==> 国立大学独立行政法人化の諸問題

本日の部局長会議・明日の評議会への要望

                         2001.6.5 北海道大学評議会 殿 おはようございます。 本日に部局長会議、明日に評議会が開催されると聞きました。国大協委員会の 法人化案*1について議論されると推測しております。問題の重要性からすれば、 全学的な議論が不可欠ですが、大半の部局でもいまだ行われていないのが現状 です。評議会として北大の態度を明確にすることはできるはずはありません。 長期的な展望*6を見失わない誠意ある慎重な議論と判断をお願い致します。 「法人化案」を国大協総会が了承することは、大学自身が独立行政法人化を自 ら進んで選択することを意味します。独立行政法人化は、行財政改革の文脈で 出てきていますが、大学を政府の制御下に置くことが真の目的であることは、 総合科学技術会議の方針から明らかであり、Natureの5/31 号のOpinion*2 でも、 日本の科学技術政策の危険性を指摘する記事があります。このリスクの大き さを無視し、国立大学にとっての政治状況の悪化にパニックを起こして、国大 協委員会の国大法人化案を了承して決着をつけようとしている現状を危惧しま す。貴会議が国立大学全体が陥っているパニックゆえの盲目的判断を思いとど まらせるだけの冷静さを持つことを祈っております。 ---------------------------------------------------------------------- 昨年6月に貴会議は前総長の「独立行政法人化問題に対する本学の対応につい て」*3を了承しました。 その中で「調査検討会議に参加して本学の意見を反映していくべきである」と いう方針を貴会議は了承しましたが、その判断は正しかったのでしょうか。来 週の国大協第 108回定期総会で報告される法人化案*1のようなものを、貴会 議は予期していたのでしょうか。この案のどこに本学の意見、そして、大学の 教育と研究の現場に居る多くの者の意見、が反映されているのでしょうか。 現在の状況は、昨年の部局長会議で前学長が示された「現状認識」とは根本的 な点で変化しています。昨年の今ごろ、国立大学の独立行政法人化問題が行財 政改革とは異る文脈に移行したかのような印象を与える文部大臣説明がありま したが、その文脈が蜃気楼でしかなかったことは「21世紀の大学を考える懇 談会」がわずか3回で打ち切りになったことや、最近の小泉内閣の国立大学民 営化方針に対して(*4,*4b)、早速、大学業務のアウトソーシングや、付属病院・ 付属学校の民営化等の方針を文部科学省が打ち出したことから明らかです。 なお、研究以外の業務(教育も含む)を当然のようにアウトーソーシングする 大学の姿勢に、大学そのものの退廃を指摘することも出来ることをお忘れにな らないようにお願い致します*5。 辻下 徹 理学研究科数学専攻 TEL and FAX 011-706-3823 tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst
添付資料目次

*1 国大協委員会の法人化案
*2 Dangers of nationalism 
*3 「独立行政法人化問題に対する本学の対応について」2000.6.6より
*4 参議院文教科学委員会5/24
*4b 文科相に大学民営化迫った小泉首相
*5 馬場理氏「業務委託についての意見」
*6 野上修市氏「次世代の育成と高等教育−権利としての教育一」

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*1 国大協委員会の法人化案
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/01/521-kdk-shiryou.html

「国大協特別委5月21日文書」と「国大協特別委5月21日文書修正版(6.1付)」
の主要な異同

国立大学法人化についての基本的考え方

○専門委員会連絡会議→削除
○国立大学の自主性を拡大し→国立大学の自律性を拡大し
○以下のような基本的考え方に至った→以下のような考え方に至った
○高等教育・学術研究→高等教育および学術研究
○「グローバルな科学技術革新に適切に対応するためにも」を追加
○拡大されねばならない→一層拡大されねばならない
○「公的負担により運営されていることを明確に自覚し、効率的運営に留意し、

大学運営の透明性を高めるとともに、」を追加

1  高等教育および学術研究に対する国の責務
○高等教育・学術研究→高等教育および学術研究
○かりにも、国立大学の法人化が、もっぱら国家財政上ないし行政改革の観点
から、→国立大学の法人化が、もっぱら国家財政上ないし行政改革の観点から、
○他方、国立大学の現状にもさまざまの批判があることは事実である→他方、
国立大学の現状にもさまざまの批判があり、改善を要する問題が多々あること
も事実である
○その期待に応え→厳しく自己点検し、その結果を公表して社会の期待に応え
○最大限の努力を惜しんではならない→最大限の努力をしなければならない


