==> 国立大学独立行政法人 化に抗して
文部省は、今年の9月20日、国立大学学長会議において、国立大学の独立行政法人 化受け入れを表明し、2000年の早い時期までには結論を出し、2001年の通常国会には 国立大学の独立行政法人化に関する法案を提出する方向を検討し始めている。 私たち全国大学院生協議会は、この国立大学の独立行政法人化について、現在の大 学・院生の抱える問題を解決するものでなく、問題を深刻化し兼ねないものと危惧し ている。問題提起として、この全国大学院生協議会、第4回理事校会議の場で以下の 内容を決議し、国立・公立・私立の立場の違いを超えて、全国の大学院生に反対を呼 びかける。 そもそも、独立行政法人化とは、行政改革の一環として、行政のスリム化・効率化・ 機動的な意思決定過程の実現という目的(「行政改革会議 最終報告」)で導入され ようとしている。国立大学がこの法人化の対象となる契機は、98年から99年にかけて 国家公務員の定数削減計画が嵩上げされたことであった(2001年から10年間で10%の 削減から、今年1月の自自連立政権樹立の際の政策合意での25%へ)。12万5千人の職 員(全体の22.8%)を抱える国立大学は、削減の最大の対象となったのである。そう した中で、今年7月に独立行政法人通則法が成立し、9月にはそれまで公的には国立大 学の独立行政法人化に反対していた文部省が、独立行政法人化を容認する方向に方針 転換したのである。 この独立行政法人通則法においては、文部大臣もしくは文部省が、学長・副学長等 の法人の長・監事の任命と解任、法人の定める中期計画の基礎となる中期目標(3年 から5年の期間)の決定、(評価委員会による)業務の事後評価の権限を保有し、総 務省に置かれる審議会が法人事業の改廃に関して主務大臣に勧告することができる、 と定められている(これに対して、文部省は国立大学の個別事情に配慮した「特例措 置」を提案したが、行政改革会議などはこうした通則法をそのまま国立大学に適用す ることを求めている)。 では、この国立大学の独立行政法人化は、私たち大学院生にとってどのような問題 があるのであろうか。第一にあげられる基本的な問題は、効率重視の「評価」の大学 の研究・教育への導入を軸にした公教育の「スリム化」である。「行政のスリム化」 の一環として国家公務員の25%削減が出されており、その文脈で独立行政法人化も論 じられているのである。実際、中央省庁等改革関連法案の国会審議における答弁で太 田総務庁長官は、「透明化と自己責任化が、みずから独立行政法人はスリム化を遂げ るということを予定される」と明確に「行政のスリム化」と独立行政法人化との関連 を述べている。文部省は必ずしも国立大学全体の縮小を意図しているわけではないが、 かかる文脈の中でのは、国立大学の統廃合の可能性も否定できない。このように、こ の独立行政法人化は、大学を本来学問の自由が必要としている教育研究機関としての 自立性を目指すものではなく、高等教育への公的な責任を縮小し、高等教育を受ける 権利を侵害するものと言わざるを得ない。 この効率重視の大学の「評価」によって公教育をスリム化していくことによって、 以下4点の問題が指摘できる。1点目は、効率重視の「評価」と予算配分によって、大 学における学問研究の健全な発展が歪められる危険性である。独立行政法人化された 大学においては、その事業は、3年から5年という短期で「評価」されるのである。こ の「評価」のあり方が大学の研究・教育になじまないことは、文部省ですら中期目標・ 中期計画が「教育研究の長期的な展望の下に策定」される必要があり、「大学の教育 研究が否定量的な性格を有し、また、経済的な効率性に必ずしも馴染まない」と認め ているところである。こうした短期間で効率を重視した大学の業績「評価」では、短 い期間で「成果」の出ない基礎研究や、社会科学系の研究などがないがしろにされて いくのではないか、という危惧が当然出てくるのである。このことは、大学院生の研 究条件の更なる悪化にもつながりかねない問題である。 2点目は、学費の上昇と研究科間・大学間での学費の格差の拡大である。今のとこ ろ独立行政法人は、独立採算ではないとされているが、独立行政法人化が行政のスリ ム化・効率化を目的とした行政改革の一環として出されてきている以上、「業績」の 上がらない大学への予算の絞込みは考えられ、さらに、企業会計原則も想定されてい る。そうなれば、授業料などの学費の上昇は必至であり、大学間、研究科間で学費の 格差が拡大することも危惧される。学費が相対的に「安い」国立大学においてさえ、 経済的理由で進学を断念する院生も多い。さらには今年度から導入された学費の「ス ライド制」によって、学費の値上げの影響はいっそう深刻なものになる。いみじくも、 大学審議会は「国立大学の果たすべき役割」を、「全国的に均衡のとれた大学配置に よる教育の機会均等の確保への貢献」「学生が経済状況に左右されることなく自己の 関心・適性に応じて高等教育を受ける機会を確保することへの貢献」、と明確に定義 しているにも関わらず、これを真っ向から否定するものである。 