==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
この原因はまず文部省を中心とする文部行政の 理念の遅れである.大学が時代の先端を担うため には,国際的な学間競争で有数の業績を上げる必 要がある.日本の大学は,国際的な評価基準を導 入することはなく常に閉鎖的な環境で終始してき た.明治時代に多くの有為な国際的な人材を導入 したことを考えると,戦後の教育の閉鎖性は致命 的といえる.教育は根底に新しい時代育成の理念 が必要である.理念の強固な土台があってこそ, 革新的で開放的な仕組みができ上がるのである.
つぎに大学自身の問題として,大学に“競争” が存在しないことである.教授間業績の競争もな く,大学間の競争もなく,人材や優秀な学生を輩 出する競争もない世界にどうして進歩があるのだ ろうか.もちろん,競争による進歩は適切な評価 のうえに成り立つ.今回の独立行政法人化でも, 設定した目標を達成できたかを評価することにな っているが,行政主体の評価では社会の二一ズに 応えられず,多くの大学人が危倶するとおり,予 算削減の口実を与えるだけに終わってしまう.適 切な評価のためにも開放的な仕組みが必要となる.
アメリカでは,大学のランク付けが民間の企業 でなされている.優秀な教授や学生の輩出などで 毎年評価し,公的に発表している.また,大学の 中でも教授の評価がなされており,また研究分野 の異なる研究者が討議する場がたくさん存在して いる.世界を視野において情報の交換や学問の優 劣が競われている.こうした環境が当たり前とな っているのである.
学生の育成も,企業との連携を通して,企業に 役立つ企業で活躍できる人材として,どのような 学問体系を組むべきかが,企業の目を十分考慮し て設定されている.したがって,社会の変化や企 業の変化にたいへん敏感であることになる.また, アメリカでは,企業としても優秀な学生の採用に はきわめて熱心であり,インターンシップなどの 制度を活用して,人材育成に加えていろいろな角 度から学生を選定するための制度が確立している.
現在,日本の大学が存在価値を失いつつあるの は,社会の先端としての役割を放棄しているから である,企業や社会でなにが求められているのか 常に検討し分析する努カなくして,有用性を発揮 することはできない.大学は確かに学問の府であ るが,社会の変化や環境の変化を取り入れなくて は,単に既存の学問をなぞるだけで,新しい課題 解決の源泉にはならない.
今回の国立大学の独立行政法人化は,大学の変 革という観点からみれば,新しい大学創造の具体 的プロセスについては何も示されておらず,大学 が率先して動かなければ形式的な変革で終わるで あろう.大学では,独立法人化すれば大学の学問 の独自性や大学の自主性が失われる,というマイ ナスの意見も多くみられる.しかし大学の機能や 大学の役割の本質を論じる視点に立てば,独立法 人化は行政から離れて独自の理念のもとに,健全 な大学として再生する絶好の機会である.率先し て検討し,一刻も早く改革をおこなうべきである. 独立行政法人化が吉と出るか凶とでるか,すべて は大学の動きにかかっている.
日本の大学の国際的な評価は,いまやますます 低下傾向にある.このことは日本に有為な人材が 今後長期間にわたって育成されないということを 意味する.この機会に,大学の国際的な水準の評 価や大学のしくみの国際的な比較検討をおこなう べきである.その上で大学の現状を正しく分析し, 大学の理念,大学の役割,大学の人材育成の基準, カリキュラムの編成,大学の評価の公開,大学へ の競争原理の導入,社会や企業との新しい連携の あり方,課題解決の仕組み,インターンシップ制 の本格的な導入,学生と大学の関係,単位取得の 厳格性など全面的な見直しが必要である.こうし た問題を解決しなければ大学が独立法人として存 続・発展していくための本質的な要素は満せない. 企業が存続していくためには,市場の分析,競 合他社の分析,自社の分析,将来の事業の分析な どから企業の戦略と事業計画が策定され,実行さ れるのである.これらの条件は必須として,さら に経営管理のしくみや詳細なコスト管理計画が実 施される.大学が独立し社会的な存在しての役割 を果たすということは,常に時代の先端的な存在 として,学問の水準を高め,社会の要請に応えて いくことにあるのである.
