==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
学外・海外への働きかけてください [hu-net] より転載

学外・海外への働きかけてください


2000.1.17
北大構成員の皆さまへ

理学研究科の辻下です。

おくればせながら本年もよろしく御願いいたします。

年末に独立行政法人化問題を考える北海道大学ネットワーク(北大ネットワー
ク)が結成され、現在、学生を含む北大全構成員のメーリングリストの構築を
目指して準備が進められています。北大ネットワークが出来たことで、全学的
なコニュニケーションの場を仮設する私の役割の一つは終わったと感じていま
す。今後は、北大ネットワークを通して発言させて頂こうと思っています。

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[目次]
1.【財界・企業経営者側からリストラ糾弾の声】
2.【21世紀経済産業政策検討小委員会議事録より】
3.【国民および海外の研究者への働きかけが緊急に必要】
 「国立大学協会が中教審の入試改革提言を「全否定」」記事に関連して
4.【4月からの大学運営の変化について】
   学校教育法等の一部改正に係るワーキング・グルーブ第1次報告(1999.12.1)
 高知大学の評議会議事要録のウェブ公開
5.【加藤紘一氏講演会の感想−−競争的研究費の功罪】
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1.【財界・企業経営者側からリストラ糾弾の声】
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年末から今年に入ってから私には朗報が続いています。特に、国立大学の独立
行政法人化への外圧となっている市場至上主義への疑義の声が経済界・経営者
の方からも聞こえ始めたことは、時代の流れの大転回だと感じています。

財団法人・社会経済生産性本部のメンタル・ヘルス研究所は昨年末に「リスト
ラで日本企業全体の志気が明確に低下している」と警告を発しました。
( http://www.jpc-sed.or.jp/mhr/mhr07.htm)

また、新年になり日経連臨時総会での労働問題研究委員会報告のタイトルは
「“人間の顔をした市場経済”をめざして」で、奥田会長(1/14)は挨拶の中で、
人員整理に立ち至った場合「経営者の見通しの甘さ、重大な判断の誤りであり、
何らかの責任を取ることは当然のこと」と述べたそうです。昨年の労問研報告
にあった雇用削減を当然視する論調からの大転換と思われます。
(詳細: http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/00114-nikkeiren.html )

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2.【21世紀経済産業政策検討小委員会議事録より】
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また、国立大学の独立行政法人化に関連してもいくつか朗報があります。

通産省産業構造審議会総合部会 21世紀経済産業政策検討小委員会
(第3回)(1999年11月19日)議事録
http://www.miti.go.jp/report-j/g91119dj.html
に、ある委員の次の発言が記録されています。
「それから、最後に一言。大学の問題なのですが、国立大学の独立行政法人化
の意向を文部省が表明したところですが、今の大学の問題は、自主的で自律的
な教育・研究機関としての自主性、自律性が十分保障されるシステムになって
いないというところに最大の問題があります。ですから、「独立法人」になる
のなら良いのですが、「独立行政法人」ということでは、財政基盤だけが不安
定になって、しかし、文部省の統制が全く変わらないようであれば何も良いも
のが出てこないと思います。ですから、独立行政法人化がよろしいという意見
に対しては、私は賛成できないということをこの場で申し上げたいと思います。」

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3.【国民および海外の研究者への働きかけの御願い】
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また、新年早々、国立大学協会のアイデンティティの回復を示す力強い意思表
示の報がありました。

.........朝日新聞2000/1/8.............................................
国大協が中教審の入試改革提言を「全否定」(1/9)

「はなはだ新味に欠ける」「矛盾が少なくない」。大学の入学者選抜の改善な
どを提言した中央教育審議会に対し、国立大学協会がこんな挑戦的な意見書を
出した。中教審が大学入試センター試験の外国語にリスニングの導入を求めた
ことについて、「大学が必要に応じて個別に実施するのが望ましい」と必要性
を否定。学力低下が指摘される大学新入生に対し、高校教員も加わって補習を
行うことを提案した点については、「学生の教育義務は大学にあり、大学の責
任で行うべきだ」とにべもなかった。全編にわたって、中教審の議論をほぼ
「全否定」する内容だ。 中教審の提案の目玉の1つは、学生と大学の「相互
選択」。「大学は自校にふさわしい学生を見つけ出す努力をする」「学生も、
偏差値ではなく本当にやりたいことを学べる大学を選ぶ」という本来の姿に戻
る必要がある――という提言だ。しかし、国大協の意見書は、「実際には、
『入れない大学に入りたい受験生』、『求める学生を見いだすことが難しい大
学』が多いのではないか」と現実とのギャップを指摘し、「実現は容易ではな
い」としている。 中教審が、「AO入試」の促進を求めたことについては、
「(大学の)仕事量はすでに限界にきており、スタッフの増員、新たな予算措
置が必要なことを強調したい」。高校教育の多様化を求めている点については、
「(高校には)むしろ基礎基本の徹底こそが求められるべきで、多様化を期待
することは時代の要請に逆行しないか」と述べた。(朝日新聞1月8日)
.........朝日新聞2000/1/8引用終わり....................................

