==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
自由な発想がおもしろい
国立歴史民俗博物館館長 佐原真さんに聞く 佐倉市にある国立歴史民俗博物館(歴博)では、多くの人に歴史の面白さにふ れてもらおうと工夫を重ねています。そのあり方を大もとからこわしかねない 独立行政法人化が、国立大学や歴博のような大学共同利用機関にも適用されよ うとしています。館長の佐原真さんにインタビューしました。 編集部 −いまやっている江戸モード展で展示されていた振袖はきれいでした。 「江戸時代の有力者や豊かな庶民の奥さん、お嫁さんの普段着や農民の着物も しめしたいんですけど、きれいなものしか残っていないんです。着付けやバー チャルコーナーもつくって、お客さんに参加していただいています。顔写真を 撮って江戸時代の衣装をコンピューターで著せてしまう。今の技術ですから、 本人が着ているように見えます」 「8月には、朝顔展をやりました。江戸時代には、今では見ることのできない 千200種類もの朝顔を作っていたんですよ。朝顔と思えないようなものまであ りますよ。そのうちの数十種類の朝顔を咲かせるというすばらしい企画でした。 これは、種も配りましてね、喜ばれました。歴史というと政治・経済が重視さ れるけど、うちの展示は民衆の生活・文化です」 −おもしろいですね。 「国立歴史民俗博物館は、大学共同利用機関といい、歴史学・考古学・民俗学 の代表や大学長・研究所の代表などが運営に責任をもっています。だから、全 国の研究者の成果に基づいた展示を自由な発想でできるんです。独立行政法人 化で国と直結すれば、国がしめす『中期目標』にしたがって仕事をすると、今 までのような研究や展示が出来るか心配しています。後進者を育成する大学院 としての役割もある。国立ではあるけれど、国の指示で研究・展示をやってい るわけじゃない。その内容は、大学と同様で、自主独立の精神がありますね。 こういう機関は全国17箇所で、世界的にも注目される研究を進めています」 −いちばん危惧されることは。 「『企画・立案は国がやりましょう。実行するのは独立行政法人でやりなさい』 ということです。『企画・立案は頭』、『実行は手足』です。行政として、郵 便局でどう郵便を合理的に配るかというときはいいでしょう。学問で頭の部分 を取り上げた研究というと、ある問題を計画的に解決する問題解決型の研究が 浮かぶと思いますが、いつまでに何々やろうじゃなくて、やってるうちに、 『おうっ、こんなことがあるじゃないか』という問題発見型の研究があります。 実はこれが大事なんです。動物行動学の日高敏隆さんという、滋賀県立大学の 学長さんが国立大学にいたときに、『今なんの研究をやっているの』と私が聞 いたら、『チョウチョウの飛び方が面白い…』という。『何の役に立つのかな』 と思っていたら、今、新しい町ができ、公園をつくりますね。ところが、チョ ウチョウが飛んでこない。なぜか、彼の研究でそれがわかる。『アゲハチョウ は梢が続いているところを飛ぶ。モンシロチョウは、草地が続いたら飛んでく る』と。直ちにわれわれの生活と結びつかないようなことでも、研究者の自由 な発想で、自由にやることがすごく大事なわけです」 −なるほど。 「公務員削減と言われたとき、独立行政法人化の話が出てきました。橋本内閣 のときに10%、第二次小渕内閣で25%削減になった。どういう論理かわかりま せん。最初に数ありきです。日本の学術研究・教育が、この国際社会の中でど うあるべきか、という議論から考えているならわかるのですが」 「基本的に、歴博だけでなく大学共同利用機関の関係者は、独立行政法人化と はなじまないと思っています。文部科学大臣が『中期目標』を直接決めるには、 教育・研究の内容からして、どうしても無理があると思います」 ‐はい。 「ヘルマンヘッセがね、ノーベル文学賞を取ったときにね、イギリスで記事が なかな書けなかった。ところが日本じゃヘルマンヘッセの研究をやっている人 は沢山いる。すぐにどんな人か言える。すごいことですよね。こういう日本の 学問研究、文化を本当に大事にしないといけないと思います」 (別表)全国の大学共同利用機関 ・国立民俗歴史博物館 ・国文学研究資料館 ・宇宙科学研究所 ・国立遺伝学研究所 ・統計数理研究所 ・国際日本文化研究センター ・国立天文台 ・岡崎国立共同研究機構 ・分子科学研究所 ・基礎生物学研究所 ・生理学研究所 ・学術情報センター ・国立民族博物館 ・メディア教育開発センター ・高エネルギー加速器研究機構 ・核融合科学研究所