参考資料



「国際協調に向けた我が国の産学連携の実態 と政策課題に関する調査研究」

−概要版−



目次

1.調査の目的と方法

【調査の目的】

わが国の企業は、欧米の基礎研究をベースにテーマを限定して効率的に人材や 資金を投入するキャッチアップ型の研究開発を行い、結果として早期に高品質・ 低コストの商品開発を行ってきた。こうしたわが国企業のやり方に対しては、 欧米から基礎研究ただ乗り論との批判の声があり、海外の基礎研究の成果をベー スとした産業分野の開拓は難しくなっており、わが国においても、基礎的・独 創的研究に対して人材や資金を投入して独自の研究開発を行うフロンティア型 の研究開発が求められている。

このような状況のもと、独創的な研究開発を行っている大学等の頭脳と企業の ニーズを的確に結びつけ、大学等が有しているポテンシャルを積極的に企業の 研究開発へと結びつける産学等の交流・連携を推進することは、フロンティア 型の研究開発を進める上で不可欠である。

しかし、現状では産学の連携が効果的に機能しているとは言い難く、大学の成 果を効果的に結びつけている米国とは対照的である。また、企業が産学連携を 自社の研究開発にどのように位置づけ、どのようにマネジメントし、活用して いるのかという産学連携の実態が明確になっていない。このため、本調査にお いては、企業と大学等が個々に連携している産学連携において、企業の産学連 携に対する考え、取組み方、マネジメントの方法を中心に調査を実施した。

【調査の方法】
産学連携を実施している企業に対してヒアリング調査を実施した。

【調査項目】
○ 産学連携の取組
1.産学連携を行う理由
2.産学連携の取組
○ 産学連携(共同研究・委託研究)におけるマネジメント
3.社内での検討プロセス
4.管理方法
5.評価方法
6.研究の成果の活用方法
7.企業が考える産学連携における問題点



2.産学連携事例の整理

(1)産学連携の取組み内容の整理(表)

(2)マネジメント方法の整理(表)

(3)連携の取組み、マネジメントによる 調査対象企業の整理(表)


3.産学連携の取組み事例

産学連携の取組みは、「大学と対等な共同研究」、「大学の指導による共同研 究」、「大学への委託研究」、「大学の技術指導」、「大学からの情報収集」 の5つに分類できる。

(1)大学と対等に共同研究を実施している企業

長年にわたり大学と交流を続け、自社の研究開発に活用している企業電気機器 D社は、戦後、静岡大学の成果を活用して事業を行うために設立された企業で あり、静岡大学の施設の利用などを通して同大学との密接な関係を築き、自社 の技術力を向上させ、現在、同社の光技術は世界の最先端と評価されている。 同社は大学とは資金を提供して指導を受ける形ではなく、同社の最先端の機器 を武器に大学と対等な形で、東京大学や京都大学などの国内大学だけでなく、 マサチューセッツ工科大学やカリフォルニア工科大学、ロンドン大学など欧米 の大学とも共同研究を進めている。

(2)大学から指導を受けることを期待し、共同研究を実施している企業

● 研究開発を通した連携に重点を置く方針に転換した企業

自動車A社では、従来リクルートを主目的に奨学寄付金を中心とした交流を進 めてきた。最近になり、奨学寄付金を基本的に廃止し、大学との連携の目的を 明確にした上で、研究員を派遣する場合は共同研究として、研究員を派遣しな い場合は委託研究として契約を交わし、材料研究などの基礎的な研究に関する 産学連携を実施している。

電気機器A社では、研究開発の効率性の向上に対する要求や研究内容の専門性 の強まりに伴い、従来の一企業で全ての研究開発を行うことが困難と判断し、 5〜10年以上先の基礎的な研究を行うことを目的に、共同研究を中心とした産 学連携を行い、大学の研究者の持つ豊富な知識と人材を活用している。

●大学との交流を深め社内の重要な研究を大学と連携して行うようになった企業

建設C社では、昭和50年代後半からリクルートを目的に大学と交流を始め、そ れから研究支援のための奨学寄付金を行うなど徐々に関係を深め、現在では社 内の重要な研究についても共同研究や研究委託を行うようになっている。

●長年にわたり自社の研究開発に産学連携の成果を活用している企業

建設業界では、学会や施工の際設置される委員会、新工法の評価などで大学の 研究者と交流する機会が多く、建設A社ではこのような場を通して、大学の研 究者との交流を深め、共同研究や委託研究などを行っている。

(3)大学に研究委託を行っている企業

●長年にわたり自社の研究開発に産学連携の成果を活用している企業

電気機器B社は、戦前に東北大学金属材料研究所の成果を事業化するために設 立された企業であり、長年にわたり技術指導や委託研究、研究員派遣などを通 じて東北大学(または財団法人半導体研究振興会)との密接な関係を築いてお り、現在では半導体材料の研究などに活用している。

