==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
独立行政法人化問題に対する福井大学教育地域科学部教授会の見解
2000.5.12
1、独法化問題の背景
2、「独立行政法人通則法」にもとづく国立大学の独法化の問題点
3、今後の国立大学の在り方
福井大学教育地域科学部教授会において、独立行政法人化問題(以下、独法
化問題と略す)に対する見解を以下のように表明する。見解の柱は、第1に今回
の独法化問題の背景、第2に「独立行政法人通則法」にもとづく独法化の問題点
、第3に今後の国立大学の在り方、の3点とする。
1、独法化問題の背景
周知のように、今回の独法化問題は、背景として大学審議会の答申『21世
紀の大学像と今後の改革方策について−競争的環境の中で個性が輝く大学−(答
申)』(1998.10)等で、市場原理・競争原理を大学改革の柱とし教育の公共性を
否定する方向が出されている状況があり、直接的にはその市場原理の考えに基づ
いた政府の行政改革での議論が出発点である。この行政改革によって、国家公務
員の25%定員削減が現実の日程にのぼっている。今回の行政改革は橋本内閣の
行政改革会議の最終報告(1997.12.3)によって基本方向が定められ、その後小渕
内閣へと引きつがれた。1998年6月の「中央省庁等改革基本法」の「第4章 国
の行政組織等の減量、効率化等」の「第3節 独立行政法人制度の創設等」では
独立行政法人の制度が規定され(第36条)、1999年4月の中央省庁等改革推進本
部「中央省庁等改革の推進に関する方針」では、国立大学の独法化について、「
大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年度までに
結論を得る。」(「1−第2 独立行政法人化関連」)とある。しかしながら現
在、2003年度ではなく2000年度の早い段階での方向性が決められようとしている
のである。
前述の大学審議会答申(98.10)でさえ、独法化については、「独立行政法人化
をはじめとする国立大学の設置形態の在り方については、これらの改革の進捗状
況を見極めつつ、今後さらに長期的な視野に立って検討することが適当」(答申
書 p.37)と述べられているように、早い段階での結論には慎重である。また同答
申では、国立大学の在り方についても、「国立大学については、国費により支え
られているという安定性や国の判断で定員管理が可能であるなどの特性を踏まえ
、その社会的責任として、計画的な人材養成の実施など政策目標の実現、社会的
な需要は少ないが重要な学問分野の継承、先導的・実験的な教育研究の実施、各
地域特有の課題に応じた教育研究とその解決への貢献などの機能を果たすべきこ
とが期待されている。」(p.19)と述べられ、さらに高等教育を受ける機会の均
等についても「都市圏のみでなく全国的に均衡のとれた大学配置による教育の機
会均等の確保への貢献」「学生が経済状況に左右されることなく自己の関心・適
性に応じて高等教育を受ける機会を確保することへの貢献」(p.20)との指摘もあ
る。大学審議会は、このような国立大学の機能を果たしていない大学に対しては
厳しい評価をすべきであるという立場であるが、答申の中で国立大学の意義にふ
れていることは確認しておく必要がある。この間、鹿児島大学の田中学長が中心
となり本学の児嶋学長も協力体制をとった地方国立大学の連携の動きは非常に重
要な取組みであり、地方国立大学の地域における貢献や役割は、ますます重要と
なる。
2、「独立行政法人通則法」にもとづく国立大学の独法化の問題点
「独立行政法人通則法」(以下「通則法」と略す)は、1999年7月16日に公
布されたが、「通則法」の基本的な構造のもつ問題点について指摘しておきたい。
(1)主務大臣が独立行政法人に対して、3〜5年の中期目標を定め、指示
する(第29条)。独立行政法人は、それに基づいて中期計画を作成し、文部大臣
の認可を受けなければならない(第30条)。さらに、その中期計画に基づいて年
度計画を定める(第31条)。したがって、独立行政法人は、主務大臣が定めた目
標を達成するべく、年度ごとの業務運営を行うという構造になっている。そして
、主務大臣は「中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人の業務を継
続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行
い、その結果に基づき、所要の措置を講ずる」(第35条)こととなっている。以
上の条文から、主務大臣の指示の下におかれる独立行政法人という構造を国立大
学に適用することによって、大学の自治や学問の自由の侵害が危惧される。
(2)中期目標でいう目標とは、3〜5年間での業務運営の効率化、国民サ
ービス等の質の向上、財務内容の改善等を意味し、中期計画とは、中期目標の達
成のための措置や予算、収支計画及び資金計画などである。このような目標・計
画設定によって、3年から5年という短期間における「効率性」が求められるこ
とは、大学の教育・研究にはなじまないと考えられる。とくに基礎的な学問研究
や長期にわたる研究の阻害が危惧される。
(3)主務省におかれる独立行政法人評価委員会(第12条)については、主
務大臣は、中期目標の設定・中期計画の認可・中期目標期間終了時の検討の際に
、評価委員会の意見を聴かなければならず、また、各事業年度および中期目標期
