==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
2000.8.11

「インターネットを教育と研究に利用すること
―西洋の大学にとっての効用と危険」

マイケル・マーゴリス(Michael S. Margolis) 教授(米国シンシナティ大学政治学部)


To: he-forum 
Subject: [he-forum 1189] CISH
Date: Sun, 20 Aug 2000 02:04:26 +0900 (JST)
From: Hiroaki Ozawa 

  国際歴史学会議(CISH、5年に1度開催)のポスターセッション(於オスロ大学、
2000年8月11日午後2時)で、米国シンシナティ大学政治学部のマイケル・マー
ゴリス(Michael S. Margolis) 教授の次の講演が行われました。資料と私のメ
モをもとに骨子を復元してみます。

小沢弘明(千葉大学)


タイトル 「インターネットを教育と研究に利用すること― 西洋の大学にとっての効用と危険」 以下の報告は、北米とヨーロッパ、韓国における報告者の経験をもとにして いる。とりわけ、北米とヨーロッパの経験が大部分を占めているので、タイト ルでは「西洋の大学」という言葉を使っている。 一、伝統的大学対現代の大学―教育について 伝統的大学の教育は、(1)閉じられた場の意識(キャンパスという特定空間、 韓国の大学は門とフェンスで覆われている)、(2)対面的教育(Face to Face)、 (3)学部を基軸とする教育、(4)標準的なタイムスケジュール、に基づいて営ま れていた。 これに対して、現代の大学教育は、(1)仮想的空間において、(2)非同期的に (Asynchronous)、(3)学生を基軸とする教育を、(4)学生に応じたペース、で進 めるという特徴を持つ。講義も試験もオフィス・アワーも、特定の時間と空間 を必要としない。 二、伝統的大学対現代の大学―価値について 伝統的大学における価値とは、(1)文化を豊かにすること、(2)哲学的分析を 行うこと、(3)市民的リーダーシップを発揮すること、(4)生活の質を高めるた めの知識を得ること、であった。 他方、現代の大学は、(1)実利的に応用すること、(2)新しい、ポスト産業社 会の経済に順応すること、(3)個人的な昇進、(4)市場の諸要求に対応した技術 的スキルを得ること、を重視している。 三、伝統的大学対現代の大学―戦略について 伝統的な大学が重視していた価値は次のようなものであった。(1)民主主義、 (2)平等、(3)多様性、(4)社会的流動性、(5)科学の進歩、(6)モラルの啓蒙、 (7)哲学的探求。 これに対して、現代の大学が重視する価値とは、次のようなものである。 (1)効率、(2)コスト削減、(3)ユーザ(学生)に優しいこと、(4)テクノロジー、 (5)スポーツ、(6)娯楽(Entertainment)、(7)キャンパスライフの特権(役得? Perquisites of Life on Campus)。 四、大学構成員個々の利害 以上の変化に対応して、大学の構成員は以下のような利害をそれぞれに擁護 しようとしている。 (1)大学の運営者(Administrators)は、大学間及び大学内における競争者に直 面している。 (2)学部は、職を維持することを求めている。 (3)大学に対するヴェンダーは、大学のハードウェアとソフトウェアを販売し たがっている。 (4)学生は、企業の職業市場に対する信用証明書(Credentials)を獲得したがっ ている。 五、現代の大学に競争を強いている者たち (1)オンライン大学(これには、公的なものと私的なものの双方がある) (2)教育課程の開発者とサービスプロバイダ (3)教育課程の販売者(Course Franchisers) (4)大学行政(大学運営)サポートサービス(Academic Administrative Support Services) 六、企業文化を採用すべし、という圧力 大学が企業文化を採用すべきであるという圧力は、次のような基本的観念か ら生じている。 (1)労働コストの削減 (2)新しいテクノロジーの開発 (3)新しい競争 (4)政府が優先事項を決定する(Governmental Priorities) (5)市場イデオロギー (6)商品としての教育(学生はそれを購入する顧客Customerとなる) 七、企業文化に対する障害 ところが、伝統的な大学は、企業文化の導入に障害となる要素を抱えている。 その障害とは次のようなものであり、現在これを「除去」することが要請され る結果となっている。 (1)伝統的な大学が自認する諸価値(前記二、三にかかげたもの) (2)カレッジの伝統 (3)分権的な大学運営(Shared Governance) (4)学部が与えるテニュア(終身雇用権) (5)スタッフとしての雇用契約 八、大学教育の未来 以上をもとにして、特に米国の大学は次の方向を取ろうとしている。 (1)大学において大衆(マス)とエリートの二重トラック制を採用する。 (2)大衆(マス)に対しては、トレーニングとテクノロジーを重視する(大衆が要 求するのは投資に見合う成果である)。 (3)エリートに対しては、従来通り、知識とリーダーシップを与える。伝統的 な大学の諸価値は、この分野においてのみ維持される。 (4)テニュア(終身雇用権)が与えられるのは、大学教育のコンテンツを作り、 提供する者(Content Providers)と花形役者(Star Performers)に限定される。 (5)大学教員は、大学教育のコンテンツを伝える者(Content Deliverers)とし て、自由に契約を打ち切ることのできる労働力となる。 これに応じて大学の組織も、組織編成の頂点に財務管理者(Financial Officers)が位置する形に再編成される。