3点目は、大学院生の進路・就職の問題の深刻化である。現在、「大学院重点化」 の中で、国立大学の大学院生が激増しており、高度職業人養成コースの院生も、研究 者養成コースの院生も深刻な就職難に直面している。特に、主に大学や研究機関に職 をもとめる研究者志望の大学院生にとっては、行革の流れの中で出されてきている独 立行政法人化によって、教職員の削減、大学・研究機関の統廃合、特定分野・大学へ の偏りとその他の分野・大学の切り捨て、非常勤講師の増大という形で、より深刻な 状況となりかねない。 4点目は、大学間、専攻・研究科間の研究条件等の格差の拡大である。独立行政法 人化によって、「業績」の「評価」によって大学への予算配分に格差がつけられるこ とになり、大学間の研究条件、学費等の格差が相当広がることは、確実である。さら には、独自予算獲得のし易さ、学生の集め易さなど、専攻・研究科によって、または 地域によって異なってくるため、そうした要因からも専攻・研究科間、地域・大学間 の研究条件、学費、予算の格差がより広がることが危惧される。 第二に指摘される大きな問題は、政府・文部省による大学運営への干渉・介入が強 まる危険性についてである。独立行政法人化によるメリットとして、これまで単年度 予算・決算による財政管理、総定員法、人事院規則などによる規制がなくなり、大学 の自由裁量が増えるとする意見が聞かれる。 しかし、これまでの大学において大学の自律性との関連で問題になったのが、国民 の大学への要求を逆手に取った文部省からの有形無形の圧力によって大学の自主的な 運営が阻害されてきたことである。大学院においては、研究条件の整備、進路・就職 の展望を明確にしないまま、文部省の指導の下、無責任に大学院を重点化してきたこ とが問題になっているのである。 独立行政法人化されることによって、前述のように「中期目標」策定、大学のつく る「中期計画」認可、学長等の任命・解任、業務の業務の事後評価といった形で文部 省・文部大臣の権限が今まで以上に大学運営に深く関与してくるのである。また、積 算校費が廃止される可能性が高く、「評価」にもとづく大学への予算配分の格差付け が、今まで以上に文部省の裁量による所となる危険性が高い。実際に、来年度の概算 要求では2123億円で、今年度予算の2079億円に比べて総額は増えているものの、積算 校費は極端に減少しているのである(平成11年度予算での教官・学生の合計の積算校 費:2079億円、平成12年度概算要求での積算校費:667億円)。以上を見れば、大学 運営への現状での文部省の介入がよりいっそう強くなることは必至である。 第三にあげられる問題は、私立大学、公立大学への深刻な悪影響である。 私立大学の中からは、国費の配分の国立大学との差への不満からや、「国立大学も 競争的環境に身を置き、努力するべきだ」という考えから、国立大学の独立行政法人 化を支持する声も聞かれる。 しかし、全体的な公教育の「スリム化」という行政改革の一環として独立行政法人 化が出されてきている以上、日本の高等教育の多くを担っている私立大学にも重大な 影響を及ぼすことが十分考えられる。実際、私立大学への助成金について、こうした 文脈の中では抜本的な増額は期待できない(それどころか、経常経費への助成金は、 大学審答申が「社会的要請の強い特色ある教育研究プロジェクトに対する重点的配 分」を打ち出しているように、ますます減らされる方向にあるのである)。 さらには、先に国立大学の統廃合の危険を指摘したが、私立大学はこうした国立大 学の統廃合の前に、淘汰されていく危険性がある。実際、大学審答申は大学の廃止を 想定した努力を提言しており、文部省は、私立大学に対しては市場原理に晒して淘汰 に任せるという立場をとっているのである。 公立大学にとっても、国立大学の独立行政法人化は、深刻な影響を与えてる。公立 大学は大学によっては、国立大学以上に厳しい予算削減、職員の定数削減にさらされ ているところもある。また、「民間との役割分担の見直し」として大学の「廃止・縮 小、民営化、整理統合」が言われている自治体もあり、国立大学の独立行政法人化 は、公立大学にも同様の方向での設置形態の変更が迫られることは必至である。実際 に、公立大学では、独自の独立行政法人化を検討し始めている大学もある。 今、国民の中には大学に対する様々な批判・要求が強くあるが、私たち全国大学院 生協議会としては、効率重視の「評価」に学問をさらして、公教育の縮小を拙速な形 で推し進めることでは、国民の声に本当に応えることができない。今必要なことは、 国民の中にある大学への批判は真摯に受け止め、大学自治を堅持しつつ国民の高等教 育を受ける権利を尊重し、学問の健全な発展を目指す立場で、そうした声を大学運営 に反映させていく方向を、国立、公立、私立の立場の違いを超えて追い求めていくこ とであると考える。 私たちは、以上の点から、全国の大学院生に国立大学の独立行政法人化への反対を 呼びかける。