間における業務実績の評価は、評価委員会が行うこととされている(第12条・第
32条・第35条)。よって、評価委員会は主務大臣と並んで、独立行政法人の将来
を決める権限をもつ存在である。この評価委員会が正しく機能することの保障と
委員の選任については、不明な点が多い。
(4)独立行政法人の財政については、「政府は、予算の範囲内において、
独立行政法人に対し、その業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部
に相当する金額を交付することができる」(第46条)とあるが、毎年度、3〜5
年の事業評価・見直しごとに予算を通じての統制が行われることが予想され、ま
た、授業料の高騰化によって高等教育の機会均等が保障されないという懸念があ
る。
(5)独立行政法人の長は、主務大臣が任命するが、「事業及び事業に関し
て高度な知識及び経験を有する者」のほか、「事業及び事業を適正かつ効率的に
運営することのできる者」(第20条)も任命することができる。大学の使命であ
る研究と教育の自由を尊重するよりも、「効率性」を重視する長が生まれる懸念
がある。
以上のほかに、独立行政法人は、企画立案機能と実施機能を分離し、その実
施機能を担当するという考え方があるが、これについても大学のように両者の機
能を合わせもっている機関にとっては根本的になじまない考え方である。
文部省は「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」(1999年9月20日)に
おいて、「特例措置」について提案している。同日の文部大臣の挨拶では、「大
学という教育研究機関に必要かつ相当な特例措置等」が不可欠としている。しか
しながら、前述した(1)の主務大臣による目標設定・指示という構造は基本的
に維持されており、「特例措置」と「通則法」との関係が明らかではない。
また、今年の3月30日に「提言 これからの国立大学の在り方について」(
自民党文教部会・文教制度調査会 教育改革実施本部 高等教育研究グループ)
が公表された。この「提言」の基本的な立場は、「独立行政法人制度の下で、通
則法の基本的な枠組みを踏まえつつ、相当程度の特例を加えた特例法を定めて、
これにより移行するなどの方法を検討すべき」とあるように、「通則法」の基本
的な構造にもとづく立場を維持している。この「提言」には、部分的に全国の国
立大学教職員の声が一定程度反映している側面があるが(地方国立大学の果たす
役割、機能の重視の文言は、前述したように3月18日に44の地方国立大学学
長が集まり、鹿児島大学の田中学長のリーダーシップのもと自民党に申し入れを
行った反映) 、一方で「護送船団方式からの脱却」や「国立大学間の再編統合の
推進」等を強調する「提言」が、どこまで本格的に地方国立大学の意義や役割を
重視しているのかは非常に危惧されるところである。
以上述べてきたように、「通則法」を国立大学に適用し独法化を行うことの
問題点は明らかであり、本教授会としては、この「通則法」による国立大学独法
化に反対の立場を表明する。
3、今後の国立大学の在り方
これからの国立大学の在り方は、21世紀の高等教育の将来像として、真理
の探究や学問研究の発展、さらには地球規模での人類の福祉や共生という普遍的
な価値や理念を実現する大学の使命と課題を描くことであろう。と同時に、その
地域に基盤を持ち、地域の市民に開かれた大学をもめざすべきであろう。そのた
めには大学の内部における自己改革と、外部に対する説明責任(アカウンタビリ
ティ)が非常に重要となる。憲法・教育基本法にうたわれている教育を受ける権
利を保障し、高等教育を受ける機会を広く提供していくためには、地方国立大学
の存在や相対的に低額な授業料は大きな意味をもっている。今回の独法化を意図
した市場原理による行政改革の流れは、これらの国立大学のもつ教育の公共性を
否定するという懸念がある。国民に開かれた大学をめざすということは、まさし
く高等教育の公共性を維持・発展させることであり、国民からの意見・要望を積
極的に受け止め自己改革を行うという、大学と国民との双方向の関係を構築して
いくことでもあるだろう。このような営みが今後ますます重要となると考える。
独法化によって、地方国立大学の統廃合がすすみ、授業料の高騰化による国民の
高等教育の機会均等の制約に大きな懸念を抱かざるを得ない。また、日本の高等
教育予算が諸外国と比較して低率に抑えられている現状をみるとき、高等教育予
算の大幅な増額を政府や関係機関に強く要望したい。
福井大学教育地域科学部教授会は、福井大学が今まで福井県に存在する国立大
学として、真理の探究や学問研究の発展をめざし、さらには人類の福祉の向上を
めざして努力してきたと考えている。同時に、地域にねざし地域の課題にこたえ
得る研究と教育を微力ながら進めてきたと考えている。昨年1999年4月、学部名
称を教育学部から教育地域科学部に変更し大幅な改革を行ったが、3つの課程(
学校教育課程・地域文化課程・地域社会課程)のめざすところは、地域にねざし
、地域に貢献できる有能な人材の育成であるとともに、国立大学として人類にと
っての普遍的価値の実現という理想をもめざしている。そのためには、今後ます
ます自己改革を怠らず、地域にねざし、開かれた大学をめざすべく、研究と教育
に力をそそぐことを、ここに表明したい。
2000年5月12日
福井大学教育地域科学部教授会