東大改革 東職特別委員会/2000.7.5

 「国立大学制度研究会」報告を撤回させ、
 研究会の解散と教職員に開かれた議論の場を設置するよう求める

 東職は、東大総長の私的諮問機関である「国立大学制度研究会」が6月26日に出した報告「国立大学の法人化について(案)」を入手しました。
 その内容が重要でしたので、「東大改革 東職特別委員会」(改特委)の名前で6月30日、『「国立大学制度研究会」報告を撤回させ、研究会の解散と教職員に開かれた議論の場を設置するよう求める』と題した見解を作成しました。
 この見解は6月30日に評議員全員に宛てて郵送、東大総長・副学長には7月3日に提出しました。
 以下、「国立大学の法人化について(案)」と、改特委文書を添付いたします。

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国立大学の法人化について(案)
−「国立大学制度研究会」報告−

目 次

はじめに

 ・従来の経緯と現在の局面
 ・「検討会報告書」と本研究会の任務

1 国立大学の法人化における制度設計の理念

(1)大学の使命
 ・知的資産の創造、人材の育成
 ・科学技術の発達の促進、その暴走の防止のための知恵と技術
 ・学術文化の継承と創造的発展
 ・その使命は人類と社会からの負託、大学の存在理由はそれに応えること
(2)国立大学の存在意義
 ・特徴=研究者の養成の主力、教員・医師の養成等の政策的課題の遂行
 ・機能
 【1】巨大プロジェクトや基礎分野を含む学術全般の水準の向上
 【2】地域における学術の拠点、地域産業や文化の活性化
 【3】分野の別なく高等教育の機会均等の保障
 ・東京大学は「総合研究教育大学」として、特徴と機能を発揮
 ・そのような限りで国立大学の存在意義は認められよう
(3)国立大学における改革の必要性と法人化
 ・国立大学の現状=課題の先送り、問題の山積
 ・東京大学の改革の必要性と、近年の改革の実績
 ・しかし、多くの問題が残っている
 ・法人格取得は、大学改革にとっていずれ必要な一つのステップ
(4)法人化の目的と国立大学の責務
 ・法人化の目的は、真の自主性自律性の獲得。それを通じて、個性の伸張、教育研究の活性化、国際的先導性の強化、経営の弾力化、等いま求められている課題の実現を容易にするため
 ・反面として、国立大学は、自己責任、説明責任を負う。説明を果たすには、種々の方法がある
 ・構成員には、強い自党と気概が求められる
(5)「大学の自治」の新たなる位置づけ
 ・「大学の自治」は制度設計の根幹
 ・過去それぞれの時代に重要な役割=「教授会の自治」、抵抗する自冶
 ・いま、「教授会の自治」に対して厳しい批判。例えば自民党提言
 ・批判への反論は、容易い。しかし、重要なことは、「大学の自治」と「教授会の自治」は同一でないことの認識
 ・その上で、事項ごとに、どこまでが各教官や部局の自治の範囲か、どこからがトップマネージメントの権限の範囲か、両者が競合する場合の処理をどうするか、について明確な組織原理を示すこと
 ・「抵抗する自治」から、それを活用して積極的に社会に「貢献する自治」へ
(6)国の財政的責務と大学経営の効率化
 ・「国立学校の経費は国が負担する」原則(学校教育法5条)
 ・国立大学の経費(支出)と自己収入の関係
 ・その差額を負担するのが国であつたし、今後とも国である(それが国立大学)
 ・附属病院の「赤字体質」批判に対する反論
 ・経営の効率化の意味=冗費を排し与えられた資源を最も有効に活用すること
 ・効率化の評価は、大学の特性を反映したものである必要がある(例えば、自動車検査独立行政法人等の場合とは異なる)
(7)高等教育政策を論する場の設定
 ・本報告書の限界(長期的な日本の高等教育政策、国立大学を含む大学制度のあるべき理想については、別途議論すべき)

