==> 国立大学独立行政法人化に抗して
国立大学学長の皆さまへ

国立大学学長の皆さまへ

許可を得て国立大学協会総会会場入り口に置いた。
                        平成11年11月18日

国立大学学長の皆さまへ

北海道大学の教官をしております辻下徹と申します。一個人として僭越ではあ りますが、止むに止まれず、お手紙を書かせて頂きました。事の経緯を心配す る多くの大学教官の気持ちの一例として、御一読頂ければ幸甚です。 現在、世紀に一度あるかないかという制度改革に対しわずか1年で結論を出す という無謀な日程に従って事態が推移しております。  11月初旬までに文部省が各地区の学長会議で明確にした方針は、通則法の 大枠の中で独立行政法人大学の制度設計するというものです。独立行政法人制 度を土台にして世紀単位の存続に耐える研究教育制度を構築することは、特例 措置による対症療法を幾重にも施しても不可能に近いことは、独立した複数の 検討作業の結論が共通して指摘していることです。  9月20日全国学長会議で文部省方針が逆転し、しかも国大協の要請の核心 部分である特例法による大枠の修正が拒否されたにも拘わらず、今回の国大協 総会がこの件について沈黙することは、文部省方針受諾の鮮明な意思表示とな るように、当事者でないものには見えます。  最近、独立行政法人化後の状況を先取りするかのように、種々の駆け引きが 国立大学学長の皆さまの間で始まっているように見られます。これは国公私の 区別なく全国の大学を一つのものと感じ、互いに同僚と思っている我々の多く にとって甚だ違和感と不快感を感じさせます。  今回の関東地区での連合の動きも、その中の一大学では別の地域的提携の準 備を積み重ねてきているのに、その経緯とは全く無関係なものであると聞いて います。新しい試みは大歓迎ですが、このように参加大学の全学意思を問う手 続きを省いて学長のみなさまの裁量で連合を進めることは大きな禍根を残すも のであるだけでなく、直接民主制の可能な大学では許されない点もあります。 学長の余りにも目に余る独走には今後、リコール運動の展開を検討していると ころもあると聞いております。  以上の状況の悪化に鑑み、私個人として、以下のことをお願いしたいと思い ます。 (1)拙速な制度改革の弊害をなくすため来年7月に決定という日程の破棄を 強く要請する。 (2)独立行政法人化のような粗悪な法人化の案が再浮上することを防ぐため に、新しい大学法人制度も含めて大学改革の提言を全国民から公募し、それを 開いた場で検討し大学側からの提案をする。 (3)(九州地区学長会議の提言にあるように)国民に向けて国立大学の独立 行政法人化問題について発言し、意見を聞く場を設ける。(2)は効果的な方 法の一つである。 (4)独立行政法人化問題、連合等については、各大学の構成員の意思を適切 な方法で確認することを学長間で申しあわせる。 (5)学長間の意思疎通のための日常的連絡手段を樹立し協力体制を形成する。 (学長同志のメーリングリストの作成を提言します。)  この2年間、全国立大学が、その明らかな非を主張し見向きもしてこなかっ た独立行政法人化案が、非本質的な論点が前面に出て受け入られつつある経緯 に、日本社会の危機の本質の縮図を見ることができます。  このまま諦めて独立行政法人大学になるならば、どのような正当化の理由を つけても、国立大学はモラルハザードの坩堝と化しアイデンティティを完全に 喪失し、国民の笑い草になり果てます。例えば、規模の大きな大学が他の大学 の行く末に無関心な行動をとるようなことが起これば、学問を長年してもエゴ イズムが全然克服できないことが小学生にも鮮明に示され、全国民に学問への 徹底した侮蔑感を植え付けることになります。そうなれば国立大学など早晩消 え去るのは避けられません。  一方、この危機に目覚めモラルとアイデンティティを取り戻し、独立行政法 人化を一旦白紙に戻して新しい法人制度の設計などに全大学が力を合わせて真 剣に取り組み実現するならば、国立大学の存在意義は明確になり、学内外の閉 塞感を吹き飛ばす活力が蘇る、と思われます。  思うに、独立行政法人化問題の国立大学内部における推移は日本社会の今後 を予言する面があります。考えることを職業としている者の10万人余の小さ な組織である国立大学が、この問題の適切な対処に失敗するとすれば、日常的 業務に没頭せざるを得ない1億人余の大規模な社会が適切な道を歩む希望はは かないものになります。  国民と大学人は学長の皆さまの個人としての見識とモラルを注視しています。 どうか、日本国家の将来を左右する位置におられる皆さまの責任の重大さを自 覚し、各大学の利害を越えて、この問題に大学人と国民のために真摯に取り組 み再検討して頂けるようお願い申し上げます。                   北海道大学 大学院理学研究科 教授 辻下 徹