==> 国立大学独立行政法人化の諸問題

「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」に対する意見


Date: Fri, 28 Jul 2000 20:00:26 +0900
To: kiksingi@monbu.go.jp
From: Toru Tsujishita
Subject: 大学審議会への意見提出

文部省高等教育局企画課大学審議会室 御中

「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」に対する意見

氏名:辻下 徹
北海道大学大学院理学研究科(代数構造学講座教授)
住所:
電話:
意見:
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                     2000年7月28日
鳥 居 泰 彦 会長殿
井 村 裕 夫 副会長殿
青 山 佳 世 委員殿
阿 部 充 夫 委員殿
天 野 郁 夫 委員殿
猪 口 邦 子 委員殿
奥 島 孝 康 委員殿
川 口 順 子 委員殿
北 城 恪太郎 委員殿               
黒 田 玲 子 委員殿
小 出 忠 孝 委員殿
小 林 陽太郎 委員殿
櫻 井 孝 頴 委員殿
島 田 あき子 委員殿
志 村 尚 子 委員殿
武 田  建  委員殿
蓮 實 重 彦 委員殿
平 澤 貞 昭 委員殿
山 崎 正 和 委員殿
吉 川 弘 之 委員殿

北海道大学教員の辻下徹と申します。パブリックコメントの機会を頂ましてあ
りがとうございます。以下、意見を述べさせて頂きます。

(1)【独立行政法人化問題に言及してほしい】

周知のように、国立大学制度を廃止し、独立行政法人制度に基づく大学法人制
度の設計が、文部省と国立大学が中心となって始まった。この件について貴審
議会が沈黙を保つことは、己が存在理由を否定するに等しいことである。独立
行政法人化について直接諮問されていないとは言え、このような大変革に言及
せずに、種々の諮問事項を具体的に論じることは困難なはずである。

独立行政法人化には運営上の観点から多くのメリットがあると言われながら、
大学という存在の独自性を破壊し日本の学術社会が弱体化するリスクが限りな
く大きいことが、多くの学術関係者によって指摘されている。貴審議会は、当
事者である文部省と国立大学とは違う視点に立てるはずで、ぜひ自主的に、国
立大学の独立行政法人化について議論し、メリットだけでなく、リスクへの対
策について検討し、報告の中で敢えて独立行政法人化問題についても見解を述
べることを強く望みたい。

国立大学の根底が揺らいでいる現状に何も言及せずに、今回の審議概要に示さ
れるような、視野を不自然に限った答申を出すとすれば、大学審議会は自律性
など全くない存在であることを広く国民に宣言するものであり、20名の委員
の皆さま方は国民に対する負託を放棄するものと見なされても申し開きは困難
ではないか。審議会委員の皆さま方が責任の大きさを自覚し、矜持を持ってこ
の問題について責任ある発言を敢えてすることを期待する。

(2)【大学審議会のこれまでの答申の問題性】

大学審議会が、大学改造の必要性やメリットを論じることに終始するだけで改
造に伴うリスクを分析し具体的対策を示さないとすれば、その存在理由は一体
どこにあるのだろうか。

しかし、大学審議会は13年間に19にも上る答申や報告を行ない種々の大学
改造案を提言してきたが、改造の必要性・メリット等を論じるだけでなくリス
ク分析も真剣に行ったことがあっただろうか。また、提言が実現した後の事後
評価をしたことがあるのか。予想していたメリットは本当に得られたのか、問
題は発生しなかったか、等を、調査・分析したことはあったのだろうか。

たとえば、国立大学を大きく変えた、大学院重点化・教養部解体以降、国立大
学における教員の「時間の劣化」は著しいだけでなく、地方国立大学への財政
的圧迫は正視に耐えぬものがある。こういった点について、事後評価を一切し
ようとしないことは、貴審議会の答申には「責任」が一切伴わないということ
にならないか。そうであれば、今回の答申もこれまでと同様、何の責任も伴わ
ない発言にならないか。

(3)【今回の審議概要にある提言に伴うリスクについて】

今回の提言にある改造には必要性やメリットがあるとは思うが、リスクも小さ
くない。気づいたリスクをいくつか指摘しておきたい。おそらく審議の中でも
当然議論されたはずだと思うが「審議概要」では言及されていない。

