==> 国立大学独立行政法人化に抗して
1999.12.7 企業会計原則適用について 北海道大学教職員組合 教文部資料 はじめに 独立行政法人では、その財政状態、運営状況を明らかにするために、詳細な会計基 準を適用することが考えられている。その策定については、通則法第37条に「原則 として企業会計原則によるものとする」と規定されている。ただし、中央省庁等改革 の推進に関する方針では、「公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採 算制を前提としない等の独立行政法人の特殊性を考慮して必要な修正を加える」となっ ており、その実態は、民間企業で採用されている会計基準とは異なるものである。現 在、「独立行政法人会計基準研究会」において、会計処理の原則についての議論がな されているが、これまでに提示された方向性を確認し、予想される事態および問題点 について指摘する。引用は基本的には同研究会「中間的論点整理」および議事録から である。 1.企業会計原則導入の意図 企業会計原則は、株式会社等の営利企業を直接の対象とすることを前提に「企業会 計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたと ころを要約したもの」である。基本的には損益計算書原則と貸借対照表原則から成り 立っており、前者は処分可能な利益額、言い換えると投下した資金を回収し、発生す る剰余がどれだけかを確定するものであり、後者は運用資金の調達(自己資本か他人 資本か)内容とその運用形態(固定資産、有価証券、棚卸し資産、預金等)を示すも のである。これらの情報が開示されることにより、投資家は、個々の企業の収益能力 や将来性、安定性を判断することができる。 こうした会計原則を独立行政法人に導入する意図について、第一に上げられている のは国から負託された事業を行うに際しての国民への説明責任である。第二は「業績 の適正な評価」を行うための仕組みを制度的に用意することである。しかし、議事録 における事務局の発言を見ると、第三に財政効率化とそれを可能ならしめるインセン ティブの付与が意図されており、むしろこちらのほうに力点があるようにも思われる (「元本を如何に上手く使って業務を行っているのか」)。 2.独法会計原則の骨格 しかしながら、収益獲得を目標とする営利企業を前提とする企業会計原則はそのま ま独法に適用できない。その理由については、独法は営利を目的とするのではなく、 公共的性格を有する事務事業を実施することが目的であり、出資者やそれへの利益配 当を包含したような独立採算性は想定されていないからである、とされている。また、 独法は政策の実施主体であるため、独法独自の意思決定のみならず国の政策による活 動への規定性も考慮されねばならないことや、営利を目的としないにもかかわらずイ ンセンティブを付与するための独自の工夫が必要であることなども理由としてあげら れている。その上で現在、示されている会計原則の骨格は以下のようなものである( 主要な点に限定)。各々の事項の説明は、会計基準研究会によるものの要約である。 (1)運営交付金は負債に計上し、業務の進展に応じて収益化する 運営交付金は、独法の業務のためにキャッシュフローとして費消されることを前提 とする「渡しきりの交付金」であるが、交付金受領の時点では業務が開始されていな いのが通常であり、独法は受領に伴い国民から負託された業務を遂行する債務的負 担(義務)を負ったと考えるべきである。 (2)中期目標期間終了時点で会計上は清算(繰り越しは認めない) (3)長期利用の固定資産は、施設費として財源を措置する 施設費とは、国の予算で公債発行対象に相当する固定資産の購入にあたり手当てさ れる財源をさす。このような費目を設けるのは、拠出者としての国の意図を忠実に独 法の会計処理に反映する必要があるからであり、これによる資産購入は国の企画・立 案機能に基づくものであるため、独法の裁量の余地は少ない。 (4)損益計算上の利益は中期計画に定められた「剰余金の使途」にあてることが可 能 主務大臣の承認を受けた剰余金の処理は以上の通り。経営努力により生じた額と認 定されなかった分については積立金として整理する。 (5)減価償却は資産の適正な評価を行う評価要素としてのみ機能する 減価償却には評価要素としての機能以外に、期間損益の適正な計算を行うための費 用要素、投下資本の回収を行うという意味での金融要素という性格があるが、独法の 固定資産は必ずしも独法の収益として回収されることが予定されていない。それゆえ 独法の自己収入はそのような投下資本の対価としては不十分であり、それを損益に含 めて計算すると費用収益が不均衡になり、バランスを逸した結果になる。また、それ ゆえに金融機能も重要ではない。 (6)行政コスト 通常の営利企業なら負担すべきであるにもかかわらず独法では負担していないコス ト、例えば減価償却相当部分、無償使用財産の使用料、施設費等の利息部分などは、 行政コストとして独法の損益計算とは別に表示する。 3.検討課題 以上のように具体的な会計基準はまだ明確になっていないものの、既にいくつかの 問題点が明らかである。 (1)大学における収益をどう考えるか 会計基準は独立行政法人間のパフォーマンスを比較するために策定されるのだが、 そもそも収益を算出することができるのだろうか。