==> 国立大学独立行政法人 化に抗して
激震!国立大学 序文

「激震!国立大学」 序文

岩崎稔/小沢弘明

未来社「激震!国立大学−−独立行政法人化のゆくえ」
¥1600 ISBN 4-624-40049-6

いまからでも遅くはない。原点に立ち戻るべきである。

本書の目的はいたって明確である。

国立大学や国立研究機関を「独立行政法人」にしてしまうという政策は、それがもたらす破壊の大きさにもかかわらず、これまで一度も問題として適切に立てられてこなかった。ことがらにふさわしい問いの次元が、公共的にはまったく共有されてこなかった。この不幸な状態をわずかでも是正しようとして、本書は企てられている。自分たちのごり押しの帰結を何ら考えていない政治家たちや、大局的な思考能力を失っている高級官僚は、この政策が本当は何であるのかが知られないうちに、すっかり決まったことにしてしまおうとしている。そのなかで、編者たちは、多くの方々の理解と協力を得ながら、まずは検討に必要な資料を提供すること、そして、この問題に対する分析、批判、予測をだれの手にも届くようにすることを心がけた。

「独立行政法人化」とは何でないか。

「独立行政法人化」は、しばしば喧伝されているような特定部門公務員の身分問題なのでは断じてない。そのような論点に矮小化し、「だから保身から反対しているのだ」云々という片づけ方は、市場原理主義イデオロギーを振りまいているひとぴとが繰り出す常套句である。文化と知の空間を行政実施組織に改組してしまうという愚行は、ときに暴力的な様相をも伴って強行されているネオリベラリズム的な「改革」が、人間の共生する複合的な社会にとってはあまりに一次元的で単純なものだということを象徴的に示している。

第二に、「独立行政法人化」は、行財政改革や滅量といった点からもっぱら処埋されるべき問題では断じてない。国立大学と研究機関の改革は、高等教育を二一世紀の最初の数十年間にどのように設計していくのかという、重要な未来選択に関わる問題である。しかし、文化と教育の未来についての少しでも踏み込んだ考察を、「独立行政法化」を言い立てるひとびとのながに一度として見たことがない。行財政改革をオウム返しに叫ぶ短絡的な思考ではとうてい対処できない領域は、実はまったく空白のまま取り残されている。

第三に、「独立行政法人化」は、国立大学や研究機関に自立性をあたえるような措置でも断じてない。予想される帰結は、その反対である。「独立行政法人」の機構をどのように吟味しても、大学や研究所がますます直接的な官僚的統制のなかに置かれてしまうであろうことは容易に分かる。それは、この政策の決定プロセスの不透明性にも表れている。これまで大学や研究機関の自立的な改革の可能性を予算や行政措導を通じて停滞させてきた当のものたちが、こんどは高等教育そのものを窒息死させることに狂奔しているのである。「官の打破」どころか、迷走する官僚システムは、これによって自己の支配権の拡大を図っている。

では、「独立行政法人」問題とは何か。読者のみなさんには、本書の各論説や掲載資料にあたって、まずはそれぞれに考えていただきたい。それによって、この政策が、けっして選んではならない社会の自殺的な行為であることは明らかになるだろうと確信している。

ただ、同僚である大学人に向かっては、さらにつぎの一点を強調しておきたい。わたしたちは実は誰もが、「独立行政法人化」が際だって愚かな選択であるということを知っている。しかし、根拠のない風聞が飛ぴ交い、深いシニシズムが広がるなかで、多くのひとぴとが「止めようもない流れだからやむをえない」とつぶやいて済ませている。そうした大学人たちに必要なのは、まずは立ち止まり、ひとつふたつ深呼吸をしてみることである。そのうえで、今からでも遅くはない。原理原則に立ち戻って、問題を適切に立て直してみよう。それがわたしたちの責任なのではないだろうか。

1999年10月10日

岩崎稔/小沢弘明