==> 国立大学独立行政法人化に抗して
「国立大学の独立行政法人化の問題についての私の意見」 ご承知のように現在国立大学の独立行政法人化が大変急を要する問 題として我々に突きつけられています。 大学の行ってきた説明会や配布された資料などを見ますと国立大学 が独立行政法人化する必然性やメリットはほとんどなく、ただただ国 家公務員という枠からはずれて,平成13年度から始まり,10%以 上といはれる第10次以降の国家公務員削減計画の対象外になろうと いう動機から出発したことの様に見受けられます. しかしながら、国が実行せざるを得なくなってきている国家公務員 の削減の原因が、現在300兆円以上に上っているといはれる膨大な 赤字国債による財政危機にある以上、独立法人化の隠れ蓑により1時 的に削減対象からはずれても,いずれは財政的な事情から(何らかの 形で)大幅な削減を求められることはさけられないと思います。 戦後最大の財政危機という場面で国立大学につきつけられようとし ている定員削減を前にして,国立大学は我が国の教育研究の基本的な 部分を実施し担当する責任を負うという立場からからの考え方や対策 について積極的に発言し主張する責任があると思います.それをしな いでただ自分たちだけが削減対象からはずれる画策ばかりしているの は恥ずかしいし、国民の信頼も得られないと思います。 現在私が最も憂慮するのは、独立行政法人化することにより大学が 失うものに対する検討や討論が学内でほとんどなされていないことや, そのような可能性に対する危機感が大学の構成員の間に大変希薄であ るように感じられることにあります。 昨年度に北大理学研究科数学専攻が受けた外部評価に ”日本の大学は国から制度上、財政上国家に全面的に依存しなが らも,その理念,業務は国を越えたところにあるという歴史的 視点が理学研究科の理念において欠落している” という指摘がありました。私は北大の理学研究科がこの理念に全く欠 けているとは思いませんが,大学の使命が直接人類の将来をになうも のであるという考えをもっと鮮明に打ち出すことの重要性の指摘であ ったと考えています. その様な視点から見たとき、独立法人化し、短期目標、中期目標を たてさせられ、業績評価によってコントロ−ルされる形は大学にとっ てよい選択とはとても思えません。大学がそのような財政を通じた ”指導”にいかに抵抗力がないかはこれまでいやというほど見てきま した。次の3つの素朴な疑問に対しても,いかに個別法で対処したと しても,とても納得いく解決が可能とは思われません. 1.戦後の大学が曲がりなりにも享受してきた教育、研究の自由, 大学の自治はどうなっていくのか? 2.直接には応用と結びつかない基礎的な研究や基礎科学,短期間 では結果のでないスケ−ルの大きい研究などは軽視され衰退して行く のではないか? 3.国の政策を批判したり,国や財界が好まない研究や教育を行う 大学や教官は業績評価を通じて圧迫され、存在出来なくなくなるので はないか? 独立法人化によって細かい組織に分断され、財政措置を伴った業績 評価によってコントロ−ルされる大学は,とても人類の未来を見据え た教育,研究の場とはなりえず,国民の信頼も得らない,また若者に とっても魅力的でない存在になっていくのではないかと恐れます。 以上の理由から、私は独立法人化には反対です。国立大学として残 る場合,10%以上といはれる削減案を突きつけられることになると 思われますが、それに対しては、国の財政状態をふまえた上で,国の 高等教育,科学技術,学問文化の維持発展に責任を持つ国立大学の立 場から主張すべき点を主張していくしかないのではないかと思います。 国立大学の教育研究の水準の維持と発展には国の将来がかかっている のですから、もしそれが本当に必要な要求であるとすれば国民も理解 を示してしてくれるのではないかと思います. たとえ10%の定員削減が実施されるような事態になったとしても (そんなことにはならないと思いますが)国立大学として現在の制度 で残るという選択の方が独立行政法人になるという選択よりは遥かに よい選択であると私は考えます. 実際に大幅な定員削減を突きつけられる頃には私は定年退職してい ていないので勝手なことをいうと叱られるかもしれませんが、その点 は勘弁して下さい。 この問題は特に若い世代にとって切実な問題なのに、大学は若い教 官層の意見を求めようとする姿勢に欠け、上の人達だけの政治的な判 断のみでなしくずしに決めてしまう方向に進んでいるのは納得出来ま せん. 独立法人化するかどうかは,今非常に重大な局面を迎えているとい うことです。勿論,私が反対であると表明してもそれがこの問題に何 ほどの影響があるというわけでもありませんが、この際大学の1構成 員として意見をいう責任があるような気がして私の考えたことを述べ てみました。特に若い教官層の方々がこの問題に関心を持ち、積極的 に発言されることを期待します。( この文章は、8月25日の数学広報の文章に加筆訂正を加えたものである。)
平成11年 9月30日 大学院理学研究科数学専攻 井 上 純 治 jinoue@math.sci.hokudai.ac.jp