3 社会に開かれた大学

○国立大学は、かりに法人化されても→国立大学は、法人化されても
○「それ以上に、大学で行われる教育研究活動やそれと密接不可分の大学運営
に、外部からの規制を持ちこむことは、高等教育研究のシステムを歪める危険
性が強い。」を削除
○「したがって、大学に対する必要以上の規制は、避けられなければならない。」
を追加
○一定の範囲で大学運営に参画させるなどのことが→これまで以上に大学運営
への参画を求めることなどが
○どのような学外者をどのような形・範囲で参画させるかは→どのような学外
者にどのような形・範囲で参画を求めるかは
○参画させる意義→参画の意義

○法人化にあたっての1つの枠組案→法人化についての枠組案
○国立大学側→国立大学自身
○時として聞かれる国立大学に対する批判→時として国立大学に対して加えら
れる批判

国立大学法人化の枠組

○国立大学法人化の1つのありうる枠組→国立大学法人化の枠組
○国立大学の自主性と自己責任を拡大し→国立大学が明確な責任体制のもとに、
その自主性と自律性を拡大し


I  法人の基本および組織・業務

○15)そのうち1名は大学について高い識見を有する学外者のうちから文部科学
大臣が指名する→監事には学外者を含むものとし、大学について高い識見を有
する者のうちから任命する
○15)「なお、この運営組織は別記の改組案の如何によって異なったものとな
る」を追加
○19)「なお、この運営諮問会議は別記の改組案の如何によって異なったもの
となる」を追加
○20)「なお、この運営諮問会議諮問事項は、別記の改組案の如何によって異
なったものとなる」を追加
○22)「なお、この評議会構成は別記の改組案の如何によって異なったものと
なる」を追加
○24)学生の入退学・学位等在籍→学生の入学・卒業・修了等在籍および学位
○27)中期計画と予算措置→研究教育組織の新設・改廃
○30)中期的な目標・計画に掲げ→中期的な計画に掲げ
○31)全文削除


○(注)→別記―運営諮問会議または評議会の改組
○「運営諮問会議または評議会の改組により」を追加
○一層拡大する方法として→一層拡大する
○次の3案を基本形として検討する。いずれとするかによって、学長の選考に
外部の意見を入れる方法や評議会等の審議事項などに影響がありうる。→これ
については次の3つの方式を基本形として、各大学の特性、伝統、工夫などが
活かされる運営組織となるような弾力的な枠組を、今後さらに検討する。
○「なお、この改組の方式如何によって、以下の通り運営組織の各項目にも対
応した整理が必要であり、また学長の選考に外部者の意見を反映させる(項目
12)方法についても対応した考慮が必要である。」を追加
○第1案→第1方式(以下、同じ)
○学内者を加えた→学内者をも加えた


○諮問が必要→必要的諮問
○(論点)は全文削除し、対応項目の整理を追加

II 目標・評価
○20)政策的経費→政策的運営費交付金

III 人事制度
○13)そのうち1名は大学について高い見識を有する学外者のうちから文部科学
大臣が指名する→監事には学外者を含むものとし、大学について高い見識を有
する者のうちから任命する
○14)教授人事→教員人事
○15)「教員の任用については、」を追加

IV 財務・会計
○8)国は各国立大学が現在使用している土地建物を、各国立大学法人に現物出
資または無償使用させる→国は、現在使用されておりまたは今後新たに整備さ
れる土地建物等について、原則として各国立大学法人に現物出資する
○11)教職員数等に関する→教職員数、人員配置、採用等に関する

○(注記)全文追加

  (注記)大学共同利用機関について:大学共同利用機関については、国立大
学と基盤を共有しつつも、学部をもたず先端的学術研究に特化した機関であっ
て、共同利用を中心に全国の大学と協力して研究活動を進めており、運営形態
等でも国立大学とは異なる面がある。従ってその法人化にあたっては、国立大
学法人との共通性を活かしつつ、その独自性にも十分配慮した検討が、並行し
て進められるべきである

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*2 p507 Dangers of nationalism 

The drive to acquire intellectual property from research contributes
to the wealth of nations, but can also undermine science if carried to
excess. Exaggerated claims threaten to undermine the funding and
climate of basic research.