国立大学の独立行政法人化に対する危惧、そして、その背景となっている日本
社会全体の市場至上主義への危惧は、次第に広がりつつあること、また、国立
大学協会自身が大学の使命と誇りに目覚めつつあることに希望を感じます。

国立大学協会総会が4月以降となり、わずかながら時間的余裕はできましたの
で、それをフルに活用し、国立大学の独立行政法人化問題へ、多くの市民が関
心を持ってくれるよう努力したいものです。適当な機会があるときには一言で
もみなさんが発言して頂ければと切に願っています。また、海外の知人に、日
本政府が99国立大学に大変革の受け入れを短期間に決断するよう迫っている
こと、その変革は学問・高等教育に禍根を残すという危惧の声が多方面から上
がっていることを、知らせて頂ければ、と願っています。

 多くの国民や世界の研究者が国大の独立行政法人化問題の経緯を注視するよ
うになれば、どのような結果になろうと長期的には大学の実質的改善は実現さ
れるものと信じています。

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4.【4月からの大学運営の変化について】
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独立行政法人化の陰に隠れてか、余り論議されていませんが、4月から大学運
営は大きく変化します。先日「学校教育法等の一部改正に係るワーキング・グ
ルーブ第1次報告」(1999.12.1)が各部局に配られ意見を求められました。

...........序文.......................................................
本学においても改正法に合わせて学内規程を整備する必要があることから、評
議会の下に本ワーキング・グルーブ(以下、WGという。)を設置し、所要の検
討を行うこととした。なお、改正法の内容は、
(1)所定の単位を優秀な成績で修得した者について3年以上の在学で大学の卒業
を認めることができる制度を設けること、
(2)大学院研究科修士課程の弾力化に関すること、
(3) 大学における学部長の設置に関する規定を整備すること、
(4)国立大学における運営諮問会議及ぴ評議会の設置に関する規定を整備すること、
(5) 教授会を置く組織及びその所掌事務を定めること、
(6)国奪立大学の教員の採用等のための選考における学部長等の役割を定めること、
(7)教育研究等の状況の公表を行うこと
(8)国立大学等の運営の基準を定めること」等におよんているか、
(1,2) については教務委貝会で検討することとし、WGにおいてはそれ以外の事
項について検討することとなった。
  改正法の施行日が迫っていることから、WGは事柄の緊要性に応じて審議を
進めることとし、当面検討しなければならない(4,5,7)を取り上げ、主
要部分の評議会の構成、教授会の設置形態、運営諮問会議および状況の公表に
ついて検討することとした。本報告は、これに関するWGの審議の結果である。
...........引用中断..................................................

この中で、評議会・教授会に関する部分は現行を変えないという趣旨のもので
すが、運営諮問会議は新たに創設されるもので、注目しなければなりません。

...........引用続き..................................................
(3)運営諮問会議
改正法は、国立大学に運営諮問会議を設置し、委員は、当該大学の職員以外の
者て大学に関し広くかつ高い識見を有するもののうちから、学長の申出を受け
て文部大巨が若干名を任命すろこととしている(委員は非常動の国家公務員で
ある。)。運営諮問会議の職務は、大学の教育研究目標・計画、大学の自己評
価、その他大学の運営に関すろ重要事項について、学長の諮問に応じて審議し、
及ぴ学長に対して助言又は勧告することとされている。

平成9年9月以降、本学には、杜会からの意見を聴取し、社会的存在としての大
学の責任を明らかにするとの観点示ら、18名の学外有識者からなる「北海道大
学懇話会」が設置されており、年1回程度開催されている。しかし、新設され
ろ運営諮問会議は、大学の運営に関する重要事項について、学長の諮問に応え
るだけでなく、自らの判断により審議し、助言又は勧告することができる実質
的審議機関であり、その構成や人選もそのような審議体としての機能を発揮で
きるように決定されるべきものとされている。諮問会議の助言等に学長が拘束
されないことはいうまでもないが、設置の趣旨に照らし、学長はそれを十分尊
重することが期待されており、助言等及びそれに対する学長の対応はすべて公
表されるものとされている。

