==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
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国大教職員が6月12日までにすべきこと

  

2001.5.25
国立大学教職員 各位

北海道大学の辻下です。

一昨年来、国立大学の独立行政法人化が検討され始めて以来、国立大学の諸部局が独立行政法人化に反対する声明を出しましたが、大多数の部局は、特例措置が未確定であることを理由として沈黙を保ってきました。ようやく大学側の具体的提言・要求の原案*1が国大協の設置形態検討特別委員会で決まり是非の議論ができる時がやってきました。しかし、これを検討し是非を判断するために残された時間は最悪の場合には、原案を審議予定の6月12日国大協総会までの17日間しかありません。

検討すべきことは、文部省自身も1997年に簡明に指摘した独立行政法人化の問題点*2が「原案」で真に解決されているのかどうかの吟味です。

 私自身が検討した結果は、原案に書かれている特例措置は、(1)中期目標を大学が申請して文部科学省が認可する(2)学長は大学が選出する(3)評価において、大学評価機構などの第三者評価機関の評価を参考にする、という点に留まり、通則法が実現する行政による大学管理体制の弊害を弱める効果は望めません。それだけでなく、非公務員型の容認、任期制の推奨、文部科学省が使命する監事を含む「役員会」を頂点とするトップダウン運営体制の提言等、大学側が提案するはずの無い内容が含まれています。
原案の詳しい分析は既に複数出されています*3

 この点について、各大学・部局・学科・個人で検討し、早急に何らかの意思表明することが国立大学の将来を大きく左右するものと考えます*4

なお、国立大学の独法化問題はもはや政治的領域に舞台が移っており、その是非を議論するなど、現実認識を欠いた馬鹿げた行為である、という政治的信念を持ち発言される教員もおられるようですが、学問以外では没理的プロセスも仕方がないという姿勢を大学社会全体がとることは、理を基盤とする大学の自己否定ではないか、と私は危惧します。

 政治的には無に等しい知の共同体が頼れるのは理の力だけではないでしょうか。政府は形の上だけとは言え大学を尊重し「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し平成15年までに結論を得る」と言いました。現政府はまだこれに縛られています。独立行政法人化は大学改革を阻むものであると私たちが心の底で信じているとすれば、それを黙っていることは不作為に公共の利益を甚だしく害するものです。
 原案*1に書かれているような国立大学法人化は大学を損なうとしか思えない人はそのことを言う義務があるのだ、と私は信じています。この17日間が、その最後の機会となる可能性は非常に高いのです。

 最後に、原案に見られる別の深刻な問題点を指摘したいと思います。それは「これらの批判を社会の期待のあらわれとして真摯に受け止め、その期待に応え社会の理解を深めるよう、最大限の努力を惜しんではならない。」という文に象徴される姿勢です。社会に開かれた大学を目指すのならば、外からの批判を「期待の現れ」と解釈して「期待に応えるよう努めます」という無内容な反応をするのではなく、批判の具体的内容を吟味し、反論が必要ならば反論し、すぐには解決できないのならば協力を要請するなど、の実質的な応対が不可欠です。

国立大学は多方面から種々の批判を受けています。木を見て森を見ない他愛もない罵詈雑言、教育行政の失政の大学への責任転嫁*5 などの不当な批判から、国立大学が容易には解決できない深刻な問題が存在する可能性を示唆する批判(「研究優先・教育軽視」の風土、大学入試の初等中等教育への悪影響、大学間の格差、大学教育人事の不透明性等、常勤教員と同数と言われる非常勤講師の問題、学生・院生・若手教員の人権侵害等)もある。これらの批判を分析しようともせず均一に「大学への期待の現れ」などと言うこと自身が、大学が社会の意見を聞く気などないことを証明していることになるのです。今の段階では、その責は設置形態検討特別員会にありますが、これを了承すれば、国立大学全体がその責を負うことになります。
 これらの批判に示唆される問題の多くは大学社会全体が協力して取り組まなければ解決しようがないものですが、大学同士が生き残りをかけた競争的関係に置かれることで解決が不可能になる所にも独立行政法人化の致命的問題性があるのです。

辻下 徹

北海道大学大学院理学研究科数学専攻
〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst


*1 http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/01/521-kdk-shiryou.html
*2 http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/doc/97a-monbu.html 1997年文部大臣の独立行政法人化に関する声明

(1)大学の教育研究は長期的視点にたって多様性をもつことを本質とするものであり、独立行政法人はこのような大学の教育研究になじまない。

(2)独立行政法人のねらいは、効果的な業務の実施にあるが、文部大臣が3〜5年の目標を提示し大学がこれに基づき教育研究計画を作成、実施する仕組み、および計画終了後に業務継続の必要性・設置形態の在り方の見直しが制度化される仕組みは、大学の自主的な教育研究を阻害し、教育研究水準の大幅な低下を招き、大学の活性化とは結びつくものではない。また、効率性の観点から一律に大学を評価することは、各大学の特色を失わせ、現在進められている大学の個性化に逆行する。

(3)現下の厳しい財政状況の下で独立行政法人化する場合、安定的な研究費、人件費等の確保の保障がなく、その結果、独自の資金を有しないわが国の大学においては学術研究水準が低下し、科学技術立国を目指すわが国の発展は望めない。


*3 原案についての分析・声明等

・独立行政法人問題千葉大学情報分析センター(2001.5.25)
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/n5.html

・東京大学職員組合 (2001.5.25)
毅然として「大学の自治」を守るよう、国大協に訴える

・独立行政法人化反対首都圏ネットワーク(2001.5.24)
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/010524net527noseimei.htm

・全大教中央執行委員長談話(2001.5.23)
http://www.zendaikyo.or.jp/dokuhouka/zendaikyo/010523danwa.htm


*4 6月1日に定例の北大理学部教授会(講師以上が出席)がありますので、以下の趣旨の決議を行う議題を出すことを有志と急遽検討中です。

6月の国大協総会で審議が予定されている国立大学法人化に関する提言の原案は、通則法による独立行政法人化との違いがあいまいであり,国立大学の大学としての基本的機能を大きく損なう可能性すらある.

また,例えば任期制の積極的導入を謌う等,理学部・理学研究科において全く議論したこともない内容が多数含まれており,これらは1999年に理学研究科教授会が支持を決議した国立大学理学部長会議声明にある「決断は論議を尽くした後になされるべき」という最低限のことにすら反している.

北海道大学理学部教授会は,国大協が会員である各「国立大学」の意見をまとめる作業もしないまま総会で原案を了承することが無いよう強く要望する。

これに先立ち学生・院生を含む理学部・理学研究科構成員による討論会を開くことも同時に企画しております。
*5 たとえば、欧米での大学ランキングの評価項目の中で、学生/スタッフ数比、常勤スタッフの割合、教育研究補助スタッフの数、等、教育研究環境整備に関する項目のウェイトが大きいにも関わらず、日本の大学のランキングが低いことが大学を批判することに用いられることが多い。