==> 国立大学独立行政法人 化に抗して
国立大学の独立行政法人化に対する意見 信州大学理学部教授会 1999年11月9日 1. 大学になじまない制度 全国の国立大学のあり方が、今大きく変ろうとしています。政府が国立大学 を独立行政法人とする方針を打ち出したためです。そもそも「独立行政法人」 とは、行政機関の「企画立案部門」と「実施部門」を分離し、大量反復的な業 務を効率的に行うため「実施部門」を法人化して国の機関から分離しようとい うもので、もとはと言えば財政赤字削減のため、公務員の数を減らす一方策と して考え出されたものです。 大学は行政機関ではなく教育研究機関ですから、 二つの部門は分離不可能であり、教育研究には決して効率性や経済性の追求の みでは測れないものがあります。従って、いまの「独立行政法人通則法」は、 学問の自由、大学の自主性、継続的な知の蓄積といった大学の特性を踏まえた ものではなく、国立大学にふさわしいものとは言えません。しかも、この数年 間、各大学で多大な時間と労力をはらって点検評価し、大学改革がやっと実を 結びつつある矢先に、大学内部のこれまでの改革努力の方向性を根底から覆す ような「独立行政法人化」の方針が唐突に表面化してきました。 2. 基礎科学教育・研究の崩壊 もしも国立大学が、いまの通則法のままで独立行政法人化されると、大学と しての役割である教育・研究の水準は大幅に低下するでしょう。それは主に以 下の3つの理由からです。 2-1 学問文化の後退 国立大学の「独立行政法人化」は、最終的には学問、文化を支えるべき国の 機能を著しく低下させます。大学は、現在の学問、文化を受け継ぎ発展させ、 それを次世代に伝えていく所であり、また、現在と未来に人類がいかにあるべ きかを示す責任を付託された機関です。だからこそ、理学部では目先の利潤や 効率性、現時点の流行などにとらわれず、森羅万象さまざまな現象を多面的に かつ詳細に扱ってきました。私立大学がその個性的な学風を活かして、特色あ る教育研究をおこなっているのと相補いながら、国立大学には、学問、文化全 般を次世代に引き継ぐという使命を持っています。いまの「独立行政法人化」 は、大学を実施部門と位置づけ、企画者の短期間の評価・査定に基づいて管理 運営する制度であり、国民の文化を支えるという崇高な責務を全うするという 大学本来の目標に全くそぐわないものと考えます。 2-2 教育の危機 「独立行政法人化」は、教育の機会均等をこわすことになります。今や国立 大学の学費も多くの国民にとって耐え難い金額になってしまいましたが、それ でも相対的に低い学費で学生を受け入れています。そうした国立大学が各地方 に分散して存在し大学教育を行っています。しかし、国立大学が法人化される と、経済効率の悪い大学・学部の廃止・統合などがなされる可能性が高くなり ます。これは、理学部で行っているような基礎科学を学生が学べなくなること につながります。また、独立行政法人化により国立大学の格付け・種別化が進 められれば、一部の大学に高い学費とひきかえに教育サービスが集中化され、 低い学費の大学では満足な教育が受けられないといったことになりかねません。 なおかつ、大都市の大規模大学が優遇される反面、地方では青年に対する教育 機会の低下、学生層人口の流出などといった問題に直面することになると思わ れます。 2-3 基礎科学の重要性 「独立行政法人化」は、日本の基礎科学の水準を低下させることになります。 全国32の国立大学に設置されている理学部の場合に即して事態を予想すれば、 もともと営利に直結する研究とは縁遠いため、「経済効率」のたいへん悪い学 部としてかなりの大学で改廃の憂き目にあう可能性があります。一般に、基礎 研究の成果が実用化されるまでには長い年月を要することは自明のことですが、 それを「経済効率が悪い」と評価されると、基礎科学の衰退にもつながります。 1992年に行われたカーネギー大学教授職国際調査によれば,理学系における 日本の大学教授の研究業績の全国平均値は主要14カ国中第1位の水準にあり ます。これの大きな要因として、日本では、アメリカなどの他国と異なり、地 方にある小規模大学でも学生教育と結びあわせて研究を行うというスタイルが 定着していることがあげられます。こうした雰囲気の中で研究の一線に触れな がら教育を受けることで、学生が優れた理学的センスを培うという日本の大学 のスタイルが、これまでの日本の科学技術を支える柱の一つともなっていまし た。また地方の小規模大学の理学部で、地域と連携して特色ある研究がなされ ていることにもつながってきました。しかし、「効率化」をうたう独立行政法 人化では、そうしたことは許されなくなる可能性が高いのです。 3. 私たちは考えます 大学の教育研究の伝統はひとたび壊れれば、それを再建するには幾世紀にも わたる時間を必要とします。教育制度は、国家の根幹をなすものであり、その 設置形態を変革するためには長期的展望に立った議論を尽くすべきであります。 私たちは、日本の大学制度、ひいては文化の質を極めて大規模に歪ませるよう な設置形態を、いまの通則法による独立行政法人化のように短期間に押し進め ることには強い危機感を抱いています。 私たちのこうした意見に対して国民の皆さんのご理解とご支援を賜れば幸い です。