==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
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Date: Tue, 20 Mar 2001 16:44:04 +0900
広島大学の教官からの「国大独法化問題週報」への投書(匿名希望)

 日頃の先生のご努力に対する敬意と、配信される情報への期待を表明させていただ きます。とくに、後者はいつも熟読しております。  現在、政府筋から推進されようとしている国立大学の独立行政法人化構想は、当初 は国家公務員の定員削減という行政のスリム化が引き金となって提起されましたが、 一方で大学への国家・産業界からの底深い要求が根底にもあり、マスコミも巻き込ん で、その流れは押しとどめられないかの如くです。しかし、それらは一言で言えば、 安上がりの技術力達成への期待感しかなく、それは明治以来の「国家に必要な人材養 成のための大学」の現代版でしかありません。「知の世紀」と言われる21世紀を生 きる人材の養成を担う大学への、国民の期待に応えるものではありません。さらに、 眼前に展開する未曾有の財政的危機の中では、今まで以上に跛行的で、貧困な大学行 政に帰結せざるを得ない。したがってそれは、科学とはなにか、技術とはなにか、教 育とは何かという、大学の機能に関わる本質的な問いかけに答えられない姿にならざ るを得ないと思います。それは、皮肉にも、高度な技術力達成という行政者の願いに も反する帰結を見ることは疑いありません。  極めて簡素な意見ではありますが、先生の発信される情報も含めた諸文献や、私の 接した内外の人々の意見を総合すると、今政府のやろうとすることは、効率主義、競 争原理、一点突破・大艦巨砲主義の3点に集約され、それを学問の府に持ち込むこと であり、結果として「大学の死」をもたらします。こんなばかなことをやっていると ころは、先進国にはありません。敢えて例示すれば、アカデミックビジネスに走って いるアメリカの一部「2流」大学の真似を、日本の全ての大学に求めているだけの話 です。しかしそのアメリカですら、しかるべき優れた大学には、アカデミックビジネ スと一線を画した「知の共同体」としての大学への確固たる姿勢が見られます。  先の3点の思想は同時に、日本の為政者とそれを支えるテクノクラート・ビューロ クラットの哲学の貧困、また、依然としてその根底では基礎研究をおろそかにして技 術導入に走ってきた産業界の焦躁の表現でもあります。彼らが日頃となえている、「 欧米に追い越せ式の明治以来のキャッチアップ型からの脱却」が本当に求められるの は、彼らの側でありましょう。優れて国際的な数多くの日本の大学関係者には、正当 で健全な競争意識はあるとしても、もはや欧米に追い越せ式の思想はありません。そ の人々に必要なことは、まさに効率主義、競争原理、一点突破・大艦巨砲主義に彩ら れた官僚的な縦割り科学技術政策の打破であります。  一方で、なぜこんなことを黙って日本の大学人が見過ごしてしまうか。これも、日 本の知識人への試練と思います。先の第2次世界大戦中に一部の科学者たちが、研究 者としてはハッピーだったと回顧するのと同じで、上からの独立行政法人化構想に乗 じて跋扈する人々には、その程度の浅い哲学しかないのです。  そもそもこのようになっているのは、大学にいるものが自分だけのことを考え始め ているからです。そうなったときの被害者は学生・市民で、我々は彼らに罪を負うこ とになります。たとえば、大学の格付けに怯えて、博士課程の学生を育成しすぎたら どういうことになるかのシミュレーションもしないで重点化に安易に走り、大量のド クター/ポスドク、すなわち「行き場のない高学歴失業者予備軍」を作って恥じない のはその好例です。「教員の任期制」は、さらにその傾向に拍車をかけます。  つい最近に私はパリにいて、例の「ソクラテス計画」に支えられて、旧東独のドレ スデン工科大学からパリ大学のDCに在籍し、最先端の研究をしている若者に会いま した。確か1万円(100フランと言っていたと思います)に満たない「入学料」の みが必要で、授業料は払っていません。旅費ももらってEU共同利用機関のイタリア ・トリエステの実験施設で、翌日から3日間行う実験の準備に余念がありませんでし た。彼らに日本の大学院DC学生の実状を話しました。どんな反応があったかは、ご 想像の限りです。  私は、周りの若い研究者に、「この施策は10年と持たない。あるいはもう少し長 いかもしれないが、君たちが引退するまでには何らかのリアクションがあるはずだ、 それに備えよ」といっております。彼らのためにも、きちんと意見を言っておく必要 があります。それは歴史の証言であり、後に必ず生きるものです。