==> 国立大学独立行政法人化に抗して 北海道大学教官への呼びかけ

北海道大学教官への呼びかけ


                                               平成11年9月22日
北海道大学教官 各位

理学研究科数学専攻の辻下徹というものです。国立大学の独立行政法人化
について個人的にお願いがあります。

9月20日に文部大臣より国立大学の独立行政法人化の方針が示されました。
(文部大臣のあいさつが
http://www.asahi-net.or.jp:80/‾bh5t-ssk/net/netmonbu990920.html
にあります。また、「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」が文部省の
ホームページ
"http://www.monbu.go.jp/news/00000368/"
に掲載されました。)

北大では、9月20日の文部省の方針に関し、9月29日の評議会で議論すると聞い
ておりますが、それに向けて各部局の意見を問うプロセスがきょうから始まると思わ
れます。

9月10日の北海道新聞の朝刊(末尾に添付)で報道されましたように、北大は全国
の国立大学に先駆けて「独立行政法人化に関する検討ワーキンググル ープ」を9月
9日前後に発足させ、「九月中にも法人化問題で北大としての態度を表明する見通し
だ」そうです。これに先立って8月下旬に「仮に独立行政法人化が現実となった場合
に、専攻特有の配慮すべきことはないか」の諮問が各部局にありましたがその際「独
立行政法人化の是非を問う諮問ではない」ことが強調されていました。

************** お願い ***************
このことからわかるように、この1週間が、独立行政法人化の是非について全学で議
論する最初で最後の機会であると思われます。皆さまにおかれましては、国立大学の
独立行政法人化が何を意味するのか、をもう一度冷静に検討され、各部局での「独立
行政法人化の是非」の意思決定において、参加してくださいますようお願いいたしま
す。

北大例規集には現行制度の廃止についての議論の仕方についての規定されていません
が、少なくとも、最高意思決定機関である評議会で2/3以上の賛成が必要と思われ
ます。さらには、全学投票等により北大全構成員の半数以上の賛成が必要である、と
いうのは妥当な線であると思います。この点につき各部局で検討し、評議会で議論し
て戴けますこともお願いいたします。

また、理学部では、理学部の見解を公式のホームページ
に掲載しました。これは8月下旬の北大執行部からの諮問への回答書ですが、独立行
政法人化への反対の立場も明確に表明したものです。各部局におかれましても、部局
として独立行政法人化を非とする結論に達せられましたら、是非なんらかの形で公表
されますことをお願いします。(千葉大学文学部では学部としての反対声明を公式の
ホームページに公表しています。
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以下、私見を手短に述べさせていただきます。

「国立大学の独立行政法人化」は、近視眼的にはそんなに大した変化はなく、これを
チャンスと錯覚する人もわずかですがいるほどです。しかし、この打撃はボディーブ
ローのように徐々に効いてくる点にこの<アイディア>の狡猾な点があります。国立
大学の独立行政法人化は<不可避>であると見なして自分の責任ではないかのように
甘受することは国民にたいして(特にこれからの世代に対して)大罪を犯すものと私
は考えています。

(1)独立行政法人制度は数値化できる単純業務の能率化を目的とした制度で、多く
の人が指摘しているように、大学の研究・教育という中身を盛るには全く適していな
い容器です。たとえば、現在の大学が当たり前に享受している「研究教育の自由」「
運営(人事・予算等)の自主・自立」なども、独立行政法人化してしまった場合には
、個別法を理想的に作ってかろうじて維持できる可能性が皆無ではない、というよう
な性格のものです。最悪の事態に備えて個別法を検討するという作業に没頭するあま
り、迫りつつある最悪の事態を避ける努力を忘れてしまうことのないようにしなけれ
ばならないと思います。(別の選択肢である「現体制維持+25%定員削減」の対策
が検討されているとは何も聞こえてこないのも妙です。)

(2)「国立大学の独立行政法人化」の意義として文部大臣は、法人格の取得、大学
の自主性・自律性の拡大(大学ごとの給与体系、運営費交付金使途内訳の裁量)、個
性化などをあげています。これは別の言い方をすれば、大学間・大学内の競争をポジ
ティヴに考えるということを意味します。ところが、こういった「競争」が空疎なの
は、学問の異分野間の業績の比較というものが無意味な点にあります。こういった競
争は、学問ではなく、学内の<権力闘争>を刺激するだけになる危険性が大きいと思
います。

(3)国立学校会計制度がなくなり、5年の中期計画に合わせて予算が運営費として
配分されることになりますが、それが意味することは、5年ごとに単に予算額の調整
だけで、大学を<スリム化>できるようになる、ということだと思います。予算の匙
加減と評価機関の判断だけで一つの学科の改廃くらいは簡単に実現することになり、
前項の競争は熾烈なものとなりえます。このような不安定なところに優秀な人材が集
らなくなることは十分予想されます。

(4)しばしば「大学の社会に対する責任」という言葉で、社会に目に見える貢献す
ることしか念頭にない意見を聞きますが、それは一面的で浅いものの見方であると思
います。社会を支配している「もうかるかどうか」という関心を越えた価値を育むの
が大学の使命であり、それに努めることこそ「大学の社会に対する責任」であるとい
うことは多くの人が認めることだと思っています。それを「言い訳」のように考える
のはそういう価値を失いつつある社会に迎合することであり、それこそ「大学の社会
に対する責任」を忘れることだと考えます。

最後にもう一点だけ述べておきたいと思います。国立大学が独立行政法人化を無抵抗
に(あるいは喜々として)受け入れることは、独立行政法人化の弊害を遥かにこえる
深刻な問題をはらんでいます。このままのペースで事が<順調に>進めば国立大学が
<無脳有能人間>の集団でしかないことの見事な証明になります。独立行政法人化と
いう国立大学解体を国立大学が受け入れたならば、受け入れたこと自身が国立大学解
体は正解であったことを証明してしまう、という皮肉な構造になっていると思ってい
ます。

以上、私見を述べさせていただきました。どうか、社会における大学人の独自の使命
を思い起こし、この問題を考えていただければ幸いです。
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なお、私は個人的な判断で動いております。このメールは「研究者総覧」や部局のホ
ームページに記載されているe-address を手作業で整理してお送りしていますので、
メールアドレスのない方や、メールがあってもお送りできない方もあります。どうぞ
、近辺の方にもお知らせいただければ幸いです。また、すでに在職しておられない方
へもお送りすることになるかもしれませんが、その場合もどうぞ、外から関心を持っ
て見守っていただければ幸いです。

共感いただけましたらご意見等お寄せいただければ幸いです。
辻下 徹
北海道大学大学院理学研究科数学専攻
(代数構造学講座 教授)