(a)【「大学のグローバル化」のリスク】

「大学をグローバル化時代に適応せよ」というときのリスクは歴然としている。
これが「異なった国の大学間の教育研究活動が日常的に直接的互換性を持つこ
と」と単純化され、さらには、「英語での教育研究活動を大学で行なう」と単
純化されてしまうような事態が来るというリスクである。そのような事態の問
題性は多様であるが、どの程度分析されたのか。未だに母国語では高等教育で
きず少数の国民しか高等教育を受けられない国が多いことを認識しているのだ
ろうか。

(b)【「国際競争力をつける」ことの意味が退化するリスク】

討論やプレゼンテーションの技術を重視することは、メリットと共にリスクも
歴然としている。些細な内容を膨らまして見せる技術を習得する者が増えれば、
そういう技術を持たないか厭わしく思う者は学術社会では生き残りにくくなり、
かなりの割合の創造的な人材を学術社会から放逐しかねない。最後にはディベー
トだけが強い浅薄な人達しか残らないというリスクである。このリスクは漠然
としているが深刻なものだと思われるが、どのくらい検討されたのだろうか。
日本の大学に「国際競争力がない」というとき、単に米国のこういったプレゼ
ンテーション力を過度に重視していないか、再考して頂きたい。(そもそも、
日本の大学には国際競争力がない、という指摘の具体的内容とその根拠を示す
義務が貴審議会にある。)

(c)【「重点的配分」のリスク】

「卓越した実績をあげることが期待できる大学院や、教育研究上の新たな取り
組みを行なっている大学院に対して、客観的で構成な評価を行なうことを通じ
て資源の重点的配分を行なうことが必要である。」「積極的に改革に取り組ん
でその成果をあげている大学等を重点的に支援していくことが必要である」と
あるが、重点的配分がゼロサムゲームを意味するならば、失敗すれば再起は困
難であり「新たな取り組み」は委縮したものとなるのは当然で、これは、日本
の大学を委縮させ創意を奪うリスクがある。それだけでなく、人事の流動性を
さらに硬直化するリスクも伴っている。こういった点について、どのような対
策を考えておられるのだろうか。
 重要なのは、努力して成果を出した大学には褒美を出すが、<相対評価>で
努力が少ないとされた大学にもそれなりの褒美を出すことであって、間違えて
も罰を下すことがあってはならない、ということである。省庁の予算のシーリ
ングを無くす画期的な動きがある中で、大学同士のゼロサムゲームである「重
点化政策」からの転進を提言する時期が来たと言えるだろう。

(d)【大学の種別化のリスク】

政策的に大学を種別化することは大学の個性を奪うリスクがある。「個性を伸
ばす」という言い方が既に間違っており、大学が真剣に努力すれば、外からの
干渉がなければ、自然と個性は伸びるのものである。大学に個性がないのは、
個性が伸びる環境を奪っているからに過ぎない。その点を大学審議会は指摘し
てほしい。大学の個性化を阻んでいるものは、大学への種々の干渉にあるので
あって、大学の制度的種別化は大学の個性化を事実上不可能にする最悪の干渉
である、と。

(e)【「改革の常態化」による大学の疲弊というリスク】

今の国立大学が疲弊していることを認識しているだろうか。原因は、絶えず改
革が強制されているからだ。現在は、<独立行政法人化後の生き残り>に追い
立てられ、派手な改革を案出することに99国立大学はエネルギーを費やして
いる。教育・研究に携るものを、最も苦手とする宣伝的業務に縛りつけること
で国立大学の人的資源を浪費すれば、国際的競争に耐える底力を国立大学が失
うリスクが大きい。

(4)【国際競争力がない真の原因】

それは、日本人の多くが関心が狭くしかも自分自身の考えというものを持って
いないことである。知識や技能や問題解決力では世界でトップレベルにある日
本人が国際競争力に欠けるという指摘が正しいとすれば、自分自身で考え、自
分の責任で発言し行動する勇気がある人が少ないことが原因の一つであろう。
英語がうまくプレゼンテーションが上手で立派なことが話せても、自分の考え
がなければ馬鹿にされるだけであろう。今後の日本の高等教育は、学生に多く
の教養や知識や技能や問題解決力を持たせることだけではなく、自分自身の考
えを持つことの喜びと重要性とを知らしめることに大きな重点を置かなければ
ならない。

【結語】

不完全ですが意見を述べさせて頂きました。審議会委員の皆さま20名が、2
1世紀の大学を左右する位置にいる責任の大きさに畏怖の念を持たれ、これか
らの世代への責任感の上に立って、独自の考えと判断を反映した答申を構築さ
れますよう、切にお願い申し上げます。

辻下 徹

北海道大学大学院理学研究科数学専攻
〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst/
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh
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