==> 国立大学の独立行政法人化問題を考える
国立大学の独立行政法人化問題を考える文脈の多様性 1999.12.17 第21回北大を語る会

独立行政法人化問題の3点

理学研究科 辻下 徹
以下は第21回北大を語る会で、私が話した内容の概略です。

【本日考えたい問題】
問1:独行法化は大学の危機ではないのか?
問2:納税者への本当の義務は何か?
問3:何をすべきか?

【問1:独行法化は大学の危機ではないのか?】 独立行政法人化は国立大学にとっての空前の危機である。しかも色々な意味で。 (a)自治・自由が失われる。文部省・総務庁・大蔵省により強い干渉を受ける。 しかし、既に実質失われているとも言えるので、この危機は論点にはならない。 (b)改廃につながる危機。通則法では単に「審議会」と書いてあるが、これは総務省 が担当することが別の所に明記されている。総務省による評価は(財界の考えを取り 入れて)学術的観点を意図的に排除する危険性がある。 (c)大学改革(創造的破壊)政策の完成という危機。経常経費の削減と公募型研究費 の増大により進められてきた市場主義による研究活性化の政策により知の共同体が形 骸化してきたが、そのトドメが独立行政法人化と言える。公募方研究費に(給与まで 含めて)完全移行することは学問の自由を破壊してしまわないか。 (d)アイデンティティの喪失という危機。独立行政法人化反対する研究者は腰抜けと 言うジャーナリストがいるが、そう言われて国の高等教育・学問の有機的全体性を 破壊する独立行政法人化に反対しない方が余程腰抜けではないか。 (e)行為を伴わない認識を認識と錯覚する危機。(これは言い忘れたこと) 「自分も危機だとわかっているが、状況を冷静に見れば甘受するしかないことは明ら かだ」という態度をとる人が多い。「危機だとわかる」ということは「危機を回避す る」という行為と不可分であると思うのだが「認識」が「行為」と無関係に成立する と考えることは大学における教育・研究全体をゆがめていないか。 (f)四面楚歌という危機。 大学の持つ社会的役割を強く意識してきた大学人はどれだけいたか(少なくとも私は ほとんど意識してこなかった)。独立行政法人化による大学の危機を聞いても、大学 の外の多くの人は無関心か、当然と考える。 【問2:納税者への本当の義務は何か?】 この問いは、政府側から絶えず突きつけられる。 (a)大企業という納税者に対しての寄与も大学の重要な機能だが、それが大学のすべ ての機能になってよいか。 (b)大企業以外の納税者(大企業社員の大半も含む)に対しては、研究に励み成果 の意義を真剣に市民に向けて説明することと、研究で培った創造的知的態度を学生に 伝えることにある。さらに、強者の立場に立たず苦境に立つ者に対し知恵を無償で提 供することに義務がある(それを怠ってきた人間としてこのようなことを言う資格が ないが)。今は死語になってしまったが「知的エリート」としての矜持を取り戻し、 noblesse oblige を忘れずに生きなければなるまい。 (日本の教育行政の正反対を説くユ ネスコ「21世紀に向けての高等教育世界宣言」 に大学人は耳を傾けよう。また、「人間にやさしくない大学」を指摘する教育環境研 究所の論説「大学は何のために存在するのか〜「大学の社会貢献」を考える」 http://www.erix.com/bunko/omuni/omuni18.htmにも耳を傾けよう。) (c)世界の動向を根底から吟味。 これは大企業も含めたすべての納税者に対する義務である。 与えられた前提からの予測や推論も大学の機能だが、より重要な使命は前提や枠組自 身を吟味することにある。たとえば、独立行政法人化の思想的基盤となっているグロ ーバリゼーションや市場主義自身(一部の人の楽園と多くの人々の地獄を産みだして いる思想自身)を広汎に批判しあらゆる場で主張していくことも大学の義務ではない か。 【問3:何をすべきか?】 独立行政法人化は全力を挙げて回避しなければならない。それは今国立大学にいる教 官の緊急の<義務>である。しかし、独立行政法人化への道から国立大学が逸れない ようにいろいろ(未知の)工夫されていると考えるべきである。 (I)前提を疑うこと (I-a)国立大学制度に留まるときに本当に困るのはだれか? (I-b)国立大学が国家機関に留まるとき文部省に隷属するしかないのか? 文部省による縛りから逃れるために法人化や民営化を望む声があるが、問題の 履き違えではないか。 (I-c)公募型研究費への全移行は危険 余裕・遊びがないところに創造はあり得ず、科学技術立国などあり得ない。 現在の最大の問題点である学術的相互批判の欠如は、公募型研究費に移行しても 変わらない(学術的批判ではなく権謀術数が横行しかねない)。 (II)納税者に対する<真の義務>を果たす決意 (II-a) 独法化による高等教育全体の崩壊を食い止めることが緊急の義務。 (II-b) <民学連携>の輪を広げる。 以上が理念です。それでは具体的にはどうすればよいか。 高等教育・文化の維持は防衛と同等の重要性を持つ国の使命である。国立大学 の独立行政法人化政策は国がその使命を故無く放棄するものである。我々はこの 政策の誤りを国民に向けて明確に指摘すると共に、その政策の進行を阻むことに 全力を尽くす必要がある。 それと同時に、独立行政法人制度の細部が決まらない段階で検討が進み国会を 通ってしまった国立研究所等の59独立行政法人個別法の廃法が急務であるこ とも同時に国立大学は主張しなければならない。(cf. 藤本 光一郎氏「国立 行政法人化の先行する国立研究機関の現場から」1999.12.26 http://www.asahi-net.or.jp:80/‾bh5t-ssk/net/net991226fuji.html ) ともかく、大学が自らの意思で独立行政法人化の道を選んだという形を取ること だけは絶対に避けなければならない。押し切られるとしても、あくまで政治家と 官僚が自分の都合で強引にやったこと、国民もマスコミも無思慮に面白がって 賛成したことであって、大学が望んだことではないという経緯が明確に残らな ければ、独立行政法人大学が将来飛んでもない目に遇うとき(遇うに決まって いるが)、国民は自業自得と思って誰一人見向きもしないであろう。当事者が 何も言わなければ、他の人は当事者にとって良いものと思うだけである。