●大学に委託しなければならない分野を中心に交流している企業

化学A社では、新規事業である医薬品を中心に研究委託を進めている。一方従 来からの事業分野においては、リクルートや大学とのネットワークの維持を目 的とする委託研究や奨学寄付金が中心である。

(4)大学から技術指導を受けている企業

●長年にわたり大学と交流を続け、自社の研究開発に活用している企業

機械A社は、設立当初から、東北大学金属材料研究所本多光太郎所長の指導を 受けてベローズの研究を行い、製品開発を進めてきた。現在まで東北大学と技 術指導や研究員の派遣を通じて密接な関係を築いている。最近では、東北大学 工学部の教授からの技術指導により世界最初の超清浄バルブの開発に成功し、 現在同社の主要事業となっている。

●中小企業が出資し新会社を設立し、大学生まれの技術を事業化したケース

機械D社は、技術の事業化を目的に尼崎市内の中小企業16社が出資して設立さ れた有限会社である。同社では、市場開発及び技術開発に関するプロジェクト を立ち上げ、中小企業が1社では交流が難しい大学や研究機関と交流を、プロ ジェクト参加企業のネットワークを活用して進めている。そして、同社の社長 の個人的な関係からアイオワ大学と交流ができ、出資企業の1社が同大学内に 研究所を設立したことから関係が深まり、技術指導を受けて同大学からのスピ ンアウト企業の製品を事業化した。

●自社研究開発のリーダーを養成するために大学に研究員を派遣している企業

金属製品B社は、旧国鉄出身の研究者が設立した企業であり、名古屋大学や東 北大学へ研究員を派遣して博士号取得を通じて、研究の取り組み方を学びネッ トワークを築くことにより、社内の研究開発のリーダーを養成している。また、 技術習得のため工業技術院機械技術研究所や高エネルギー物理学研究所に研究 員を派遣し、技術指導を受けている。

(5)大学から情報収集を行っている企業

●自社の開発の方向性を調査するために大学と交流して情報収集を行っている企業

金属製品A社は、戦前に東北大学金属材料研究所の成果を事業化するために設 立された企業であり、昭和40年代までは金属材料研究所や工学部などへ研究員 の派遣や技術指導による産学連携を行っていた。大学の研究対象が同社の技術 分野とは離れていくについれて、大学との交流は少なくなり、現在では自社の 開発の方向性に関する大局的な助言が得られればよいと考え、情報収集のため、 東北大学工学部との連携が行われている。

●学生のリクルートを主目的に大学と交流している企業

繊維製品A社は、リクルートに関して、研究開発戦略において重点領域を定め、 その領域の研究室を特別研究室としてリクルート目的で奨学寄付金を拠出して いる。しかし、産学連携による研究開発に関しては、知的財産権の扱いや大学 の研究レベルについて疑問を持っており、医薬品以外は大学との研究交流はほ とんど進めていない。


4.大学との共同研究・委託研究のマネジメント事例

(1)大学との共同研究・委託研究実施までの社内での検討

【検討プロセス】
社内での検討プロセスは以下の4つに分類できる。

  1. 研究者の判断で進めることができるケース
  2. 研究企画部門はあるが研究担当部門で決定し、 研究企画部門へは報告するケース
  3. 研究企画部門で検討するケース
  4. 研究企画部門がなく、社長や役員の判断で進めるケース
【検討項目】
大学との研究についての検討項目は、社内研究のような細かい項目はない。産学連携を 成功させるには、管理よりはテーマと相手先の人選が重要であると考えており、
  1. テーマが大学との研究に相応しいかどうか
  2. 相手先が適当であるかどうか
の2点を中心に検討している企業が多い。

【相手先の選定基準】
相手先として選ぶ研究者は、以下のケースが多い。

  1. 学会のボス的な存在の研究者(幅広いネットワークを持っている)
  2. 海外での研究歴が長い研究者(企業との連携に慣れている)
  3. 企業の研究所に在籍していたことのある研究者(企業の研究に詳しい)
【契約方法】
契約方法は大学側の意向で決定されるケースが多く、以下の理由から奨学寄付 金を活用するケースが多い。
  1. 大学側の手続は、共同研究や委託研究の場合に煩雑になる。
  2. 大学の研究者に帰属する研究成果を譲り受けることができる。
しかし、調査した企業の中には、電気機器A社のように研究する場合は共同研 究、指導を受ける場合は奨学寄付金と決めている企業や、自動車A社のように 奨学寄付金による研究交流を廃止し、共同研究や委託研究で契約する方針に転 換した企業もある。

