国立大学独立行政法人化の諸問題

参議院議員 各位

北海道大学14部局教官有志58名

国立大学法人化問題に関して、慎重審議をお願いします

 国立大学法人化法案は、目下参議院での審議が行われており、成立も目前で す。しかし、この法案がこのまま成立すれば、日本の学問、教育、研究に取り 返しのつかない禍根を残すことは必定であり、改めて議員各位の慎重な審議を 求めたいと存じます。

 大学法人化が国立大学に対して、現実にもたらす害悪については、すでに多 くのすぐれた研究者が指摘しているとおりです。主要な弊害は、次のような点 です。

 第1に、大学法人が中期計画を策定し、文部科学大臣の認可を得、計画に基 づく評価が大学に対する予算配分等に反映されるとしている点です。佐和隆光 京都大学教授の言葉を借りれば、この方式はすでに滅び去ったソ連における計 画経済と同じ発想に立っています。中期計画による評価は、大学人にとっての 脅威であり、研究者は高い目標を設定して達成不可能になるというリスクを回 避し、高い評価を得られるような安易な計画を作ることになるのは、必然です。 また、評価が公正な第3者によって客観的に行われるという制度設計にはなっ ていません。

 第2は、大学の自治が否定され、外部の意見が大学運営に強く反映されるよ うになることです。もちろん、大学教授が社会から超然として、説明責任を回 避することは許されません。しかし、大学の現場を最もよく知っているものこ そが、大学の改革の責任を担うべきです。産学連携の名の下に、短期的に成果 を上げ、利潤につながるような研究のみが加速され、数十年、数百年という単 位で社会に裨益するような学問が枯れてしまうおそれが強いと思われます。

 第3は、行政改革との関連です。本来大学の法人化は、国家公務員の削減、 行政改革との関連で出てきた話です。しかし、現在予定されている法人におい ては、各大学の理事等のポストに文部科学省の官僚が大量に天下りしてくるこ とは必至です。大学の側に反省すべき点、改善すべき点があることは当然です が、今までの教育政策に対する文部科学省の責任を問うことなしに、大学の制 度改革が進んでいることには、大きな憤りを感じます。

 さらに、百歩譲って大学改革に独立法人化が不可欠だとしても、来年4月か らの独立法人への移行を凍結すべき理由があります。国立大学が独立法人に移 行すれば、労働基準法、労働安全衛生法など労働関係、安全関係の法令の適用 を受けることになります。しかし、現在の国立大学にはそうした規制を満足す る体制は存在しません。このまま独立法人化が実施されれば、大学は違法状態 の塊になるのです。文部科学大臣はそれらの法令を弾力的に適用すると発言し ていますが、法治国家においてこのような事態が許されるのでしょうか。

 このように、大学独立法人化には様々な問題があり、とうてい今国会で拙速 に成立させるべきものではないことが明白です。議員各位におかれては、こう した問題点をご認識の上、国会の名に恥じない、慎重で徹底した審議をお願い します。


山口二郎(法学研究科)、服部昭仁(農学研究科)、神沼公三郎(北方生物圏フィールド科学センター)、辻下 徹(理学研究科)、中村富美男(農学研究科)、渡邉信久(理学研究科)、秋元信一(農学研究科)、姉崎洋一(教育学研究科)、天下井清(水産科学研究科)、在田一則(理学研究科)、阿部剛史(総合博物館)、井上良紀(工学研究科)、岩間和人(農学研究科)、宇山 智彦(スラブ研究センター)、江見清次郎(工学研究科)、大島慶一郎(低温科学研究所)、大野栄三(教育学研究科)、柿澤宏昭(農学研究科)、加藤幾芳(理学研究科)、菊池俊一(農学研究科)、五嶋聖治(水産科学研究科)、後藤 晃(北方生物圏フィールド科学センター)、小林ミナ(留学生センター)、坂下明彦(農学研究科)、佐野雄三(農学研究科)、渋谷正人(農学研究科)、清水 晋(水産科学研究科)、鈴木 教世(理学研究科)、園山 慶(農学研究科)、高橋英樹(総合博物館)、竹之内一昭(農学研究科)、辻井正人(理学研究科)、鄭 漢忠(歯学部附属病院)、所 伸一(教育学研究科)、栃内 新(理学研究科)、中村 郁(理学研究科)、野田隆史(水産科学研究科)、野呂武司(理学研究科)、羽部朝男(理学研究科)、廣吉勝治(水産科学研究科)、古畑 仁(理学研究科)、藤本正行(理学研究科)、船田 良(農学研究科)、松本 敦至(歯学研究科)、三上敏夫(理学研究科)、三島徳三(農学研究科)、三宅秀男(水産科学研究科)、光本 滋(教育学研究科)、宮下雅年(言語文化部)、宮澤晴彦(水産科学研究科)、向井 宏(北方生物圏フィールド科学センター)、矢島 崇(農学研究科)、安住和久(工学研究科)、山本隆昭(歯学研究科)、由田 宏一(北方生物圏フィールド科学センター)、吉田邦彦(法学研究科)、若原正己(理学研究科)