==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
国立十七大学人文系学部長会議声明 [he-forum 689(3/14)] より転載

国立十七大学人文系学部長会議声明

朝日新聞 2000年3月14日
国立大独立法人化を懸念

  国立大学の独立行政法人化構想について、国立十七大学人文系学部長会議(幹事校
 ・高知大学)は十三日、「重大な懸念を表明する」との声明を発表した。
  声明文では「独立行政法人通則法を多様な条件のもとにある国立大学に一律に適用
 することは、混乱と大学改革の後退をもたらす」などと指摘している。

国立大学の独立行政法人化に関する声明

                 平成12年  3月 13日                 国立17大学人文系学部長会議 およそ一国の教育・研究はその社会の未来の命運を握るものであって、目先の 損得や制度上のつじつま合わせによって左右さるべきものではない。そのような 観点から、我々は日本における人文・社会科学の教育・研究の一端を担う者とし て、現在進行中の「独立行政法人通則法」(以下 「通則法」 という)に基づく 国立大学の独立行政法人化の動きに対しては、重大な懸念を表明せざるを得な い。

効率性の追求が教育・研究にもたらすもの

まず第一に指摘しなければならないのは、「通則法」によって規定されている 独立行政法人の目的が「事務および事業」を「効率的かつ効果的に」行う点にあ り(第二条、第一項)、それをそのまま教育・研究機関に適用することが極めて 大きな危険を孕んでいることである。大学が、その教育・研究活動において社会 的要請に応え、一定の成果を挙げなければならないことは言うまでもない。しか し、それは独立行政法人化が求める「効率化」によって成し遂げられるものでは ない。とりわけ人文・社会科学の多くの領域において、その成果は数値にあらわ すことによって短期的に評価できるわけでない。一見すると非効率な「人間」や 「社会」に対する省察が、最先端の応用科学とは別の意味で我々の「文明」を支 えてきた。このような人文・社会科学の成果に関して、「効率性」という評価基 準を単純にあてはめることの愚は火を見るよりあきらかである。 教育においてもまた然り。人文・社会科学系高等教育機関の多くが目指す、 「知識」よりも「知恵」をそなえた人材の育成という目的は極めて息の長い評価 を必要とするものである。短期的な効率の追求は、このような目的を見失わせる ものでしかない。

教育・研究機関の自律性・独立性

さらに、それと並んで大きな問題は、「通則法」によって主務大臣に認められ ている大幅な権限が、高等教育・研究の創造的展開に必須の要件である教育・研 究機関の自律性・独立性と相容れないということである。主務大臣には法人の 長、監事、役員の任命(第20条)から中期計画の認可(30条)、組織の改廃 (35条)にいたる大きな権限が付与されている。一方で国際的に通用する研究 を求めながら、他方でこのように国際的にも例をみない大きな制約を大学に課す のは矛盾ではなかろうか。確かに、大学をはじめとする教育・研究機関が社会、 とりわけ地域社会からの様々な要請に応え、その評価に曝されなければならない のは当然である。だが、教育・研究機関の自律的・主体的運営の保証は構成員の 自由で主体的な思考と不可分であり、その自由で主体的な思考が、柔軟な教育や 創造的研究の源泉となっていることを忘れてはならない。

更なる大学改革の推進に向けて

我々が最も危惧するのは、現在語られているような形での独立行政法人化 が、効率性を強制し、組織の自律性を否定することによって、多くの大学で主体 的・創造的に取り組まれている改革の動きの息の根を止めかねないことである。 大都市圏の大学のようにマスメディアに大きくとりあげられることこそ少いが、 いわゆる地方国立大学においても、先進的な様々な試みがなされている。そのよ うな試みは、21世紀という「地方の時代」、諸地域の多様な発展が社会全体の 豊かさを保証しうる時代、に向けて、それぞれの地域で興っている個性的な文化 創造への動きに連なるものである。このような時代に大学にもとめられているの は、旧弊を脱し、社会的な要請に応え、地域社会に対して開かれた存在となるこ とであり、そのために痛みを伴う改革が必要なことは当事者である我々が日々強 く感じているところである。 「通則法」を多様な条件のもとにある国立大学に対して一律に適用すること は、単に混乱と改革の後退をもたらすのみである。とりわけ、困難な条件の下で 創意工夫をこらしている地方国立大学の内発的改革に対して致命的な打撃を与 え、人文・社会科学の教育・研究の存立基盤を潰滅させかねない。今、真に必要 なことは、国立大学で取り組まれているさまざまな大学改革の成果を再点検し、 それを更に推進するための有効・適切かつ多様な方途を探ること以外にはありえ ないであろう。 弘前大学 人文学部 岩手大学 人文社会学部 山形大学 人文学部 福島大学 行政社会学部 茨城大学 人文学部 埼玉大学 教養学部 富山大学 人文学部 信州大学 人文学部 静岡大学 人文学部 三重大学 人文学部 島根大学 法文学部 山口大学 人文学部 徳島大学 総合科学部 愛媛大学 法文学部 高知大学 人文学部 鹿児島大学 法文学部 琉球大学 法文学部