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*3 「独立行政法人化問題に対する本学の対応について」2000.6.6より
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/socho/agency/houkoku4.htm

「3. 現状認識

 ようやく状況は変わりつつある。総長としての現状認識は次の5点である。

 その1として、論議の質が各方面で変わりはじめる兆候が見られる。これま
での大勢は、国立大学の設置形態を、行財政改革を乗り切る便宜的な対処とい
う次元から見ていた。大学人の働きかけも一因となり、これを高等教育・学術
研究の将来という観点から検討しようとする方向に、転換する兆候が見えはじ
めた。

 その2として、文部省が動いた。2000年(平成12年)5月26日の文
部大臣説明には、1999年9月7日の国立大学協会第一常置委員会の中間報
告に応答したものという性格が見られる。たとえば、第一常置委員会の中間報
告は、「特例法」、「国立大学法人」を強調したが、2000年(平成12年)
5月26日の文部大臣説明で、はじめて文部大臣の言葉として「調整法(又は
特例法)」に言及し、名称を「国立大学法人」とする方向を示した。
 また文部大臣は、「我が国の高等教育や学術研究のあるべき姿を長期的な視
野から展望する」目的で、「国全体の視点から議論しうるような場を設けるこ
とを考えていきたい」と述べた。これは国立大学協会内で非公式に検討されか
けた「大学評議会」案など、関連する新たな構想と重なる可能性のある発言と
して受けとめることができる。

 その3として、国立大学の設置形態に関して、5月26日の文部大臣説明は、
「調整法、又は特例法」を定めるという方針を示した。(なお2000年(平
成12年)5月11日に発表された自由民主党の「提言 これからの国立大学
の在り方について」も同様。)これにより、それ以外の立法形態を採る可能性
は相当に低くなった。
 その結果、もちろん、独立行政法人通則法を国立大学にそのままの形で適用
することに反対することは重要であり続けているが、同時に、これから制定さ
れる「調整法、又は特例法」を、大学の特性にふさわしいものになしうるかど
うかの議論が重要になってくる。

 その4として、国立大学の自主性・自律性に関して、これまで本学「独立行
政法人化に関する検討ワ−キンググル−プ」、国立大学協会第一常置委員会の
中間報告も、ともに独立行政法人化によって、大学の自由が損なわれるのでは
ないかという懸念に重点を置いて検討してきた。しかし同時に、文部省の附属
施設という設置形態に由来する、大学運営の自主性・自律性の限界も明らかで
ある。(この点は、2000年(平成12年)5月26日文部大臣説明も述べ
ている。)現行制度の制約による自主性・自律性の限界を、法人化によって、
どこまで是正・強化できるか、それに伴うどのような自己責任を負うかを検討
することが、重要な課題となってくる。

 その5として、総定員法改正による定員削減、企業会計原則の導入、特別会
計における財政情報のディスクロージャーなど、設置形態以外の問題に関し、
急速に事態が進展し、あるいは近い将来に事態の変化が予想され、緊急に対応
を迫られる検討課題となるであろう。」

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*4 参議院文教科学委員会5/24

平成13年 5月24日参議院文教科学委員会議事録より


<民主党本岡議員の質疑の中の国立大学民営化に関する部分>
○本岡昭次君
 ・・・・
 次に、国立大学の民営化の問題をちょっと触れてみたいと思います。

 実は参議院の本会議で、民主党の質問の中に、民主党は国立大学の民営化あ
るいは地方化の問題を考えているんだがという質問をしたときに、小泉総理が
民主党の国立大学民営化の大学改革案は賛成ですとおっしゃって私はびっくり
したんですが、そして、「国立大学でも民営化できるところは民営化する、地
方に譲るべきものは地方に譲るという、こういう視点が大事だ」と答弁されま
した。こうなったら全く民主党の言っていることと一緒でありまして、だから、
私は、先ほど言ったように、変わるということはこういうことで変わっていく
のかなとも思い、しかし、さりとはいえ私は小泉政権を支持するというわけに
もまいらぬし、困ったことだなというふうに正直思っているところであります。

 そこで、遠山大臣は、この小泉総理の民営化答弁、これをどうしますか。何
か気まぐれに総理が参議院の本会議でおっしゃったんだというふうに片づけら
れますか。それとも、これは本会議における答弁であるということで、文部科
学省としてこれを受けとめて、この民営化、地方化の問題の検討をされますか。
私は、文部科学省がそれをやらなければこれはおかしいと思うんですが、いか
がですか。