WGは、以上の諸点を確認した上で、運営諮問会議の構成及び委員の選考方法並
ぴに運営につき以下のように考えるものである。第一に、委員の構成について
は、地方公共団体の代表者、地域経済界の関係者、本学の卒業生、他の教育・
研究機関の関係者、本学の教職員OB等から10名前後を選考する。第二に、選考
の学内手続としては、総長が選考し、評議会に報告するものとし、欠員補充の
場合も同様とする。第三に、諮問するにあたっては、総長から評議会に報告す
ることとする。第四に、運営諮問会議から答申、助言又は勧告があった場合は、
総長がその旨を評議会に報告し、評議会においてその取扱いを審議するものと
すろ。なお、北海道大学懇話会については、これを廃止するものとする。
...........引用終わり..................................................

上の選考方法案を見ますと、
・大学外で自由に言論活動を展開している人が参加する余地がない。
・大学と全く関係ない市民が参加の機会が与えられていない。
という点が気になります。北大について全く新しい目で見、広い視野に立って
発言する人が参加することは北大にとって意義のあることと思います。山口大
学が県民から公募したような、新しい方法も取り入れてはどうなのでしょうか。

また、選考委員会のようなものを作った方が色々な視点からの人選ができるの
ではないでしょうか。すでに各部局から優れた提案が多く提出されていると想
像されます。初年度だけの暫定的な規則ですが、何事も初めが肝心と申します
ので、良い方法を勘案してくださいますよう、関係者の方々に御願いしたく思
います。

なお、高知大学では、評議会議事要録をウェブ公開を始めました:
http://home.kochi-u.ac.jp/council/
北大でも是非検討頂けるとありがたいです。

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5.【加藤紘一氏講演会の感想−−競争的研究費の功罪】
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1月13日に法学部主催で自民党の加藤紘一氏の講演会がクラーク会館の講堂
で開かれました。
(読売新聞報道は http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/00113-kato.html)

講演の中で学振研究員制度を創設し予算500億がついたことや科研費の額が
500億以上増えたことは加藤氏の一存によるという内容がありました。加藤
氏の英断に我々はおおいに感謝しなければなりませんが、それと同時にこのよ
うに重大なことが、政府の政策の一貫として実施されたのでなく、一政治家の
善意で実現されたというところに学術政策の欠如が浮き彫りにされたと言うこ
ともできます。

「今後は行革を厳しく実行するので北海道の公共投資は今後減るので、産業を
起す必要があるので、北大はその中心となって産学連携に励んで欲しい。必要
な資金は競争的研究費としてテーマごとに億単位で用意する。」

質疑は学生に限られていて発言させてもらえませんでしたが以下をコメントし
たいと思いました。

「1996年から5カ年の17兆円の政府研究開発投資計画により、ブレーク
スルーが確かにあった。しかし、重要な点は、億単位の研究費によってブレー
クスルーが生まれたのではなく、貧弱ではあるが経常研究費によって長年に亘っ
て、曖昧模糊としたアイディアを育んできたからこそ、多額な研究費を生かせ
てブレークスルーが可能となったのだ、と複数の研究者が証言していることだ。
(「政府研究開発投資計画」の今年度の詳細は
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/99b30-watanabe.html
を参照)
  政府が現在目指しているように、経常的研究費をなくし競争的研究費へ全移
行するようなことをしてしまえば、決まったことを人海戦術でやるような研究
は確かに伸びるだろうが、ブレークスルーなど生まれるとは思えない。経常研
究費をなくす政策は、生活を賭して競争する環境を作れば研究効率が上がると
いう素朴な発想から来る誤策であり、夢を育くみ冒険を可能にする安定した研
究空間を滅ぼし「科学技術立国」なるものすら空洞化させてしまうものでしか
ない。
 なお、もう一点補足させてもらうと、(闘技場的意味での)競争的環境への
耐性と、研究者としての卓越性とは、人間的な素質としては独立している(ど
ころか、出会った人たちを想起すると、負の相関さえある)ので、独立行政法
人化は、研究者を闘技場的環境への耐性力でまず篩いにかけ、その後で研究能
力で篩いにかけるという、的を外した政策であると言える。」

最後になりますが、北大(に限らず大学)は、大学所在地の大学ではなく、世
界の大学であり世界の財産である、という考え方は次第に世界で常識となりつ
つあります。実際、学生や若手の教官はいつまでも北海道にいるとは限りませ
ん。北海道の産業の発展に貢献することも北大の重要な使命ですが、それは北
大の大きな使命の全体ではない、ということを忘れるわけにはいきません。

辻下 徹