大学業務の民間委託について
知人からの手紙 2001.6.3
独法化に関する議論が急展開する中で、特に気になっているのですが、大学か
ら民間への一部業務の委託という考え方が割合なんの抵抗もなしに受け入れら
れようとしているかのように感じています。
業務を委託する場合、通常、業務委託契約を結ぶのが慣例ですが、業務委託契
約は極めて適用範囲が広く、危険な契約です。私は職業柄、業務委託契約と常
にとなり合わせの位置に居ます。本人の意図とは関わらず、利用する側であっ
たり利用される側であったりするのですが、この契約が常態化している事実か
ら常に高いストレスを受けています。
大学の先生方が、この契約の危険性をどの程度認識されているか疑問を感じて
います。危険性に気づいていただけるきっかけになることを期待し寄稿してい
ます。私には完全な知識はありませんが、知っている範囲の事実をかいつまん
で書きます。
1. 労働者派遣法
労働者派遣法という法律があります。この法律が労働者保護の観点から制
定された法律と考えるのは全くの誤りです。むしろ逆に、労働者派遣の原則自
由化のための悪法として、制定当初から位置付けられていたと考えるのが正確
です。以下ご参照ください。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~otasuke/camhaken3.htm
http://www.union-net.or.jp/~densanro/2000.anke-to5.htm
http://www.asahi-net.or.jp/~RB1S-WKT/indexhkn.htm
http://www.asahi-net.or.jp/~RB1S-WKT/hknnew01.htm
http://www2.mhlw.go.jp/kisya/syokuan/20001222_01_sy/20001222_01_sy.html
2. 業務委託契約⊃派遣規制緩和のための抜け道
派遣業者として登録していないにもかかわらず、事実上人材派遣を行ってい
る会社が増加の一途をたどっていることは周知の事実です。このからくりがど
うなっているのかあまり知られていません。これに関して私は、つぎのような
逸話を複数回耳にしています。「労働者派遣事業を行う会社として登録しよう
としたところ、「その必要は無いよ、業務委託契約を使えばよい」と*指導*
を受けた。」
統計上派遣労働者は百万人強として計上されていますが、実際には、このか
らくりにより、その数字は全くの*でたらめ*です。
99年の派遣法改正では、派遣業の原則自由化が explicit に宣言されてい
ます。規制緩和が潜在的に持つ行政構造改悪の懸念は具体的にはこんなところ
にも見えています。
3. そもそも業務委託契約とは
業務委託契約の一番典型的な例としては、ゼネコンがお客さんから受注し、
その施工を下請け企業に依頼する場面を考えていただければ良いと思います。
顧客からゼネコン、ゼネコンから一次請負、二次請負、... と何段階かの業務
委託契約を経て最後は現場の職人までブレークダウンされます。通常この業態
は、請け負う側から見たときに、一括請負と呼ばれています。一括請負のため
の契約方式として常態化している業務委託契約ですが、その契約内容を縛るた
めの法は十分整備されていないようです。
もちろん建設業に限らず、ありとあらゆる業種で業務委託契約は成されてい
ます。
4.業務委託契約と客先常駐
建設業と同様の構造をもった業種にソフトウェア産業があります。
ソフト産業で行われている業務委託契約の場合、いわゆる一括請負といわゆ
る工数契約とが混在しています。前者は、仕事の範囲を定めて、それに対し対
価を設定し、受注、清算する契約、後者は、作業に掛かる人数×時間×単価に
より受注、清算を行う契約です。どちらの場合も、清算の単位にはいわゆる人
月(man-month)が用いられます。
前者の場合、契約が履行されさえすれば人間をどれぐらい投入したかは問題
となりません。しかし、後者の場合は投入した人数、時間そのものが契約事項
となります。顧客側としては、契約内容に一致する人数、時間の投入があった
かどうかを管理する必要が生まれます。ソフト業界において人身売買が発生す
るそもそもの根源はここにあります。この契約から生まれる作業形態を、通
常、客先常駐といいます。
そもそもは(1)工数契約に起因した客先常駐ですが、いまや、次の二つの形
態へも拡大しています。(2) 一括請負のもと客先常駐、(3) 派遣会社登録社員
としての客先常駐。これら三つの形態はいずれも、言葉を選ばなければ人売り
であり、言葉を選べば派遣です。
5. 労働者派遣法により護られるもの
派遣法は人間の権利を護る目的で作られたものではありませんが、それで
も、良心の破片は残っています。派遣法により護られる人は (3) の形態によ
り客先常駐する人たちです。
派遣会社登録社員はサラリーマンではありません。彼(彼女)らは個人事業
主です。会社 対 彼(彼女)の関係は雇用関係ではありません。客 対 店の関
係です。
派遣法の基本的な発想は、「彼(彼女)らのような本当に最悪に近い労働条
件のもとで働く人間の権利に関してのみ保障を与えよう」というものに過ぎ
ません。
6. 大学が業務委託を容認することの意味
業務委託は労働に関する規制緩和を具現化するための免罪符です。規制緩和
の行き着く先は規制の事実上の撤廃です。ことさらに、労働に関する規制の撤
廃は人類にとって重大な意味を持ちます。大学が業務委託を容認すれば、大学
は労働に関する規制の撤廃を認めたことになります。このとき大学は、人間に
対する思想のある重要な部分を喪失したことになります。
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