○副大臣(岸田文雄君) まず、そもそも独立行政法人制度は、国の行政機能
のうち、まず民間や地方にゆだねることが可能なものがないか、そして可能な
ものはできる限りゆだねた上で、それが困難なものを独立行政法人化するとい
うのが議論の道筋だというふうに考えております。

 ですから、国立大学もその道筋で考えなければいけないと思っておりますの
で、国立大学を独立行政法人化する場合も、国立大学が担っている諸機能のう
ち、民間や地方にゆだねられるものがあればまずこれをゆだねた上で、そして
それが不可能なものを独立行政法人化する、独立行政法人に移行する、これが
考え方だというふうに思っております。

 文部科学省もそういった考えのもとに独立行政法人化を考えておりますので、
その中での民間とのかかわり云々を考えますときに、総理の答弁は必ずしもそ
の方針とは矛盾しないと考えております。


○本岡昭次君 委員長、私は大臣に聞いているんですが、副大臣が答弁される。
それは文部科学省を代表しておっしゃっているんだろうが、しかし我々が時と
して、次々と質問するというときに、ある委員会で大臣がこう答弁したという
のが、大臣というのは内閣のメンバーであって、その内閣の言葉としてそれが
次々に引き継がれていくと。副大臣という立場は、これはどうなんですか。大
臣の答弁というふうに僕らは受けとめるんですか。いや、あれは副大臣の答弁
やと、こういうふうになるんですか。私、さっきから聞きながらそう感じた。
ちょっと委員長、これは整理してもらわぬと。私は大臣の答弁を求めておるん
ですが、副大臣が答える。それは事務的な問題でしょう。基本的な問題を今ずっ
と私は尋ねてきておるんですがね。


○国務大臣(遠山敦子君) 先ほどのお答え、御質問に対する副大臣のお答え
は私の考えと全く同等でございます。

 少しつけ加えますれば、今、文部科学省では、昨年と一昨年の閣議決定を踏
まえまして、国立大学の独立行政法人化について検討が進んでいるわけでござ
いますが、その際、通則法のままでは大学の自主性尊重などの観点に照らして
適当でない面もあるということから、大学改革の一環として具体的な制度のあ
り方などの検討を進めているところでございます。

 その独立行政法人とは何ぞや、あるいはそれをどのように現実に移していく
かということの考え方については副大臣が答弁いたしましたとおりでございま
す。


○本岡昭次君 同じような点で、郵政三事業の民営化問題も、これは公社化と
いうのがもう現に進んで来年その法律を出すというときに、小泉総理は、これ
は民営化だと、こうおっしゃっているわけで、私は民営化の方向に持っていく
んだ、公社化、その後は民営化だと、その議論を並行してやって何で悪いと、
こうおっしゃっているんですよ。

 この大学の民営化だって同じことですよ。総理が、民営化は結構だと、こう
おっしゃった。民営化、地方化を検討しようと、こうおっしゃれば、独立行政
法人の問題は、それはもう今、あすの問題と言っているけれども、その問題を
議論しなければ、小泉総理のおっしゃっていることと文部科学省がやろうとし
ていることが一致しない、内閣の不一致とかいうふうな範疇に、遠山大臣、入
ることになりますよ。いかがですか。私はこれを追及していきますがね。今言っ
たように、民営化というのは文部科学省としてはとらないというふうにしか今
の話では受け取れませんからね。どうなんです、そこをはっきりさせてくださ
い、一言で。

○国務大臣(遠山敦子君) 総理は、先日の質疑におきまして、国立大学の有
している機能のうち、民間や地方にゆだねられるべきものは可能な限りこれを
ゆだねるという視点が大事だ、この点ではほかの分野と同じように考えていく
べきだというお考えを示されたものだと思っております。私どもはその意味で
総理の答弁を受け取っているところでございます。

○本岡昭次君 私も国立大学の民営化問題をこの委員会で今までも論議してき
ましたが、そのときは、もう旧文部省は取り合わず、勝手に本岡が言っておる
だけじゃないかというふうなことであったが、もう今度はそうはいかぬという
ことでありますから、そのつもりでこの議論はかみ合わせていただきたいと思
います。よろしいですね、そのことは。

○国務大臣(遠山敦子君) 私どもは、今、独立行政法人化の問題について検
討しているところでございまして、その検討の結果を待って、きちっとした形
でまた御議論をいただくことになろうかと思います。