2 制度投計の前提問題

(1)法人化の単位
 ・「すべての国立大学が、それぞれ法人に移行する」(一大学一法人)を前提
(2)国立大学に法人格を付与する法律
 ・99(現在の数)の国立大学について一つの法律で法人化を図る
 ・法律の内容は、法人たる国立大学の組織、学長および教職員の人事、事業(活動)とその評価、財政・会計等、共通の大枠を規定
 ・法律の名称は、例えば、国立大学基本法、国立大学法人法、等が考えられる
 ・法律の名称および法人の名称に「独立行政法人」を冠することは、不適切(検討会報告書、自民党提言)
 ・通則法との関係では、「個別法」ではない。通則法スキームを取り入れつつ、通則法と対等なしかも自己完結的な単行法
(3)法人格取得の意味―「国立大学」と「法人」との関係
 ・国立大学イコール法人とする(教学と経営の一致)
 ・学校法人と私立学校の関係とは異なる制度設計とする
(4)「国立大学」概念の再構築
 ・これまでの「国立大学」概念=設置者、管理者、経費負担者が国
 ・新しい概念=設置者、経費負担者は国、管理(経営)者は法人たる大学自体
 ・国は「法人の設立者」であるとともに「国立大学の設置者」(「国が設立する法人が設置する大学」ではない)
 ・このような法人として、「国立大学法人」(仮称)を考える
(5)国立大学法人の性格
 ・公法人。学校法人が私法人(公益法人。民法34条)であるのと異なる
 ・収益事業は営まない(学校法人法26条対比)
 ・学校法人は破産がありうるが、国立大学法人には破産能力はない(独立行政法人すべてにつき破産能力は否定されている)
 ・国立大学法人の主務官庁は、文部省(文部科学省)。指示監督関係から協議契約関係へ
(6)国立大学法人の連合組織
 ・何らかの連合組織が必要
 ・国立学校特別会計の機能を代替し、事務職員の広域異動を保障する
 ・これが競争を抑制したり、護送船団と批判されるようになってはならない

3 法人の名称・目的および組織

(1)法人の名称
 ・「国立大学法人○○大学」
(2)目的
 ・国立大学法人の共通の目的を定める
 ・学校教育法52条(学部の目的)、同65条(大学院の目的)を基礎とし、国立大学法人特有の側面を加味する
(3)組織
 【1】執行体制
  ・「検討の方向」=執行部出の権限の強化、大学の機動的な運営
  ・しかし、部局の自治を基礎として形成されてきた現行制度とかなりの距離
  ・この点につき、慎重な検討と工夫が必要
  ・とくに大規模大学では、権限集中は必ずしも効率的運営を期待できない
 【2】意思決定
  ・部局のもつ特性および柔軟性を活かしつつ、大学全体としての機動性を高めていく仕組みを
  ・部局の果たすべき役割を明確にする一方、対外的、全学的な事項は学長の権限と責任の下に置き、大学経営の中核に据える制度等を
 【3】内部組織
  ・学部、大学院研究科、附置研究所その他の内部組織の編成は、基本的に各大学の裁量に委ねられるべき
  ・評議会、教授会、運営諮問会議等の管理運営の基本組織は、法令で明確に位置づける
(4)学長の選考
 【1】選考方法をめぐる問題点
  ・現行の学長選出方法に対する批判が強い
  ・見直すとすれば、大学自治に基ずく民主的な手続と「真に大学経営に見識を有する適任者」の確実な選出という要素の両立が必要
 【2】学長の選考方法
  ・現行の全学投票と、通則法のような主務大臣による一方的な任命は両対極
  ・その中間に様々な方法がある
  ・(a)全学投票に代えて評議会が選考を行う
  ・(b)学外者を加えた選考委員会等で選考を行う
  ・(c)評議会等によって複数候補を選出し、その中からむ審議会等の意見を聞いて主務大臣が任命する
  ・(d)学長適任者を、学外者を加えた選考委員会等で複数選出し、その中から評議会等の機関で選出する方法、等々
  ・いずれにせよ、わが国の国立大学では、構成員の信任を欠いては、いかなる者も学長として的確な管理運営は不可能。信任を欠いた学長の下では、柔軟で機動的かつ能率的な教育研究の推進という法人化の目的自体が達成できない

4 教職員の身分

(1)制度設計の前提
 ・教官の任免等は大学が自治的に決定するとの原則(教特法)を維持
(2)国家公務員・非国家公務員という選択肢
 ・教職員を国家公務員にすることは、必ずしも必然的ではない
 ・通則法のスキームは、高い公益性・公共性の認められる業務なら公務員
 ・国立大学の公益性・公共性という一般的観点からのみ、決定するのは短絡的
 ・身分に関する具体的事項(任免、給与、労働関係、勤務条件、服務規範)を視野に入れて、国立大学法人の教職員に何が求められているか、から検討
(3)教官の身分
 ・公務員であることの功罪
 ・身分に関する細目は、教官にとってインセンティブとなること、各法人の自主性が極力反映された制度であること
(ア)教官の職務
 ・教官の職務のうち、とくに教育の質を確保するために、その負担と成果を給与・手当等の処遇の面でどのように反映させるか
(イ)教官の任免等
 ・公務員か否かにかかわらず、現行の教特法の基本原則は維持されるべき
 ・教官の任期制は、各法人の判断に基づいて活用すべき
 ・ただ、労働市場や社会保障制度の整備が喫緊の課題
(ウ)給与等
 ・能力・成果に応じた給与体系に近づけていくこと
 ・異動により、退職手当や年金年について不利益が生じないような仕組みを
(工)勤務条件・服務規範
 ・教官の職務としての研究の面では、勤務時間や兼業につき、自律性ないし自由度を高める
 ・服務規律につき、国家公務員等の服務規範を機械的に適用することは問題
(4)事務官年の身分
 ・事務官等の身分については、教官の身分と切り離して、検討することが可能
 ・教育研究の円滑な推進の基盤を形成する事務官等の職務の遂行が安定的に実施されることの重要性から、事務官等について公務員とする選択肢が妥当

