==> 国立大学独立行政法人化に抗して
北大教官へのメール

北海道大学 教官へのメール

                         平成11年9月30日

北海道大学 教官 各位

理学研究科数学専攻の辻下と申します。

以下の9月30日北海道新聞朝刊の記事にありますように、独立行政法人か国
立大学(+定員削減)かを選択する議論が全学的に始まります。どちらを選択
するにせよ、ご自身の判断に基づいて、所属される部局での意思決定の過程に
参加されますよう再度御願いいたします。

以前御送りしたメールに対していくつかの部局の方から、貴重なご意見を頂き、
私自身が想像もしていなかったようなさまざまな因子があることを理解し始め
ております。各部局・各学科・各講座ごとに特有の状況があり、独立行政法人
化、現状維持+定員削減、という選択肢のいずれにしても、その意味するとこ
ろが実に多様です。この多様性は、どちらの選択肢についても全学的な合意を
得ることに並々ならぬ困難があることを示すものと感じました。

しかし、このことは別の見方からいえば、いずれを選択するにせよ、争点は各
部局・各学科・各講座の損得にはおけない、ということを意味するように思い
ます。従いまして議論の焦点は「国立大学であることを止め、(名称は変りま
せんが)政府直轄の独立行政法人となる」ということ自身が大局的にどういう
ことを意味するか、という問題について共通認識を形成するところに移ると思
われます。

実際には、この問題を回避して、身近な問題だけを議論して決断することは、
ほとんど意味がないように思われるだけでなく、危険なことだと思われます。

その理由は、「現状維持+定員削減」という選択肢の実質が明確であるのに対
し「独立行政法人化」という選択肢は未定因子が多すぎて分析しようがなく、
これを選択肢するのは白紙委任状にサインするに等しいものだからです。

その根拠の一つとしては、文部省が9月20日に示した提案について9月21
日の中央省庁等改革推進本部の顧問会議で政府側からと思われる強い抗議があ
り、文部省の提案については何も約束しないことが明言されていることを挙げ
ることができます。とくに、大学についても通則法の厳守はかなり強く主張さ
れています。また、独立行政法人職員の公務員身分のことは改革推進本部の中
の多くの議員が強く難色を示しており、新規採用者には公務員の身分を与えな
い措置の検討が主張されており、この方法と、中期目標期間終了後の評価に依
拠した身分変更の方法とを組み合わせれば、どうにでもできます。文部省の提
案にあるように独立行政法人化直後に大学教職員が全員公務員となったとして
も、それは一時的なもので実質的な意義はほとんどないように思われます。

また、公表されている中央省庁等改革推進本部でのこれまでの議論を見ても、
独立行政法人化は廃校のための準備と位置づけていると思われます。(中期目
標期間の5年という長さを固持する理由の一つと思われる。)したがって、今
回の選択は実質的には、私立大学か国立大学かという選択だと認識する必要が
あると思います。政府直轄の独立行政法人となった後には今回のような選択の
余地は全くなくなり、独立行政法人大学を廃校すると政府が決めれば廃校は文
字通り不可避となります。

独立行政法人化後、文部省自身は北大を廃校にするつもりはないと予想されま
すが、国立大学全体の廃校という強い意見が政府内部にあること、そして、文
部省はそれほど強い部局ではないことを忘れてはならないと思います。

廃校になった場合に私立大学としてやっていける国立大学はわずかだと思いま
すし、その場合でも学費を高くしなければならないことは歴然としています。
身近なところでだれでも手の届く学費で学べる高等教育機関をなくすことは、
気付かれずに国を衰退させる着実で賢明な方法だと思います。また、個々人の
側から見れば、それぞれの人が自分の能力と志向に調和した教育を受けるとい
う機会を見つけられなくなることが多くなる、ということです。

これは奨学金制度の拡充くらいではどうしようもない深刻な問題です。たとえ
ほぼ全員が奨学金を受給できたとしても、経済的に弱い多くの学生に人生のス
タートラインで重い借金を背負わせるようなことは由々しいことです。また、
地元の大学がなくなれば、遠い大学で学ぶことになり、奨学金で足りるはずは
なく、多くの優秀な学生が重いアルバイトというハンディを背負うことになる
でしょう。


繰り返しますが、独立行政法人化を選択することは署名した白紙委任状を政府
に差し出すことであり、政策が今のように絶えず急変する状況では、正気の沙
汰ではありません。今の政府のものではなく、国民の、これから生まれてくる
数知れない多くの人たちの財産である国立大学制度を、我々の数年の便宜と交
換に葬り去るような罪は決して許されることではない、と思うのです。

なおhttp://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/agencyに関連資料を置きますしたの
で、ご自身の判断の材料にしてください。

辻下 徹
理学研究科 数学専攻 
(代数構造学講座 教授)

------------------------------------------------------------

北海道新聞9月30日朝刊

国立大の独立行政法人化 北大学長、全学での議論を指示 

北大は二十九日、全学の評議会を開き、丹保憲仁学長が、文部省の国立大の独
立行政法人化案について説明、法人化の是非や課題を全学で検討するよう各学
部長に指示した。同大は既に、学長を中心に法人化を検討するワーキンググルー
プを発足させており、全学的な議論で意見を取りまとめる詰めの段階に入った。
また、十月初旬から、道内他大学に教職員を派遣し、法人化について説明を行
うことも同日までに決めた。

 評議会で丹保学長は、自治の尊重など特例を条件に、法人化を進める文部省
案を説明。各学部長に対し「大学組織の全構成員に同案を周知し、議論してほ
しい」と指示。評議員からは「行革で教職員を大幅削減されたとしても、国立
大として残るべきだ」といった意見など、賛否両論が噴出したという。

 一方、同大は十月上旬に、法人化問題に詳しい教職員を室蘭工大と道教育大
に派遣し、この問題の要点などを説明することを決めており、その後も順次、
道内他大学に派遣。意見調整も図っていく。国立大法人化の先進地のイギリス
に調査団を派遣することも検討している。