○本岡昭次君 またこれは小泉総理と議論する場があればやりたいし、また民
主党として小泉総理といろいろこれから議論するときに、文部科学省の立場と
いうもの、今の答弁では全然これはかみ合っていませんから、明らかにしてい
きたいというふうに思います。今の答弁では私は納得できません。また改めて
議論をさらにさせていただきます。
・・・・

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*4b 文科相に大学民営化迫った小泉首相
『読売新聞』2001年6月4日付

「それでは現状維持じゃないか」

 小泉首相は5月18日、首相官邸を訪れた遠山敦子文部科学相(62)に、
珍しく声を荒げた。首相が同11日の参院本会議で国立大の民営化に賛意を表
したことに対し、旧文部官僚出身の遠山氏が国立大側の意向を代弁するかのよ
うに、「国立大は既に独立行政法人化が決まっている。民営化には大学側の反
発が強い」と説明したためだ。

 首相は「小泉内閣は改革断行内閣だ。あなたはその目玉の1人なのに、改革
の意思が感じられない」とも語り、遠山氏に「聖域なき改革」への奮起を促し
た。

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*5 業務委託についての意見

「独法化に関する議論が急展開する中で、特に気になっているのですが、大学
から民間への一部業務の委託という考え方が割合なんの抵抗もなしに受け入れ
られようとしているかのように感じています。

業務を委託する場合、通常、業務委託契約を結ぶのが慣例ですが、業務委託契
約は極めて適用範囲が広く、危険な契約です。私は職業柄、業務委託契約と常
にとなり合わせの位置に居ます。本人の意図とは関わらず、利用する側であっ
たり利用される側であったりするのですが、この契約が常態化している事実か
ら常に高いストレスを受けています。

大学の先生方が、この契約の危険性をどの程度認識されているか疑問を感じて
います。危険性に気づいていただけるきっかけになることを期待し寄稿してい
ます。私には完全な知識はありませんが、知っている範囲の事実をかいつまん
で書きます。

1. 労働者派遣法
 労働者派遣法という法律があります。この法律が労働者保護の観点から制
定された法律と考えるのは全くの誤りです。むしろ逆に、労働者派遣の原則自
由化のための悪法として、制定当初から位置付けられていたと考えるのが正確
です。以下ご参照ください。

http://www2s.biglobe.ne.jp/‾otasuke/camhaken3.htm
http://www.union-net.or.jp/‾densanro/2000.anke-to5.htm
http://www.asahi-net.or.jp/‾RB1S-WKT/indexhkn.htm
http://www.asahi-net.or.jp/‾RB1S-WKT/hknnew01.htm
http://www2.mhlw.go.jp/kisya/syokuan/20001222_01_sy/20001222_01_sy.html

2. 業務委託契約⊃派遣規制緩和のための抜け道
 派遣業者として登録していないにもかかわらず、事実上人材派遣を行ってい
る会社が増加の一途をたどっていることは周知の事実です。このからくりがど
うなっているのかあまり知られていません。これに関して私は、つぎのような
逸話を複数回耳にしています。「労働者派遣事業を行う会社として登録しよう
としたところ、「その必要は無いよ、業務委託契約を使えばよい」と*指導*
を受けた。」

 統計上派遣労働者は百万人強として計上されていますが、実際には、このか
らくりにより、その数字は全くの*でたらめ*です。

 99年の派遣法改正では、派遣業の原則自由化が explicit に宣言されてい
ます。規制緩和が潜在的に持つ行政構造改悪の懸念は具体的にはこんなところ
にも見えています。

3. そもそも業務委託契約とは
 業務委託契約の一番典型的な例としては、ゼネコンがお客さんから受注し、
その施工を下請け企業に依頼する場面を考えていただければ良いと思います。
顧客からゼネコン、ゼネコンから一次請負、二次請負、... と何段階かの業務
委託契約を経て最後は現場の職人までブレークダウンされます。通常この業態
は、請け負う側から見たときに、一括請負と呼ばれています。一括請負のため
の契約方式として常態化している業務委託契約ですが、その契約内容を縛るた
めの法は十分整備されていないようです。
 もちろん建設業に限らず、ありとあらゆる業種で業務委託契約は成されてい
ます。