5 事務機構

(1)事務官の人事異動の在リ方
 ・国立大学に法人格が付与された場合には、すべての事務官等の任命権も法人の長に属することになる
 ・しかし、事務官の人事異動については、その任命権の範囲を越えた広域異動が望ましい、
 ・国立大学問の協議により、しかるべき機関に人事異動の権限を委任するシステム等を検討すべき
(2)事務機構の在リ方
 ・法人化の有無にかかわらず、事務機構の改革が急務

6 国立大学法人の活動と評価

(1)国立大学法人の活動
 ・国立大学法人について、通則法の業務に関する枠組みに依存することは問題
 ・国立大学法人の行う教育研究活動の範囲の設定は、通則法の枠組みによらず,学校教育法等既存の法令との調和を図りながら、独自の法制的枠組みを工夫すべき
(2)国立大学法人における目標と評価
(ア)基本的な考え方
 ・公財政支出に支えられる以上、活動と資金について、高度の透明性と説明責任が要請される
 ・通則法では、主務大臣が中期目標を指示、これに基づき独立行政法人が作成した中期計画につき主務大臣の認可を受け、期間終了後評価委員会の評価を受けるシステム。このままでは国立大学には適用できない
 ・各法人が目標とその実現のための計画を定めこれに基づいて活動を展開し、一定の期間経過後、目標達成について評価を受け、次の期間の活動の改善につなげていくというシステムを構築すべきである。
(イ)目標の設定
 ・目標の設定主体は、国立大学法人であり、主務大臣と協議し、双方の合意に基づいて目標を設定する
 ・目標期間は5年が妥当
 ・目標の内容は、各国立大学が目標期間内に努力する重点的な事項を掲げる(定性的目標)。それに加えて、入学者数・卒業者数のような最小限の定量的目標も掲げることを検討
(ウ)計画
 ・計画の作成主体は、国立大学法人。主務大臣は、目標と整合的か否かを確認する
(工)評価
 ・限定された業務を行う独立行政法人と異なり、多様で複合的な教育研究活動を行う国立大学法人については、固有の評価システムが必要
 ・教育、研究、管理運営で評価軸を異にすべき。管理運営には、効率性という評価軸が当てはまるが、教育研究は然らず
 ・教育研究については、多元的な評価システムを構築。とくに、大学評価・学位授与機構以外の内外の様々な評価も参照されるようなシステムが必要
 ・評価は目標の達成度の評価であるべき。評価の結果は、資金配分にフィードバックされることによって、各大学のインセンティブを高めるべきである

7 財務および会計

A 財政・財務制度の設計
(1)制度設計の基本的考え方
 ・財政・財務の制度設計の目的
 ・運営・財務についても、厳しい内部評価と、国民への情報公開・説明責任を基礎とした重層的な外部評価が求められる
(2)厳しい財政状況下での財源確保の方策
 ・国からの自主性自律性と財源措置の拡充とは、逆相関の関係
 ・その中でさらなる財源措置を確保するための方策
(3)共同財務処理の機関
 ・国からの補助金の大学間配分、長期借入金および債券発行、長期債務の返済、大規模な施設整備、等の共同処理のために国立学校特別会計の一部機能を承継する何らかの期間を構想する必要
(4)経常補助金(運営費交付金)措置の在り方
 ・交付金の使途および年度繰越の裁量性
 ・交付金措置の確実性・安定性の保障(国庫債務負担予算方式)
 ・自己収入の直接計上
 ・競争的研究資金は交付金算定における収入要素から除外
 ・運営効率化による剰余金、将来の積立金の処分の裁量性
 ・高度・先端的教育研究経費への交付金の算定・配分は、準競争的要素を導入
(5)その他の財源措置の在り方
 ・基本財産と施設整備費の確保が重要
 ・基本財産については【1】土地建物は国が現物出資(または無償使用)、【2】重要な財産の処分は、主務大臣の認可を要しつつ、大学の自主性計画性を認める。
 ・施設整備費については、【1】運営交付金とは別に必要な資金を交付する、【2】国の債務保証の下に、大学が長期借入金および債券発行を可能とする
(6)これまでの財政・財務制度案の検討
 ・文部省「検討の方向」、自民党提言の評価
B 会計
(1)現状の問題点
 ・法令の縛りから教育研究の進展に対する弾力的対応が困難
(2)新たな会計基準について
 ・国立大学全体として共通な会計基準を主務省令で定めることが必要
(3)独立行政法人会計基準の位置づけ
 ・現在示されている独立行政法人会計基準については、さらに修正を加え、教育研究の特性を十分考慮した制度とすることが必要
(4)その他

