==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
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総合科学技術会議の意見募集に対する提出意見
総合科学技術会議

「国の研究開発評価に関する大綱的指針(案)」
に対する意見

辻下 徹

2001.10.24

1. 総論について

(1-a)意見募集期間を延長すべきである

理由:この期間は例年、大学教員の大多数は科学研究費申請の準備・新学期の開始等
で忙殺されるのに加え、今年は、国立大学の独立行政法人化のための調査検討会議の
中間報告への意見募集期間に重なる。案を検討し意見をまとめる時間がとれない人が
多いに違いない。実験系の研究者は多数の申請の準備に追われ、コメントのための時
間がないことが推測され、意見提出者が偏る怖れがある。

(1-b)タイトルは「国の研究評価に関する大綱的指針」とすべきである

理由:この指針は、日本における学術的活動全体に及ぶものを意図している。従っ
て、学術研究の中で周辺的に位置づけられる研究活動にのみ妥当する「研究開発」と
いう用語を用いることは適切ではない。一方、企業と係わりのある研究活動の評価に
適用する指針であるかのような外見をとって、注意と批判を躱す意図すら感じられ
る。
   なお、このタイトルは、日本の学術活動全体を企業の研究開発活動の視野からしか
考えようとしない最近の学術政策の姿勢を象徴するものとも見れる。

(1-c) 評価を資源配分に過度に反映させることは好ましくない。

理由:研究活動の数値的評価尺度ですら多数あり、順位は尺度の重みづけに依存す
る。従って、個々の尺度が客観的であっても、資源配分に評価を利用するときには、
尺度間の重みづけが必要となるが、どの重みづけが適切かの判断は主観的なものであ
る。従って、評価と資源配分とを過度にリンクさせるときには、学術活動の内容では
なくロビー活動が資金の額を決めるようになり、国の根本的研究レベルが(応用分野
ですら)低下することは避けられない。
 さらに、数値的評価尺度が学術的重要性を十分表現できない多くの学術分野では、
「評価にもとづく資源配分」の大半が「コネによる配分」に退化する危険性は高い。

(1-d) 経常的研究費を充実させ、競争的研究費についても事前評価を基盤とし、厳正
な事後評価は巨費を費やす国家プロジェクトだけを対象とすべきである。

理由:適切な評価にはピアビューが不可欠だが、各分野で適切に評価できる研究者は
限られているであろう。p10,p15 に「効果的・効率的な評価を行うなどの工夫や配慮
を行う」とあるが、いかに工夫をしても、数十万人の研究者の活動を事後評価すれば
アクティブな研究者の多くが評価活動に忙殺され、日本の研究機能は著しく低下する
だろう。それだけでなく多額の予算と人員が評価活動に費やされ、研究費と研究補助
の人員が減少する主客転倒が起こる。
   それを避けるために、経常的研究費を充実させ、競争的研究費も事前評価システム
を公平なものとすることに力を入れるべきである。膨大なエネルギーを要する徹底し
た事後評価は、巨額の予算を投入する国家プロジェクトだけを対象とすべきである。

(1-e) 機関評価では、構成員の幸福度や健康度などを評価項目に加えるべきだ

ここで示された指針による「評価」は、研究者の生活全体を不安定化させる方向にし
か機能しないように感じられる。このままでは、日本の研究職全体が<労働市場>で
魅力を失い、日本社会の研究セクタの深刻な実力低下を避けられないのではないか。
   創造的研究は喜びとは不可分であることはよく知られている。喜びのない研究機関
で創造的研究が行われるとは到底思えない。この大綱指針に従う評価が、研究の現場
から喜びを駆逐することだけは確実であり、日本から創造的研究をなくすことが危惧
される。


2. 各論について

多くの問題点があるが、字数と時間の制約で、以下の点の指摘に留めたい。

p2 下から3行目:評価実施主体として大学(国公私立を含む)を含めるべきではない。

理由:大学には大学の活動に適した評価法を独自に考えるべきで、それに制約を与え
るような上位指針を置くことは好ましくない。しかも、応用研究を主に念頭においた
上位指針は特に好ましくない。

p12 下から5行目:「目利き」が育成できるかのように書いてあるが、目利きかどう
かがわかるのは数十年後ではないのだろうか。目利きが育成できる、という考え自
身、学問に関する不見識を証明するもので、これを学術活動に関する国の公文書に残
すのは日本の恥と言えるだろう。