==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
『朝日新聞』2000年6月6日付社説

■国立大法人化——合意へ開かれた議論を


 国立大学を国の直轄運営から切り離し、独立行政法人に変える方針を、先ご
ろ中曽根弘文文相が表明した。

 全国に99ある国立大学は、基礎研究の分野や、地域で働く人材育成の面で
大きな役割を果たしてきた。大都市部に集中しがちな私立大学とはひと味違う
特色もある。

 他方で、文部省の機関として国の保護、監督の下に置かれていることが、硬
直した大学運営と、現状に安住する「ぬるま湯」的な体質を生んできた弊害は
否定できない。

 年間2兆7000億円もの予算が投入されながら、研究や教育の内容、成果
についての国民への情報開示も不十分だ。大学・短大への進学率が50%近く
になった今日も、10%程度だった時代の意識で、一部のエリートを相手にす
るような授業を続けている教官も見受けられる。

 法人化は、このような国立大学に、より自由な学科編成や予算運用を認める
とともに、自律も求めようというものだ。

 意識だけでなく、制度面からも改革を促すことで、大学に緊張感がもたらさ
れ、活性化に結びつくなら歓迎できる。欧米でも、大学は法人の形が一般的で
ある。

 だが、この文部省の方針に対し、当の国立大学の中には根強い反対論がある。

 「効率性の重視は、長期的な観点から行われる研究、教育にはふさわしくな
い」「学生数も少なく、立地基盤の弱い地方の国立大は、大都市部の国立大と
の財源をめぐる競争の中で衰退しかねない」

 改革への故なき抵抗、と片づけるわけにはいかない言い分だと思う。 

 独立行政法人制度はもともと、行政改革の発想の中から生まれた。必ずしも
中央省庁が直接管理する必要のない行政機能を分離し、国の予算などを財源に
しつつも、業務や運営をできるだけ効率化するのが狙いだ。

 この構想が、国立大学に当てはまるかどうかは、確かに議論のあるところだ
ろう。

 文部省は、独立行政法人制度を前提とし、その枠組みの中で大学の主体性を
尊重するための特例措置を設ける方針を示している。主務閣僚が示す中期目標
や学長人事に大学の意向を反映させる、といった内容だ。

 これに対し国立大学側には、「独立行政法人ではなく、全く新しい法人制度
を考えるべきだ」との意見も少なくない。どのような法人が望ましいか、お互
いに固定観念にとらわれることなく、活発に議論したらいい。

 ある国立大学の元学長は、大学の現状についてこう語っている。 

 「国民のためという意識で、学問をしている国立大学の人間はごく少数だ。
納税者へのお返しという発想がほとんどないところで、個人的趣味で終わって、
よしとしている。教育も、旧態依然たる『学問のための学問』から抜け出せて
いない」

 国立大学は、国民の共有財産である。その変革は、国の将来にも影響を及ぼ
す。文部省は、大学関係者や国民から広く意見を聴き、展望のもてる道筋を見
いだす努力を尽くしてもらいたい。