質殺害から5年 移住の詩人詩集刊行 福岡の遺族に贈呈へ

2009年10月26日 00:08 カテゴリー:アジア・世界 九州 > 福岡

 【パ リ高木昭彦】2004年10月にイラクを旅行中の福岡県直方市出 身の香田証生(しょうせい)さん=当時(24)=が武装組織に拉 致、殺害されて間もなく5年。若者の非業の死に突き動かされたパ リ在住の詩人ロワラン・霜鳥和絵さんが「香田さんの魂はパリに来 て、今も私たちの心に生きている」との思いを込め、故人にささげ る詩集を刊行した。遺族にも近く贈呈する。

 日本で美術・ 音楽関係のジャーナリストをしていた霜鳥さんは、日本で個展を開 いていたフランス人画家モーリス・ロワランさんと結婚。1987 年にパリに移り住み詩作を続けている。

 香田さんの事件 は当時、フランスでも詳しく報じられ、夫とともに激しい衝撃を受 けた。「なぜ日本政府は人命最優先で動かなかったのか」「なぜ香 田さんや遺族が『日本のみなさんに迷惑をかけた』と謝らなければ ならないのか」「どうして人質の自己責任論を口にする人がいるの か」。周囲のジャーナリストや芸術家たちも同じ思いを共有してい たという。

 遺族に対する深い哀悼と日本社会に対する強 い違和感が、詩集の出版を決意させた。「作品の中で香田さんを生 き返らせたい」。そんな思いを胸に10編以上の詩をしたため、夫 もパリの木々を香田さんと遺族に見立ててペン画と水墨のデッサン を何枚も描いた。

 霜鳥さん自身が重病になったり、夫が 2008年2月に事故死したりしたことで詩集の出版作業は遅れた が、病気の後遺症がある体を押して、このほど詩集「眠る詩人の木」 の自費出版にこぎつけた。31編の作品中、香田さんにささげる詩 を3編盛り込み、夫のデッサンも添えた。

 今も遺族の心 境に思いをはせる霜鳥さんだが、亡夫との約束を果たして安堵(あ んど)の表情もみせた。「きつい作業でしたが、このまま香田さん を忘れさせてはいけないという気持ちで最後まで頑張ることができ ました」と話している。

 香田証生さん殺害事件  武装組織「イラク聖戦アルカイダ組織」と名乗るグルー プが2004年10月26日、イラクを訪れた香田証生さんを拉致 したとウェブサイトに映像付きの犯行声明を出した。48時間以内 にイラク南部サマワから自衛隊を撤退させなければ殺害すると警告 したが、日本政府は要求を拒否。バグダッドで31日、香田さんの 遺体が見つかった。

=2009/10/26付 西日本新聞朝刊=