メディアの発展は予想を超えるスピードで展開 されている.これによって家庭やオフィスなどで は世界の大学の講義をみることができるようにな る.また国際的な人材と自由にインターネットな どでやりとりできるようになる.大学のもつ意味 は,ますます重要であるが,大学以外に学問の交 流する機会は増加し,競争は激化する.つまり日 本の大学が,こうした競争の環境を無視して従来 どおりの存在でいれば,いつかは世界の学問競争 から立ち後れ,世界の人材や日本の擾秀な学生か ら見放されることになる.いまその傾向は徐々に 表面化していく.
このような視点での大学の見直しは,あまりに も遅すぎたとしかいいようがない.大学は,優秀 な教授の集合であるから,当然環境への適用能カ や経営能力の再生を自らおこなわなくてはならな かったのである.あなた任せの体質が,いまや取 り返しのつかないほどの堕落をもたらしためであ る.改革は,血を流すことになる.しかし改革と は一般に,手を打たずにいた年月の倍の時間が掛 かるものである.行政と大学と企業との三味一体 が緊張の糸を弛めることなく実行プロセスを断固 おこなう必要がある.そして変革に必要なパワー を発揮する仕組みを並行させなくてはならない.
大学改革は,企業の成功事例やアメリカの大学 での実践事例が必ず役に立つと考える.そうした プロセスを踏んで変革計画を策定する必要がある.
第二段階としては,初期のこうした自らの大学 による立案に失敗し,大学の独立行政法人化が不 可能な大学については,再度,再建委員会(立案 プロジェクトグループ)による立案作業の支援が 必要となる.分析や将来像の立案作業のノウハウ をもつ集団による支援作業をおこない,これを基 本に該当大学が再度計画を立案することが必要に なる.いずれにしても,独立行政法人化の基本計 画を明確化することがきわめて必要なのである. つまりここ当面は,改革・革新のトップコンセン サスを明確にすること,自立の経営計画を確実に 体系的に立案する仕組みをつくり組織体制を編成 すること,国際的な比較を含めて分析をおこなう こと,若手を入れた企業経営の手法を導入するこ と,内外に変化の姿を公開すること,外部評価委 員会(含海外有識者)を形成すること,改革の実行 システムをつくること,フォローの仕組みをつく ることである.常に外部の意見を取り入れ,外部 の評価を得ることが重要である.そうでなけれぱ 再び自閉症的で自己満足的な世界をつくることに なってしまう.
現在の独立行政法人化は,大学改革の本質から みれぱ,形式的な議論であって,むしろ問うべき は大学の役割やそれに伴う変革が,独立の価値を もつかどうかである.大学と企業の達携も共同開 発や社会的なインフラ育成の共同プロジェクトや インターンシップ制度や生涯教育や講師の派遣な ど具体的なプロジェクトを通して,変革の要素を 積み上げることが重要なのである.
21世紀を間近に迎えて,学問や研究の水準は ますます高まり競争は激化するばかりである.長 期的な観点に立てば,大学の遅れは日本の再生に も致命的である.国立大学の独立行政法人化は, こうした今後の日本の再生や人材の育成の観点も 入れて,抜本的に対応すべき最後の機会として, 関係者は検討すべきである.変革の度合いが少な けれぱ,おそらく大学の再生,人材の育成は新し い時代に間に合わなくなるであろうと思われる. 企業には経営戦略の実践機能がある.思い切って 若手や企業の長期戦略の実践者を入れて,新しい 大学のフレームづくりをおこない,競争に勝ち残 る将来像をぜひ検討することが緊急である.
瀕死の重体ではあるが,日本の大学は,その潜 在能力を失ってはいない.新しい理念のもとでの 変革作業を,着々と,長期にわたって展開するこ とで,新しい姿によみがえることができる.また そうしなければ20世紀に残された,また21世紀 に新たに出現するであろう課題を解決できる人材 がいなくなる.事は大宇だけの問題ではないので ある.
(Katsuyoshi Asahioka 株式会社東芝ITS事業推進室)