定型的な業務の場合、仕事量に応 じて(例えば車検台数)収益を計算することは可能かもしれないが、そもそも公共的 なサービスをすべて数値化された収益に換算することが可能かどうかは会計学におい ても論争点の一つであるという。ましてや教育効果や研究成果を誰もが納得する形で 収益計算することは不可能であろう。 論文1本?万円、卒業生1人?万円という試算をやれば失笑を買うだろう。大学にお ける教育・研究の評価は、現在、大学改革の中で検討されている。しかし、試行錯誤 によって制度を改善している段階であり、金銭換算できるような精緻なシステムは実 現していない。それを監査対象となる国立大学の会計基準に組み込むというのは無茶 である。 (2)剰余金処理の方法 中期計画終了時に国から支給された交付金が残ったとしよう。これを剰余金として 確定するには主務大臣の承認が必要となる。ここでもいくつかの問題が生ずる。交付 金が残った原因については、独立行政法人によるコスト削減等の経営努力か、独立行 政法人の業務怠慢か、そもそもの中期計画が間違って甘く設定されていたかの三つが 考えられる。原因がどれであるかを説明・立証する責任は、独立行政法人側にあると されている。業務怠慢や中期計画が甘かったことが原因だと国が判断すれば、いった い独立行政法人側の誰が、どのような経営責任をとるのだろうか。今のところ、独立 行政法人内での責任の所在や責任の取り方は明らかではない(たとえば、部局長、学 長の任期は中期計画の5年間よりも短い)。しかし、そのような責任の回避を考えれ ば、積極的な経営努力はせずに、交付金の残を適度な金額に抑えておくのが得策となっ てしまう。そうなると効率化へのインセンティブは働かず、独立行政法人化そのもの の狙いは全く実現しない。 また、定型的業務の場合は、全国平均を算出し標準的サービス提供量と費用が確定 されるかもしれないが、教育や研究のように質が異なるものを全国一律の会計基準を 作ったからといって比較することは困難である。仮にそれを行うとすれば、質を共通 なものに還元するしかない。それは誰が、どのように行うのか。 さらに、剰余金の額によって独立行政法人のパフォーマンス(経営努力、効率化等) が評価できると考えているようだが、そのためには、厳密な会見計算に耐えうる中期 計画を策定することが必要になる。果たして、現在の科研費申請以上に「厳密」(費 用計算を予め徹底し、業務遂行手順も定型的業務のように確定したもの)な予算編成 が可能であろうか。これも非定型的な業務を主とする大学には困難であろう。 「評価する側もされる側も評価疲れにならないように」との発言自体が、この制度 の運用困難さを示している。にもかかわらず、剰余金の確定は、効率化へのインセン ティブを高めるというこの制度の根幹に位置している。 (3)交付金と外部資金の関係 独立行政法人の収入は大きくわけて、国からの交付金と、企業や民間からの外部資 金になる。交付金は独立行政法人から提出された中期目標、中期計画に基づいて、独 立行政法人、主務省、大蔵省の3者間の話し合いで決定される。中期計画に基づいて 交付金の額がいったん決定されると、それを滞りなく毎年支給するのは大蔵省の責任 となる。そのため、大蔵省が中期目標、中期計画の内容に深く介入、干渉してくる可 能性が高い。 また、今回の独立行政法人の根底には、国の財政支出削減がある。独立行政法人は 営利企業ではないので、外部資金による多額の収入がある場合は、それに見合って交 付金が減額される可能性がある。外部からの寄付金も基本的には独立行政法人の負債 とみなされる。寄付金によるファンドの設定などは許されておらず、負債となった寄 付金に見合った業績を達成しなければならない。外部資金を調達すればするほど、交 付金が減額される危険があるような会計制度は、産学連携を進めていこうとしている 国立大学には適用できない。 (4)施設費の国定 いわゆるインフラ整備は政策主体としての国の判断によるのであり、独法は口出し できないとされている。独法が独自に大学の将来構想を描いても、結局、従来通りの 財政コントロールを受けることに変わりはない。今回の独立行政法人化では、長期計 画は国が定めることを暗黙の前提にしているが、国立大学は大学側に長期計画の策定 権が保持されることを主張してきた。しかし、この会計基準を見るかぎり、大学側の 策定権は明確に否定されている。 減価償却も仮想的計算によって処理され、実質的には重視しないとされている。結 局、独立行政法人の企業会計原則なるものは、独立行政法人の長期的な維持と安定性 に関わる情報を開示する手段ではなく、日々の現金のやりくりと構成員個々の業績を 評価する手段であるにすぎない。 全体として、キャッシュフローを原則とした管理・運営であり、長期的視野に立っ た教育・研究を行う国立大学にふさわしい会計基準ではない。剰余金、外部資金、評 価額といった金額だけが独り歩きし、その金額すらも恣意的に決定、判断されかねな い危険を孕んだ制度であろう。しかし、このような会計基準が通則法によって国立大 学に強制的に適用されようとしている。このままでは国から独立するどころか、予算 誘導によって、今以上に強いコントロールを国立大学が受けることになる。国立大学 の構成員の努力で当初の中期計画が4年で終了したとしても、次期計画を前倒しする ことは許されていない。硬直化した通則法ベースの独立行政法人化は、けっして国立 大学を活性化することはない。