==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
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北海道大学生活協同組合「きぼうの虹」第274号 (2001.10.25発行)

談話室

次世代が相続する大学

理学研究科

辻下 徹

2001.10.25

 非営利法人である大学生協の組合員が所属する国立大学は徐々に営利法人へと変貌しつつあります。このままでは,大学のミッションは、教育・研究の現場にいる学生や教職員の精神的利潤を高めることではなく、どちらかと言えば出資者と自認する人達にとっての経済的利潤を高めることになりそうです。

◆ 国立大学等の独法化のための調査検討会議は『新しい「国立大学法人」像について』と題した中間報告を9月27日に公表しました。それを読むと、国立大学関係委員の努力が徒労に終わりつつあることがわかります。

 中間報告が志向する「国立大学法人」は、政府・財界・大企業の出張所のような役員会の指令下で、教職員が一糸乱れぬ戦隊を組んで国の政策に従った教育・研究を遂行することが理想とされる大学であり、そのための工夫が組織・人事・財務等の設計随所に施されています。国立大学の法人化は、政府・財界・産業界にとっての「大学改革」であって、教育・研究に携わる者と学ぶ者にとっての「改革」ではなさそうです。

 それでもなお、国大協は、曖昧な態度をとり続けて居ます。学校法人化(私学化)回避に腐心する余り、大学の使命を変質させる変革を受け入れるのは、没理的過ぎるのではないでしょうか。

 このままでは,わたしたちの次の世代は、政府・財界・産業界の「子会社」となった大学で、高等教育・学術研究に従事することになります.

◆ 国立大学法人化の次には民営化政策が浮上することは、これまでの経緯を考えれば有りうることです。しかし、この「民営化」が私学化ではなく営利大学化となる可能性が高いことは余りよく認識されていないようです。

 「国立大学法人」は、組織の点でも会計基準の点でも実質的には営利企業に近い存在となり、民間資本受入の規制緩和さえすればそのまま大学株式会社になれると思います。従って、国立大学法人法の立法は、大学セクターへの営利企業参入の規制緩和時に必要となる法整備の地ならしも兼ねることになります。

◆ 実のところ、大学の諸機能の中から何かを一つだけ選び、それを極限まで「効率化」することについては、伝統的大学は営利企業に叶わないと思います。もしも、各大学が特定の機能に使命を限定していくならば、伝統的大学はやがて営利大学に席を譲ることになるでしょう。しかし、そのとき、大学セクターの持つ肝腎な機能が失われてしまうことになります。なぜなら大学は個々の機能の単なる寄せ集めではないからです。

 国大協の特別委員会が5月にまとめた報告書「国立大学法人化についての基本的考え方」の中に、既成の価値体系・価値観から自由であることが、学術研究の本質である、という一節があります。それは知の機能の核心でもあり、そういった知を制度として保持し学生を通して社会に広げる使命が大学という存在の根底にあると思います。しかし、その使命遂行は、経営者からみれば効率が余りに悪いため、営利大学では今以上に疎まれることになるのではないか、そして、日本社会は知的柔軟性をさらに失い衰退していくのではないか、そう危惧しています。

◆ 私たち現国立大学の構成員には、時流に身を託す誘惑を退け、次世代の身に自分を置いて現在を観察し,大学の将来像としてどのようなものが望ましいかと自問し、果たして中間報告が指さす方向にそれが存在し得るかどうかを見定める義務があります。

 「国立大学法人化」とは別の選択肢はあるのか。それは、私たちが取る態度次第です。教育・研究の現場にいる者が、政・官・財の論理と力関係で決まった不審な政策を「動かせない現実」だと称し、それを変更できる強い法的権利を持ちながら盲目的に受け入れることは、日本社会のすべての人々に同様の姿勢を取るようお手本で推奨するものであり、大学の社会的使命と真っ向から反するものでしょう。

 独立行政法人化問題を考える北大ネットワークは、適切な時期に、国立大学法人化の是非について全学投票を実施することを検討しています。中間報告を精読・吟味し、投票に参加しませんかーー税金で私たちの教育・研究活動を支えて下さっている多くの方々と、高等教育・学術研究に携わる未来の人々へのささやかな誠意のしるしとして。