国立大学独立行政法人化の諸問題
「希望の虹」(北大生協発行 2003.6.25)

どうなる今後の流氷研究

北海道大学低温科学研究所

白澤邦男

2003.5.23

「北海道オホーツク海沿岸のほぼ中央に位置する紋別市 に、北道道大学低温科学研究所附属流氷研究施設がある。 オホーツク海沿岸域の海洋学、流氷に関する総合的研究 を目的とする臨海実験観測施設として一九六五年に設立 された。施設開設と同時に、世界で初めて流氷観測を主 眼とする流氷レーダーの建設が始まり、一九六九年の流 氷期から枝幸、紋別、網走の三基のレーダーによる観測 が開始され、沿岸域約六○kmの範囲の流氷分布、動きを 昼夜別なく観測できる体制が整った。レーダー開設後の 数年間は、山頂のレーダー室に泊まり込みでの観測が続 けられた。その後レーダー・データはコンピューターで 処理され、また画像認識技術も進歩して、現在ではかな り自動処理出来るようになった。現在まで三五年の観測 資料が蓄積され、流氷の長期変動がやっと議論出来るよ うになった。沿岸域の流氷量は一九八六年の最盛期を境 に減少傾向を示している(図参照)。今年二○○三年の 流氷量は増加傾向復活への兆しだろうか。地球規模の温 暖化の影響なのか、局地的なものなのか、まだまだ研究 は続いている。人工衛星からの情報は広域の流氷分布を 提供するが、短い時間間隔での流氷の動きはわからない。 特に沿岸の氷縁域での流氷の動きは早いし、複雑である。 まだまだレーダーに頼らざるを得ない状況である。毎日 観測される流氷分布は流氷情報センタ−に送られ、氷海 域での安全航行のための貴重な情報として位置付けられ ている。流氷レーダーは学術研究のみならず、地域に密 着した存在であり、まさにオホーツク海沿岸域でのユニー クさを物語っている。

沿岸域では、その場の海水が凍結、成長した定着氷とい う比較的安定して動きの少ない海氷域もあれば、絶えず 動いて流されている流氷域もある。オホーツク海北部、 サハリン北東沖合の流氷野上に設置した漂流ブイは一○ ○○km以上の道程をニケ月流氷野と共に漂流して千島列 島にたどり着き、サハリン東岸には岸に沿って南下する 海流さらにその海流に乗り流氷が漂流してくる姿が明ら かになってきた。ノルウェーの科学者ナンセンはフラム 号に乗って北極海の海氷に閉じ込められて三年余り漂流 して、海洋学上の数々の重要な発見をした。現代版ひょっ こりひょうたん島は人工衛星の力を借りて位置情報を即 座に知ることが出来る。ナンセン没後七十余年、進歩の 速さが感じられる。

さて、紋別市に北大流氷研究施設が設立されて三八年、 流氷レーダー観測は三五年になる。その間流氷研究の重 要さが次第に理解され、北海道立流氷科学センターの設 立、氷海を水中から展望出来るオホーツク・タワーの建 設、流氷観光砕氷船"ガリンコ号"の建造、また砕氷船は 沿岸氷海域での現場観測にも活用されている。更に、流 氷最盛期二月には毎年北方圏国際シンポジウム「オホー ツク海と流氷」が開催され、前浜の流氷野を跳めながら 熱い討論が繰り広げられている。紋別市では今や「流氷 研究国際都市」宣言をして、流氷研究のメッカを目指し ているところである。

しかし、時代の流れであろうか、国立大学法人化の流れ か、北大は流氷研究施設閉鎖の決断をした。三八年築き 上げてきた地元との関係、大学の「地域貢献」に対する あり方を考える上でお手本でもあった流氷研究施設の閉 鎖決定は地元紋別市を始め才ホーツク海沿岸域に強烈な 衝撃を与えた。サハリン沖海底油田開発に伴い予想され る海洋汚染に対する問題、氷海域海洋環境の研究の重要 性が叫ばれている最中である。現場観測研究の拠点作り を目指している時である。三五年の流氷レーダーによる 観測の終焉は研究の継続性の難しさを物語っているのだ ろうか。蓄積された貴重な宝も継続に意味があることも 多い。氷で閉ざされる過酷な氷海の研究の進歩は、かつ てナンセンが三年余もの漂流航海を支えたまさに"be ambitious" の精神から生み出されよう。果たして、独 立行政法人北海道大学が今後も"be ambitious" である のか。氷海研究のリーダーとして北大が果たす役割が間 われている。


