==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
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北海道新聞連載

動き出す大学改革ーー道内7国立大学の行方

2001.11.18-20


上:再編模索の6単科大中:地域密着か効率化か下:迫られる研究科再編
2001.11.18
動き出す大学改革ーー道内7国立大学の行方 上 「外圧」 

再編模索の6単科大

「統合の議論は他大学の動きも見極めながら進めたほうがいい」十月二十八日、 旭川医大の久保良彦学長に電話がつながると室蘭工大の田頭博昭学長はやんわ りとけん制した。 ◆出遅れに焦り 電話は、北見工大と旭川医大が統合のための協議開始に合意したとが明らかに なって二日後。2大学が先行した議論に対する異議ともとれる一言に、再編統 合で遅れを取ってはならないという焦りがにじんだ。 「生き残り」は今道内の国立大、とりわけ、北大を除く、六単科大にとって切 実な課題となっている。そして、北見工大と旭川医大の「合意」には、他大学 よりも強い切迫感が透けて見える。 全国的に進む国立大の統合議論は医科大と総合大という組合わせが先行してい る。全国12の医科大のうち、今年9月までにすでに10大学が統合方針を決 定。旭川医大は大きく出遅れた形だ。 一方の北見工大。鉄鋼業技術者の養成という使命を持って生まれた室蘭工大な どと比べ、伝統や地域とのつながりはいまひとつ弱いのが現実だ。 こんな事情を抱える両大学は、国立大削減を掲げた文部科学省の「大学の構造 改革の方針」(遠山プラン)に大きな危機感を抱いた。十月十九日、両学長は 2人きりで話し合い、「あうんの呼吸」(厚谷郁夫北見工大学長)で、統合に 向け協議を始めることが固まった。厚谷学長は同二十六日に帯広畜産大の佐々 木康之学長を訪ねて意見交換をするなど、両大学は道内大学再編の”導火線” ともなっている。 文科省は今年六月の「方針」発表後、全国の国立大に再編についで検討するよ う要請、「その結果を基に来年度に再編計画を策定する」としている。国の姿 勢を、道内のある学長「大学側が先に統合案を示さなければ国で決める、との 脅し」と言い切る。 さらに八月、北大で開かれた道内国立大学長懇談会で北大の中村睦男学長は 「(他大学との)統合は考えていない」と表明。「北大へ統合話を持ちかけた 大学もあった」(北大関係者)が、その動きは封じられた。文部科学省の「外 圧」に北大の追い打ち。総合大のようには体力のない六大学の選択肢は、お互 いの統合へと一気に絞られていく。 ◆見えぬ具体像 だが、足並みがそろっているわけでもない。 室蘭工大の田頭学長は、「新しい大学は、社会にアピールできるよう大規模な ものがいい」として、少しでも多くの単科大が連携するよう訴える。しかし、 帯広畜産大は「単独で生き残れるか、どういう統合が望ましいのか、あらゆる 場面を想定し現在検討中」と慎重。小樽商大の山田家正学長も「単独存続に全 力挙げる」と統合に否定的だ。 北見工大と旭川医大の協議もまだ、実質的な議論には入っていない。新しい大 学の理念や創設するべき教育・研究分野、JRで約三時間を要する両大学のキャ ンパス運営など、具体的な大学像は語られぬまま、まず「統合ありき」の見切 り発車。克服すべき課題はあまりに多い。 ◇ 国立大の大幅削減を打ち出した「遠山プラン」をきっかけに、道内の七国立大 を巻き込んだ統合再編の動きが活発化してきた。少子化を迎え、2009年度 には進学希望者全員が大学・短大に入学できる「全入時代」に突入するとの試 算もある。そうした中で、道内の国立大は生き残りをかけ、どこに向かおうと しているのか報告する。
2001.11.19 動き出す大学改革ーー道内7国立大の行方 中 「迷走」