4.業務委託契約と客先常駐 
 建設業と同様の構造をもった業種にソフトウェア産業があります。
 ソフト産業で行われている業務委託契約の場合、いわゆる一括請負といわゆ
る工数契約とが混在しています。前者は、仕事の範囲を定めて、それに対し対
価を設定し、受注、清算する契約、後者は、作業に掛かる人数×時間×単価に
より受注、清算を行う契約です。どちらの場合も、清算の単位にはいわゆる人
月(man-month)が用いられます。
 前者の場合、契約が履行されさえすれば人間をどれぐらい投入したかは問題
となりません。しかし、後者の場合は投入した人数、時間そのものが契約事項
となります。顧客側としては、契約内容に一致する人数、時間の投入があった
かどうかを管理する必要が生まれます。ソフト業界において人身売買が発生す
るそもそもの根源はここにあります。この契約から生まれる作業形態を、通
常、客先常駐といいます。
 そもそもは(1)工数契約に起因した客先常駐ですが、いまや、次の二つの形
態へも拡大しています。(2) 一括請負のもと客先常駐、(3) 派遣会社登録社員
としての客先常駐。これら三つの形態はいずれも、言葉を選ばなければ人売り
であり、言葉を選べば派遣です。

5. 労働者派遣法により護られるもの
 派遣法は人間の権利を護る目的で作られたものではありませんが、それで
も、良心の破片は残っています。派遣法により護られる人は (3) の形態によ
り客先常駐する人たちです。
 派遣会社登録社員はサラリーマンではありません。彼(彼女)らは個人事業
主です。会社 対 彼(彼女)の関係は雇用関係ではありません。客 対 店の関
係です。
 派遣法の基本的な発想は、「彼(彼女)らのような本当に最悪に近い労働条
件のもとで働く人間の権利に関してのみ保障を与えよう」というものに過ぎ
ません。

6. 大学が業務委託を容認することの意味
 業務委託は労働に関する規制緩和を具現化するための免罪符です。規制緩和
の行き着く先は規制の事実上の撤廃です。ことさらに、労働に関する規制の撤
廃は人類にとって重大な意味を持ちます。大学が業務委託を容認すれば、大学
は労働に関する規制の撤廃を認めたことになります。このとき大学は、人間に
対する思想のある重要な部分を喪失したことになります。

馬場理 Tel. 047-479-5740」

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*6 野上修市氏「次世代の育成と高等教育−権利としての教育一」
学術の動向 2001年5月号  p17-20

◇高等教育をめぐる問題状況と改革の視点

今日、世界的な現象として、高等教育のあり方を再検討すべきであるという議
論が起きている。その背景には、高等教育機関への進学率の著しい増加に伴い、
高等教育の見直しが必要であり、かつまた、経済の行き詰まりを克服し、社会
の発展を持続させるためには、高等教育のあり方がきわめて重要なカギを握っ
ているという認識がある。この点、わが国においても、同様である。

新しい理論・知識・技術をもった若者の存在が、一国の文化的・経済的発展に
とって、不可欠な要素であることはいうまでもない。しかしながら、わが困の
高等教育の現状は、他困にぞの例をみないほど、解決すべき大きな問題をかか
えているといわねばならない。とりわけ、現在の大学には、不本意入学・学力
低下‘学習意欲の喪失・不登校・学費支払不能・定員割れなどの諸問題かある
ため、高等教育の改革を抜本的に断行しない限り、大学をめぐる教育病理の現
実は一層深刻なものになろう。その意味で、わが国において、新しい学術的活
動の担い手を育成することは、きわめて困難な問題であるといえる。

いずれにしても、大学に生じているこのような病理現象は、多かれ少なかれ、
中等教育レベルでも現れている。だとすると、人間の成長発達段階に即して行
われる初等教青(基礎教育)一中等教育(準備教育)一高等教育(専門教育)
のあり方をトータルに間い正すという視点からの教育改革への取り組みが望ま
れるところである。

◇次世代育成のための教育のあり方

高等教育は、初等教育から始まり、中等教育との連携を適じて、生涯にわたり
継続する教育過程の一部であると考える必要がある。次世代青成との関係で、
三つの教育過程のあり方を述べると、以下のように指摘することができる。

初等教育は、子どもたちが、将来どのような人生設計をデザインしようとも、
それに対応できる基礎的な学力を身につけさせることを、第一の任務と考える
べきである。そのため、教育内容は世界観・人生観などの自己形成に寄与する
ようなものでなければならない。と同時に、子どもたちの人間的成長・発達を
促すような統一性・系統性をもった学習内容が描共される必要がある。教育と
学問研究とは別個であるという考えのもとに、今日、初等教青の内容が学問研
究の成果から切り離された形で構築されていることは、大いに改められなけれ
ばならない。

