==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
2002年2月23日

国立大学教職員各位

国立大学独立行政法人化の諸問題サイト管理者

新聞で報道されましたように、国立大学協会が法人化試案をまとめつつありま
す。その手続きの一環と思われるのですが、設置形態特別委員会の意見を集約
した委員長試案(以下、長尾試案)が各国立大学内で配付されました。また、
東京大学は独自の法人化の「条件」(以下、東大試案)を呈示しました。3月
2日の理事会では両案を取り入れた国立大学協会案が了承され、6月国大協総
会での了承を待たずに国大協案として一人歩きする危険性が高いと思われます。

長尾試案・東京大学試案はいずれも、大学管理の立場からの発想に終始し、一
部の政治家・官僚・財界の立場のみを尊重し、日本社会の学術研究・高等教育
の将来を危惧する「心ある」政治家・官僚・財界と学術社会の立場を無視した
ものと思います。国立大学協会の設置形態検討特別委員会議事録を読むと、<
政官情勢を睨んで落とし所を探す>ことには熱心ですが大学の理念等には全く
無関心な委員も少なくありません。1999年9月に、国大協第一常置委員会
が文部省の動きを牽制するつもりで中間報告を急遽まとめましたが、その数日
後に発表された「文部省の検討の方向」に、その大半が取り込まれて、身動き
がとれなくなったことは記憶に新しいことです。

両試案はいずれも後述するように、独立行政法人化の精神を尊重したものです
から、文部科学省は、その大半を取り入れた国立大学法人化法案大綱をまとめ、
国立大学の意向を反映した案として行革本部との交渉に入ることになります。
そうなれば、国立大学はもはや何も発言することはできないでしょう。

国立大学協会を始め多くの国立大学は、通則法ができる2年も前の1997年
に、独立行政法人制度の精神自身に反対の決議をしました。通則法とは違うか
ら前言撤回にはならないという主張は、真理探究を使命とすることが法的にも
明記されている大学という場からの発言としてはふさわしいものとは言えませ
ん。長尾試案・東大試案等を各国立大学構成員自身が検討され、大学管理者層
の迷走にブレーキを駆けるよう努められることを、お願い致します。

【主たる問題点】<中期目標・中期計画・事後評価>形式

長尾試案の項目3で、国立大学法人法を設計する際、独立行政法人の基本的枠
組を参考にすると述べられています。しかも、項目9,10 では、<中期目標・
中期計画・事後評価>形式が暗黙の内に前提とされています。しかし、この形
こそ、独立行政法人制度の骨格であり、大学の研究教育活動にとっての有害性
の核心部分です。

この形式の有害性は具体性を帯び始めています:

大学評価機構の評価方法ができて明らかになったことは、事後評価の基準とな
る中期計画は具体的で詳細なものになることです。さらに、4月より独立行政
法人になる国立研究所の例から明確になったことは、中期目標・計画は法人運
営に留まらず、法人の活動全般に及ぶことです。従って大学の場合には、中期
目標・計画は教育・研究内容に及ぶことは確実であり、実際、文部科学省自身
もそのように考えていることは、調査検討会議目標評価委員会(2000.12.13)で
次のように述べていることからわかります:

「独立行政法人の制度設計をした官庁も、すでに先行独立行政法人の中期目標
を見ながら議論をしているが、その中でも特に「業務」と「業務運営」との峻
別を意識していないようであり、今のところは、むしろその機関の特性に配慮
しながらも、業務が丸ごと目標の対象になり得るという前提で考えられている
のではないかと受け止めている。」

長尾試案が最終的に国立大学法人法に反映されたとしても、詳細な中期計画の
遂行に大学は存廃を賭けて励まなければならなくなります。各教官の価値観・
見識・問題意識を配慮する余地は大学にはほとんどないでしょう。目標を大学
が選び、計画を大学が建て、(東大試案にあるように)学長を大学が選び、評
議会が大学の最高意思決定機関となり、評価を大学評価機構がしたところで、
国立大学法人の自主性・自律性と、教員の自主性・自律性とは両立せず、後者
を基盤とする学問の自由は残らないのです。

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私たち大学にいま在籍する者は、独立行政法人化のもたらすものを何度でも初
心に戻って根気よく直視すべきであると思います:大学も学部も学科も講座も
教官も、それぞれの零和ゲ−ム(実際は負和ゲ−ム)に投げ込まれ、大学は容
易に民営化される体制に移され、教育の機会均等が損なわれ、大学が<科学技
術>だけの場となり学問の多様性が破壊され日本社会の知的ポテンシャルが急
速に失われ、そして何よりも、大学と学問が全面的に国家に従属させられ,先
人たちが何とか守り続けて来た学問の自由が破壊されてしまうのです。

国大制度の中でも出来る改革は無数にあることが、この1年余の間に、明らか
になりました。私たちが努めるべきことは、形の上の改革を静かに拒否し勇気
を持って国大制度に留まり、各教官が社会に感謝しつつ落ち着いて自分の信じ
る所に従って研究教育に励み、日本の精神風土を豊にしていくことに努め、白
川博士が札幌での講演会で強調されていましたように、大学と社会との直接的
紐帯を時間をかけて強めていくことではないでしょうか。産学連携もその一環
として初めて長期的な効力を持つようになるのではないでしょうか。

各大学の学長を始めとする管理職の皆さまにもお願いします。一度、日本全体
の将来をも視野に入れた議論の場とし、未来世代に対する責任を意識した決断
をされることを、お願い致します。また、各大学の教職員の皆さまにもお願い
します。もう一度、初心に戻ってこの問題を検討してください。時間が経過し
ましたが、独立行政法人化の持つ学術活動・教育活動への破壊力は無傷のまま
であることを直視して頂きたいと思います。