地域密着か効率化か

◆分校が猛反発 道教育大は、村山紀昭学長が八月末、学内に提示した、礼幌校と岩見沢校を統 合してそこに教員養成課程を集約するという再編試案をめぐって、学内の迷走 が続く。地域密着と生き残りのための効率化とのせめぎあい。試案をめぐる論 議から、ジレンマにもがく同大の姿が透けて見える。 九月下旬、学内で開かれた村山学長と五分校代表者との意見交換会で、こんな やりとりがあったという。 学長「分校という基本的な組織をやめる。(一分校でも反対すれば)何も決めら れないことになる。そんな歴史を繰り返すのか。それは許されない」 分校側「単に数合わせでないのか、本当に北海道の教育を考えているのか」 「学長の言う通りだという意見はだれ一人いない」 議論は平行線をたどった。出席したある教宮は「学長に対する不信感が渦巻い ている。溝は埋まらない」と言い切る。 ◆苦渋の折衷案 学長試案は3案。いずれも札幌校と岩見沢校を統合してそこに教員養成課程を 集約、残る3校を学生のいない研究中心のサテライト校とすることが柱だ。広 大な北海道の地域教育を五分校体制で担ってきた道教育大。文部科学省が「一 県一教育大」の原則にこだわらない削滅を打ち出したのを受け、試案は五分校 体制を維持して地域に配慮、さらに大学の効率化も示すぎりぎりの案だった。 村山学長は意見交換会で「二律背反だが、地域貢献の役割と同時に、大学とし て一定のスリム化を果たさなければならない」と苫渋の選択だったことを強調 したという。 同大は当初、札幌、岩見沢両校を統合し、現在の五分校から四分校体制にする 方向で再編の波を乗り切る予定だった。しかし文科省が六月に発表した大学の 大幅削減を柱とする「大学の構造改革の方針」(遠山プラン)で状況が一変。 学内議論を一層複雑にした。 ◆人材失う不安 村山学長はすでに十月に釧路、函館の両市に試案を説明、根回しに入ったが、 大学存廃にかかわりかねないだけに、地域も敏感に反応する。 釧路市は「釧路校が道東の人材育成に果たしている役割は大きい。地域を知り 尽くし、愛着をもつ先生が生まれにくくなる」として存続を求める運動を展開。 釧路商工会議所の木村勲専務理事も「若者がいなくなる経済的損失は大きい」。 函舘市のある幹部は「産学共同研究を進めるためにも大学の人材は不可欠。地 域振興に大きな痛手になりかねない」と函館校の行方に不安を隠せない。 同大は年度内には一定の結論を出す予定。現在、定員の四割を占める教員免許 取得を目的としない「新課程」が、今後の国の論議によっては同大から切り離 される可能性もある。そうなるとさらに状況は厳しくなる。分校側からは「最 後は学長のトップダウンで決めるしかない」との声も漏れる。一方で「各分校 は、他の単科大と統合して教養部門を担うことができる。分校独自で統合先を 見つけるべきだ」との意見もあり、同大の再編・統合は分裂もはらみながら、 妥協点を模索している。
2001.11.19 動き出す大学改革ーー道内7国立大の行方 下 「競争」

迫られる研究科再編

 大学改革は再編・統合だけではない。研究に競争原理を導入するーー。これ が文部科学省の「遠山プラン」のもう一つの目玉、「トップ30構想」だ。再 編・統合には動じない北大も、この構想がもたらす「衝撃」からは逃れられな い。 ◆北大内に「壁」  九月末、札幌市内のホテルで開かれた、北大創立125周年記念式典。来賓 の遠山敦子文部科学相を横目に、中村睦男学長が式辞を述べた。  「(最先端の遺伝子研究である)バイオサイエンスにかかわる新しい研究科 の設置。(これは)開拓者精神をもって取り組まなければならない課題だ」 実はこの「課題」、たなざらしとなっている。実現に不可欠な、従来の研究の 枠組みを超えた組織運用に、現場の抵抗感が強いからだ。  「市民の関心が高まっている『食』を総合的に研究する体制を」と学内から 声があがり、「バイオサイエンス構想」が持ち上がったのは今年一月。獣医、 農学など関連する研究科の間で実現に向けて議論を重ねた。結局、「今の研究 室や講座の枠組みを残したまま、研究者を配置するのは無理」との慎重論が出 て、話し合いはニカ月後に中断。現在も進展していない。 井上芳郎副学長は「今の組織では、(新しい試みが)『既存の研究組織を守り たい』という各研究科のエゴに左右されかねない。北大の組織は時代が求める 学問に対応しにくくなっている」と認める。研究室の間に立ちはだかる壁が、 研究科の枠を超えた自由な研究を阻む、というわけだ。 道内の国立単科大の再編・統合の動きからは、距離を置く北大。今でも道内の 他の大学を圧する存在だけに、「統合して大きくなっても、身動きがとれなく なる。あくまで単独での自立」というのが北大の考えだ。 ◆質向上が急務 一方、「トップ30構想」では、研究分野ごとに、全国の国公私立大から優秀 な研究を上位10〜30選んで重点的に予算が配分される。  「トップ」にどれだけ名を連ねることができるかで、大学の質が間われる時 代が来ようとしている。 道内「トップ」の北大も、全国、あるいは世界を視野に入れれば、特別な存在 ではない。研究のレベルアップをしなければ「(国に)つぶされるということ」 と危機感を抱く幹部もいる。 北大は今年十月、井上副学長を座長にすえた「将来構想ワーキンググループ」 を発足させた。九州大が進める「学府・研究院制度」にならう形で、大学を教 育と研究組織に二分し、より機動的に研究者を配置できる体制づくりが狙いだ。 ほかにも、情報学に関する研究科や、学内の情報インフラを支えるセンターの 創設などの学内改革に急ピッチで取り組みだした。  「トップ30」は、「すでに研究環境が充実している東大、京大などが上位 を独占、さらに潤沢な研究資金を手にする」という見方もある。「旧帝大」の 威光は役に立たない改革の大きな流れを前に、北大も必死になって泳ぎ切ろう とし始めた。
<トップ30構想>「遠山プラン」の中でうたわれている、研究に競争原理を 導入するための構想。世界に通用する研究レベルの大学を育てるのが目的で、 優れた大学や研究科などに対し、優先的に予算を配分する。ただ、官邸主導の 計画で必ずしも現場の声を反映していないとの指摘や、公正な評価方法への疑 問もあがっている。道内の大学からは「適正な競争は必要」との声があるもの の、「プランそのものがずさん」「これまでの政策と重複する」という批判も 出ている。
この連載は社会部教育取材班が担当しました。