==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
「地方の国立大学が今すべきこと」 高等教育フォーラム [he-forum 552]より転載
『朝日新聞』2000年1月19日論壇

「地方の国立大学が今すべきこと」


丸山博 「地方の国立大学が今すべきこと」

  二〇〇〇年は、国立大学が消滅を余儀なくされ、近代社会を支える知が国家
や市場経済に従属する傾向を強める契機となった年として、後世に記憶される
かもしれない。昨年九月、文部省が国立大学の独立行政法人化(独法化)の検討
に踏み込み、新年度の早い時期までに結論を出したいと公言したのである。

  国立大学の独法化問題は一九九七年、政府の行政改革会議や自民党の行政改
革推進本部での検討開始に端を発する。九九年一月の中央省庁等改革大綱にお
いて、二〇〇三年度までに結論を得ると時期が明示され、急展開した。

  文部省は現在、独立行政法人通則法を前提とした特例措置の策定を急いでお
り、国立大学協会(国大協)も通則法には反対しながら、文部省の動向を既成事
実と受け止めているようにみえる。

  独法化は特例措置でどうつくろっても、大学を中期目標と評価機関に拘束す
ることに変わりはなく、大学の国家への従属を現在の国立大学以上に強化する
ものと考えられる。

  私は、地方小都市の単科系国立大学の立場から独法化に関する意見を述べた
い。

  第一に、独法化は地域社会を衰退させ、国の発展を妨げると考える。

  わが国の独法化は、国の管理強化とともに経済的効率性を追求するものであ
り、大都市の巨大大学に多くの資本を投下し、その成果を性急に求める。それ
は同時に、地方の小都市から大学を消し去り、地域社会の過疎化、高齢化の速
度を一層速めることが予想される。

  経済的効率性が地域の再生にかかわるべき教育や研究にまで貫かれると、地
域の歴史、文化、産業の持続性が損なわれ、国の均衡ある発展は望むべくもな
い。独法化が行革の一環であるならば、独法化を分権化ととらえ、中央省庁の
減量化をこそ進めなければならない。

  第二に、文部省が独法化を強行するというなら、国立大学の地方移管を提案
したい。

  十八歳人口の減少にもかかわらず、文部省は多くの私立や公立の大学設置や
学部学科の新増設を認可してきた。国立大学にしても、既存の単科系大学を総
合大学化するのではなく、単科系の大学をさらに新設するという量的拡大を図っ
てきた。

  文部省は、そうした一連の文教政策の欠陥を反省せず、二十一世紀の高等教
育の長期ビジョンを明らかにすることもなく独法化を強行しようとしている。
九十九もの国立大学は多すぎるとして、旧国鉄の赤字ローカル線のように地方
小都市の国立大学を切り捨てるのであれば、大学を地方自治体へ移管すべきで
ある。
  では、地方国立大学は何をすればよいのだろうか。
  地球温暖化問題において、モルディブなど小さな島国は、海面上昇によって
国が消滅することに危機感を募らせ、小島嶼国連合を結成し、非政府組織
(NGO)と協力しながら、先進国に温室効果ガスの厳しい規制を求めてきた。この
ことを踏まえれば、地方国立大学とりわけ単科大学がネットワークをつくり、
文部省や巨大大学中心の国大協に独法化阻止を働きかける必要がある。

  昨年九月に文部省が独法化を正式に表明して以来、反対の意思を明らかにし
た大学はなく、学部もまだ一部でしかない。それどころか、東大の検討会は独
法化容認もあり得るという報告書をまとめたと報道された。

  政府は二〇一〇年度までに国家公務員の二五%を国の機関から削減すると公
約している。しかし、国立大学として残って人員削減に甘んじるよりは独法化
を受け入れた方がましという「あきらめの消去法」からは、未来など描けるは
ずがない。また「通則法は問題だが個別法や特例措置で何とかなるだろう」と
いう幻想にとらわれて何もしない限り、歴史に対する主体性の放棄であるとの
そしりを免れないであろう。

  地方国立大学の重要な使命は、地域社会の持続的発展に寄与することにある。
そのために、今私たち大学人に求められているのは、教育・研究の公共性を自
覚し、地域の人々とともに地域固有の問題や人類史的課題に向き合い、あらゆ
る権力から自立した、真に開かれた大学をつくっていくことではないか。

(室蘭工業大学教授・環境変革論=投稿)