==> 国立大学独立行政法人 化に抗して
独法化作業進行中の国立研究所からのメッセージ

独法化作業進行中の国立研究所からのメッセージ


To: hu-members
From: Toru Tsujishita 
Subject: 独法化作業進行中の国立研究所からのメッセージ

北大構成員の皆さまへ

他省庁の研究機関は独立行政法人化が既に決まっており、その移行
プロセスが進行中です。その渦中におられる方の体験は、私達が独
立行政法人化を決めた場合にすぐに私たちが直面するものです。以
下通産省の研究所におられる藤本氏と浦辺氏の書かれたものを紹介
します。

通産省工業技術院地質調査所の藤本光一郎氏が国立大学に向けての
メッセージを書かれています:
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/99929-fujimoto.html

また、科学11月号特集「国立大学・研究所の独立行政法人化」に
掲載された同地質調査所の浦辺徹郎氏の「行革渦中の国立研究所か
ら」にも国立大学へのメッセージが込められています。ぜひお読み
ください。なお
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/99b04-urabe.html
に一部抜粋しました。

なお、引用を若干添付します。

辻下 徹
理学研究科
内線3823
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
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藤本氏より引用
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「ひとことで言うならば,最初は甘い餌を夢見てふらふらと近づい
ていくと,いつのまにか餌はなくなっているということです.
 私たちにとっての餌はいくつかありましたが,突き詰めると次の点
になると言えます.
(1)独立行政法人化することにより,外部資金の導入が活性化さ
れ,自由に使える研究費が増える可能性が高まる.
(2)独立行政法人化によって定員削減の対象から外れる.
(3)実質的な研究体制や環境は5年後の評価まではそれほど現状
と変えない.
 このようなことが独立行政法人化が表面化した2年前にはかなり
公然と言われていました.多くの研究者にとって,研究機関が国立
か法人かよりは,研究費や人の方が大きな問題であり,この餌に釣
られた人も多くいました.私自身も,国立機関か独立行政法人であ
るかはそれほど大きな問題ではないと思っていました.」
(中略)
「以上述べたように,最初の餌は全て幻想であったわけです.公務
員減らしの犠牲を背負うのだからそれほどひどいことにはなるまい
という甘い見通しのもと,どこかで適当な妥協点があるだろうとい
う目論見ははずれました.妥協しようにもその材料が見当たらない
のです.いや,本当は私たちが日々築き上げてきた研究成果や知識
・判断力,あるいはそれに対する社会的な評価などが最大の私たち
の売りになるはずですが,いざという時の政治的な妥協の材料には
ならないことにある意味で愕然としました.もうここまで議論が進
んできた以上引き返すわけには行かない状況になっています.工業
技術院の廃止は既定路線であり,当初議論された省庁を超えた研究
機関の再編も立ち消えて受け皿もない状況だからです.もっと前の
段階で,つまり1-2年前の大枠の路線を決める段階で私たちの主張
を強く訴えるべきだった,あるいは,一時的に研究環境の悪化はあ
っても通産省と対峙するか離れるべきだったと感じている研究者も
います.しかし,妥協路線にはいったのはトップだけの問題ではな
く,それだけの気構えを持つ研究者が少ないところに根本的な問題
があるのかもしれません.

大学の状況を見ると,大枠の状況が決まるのはまさに今だと思いま
す.文部省や国大協の路線は,当時の私たちの研究所の妥協路線と
重なります.甘い幻想をもたずにリアルに議論すること,目先の研
究費や研究環境ではなく,研究の軸足をどこに置くかをしっかりと
見据えることが大切であることを訴えたいと思います.それ抜きに
大学外の多くの人々を納得させることが難しいからです.ずるずる
と戻ることのできない妥協路線に陥る愚を犯していただきたくない
と思います.」

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浦辺氏より引用
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「筆者の元に届けられる行革関係の書類は今年に入ってからでも厚
さ50cmを越えている.しかし,それらのほとんどは部外秘や配付限
定のゴム印が押されており,さらに“所三役限り,所議限り,所内
限り”という色分けがざれている.配付限定でない資料もないわけ
ではないが,それはほとんど何の情報も合んでいない.部外秘とす
る理由としては,書かれていることがまだ検討中であるためと説明
される.」

「アカウンタビリティーを欠くこのやり方の最大の問題点は,決定
がなし崩し的になされる点にある.検討事項が案の段階であるとい
う理由で異議申し立てが退けられる一方,もはや再検討の時間がな
いという理由で重大な決定が一方的に押し付けられることがしぱし
ぱおこったのである.」

「このように国研にとって好ましくない方向で官僚主導の改革が行
なわれているのには,国研自身にも原因がある.国研は自分たちの
信念をまとめることができずにいるからである.法人の制度設計が
なされていく過程で,国研は所管官庁から質問や資科作成の発注を
頻繁に受けた.内容は,研究所の現在および将来の使命,存在の必
要性,所管官庁のミッションとの整合性など,回答しづらいものが
多かった.研究所という団体にとって好ましいことは,行政組織で
ある上部の団体にとっては必ずしも好ましいわけではないからであ
る.そこで,ついホンネとタテマエの使い分けを行なってしまう.
加藤がその好著(3〕に指摘しているように,ホンネというのはタ
テマエを取り除いた本当の気持ちではなく,“まずくなるとすっと
穴の中に逃げ込んでしまう奇妙な信念で,自分の所属する団体の迷
惑になるとなると,とたんに前言撤回される”ものである.本当の
信念を述ぺることは,お上にたてつくような居心地の悪さがあり,
同僚に迷惑をかけるのではという理由で,ロをつぐまざるをえない.
このような自己欺瞞のやり取りを繰り返しているうちに,事の本質
を見失って,迎合的な回答をすることに慣れてしまう.加藤はホン
ネとタテマエを使う人は,他人の指導がなくても自分自身の悟性を
敢えて使用しようとする決意と勇気に欠けているとしたが,残念な
がらそれがわが国の国研の現状であり,上からの指示を待つ状態が
続いている.」

「イギリスのような経験をもたないわが国においては,イギリスが
15年以上にわたって“生体実験”してきたサイエンスへの市場経済
原理の導入が大学人の一部からも支持されている.しかし一律にそ
れを導入することが,全体の利益になるのかについては十分にシミュ
レーションがされているとは思えない.アングロサクソン流市場原
理をアジアの国々に性急に導入したことが地域の経済を破壊したよ
うに,準備のできていない研究教育現場に市場原理を一律に当ては
めることの危険性は指摘するまでもないだろう.先端技術開発研究
分野の一部で高いリターンをもたらした市場原理を,すぺての分野
に導入することは,知識の多様性の否定と破壊につながる.」

(1) 浦辺徹郎「国立研究機関エージェンジー化の教訓−−地質調査
所の例」(激震!国立大学一一独立行政法人化のゆくえ」p123-145
,岩崎稔・小沢弘明振,末来社1999)発売中)
(3)加藤典洋:日本の無思想,平凡社新書(1999)