戦前の中等教育は、ごくわずかな選ばれた若者のための教育であった。今日で
は、100%に近い著者が、中等教育のセンターである高校に進学している。そ
の意昧で、中等教育は、高等教育へ進学する者のための準備教育と考えられて
いる。しかしなが

ら、これまでの中等教育の現実は、学校間格差の中で、過熱な受験戦争にかり
たてられ、多くの若者は人間的な感動をもち得ず、豊かな創造的思考力も発揮
できずにきた。子どもの時代から大人の時代にまたがる中等教育は、参政権の
付与の問題とも関わって、幅広い学習能力を発達させる任務を有しているとい
えよう。したがって、中等教育の内容は、第1に、すべての若者が主権者とし
て成長するにふさわしい教育実践を提供するものでなければならない。第2に、
すべての若者が創造カに満ちた主体的な人間に成長し、社会の進歩を促す民主
主義の発展に貢献できるよう、自主的な学習の機会を準備する必要がある。

 戦後教育改革の中で、もっとも基本的に重要な意義をもったのは、学校体系
の改革であった。とりわけ、高等教育レベルの改革は、初等・中等レベルの改
革に比較すると、一段と画期的なものであった。というのも、6・3・3・4制の
新学制のもとで、大学は学制の最終段階を意味し、これによって、16年間にわ
たる学校教育が完成するとみなされることになったからである。そして、大学
の使命と役割について、学校教育法は、52条において、「大学は、学術の中心
として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的・道
徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」と定め、大学が学術のセ
ンターであることを明確にしている。

 大学が「学術の中心」になるということは、一方で、大学以外にもさまざま
な学術機関(国・公・私立の研究所や民間の学術団体など)が存在しても、大
学は中心的な学術機関としての役割を果たすことが期待されているとともに、
他方で、大学の教育・研究機能が国家目的に従属することを否定し、「学問の
自由」・「大学の自治」のもとに、自主的に遂行されることを意味している。
「広く知識を授ける」とは、一面において、多くの国民に対し高等教育の機会
の拡大を保障し、もって大学の知的教育機能を明らかにするとともに、他面、
知識ぞれ自体が専門的なものに限定されるのではなく、広く一般教養的な内容
を含むべきことを意味すると解される。そして、「深く専門の学芸を教授研究」
するというのは、専門的な学問・研究の遂行とその教授が大学に要請されると
いう意味であり、また、「知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」という
ことは、大学の教育目的が学生の人格完成にあるとともに、知的・道徳的・応
用的能力の三位一体的展開が大学の本来的教育機能であることを示している。

 こうしてみると、学術的活動に従事する次世代の育成教育は、多くの場合、
大学に託されていると考えることができる。大学の改革が強く求められる所以
は、ここにある。というのも、大学がかかえている教育病理現象は中学・高校
にも現れており、大学が初等・中等教有のあり方を歪める役割を果たしている
からである。この点、ユネスコ高等教育世界会議(1998年10月9日)が採択し
た「21世紀に向けての高等教育世界宣言 展望と行動一」(以下、ユネスコ宣
言という)の中で意義づけられた高等教育のあり方に関する内容には、きわめ
て注目すべきものがあるといわねばならない。

 ユネスコ宣言(日本科学者会議・東京高等教育研究所訳)は、その前文にお
いて、あらゆるレベルの教育は、「人権と民主主義、持続可能な開発及び平和
の基本的な柱である」と述べたうえで、財政・進学・就学条件の公正化・教員
の能力開発の改善・技術訓練・教育と研究および開発の質の向上と維持・教育
内容の適正化・卒業生の雇用問題など、21世紀を目前に控えて直面する諸問題
の解決には、高等教育の役割は決定的に重要であるとし、また、学生たちが
「21世紀のグローバルな知識社会」に参加し、高等教育を受ける中心に位置づ
けられねばならないと強調している。こうした考え方は、わが国の憲法(26条)
および教育基本法〈前文・1条)の根本原則に直結していると受け止めること
ができよう。

 つづいて、同宣言は、本文の「高等教育の使命と役割」という項目において、
高等教育の中心的使命と価健は、社会の発展と改善に貢献することにあるとし
たうえで、高等教育および生涯学習の機会ならびに専門的知識の提供を教育面
と研究面で行うとしている。こうした教育目標の背景には、学生・市民の社会
への能動的参加を促すために必要な内発的能カの形成を図り、人権・民主主義・
平和の尊重をめざす教育を行うことによって、若者に民主主義的布民の育成に
不可欠な諸価値を教えようとする考えがある。さらに、高等教育機関とその学
生には、倫理的・科学的・学術的実践を通じて、社会・経済・文化・政治問題
について、「批判的かつ先見的な役割」を果たす責任があるとも指摘している。