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東京大学総長
 蓮實 重彦  殿

 「国立大学制度研究会」報告を撤回させ、研究会の解散と教職員に開かれた議論の場を設置するよう求める

2000年6月30日
東大改革 東職特別委員会

連絡先:東京大学職員組合
TEL/FAX:03-3813-1565
E-mail:bh5t-ssk@asahi-net.or.jp

はじめに

 「国立大学として東京大学が法人格をもつとすれば、その法人制度の組織、業務及び財務はどのようなものであるべきか」(研究会設置の主旨)を早急に検討すべく、今年3月、総長のもとに「国立大学制度研究会」(主査:青山副学長)が設置された。最近、その「研究会」報告−「国立大学の法人化について(案)」を入手した。この報告の冒頭には「目次」とあり、さらに詳しい内容があるのかもしれない。しかし我々は、その内容には看過できない深刻な問題があると考える。以下、「研究会」の不透明な運営にも触れつつ、主な問題点を指摘して批判する。

○ 「国立大学制度研究会」は、学部長会議や研究所長会議にさえそのメンバー・委員会構成・検討スケジュールなどが報告されず、極めて秘密裏に運営されている。これは、手続きとして非民主的であり、従来の東京大学における組織運営の慣行をも破るものである。総長のもとに設置された機関とはいえ、設置形態という重要事項を検討して構成員の合意を得る上では、「研究会」の内容は公開されるべきである。

○ 現行の国立大学制度のどこが問題で、なにゆえ法人化を目指すのか、という根本的な部分の自己分析を欠いている。その結果、報告全体に傍観者的で主体性に乏しい記述が頻出する。およそ「改革」の渦中にある当事者が書いた文書とは思われない。また、「三権に比肩する自治体としての大学」(理想形態WG報告まとめ)など、いわゆる「第3の道」という観点からの検討も、その形跡は全くうかがえない。

○ 「国立大学法人」という名称、法人の活動は通則法の枠組みによらない等、通則法との違いを強調している。しかし、「通則法のスキームを取り入れつつ」と自己規定しているように、結局のところ、報告の構想は独立行政法人制度の問題点をクリアできていない。この間、様々なレベルで批判されてきた「独立行政法人通則法」の本質を、明らかに見誤っている。

○ 身分について「教特法を維持」とは言うが、非公務員も是としている。また、事務官は公務員が望ましいとあるが、教官が非公務員である場合、その関係などの検討は見られない。さらに、事務官については法人の任免権を超えた異動をも「望ましい」といい、大学側での人材育成の観点などは全く見出せない。

○ 学長選考では、自民党提言の内容をも否定できず、選考方法の列挙と抽象的なスローガンに止まっている。大学自治の根幹をなす問題として、民主的で明確な確固とした方針を提起すべきである。

○ 総じてこの報告は、作成主体や発表の対象もきわめて不明確であり、全体として真摯な検討を経たとは思われない。現時点で出される報告としては粗雑かつ不見識であり、「研究会」全体の知的な頽廃を感じざるをえない。また、不充分ながらも一定の公開性を備えつつ民主的運営にも配慮した従来のスタイルを、全く変質させた点も重大な問題である。

○ この報告について、総長は受理せず、「国立大学制度研究会」にその撤回を求めるとともに、このような非民主的で秘密主義的な同研究会を解散させるべきである。その上で、東京大学の全教職員に対し、真に開かれた議論の場を設け、東京大学のあらゆる知恵と知性を汲み上げる努力を早急に開始すべきである。

○ 国大協は7月5日にも「設置形態検討特別委員会」の第1回会合を開くと聞く。その"たたき台"として、この報告が使われることを、我々は危惧する。総長は、前項でも述べた全教職員を含めた議論の成果をこそ、国大協の上記委員会に対して反映させるべきである。

 以上を我々は切に要望し、またそうした議論の場に積極的に参加する用意のあることを表明するものである。


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