国立大学法人法案の反社会性辻下 徹2003.5.30I.国立大学法人制度とは何か国立大学制度は、国立大学設置法・国立学校特別会計法・教育公務員特例法等 の法律群によって、組織・財政・人事の自律性を大学に保障し、国立大学にお ける教育と研究が、政府や企業などの外的諸力に従属することを防止してきた。 しかし、1980年以降の大学予算据え置き政策と1990年代の「上からの 大学改革」と大学差別政策により国立大学の旧文部省への従属度は年々強くなっ てきた。法案が規定する国立大学法人制度では、文部科学大臣が6年毎に大学の中期目 標を定め、大学が作成した中期計画を認可し、運営費交付金を交付する。期末 に、文部科学省の国立大学法人評価委員会が専門的見地から国立大学法人の目 標達成度を評価し、総務省の独立行政法人評価委員会が、政策的見地から業績 評価し、存続・民営化・廃止等を文部科学大臣に勧告することになっている。 さらに、強力なトップダウン経営体制が義務付けられており、国立大学法人は 軍隊式の指揮命令系統を持つ研究教育受託企業である、と考えれば本質を見失 わないであろう。 国立大学法人化は、1998年末の自自連立の際の公務員25%削減政策がきっ かけとなり、1999年9月に旧文部省は国立大学の独立行政法人化の方針を 発表した。国立大学協会[1] の幹部は、国立大学の学校法人化(私学化)を過 度に恐れ、「修正独立政法人化」を模索する条件闘争の姿勢を取り、譲歩に譲 歩を重ねた末に、大学自治の抹消を目的とするとさえ言える現法案の成立に協 力している。 II.国立大学法人法案の危険性国立大学法人制度は、以下のように、学の独立性と知の公共性を否定し、日本 社会の知的進展を構造的に阻む。【大学の生殺与奪権を政府に付与】政府は、大学の中期目標を策定し、評価に 基づく資源配分および改廃審査を行なうことで、大学を直接にコントロールで きるようになる。野望を持つ政権が大学を動員することを防ぐ法的歯止めがな い。憲法23条と教育基本法第10条を実現している法体系を廃止する点で、 その違憲性を最高裁は裁くべきであろう。 【国立大学の財政的基盤の弱体化】大学の設置者が国立大学法人となり、設置 者の経費負担を義務付ける学校教育法から政府は解放される。支出義務が政府 にある人件費枠は非公務員化によりなくなるが、国立大学法人法案に代替物は ない。安定した財政的基盤を失う国立大学法人は、入学金・学費の値上げ、定 員拡大などを検討する一方、産学連携を余儀なくされ、企業が関心を持たない 基盤的研究分野は、資金面でも人事面でも次第に衰退していくであろう。 【不透明なサバイバル競争】「客観的評価に基づく資源配分」という美名によ る恣意的資源配分があらゆるレベルで行なわれ、大学・部局・学科・専攻・個 人の間の生き残り競争が加速する。「主流派」による予算・人員の寡占が進み、 小数派は淘汰される可能性が高く、学問の多様性が急速に失なわれるであろう。 また、学問そのものとも言える基盤的研究は、短期的成果が確実ではないため に敬遠され、さらに衰退を余儀なくされる。また、大学教員という不安定で地 味な職業に、若者の大半は興味を示さなくなるであろう。これは、日本社会の 将来にとって不幸なことではないだろうか。 【トップダウン体制】学長をトップとする強力な上意下達体制が法的に義務付 けられる。このような中央集権体制は、教育研究諸活動の原動力である自発性 と意欲を損なうと同時に、言論の自由を脅かす。大半の学長が中間管理者とし て振舞うことが予想されるので、高校までの文部科学省による管理統制が大学 にまで及ぶことになろう。 lII 国会審議と廃案を求める運動「お上が決めたこと」として独立行政法人化を甘受する空気のなかで、前節の ような危険性を看過できない教員は少なからずいて、種々の反対運動が展開し てきた。組合による従来型の運動に加えて、教員有志によるインターネットを 利用した運動も機動的に展開されてきた。5月23日には、以下紹介する運動 体の代表6名が文部科学省記者クラブで合同記者会見をしている。4年前に結成された独立行政法人反対首都圏ネットワークは、情報発信と運動 の呼びかけを行い反対運動の核となってきた[2]。現在、国会議員への働きか けを精力的に進めている。 国立大学独法化阻止全国ネットワーク[3]は2年前に結成され大学外や海外へ の発信に力を入れ、4月3日の国会内集会では、民主党を含む諸野党議員・秘 書の参加を得た。また、全国ネットは膨大な関連資料をCD−ROMに収納し 議員・報道関係者に配布している。 今年1月に、名古屋大学の池内了氏は、作家の井上ひさし氏、山田洋二監督ら と共に、国立大学法人化に反対するアピール[4]を発表し、5月28日までに 4773名の賛同を集めている。3月27日に「教育基本法と国立大学の法人 化を考える集い」を開き、6月6日に「国立大学の法人化を考える夕べ」[5] を東大教官有志とともに共催を予定している。翌日6月7日は、銀座で国立大 学法人化反対銀座パレード[6]がある。 4月には、東大教員有志が意見広告運動を開始し、4月23日に朝日新聞全国 版7段で1340名が、さらに5月21日の毎日新聞の全国版には新たに65 7名が法案の問題点を全国民に伝え廃案を訴えた[7]。 筆者もネットを利用した広報活動を種々試みてきた。サイト[8]のトップペー ジには1999年から約50万のアクセスがある。メールマガジン[9]は17 00名余の講読者数があり、「国公立大学通信」[10]の配信数は2万7千であ る 。国立大学電子レファレンダム(全体投票)[11]には3358の投票があ り、賛成89票, 反対3269票となっている。また、国立大学協会幹部の辞 任と、臨時総会開催を求める共同意見書[12] をネットで募り、54大学の2 52名の連署者とともに国立大学協会に提出している。 おわりに国立大学法人法案は、組織が優先される社会的風土の中で、組織への個人の隷 属を大学でも押し進める。組織は本質的に非倫理的存在で反社会性を持つ。大 学において組織が優先されれば、倫理に無関心な研究と教育が展開されるだろ う。それは大学が反社会的存在となることを意味する。日本の低迷は倫理性の 喪失と表裏一体に進行している。国立大学法人法案はこの低迷を加速させ、今 以上に組織が優先される社会を意図的に目指している点で、根底に反社会性を 持つことを警告したい。(註) [1]国立大学協会は各国立大学長が大学を代表して参加する団体であり、国立 大学を代表する役割を実質的に果している [2] 独立行政法人法人反対首都圏ネットワーク
[3] 国立大学独法化阻止全国ネットワーク
[4] 大学改革を考えるアピールの会
[5] 6月6日:国立大学の法人化を考える夕べ
[6] 6月7日:国立大学法人化反対銀座パレード
[7] 意見広告の会
[8] 国立大学独立行政法人化の諸問題
[9] メールマガジン「国立大学独立行政法人化問題週報」
[10] メール通信「国公立大学通信」
[11] 国立大学法人法案の賛否を問う国立大学レファレンダム
[12] 国立大学協会への、54国立大学の252名の共同意見書
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