 「高等教育の新たな展望の形成」という項目の中では、高等教育を受ける機
会の平等が強調され、とりわけ女性の就学率の上昇を図るとともに、高等教育
および社会の政策決定過程への女性の積極的参加を高める必要性を説いている。
そして、高等教育への平等参加は、「他のすべての段階の教育、とくに中等教
育との連携の強化から、そして必要ならば再調整から始めなければならない。
高等教育機関は、幼児教育および初等教育から始まり、生涯を通じて継続する
継ぎ目のない制度の一部として考えられなければならない」と指摘しているの
である。高等教育が社会釣要請にどのように応えるべきかという問題について
も、きわめて重要な示唆に富む言及を行っている。すなわち、高等教育の社会
への奉仕という役割は、「とくに貧困や不寛容、暴力、非識字、飢餓、環境汚
染および疾病の根絶を目的とした活動」として現れ、究極的には、「暴カと搾
取のない新しい社会の創造を目指さなければならない」と結論づけている。

 以上のようなユネスコ宣言の中で論及された高等教育の使命・役割・展望に
関する内容は、わが国の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策に
ついて 競争的環境の中で個性が輝く大学 」(1998年)および「グローバル
化時代に求められる高等教育の在り方について」(1999年)が提言した高等教
育の教育目標や社会的貴任の内容とは決定的に異なるものである。また、財界
から大学教育のあり方に対する注文として、しばしば登場する新時代に求めら
れる多様な人間像の内容(「人間性豊かな構想力のある人材」・「独創性・創
造性のある人材」「問題発見・解決能力を有する人材」・「グローバリーゼー
ションに対応できる人材」・「リーダーシッブを有する人材」)とも、大きな
違いがある。

◇次世代育成のための方策

 高等教育は、一国の教育過程の一部であるから、単にその改革で、21世紀に
おける学術的活動の担い手を育成できるものではない。その意味では、高等教
育の改革だけで次世代の育成ができると考えてはならない。しかしながら、高
等教育の改革は、次世代育成のための不可欠な取り組みであることもまた、確
かな事実である。以下、そのような立場から若干の方策を指摘してみよう。

 まず第1に、すべての教育制度の内容を、人権・民主主義・社会の進歩と平
和を造り出すという考えのもとに再構築し、学生を高等教育を受ける主体とし
て位置づけることが必要である。つまり、高等教育機関は、学生にあらゆる社
会事象を分析させ、その打開策を探究し、そうすることが社会的責任であると
いうように、広い知識と深い動機をもつ布民に育て上げねばならないというこ
とである。

 第2に、高等教育機関の教員は、もっばら知識の切り売りを行うのではなく、
学生に学ぶことのよろこびを与え、いかにしたらそのパワーを発揮できるかと
いう可能性を教えることに、自らの役割の重点をシフトする必要がある。その
ためには、教員は、つねに世界において活用・推進されている新しい高等教育
の展望とぞの理論的枠組みを取り入れ、教育内容の刷新を図ることが大切であ
る。創造的で批判的な分析を学生本位に行うことにより、学生が単に記憶力だ
けではなく、理解力・創造力を高め、新しい視点と新たな実務能力を修得する
よう努めなければならない。創造的で批判的な分析とは、伝統的ないし既存の
知識と技術を先端的な科学枝術と結びつけながら、新しい種類の教育・学習教
材を含む革新的な教育方法を展開することであると理解する必要があろう。

 最後は、学生が民主主義社会に参加し、社会的責任意識をもって、自己の能
力を十分に発揮できる雇用の機会を用意する必要があるということである。こ
れは、単に求職者であることに留まらず、起業家として活躍する場が学生に与
えられなければならな いことを意床している。高等教育は、新しい職業の創
出に貢献することによって、著者に新たな刺激を与える魅力ある教育過程とな
るのである。

野上 修市(のがみ しゅういち 1936年生)
日本学術会議第2部会員、社会法学研究連絡委貫会委員長、教育体系の再構築
特別委員会委員、明治大学法学部教授
専門=憲法学、教育法学
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