関連記事

[1-1] 2002.4.19『北海道新聞』 「紋別の北大流氷研究施設 04年度撤退か」

【紋別】北大低温科学研究所の若土正暁所長は十九日ま
でに、紋別市にある流氷研究施設が二〇〇四年度で撤退
する可能性が高くなったと、同市の赤井邦男市長に伝え
た。国立大学の独立行政法人化に伴い、同施設が従来の
形で残ることが困薙になったとされ、研究拠点が失われ
ることに地元は危機感を募らせている。

同施設は一九六六年に設立され、宗谷管内枝幸町、紋別
市、網走市に設置した流氷レーダーなどで違続観測と研
究を行っている。撤去方針とともに、老朽化している観
測レーダーの更新も検討され、データは札幌で管理され
るという。

紋別市は「流氷研究国際都市」を掲げ、八六年から毎年、
世界各国の研究者が参加する「北方圏国際シンポジウム」
を開催しており、市は「これまでの実績もあり、市とし
ては大切な施設なので、市民を挙げて存続を要請してい
きたい」としている。
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[1-2] 紋別に流氷研究拠点存続を*市民協議会が発足 北大などに要請へ
     北海道新聞 2002/09/07

 【紋別】二〇〇四年度末までに撤退の可能性が高い、
北大低温研付属流氷研究施設(流氷研)について考える
市民会議が五日夕、市立博物館で開かれ、流氷研究の拠
点施設を存続させるための協議会を発足させた。

 会議には市や商工会議所、漁協、観光協会、シンポジ
ウム実行委など二十六人が参加した。三月まで流氷研の
施設長だった道立オホーツク流氷科学センターの青田昌
秋所長が、流氷研の経緯や今後の見通しについて説明。
「(流氷の南限である)氷縁海での研究拠点を放棄する
のは世界的な問題。地球環境の研究のために現場での観
測が必要だ」と紋別に研究拠点を置くことの重要性を強
調した。

 引き続き、出席者は流氷研の存続、もしくはそれに代
わる研究拠点の設置を要請していく協議会を発足させ、
会長に赤井邦男市長を選出。赤井会長は「流氷研究のメッ
カとして市民ぐるみの運動を展開したい」とあいさつし
た。協議会は今後、青田所長を中心に作成した「氷縁海
の研究推進に関する提言書」を携え、北大や道、国など
に要請活動を行う方針だ。

 流氷研はオホーツク海の研究拠点として一九六五年に
市内に開設。流氷レーダーの情報は、漁業や観光にも活
用され地域への貢献度が高い。だが〇五年度の北大の独
立行政法人化を前に、低温研は市に、流氷研撤退と流氷
レーダー廃止の意向を示している。
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[1-3] 日本海洋学会 青田さんに「宇田賞」 流氷研究活動など評価
      北海道新聞 2003/03/20
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 【紋別】道立オホーツク流氷科学センターの青田昌秋
所長(北大名誉教授)が、日本海洋学会の功労賞「宇田
賞」の本年度受賞者に決まった。授賞式は二十九日に東
京で開かれる同学会総会で行われる。流氷研究のほか、
北方圏国際シンポジウム開催への尽力などが評価された。

 昨年三月の退官まで北大低温研流氷研究施設長だった
青田所長は流氷研究の第一人者として知られ、流氷の科
学を広く社会に紹介。観光資源としての活用を地域に提
案してきた。今年で十八回目を迎えた紋別での北方圏国
際シンポジウムも取り仕切ってきた。

 今回の受賞理由の一つは流氷に関する啓もう活動。青
田所長は「かつては悪者だった流氷が(環境の)救世主
的存在としてとらえられるようになったのが喜び」と振
り返る。また、北方圏国際シンポジウムを担ってきた北
大流氷研が廃止の方向にあるため、「こういう形で認め
られ、来年も継続できるよう体制づくりを進めたい」と
話している。