1.科学技術基本計画の策定
昨年11月に制定された科学技術基本法に則り、本年の7月に「科学技術基 本計画」が閣議決定された。基礎研究の振興による人類への貢献、研究開発に よる経済フロンティアの拡大に対する期待から、政府研究開発投資の抜本的拡 大(計画期間内(平成8年度〜同12年度)における科学技術関係経費の総額 として17兆円)と新たな研究開発システム(柔軟かつ競争的で開かれた研究 開発環境)の実現が同計画の柱となっている。
我が国の研究開発活動の現状を総括すると以下の通り。
| 研究者数(万人) | 37.7(会社等) 23.6(大学等) 4.7(公的研究機関) 注1) |
|---|---|
| 研究費(兆円) | 10.7(民間) 2.9(政府) 注2) |
| 政府負担割合(%) | 21.5(日本) 36.1(米国) 注3) |
一方、同計画の審議の過程で、現状の研究開発体制、関係諸制度を放置した ままでは、創造的な研究開発は進展せず、また、成果も効率的に経済・社会に 還元されないとの問題認識も共有され、研究開発に係る規制緩和の推進、柔軟 かつ競争的な研究環境の整備の必要性が指摘された点は、殊更意義深い。
2.研究開発に係る規制緩和
我が国の研究開発環境を論じるとき、特に、公的研究機関による研究、公的 資金による研究については、多くの規制が効率的な研究実施の制約となってい る。公務員の定員、兼業規制、大学での研究活動の場所的制約、予算の執行に 係る制約、事務手続きの煩雑さ・非効率等枚挙にいとまがない。同計画では、 柔軟かつ競争的な研究環境を整備するため、規制緩和の必要性を具体的に指摘 している。主要な規制緩和事項は次の通りである。
(1) 兼業規制の緩和
大学、公的研究機関等が保有する研究成果を円滑に他の組織、例えば民間 企業に移転するには、学術論文、特許等の技術情報による移転のみでは実効 性は低く、共同研究、技術指導等の直接人を介した技術移転が不可欠である。 欧米の大学等では、公立私立を問わず一定のルールの下で兼業は認められて いる。同計画では、勤務時間外での技術指導等の兼業は原則許可とし、経営 活動への直接参加は今後更に議論が必要としている。
(2) 労働者派遣業法の対象業務の拡大
国公立大学及び公的研究機関には、活動する人員数についての制約、いわゆ る定員の制約がある。研究活動を担うのは研究者や研究補助者であることは自 明であるが、公務員組織は法律で規定される定員数で管理されるので、機 動的な研究活動を行うことに制約を受ける。この定員による制約を資金の問 題に転換する仕組みが、労働者派遣業法の活用である。つまり、必要な研究 者、研究補助者を派遣事業者に登録し、研究実施機関に派遣することとする と、研究実施機関側からは役務調達として研究費の支出の中でこれら人員を 確保でき、かつ、人員との直接の雇用契約を有しないので定員とはカウント されないこととなる。役務調達に正当な対価を支払うので、資金の問題は生じ ることとなる。今年度中には労働者派遣業法の対象業種として「研究業」が 追加される。
(3) 産学共同研究における民間施設等の活用
従来、産学共同研究は原則大学内で行うものとされきた。共同研究は大学の 教育研究の一環として行うものであり、特別の事由がない限り大学内で実施 すべきとの考えが基本となっている。同計画では、民間企業との人的交流の 促進、民間企業が保有する施設等の活用等を図るため、現行規定を見直し、 民間研究施設等においても共同研究に従事できる場合を拡大するとした。な お、同計画は、大学教官が研究休職により民間研究施設等で研究に従事する 場合、休職期間中の退職手当算定上の不利益を是正することも指摘している。
(4) 知的財産の取扱い
知的財産については、国立研究所では職務発明規程により全て国に帰属し、 国立大学では原則教官自身に帰属するが、特殊な試験機器を利用した研究あ るいは特別な研究費を使った研究による知的資産は国に帰属することとされ ている。同計画では、知的財産については、研究者個人への帰属を進めると ともに、共同研究相手等特定企業に対し優先的な実施権を付与する等知的資 産の実効ある利用環境の構築についても言及している。
科学技術基本計画が策定され、関係省庁では制度改革に向け具体的な作業が 進められているが、産学官連携を現実に進めていくためには、規制緩和だけで なく、関係者の意識改革、産学官の連携に係る慣行の是正等が不可欠である。
(1) 大学・公的研究機関の社会的役割の確認
通商産業省から産業基盤整備基金を通じてアーサー・D・リトル(株)に 委託した調査 (産学連携から見た日米技術系大学の比較・評価−1996年)に よれば、「米国大学では、大学において蓄積された知的資産を産学連携を通 じて醸成し、企業を通じて実用化していくことにより、社会に貢献していく との姿勢が明確になっている。日本においては、大学に蓄積された知的資産 をどのように社会の中で活用していくのか十分な議論がなされておらず、学 会への論文発表のみに依拠したものとなっている。」と指摘している(かか る指摘は、公的研究機関にも当てはまる)。
大学・公的研究機関の現行体制・慣行との対比をもって、改革事項を具体 的に示せば、次の通りである。
(2) 産学官連携を推進する上での民間企業の役割・責任
ともすれば、民間企業は、大学や公的研究機関の活動に対し、一方的かつ 批判的な姿 勢を示しがちである。産学官連携は双補的・相乗的な取組みであ り、民間企業には、大学・公的研究機関に対し責任あるパートナーとして自 覚が求められ、少なくとも、以下の基本認識の上に立って産学官連携を進め てもらいたい。
| (公開公報件数) | (登録件数) | ||
| 1.東海大学 | 24 | 1.カリフォルニア大学 | 180 |
| 2.大阪大学 | 11 | 2.マサチューセッツ工科大学 | 108 |
| 名古屋大学 | 11 | 3.テキサス大学 | 99 |
| 4.近畿大学 | 8 | 4.スタンフォード大学 | 62 |
| 5.早稲田大学 | 7 | 5.ウイスコンシン大学 | 51 |
| 5.東京工業大学 | 7 | 6.カリフォルニア工科大学 | 46 |
| 7.東北大学 | 6 | 7.コーネル大学 | 41 |
| 8.広島大学 | 5 | 8.ペンシルバニア大学 | 38 |
| 8.名古屋工業大学 | 5 | 9.アイオワ州立大学 | 37 |
| 10.松本歯科大学 | 4 | 10.ニューヨーク州立大学 | 36 |
| 1.カリフォルニア大学 | 50.210(千ドル) |
|---|---|
| 2.スタンフォード大学 | 37.700 |
| 3.コロンビア大学 | 26.746 |
| 4.ミシガン州立大学 | 14.557 |
| 5.ワシントン大学 | 12.300 |
欧米の研究開発体制を見ると、大学で実施される基礎・基盤研究の成果を経 済・社会に円滑に移転するための仕組みが、考案・実施されている。リエゾン・ オフィス(LO)あるいはテクノロジー・ライセンス・オフィス(TLO)と 呼ばれるものであって、その機能及び成立要件は以下の通りである。
(機能)
5.産学官連携の更なる展開
産学官連携は、これまで工学領域、それも研究中心に議論が進められてきた。 産学官それぞれの現場感覚からしても馴染みやすい領域との理解からだろう。 今後は、工学のみならず他の学問・研究領域、更には大学での教育課程につい ても産学官連携を図り、大学・公的研究機関と民間企業(ひいては社会そのも の)との認識等の乖離を縮め、双補的・相乗的な取組みにより、高いレベルの 知的創造活動の連鎖を期待したい。
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