(2)大学との共同研究・委託研究実施段階におけるマネジメント

【自社研究員に対するマネジメント】

研究経過の把握については、概ね研究担当者が月1回の頻度でレポートやミー ティングにより進捗状況を管理者に報告し、企業側の管理者は半年に1度、大 学側を訪問するという形がほとんどである。管理者の確認項目は、自社の目的 に合致した研究をしているかと進捗の状況の2点である。ただし、地元の大学 に派遣する場合は、上司への報告、大学への訪問の頻度も多くなり、より密接 な意志疎通が図られている。

【大学の研究者】

企業側が大学側のスケジュールを管理しているところはほとんどない。企業側 は、大学の指導を受けていると考えているからである。たとえ契約通りに大学 側が対応していなくとも、強制的に管理することはしていない。大学側も管理 されることを嫌がる傾向がある。そのため、繊維製品A社や電気機器A社のよ うに管理すること自体をあきらめている企業もみられる。

大学側と折衝する場合は、担当者の直属の上司または研究所長などが対応する が、企業側の考えを伝えるだけである。企業の方針が変わった場合でも研究を 中止することはなく、そのまま契約期間まで実施させる。このような対応を取 る理由は、産学連携の1テーマの金額自体が高額ではなく、期間は1年である ことが多く、研究員を派遣している場合は大学で研究すること自体が研究員の 教育になるからである。そして何よりも、大学との関係がうまく行かなくなる ことを危惧するからである。

(3)大学との共同研究・委託研究の評価

研究終了時点で、今後研究開発を進めて商品化、事業化へ展開できるかどうか を評価する。それ以外は、具体的には行わないという企業が多い。その理由は、 大学と実施している研究なので、企業が大学の研究者を管理できない、大学の 研究者が管理を嫌がることもあり、社内研究とは全く異なる研究であると考え ているからである。

(4)問題点

【制度面】

知的財産権については、大学との共同研究や大学への研究委託の成果の取扱い は、国との共有であり、優先実施権も完全とはいえず、企業にとってメリット にならない。国家公務員法の規定により、大学の研究者が企業で研究すること が難しいので、大学の研究者との人的な交流が進まず、企業の研究開発につい て知らない研究者が依然として多い状況にある。

【大学の研究の方向性】

大学の研究者は製品開発に対する関心が低いので、製品開発に関する研究の協 力を依頼することが難しく、依頼するのは基礎的な研究にならざるを得ない。 企業の研究開発はスケジュールに沿って進めるが、大学ではスケジュールに沿っ たマネジメントが行われていないので、製品開発のようなスピードが重要にな るテーマを大学と協力して進めることは難しい。


5.産学連携により成果を上げられた事例

産学連携により成果を上げている事例として、以下の事例が挙げられた。

(1)大学と対等に共同研究を実施している企業

●長年にわたり大学と交流を続け、自社の研究開発に活用している企業

電気機器D社は、世界最先端の同社の光技術を武器に、この技術を応用、また は使用する共同研究を幅広く実施している。同社では、自社の研究員の意欲が あれば、大学との共同研究は自由に行うことができる。相手は、同社と同じよ うな研究を実施している大学ではなく、バイオや医療などのあくまでも異分野 の研究を行っている大学と共同研究を行う。しかも、大学から指導を受けるの ではなく対等な形で実施している。

○ 成果を上げるに至ったポイント

(2)大学から指導を受けることを期待し、共同研究を実施している企業

●学会発表から情報収集し、産学共同研究へ展開する企業

電気機器A社では、新デバイス分野を中心に、学会発表などの情報収集により、 5〜10年先を想定した基礎的な研究において、オリジナルな研究成果を期待で きる有望なテーマについて大学と共同研究を実施している。

○ 成果を上げるに至ったポイント

(3)大学に研究委託を行っている企業

● 大学の研究者に研究を委託し、製品開発を進めている企業

機械B社では、経営者の1人が参加したシンポジウムのパネラーとして同席し た大阪大学教授を通じて、その研究室の講師と知り合いとなった。その研究室 の非常勤講師や助手と酒の席で出たテーマ(測定器)について、非常勤講師に 研究を依頼する形で研究開発を進め、現在ではプロトタイプの製作まで来てい る。

○ 成果を上げるに至ったポイント

(4)大学から技術指導を受けている企業

● 大学の研究者からの技術指導により製品を開発し、自社の重要な事業に育て上 げた企業

機械A社は、東北通産局の委員会で同社の技術者と東北大学工学部教 授(当時助教授)が同席したのがきっかけで、東北大学工学部で設置した半導 体製造のクリーンルームで使用するバルブを作ることになり、その教授の指導 を受けながら世界初の特殊精密バルブ開発した。現在では、この製品の事業化 を成し遂げ、同社の主要事業部となっている。

○ 成果を上げるに至ったポイント

● 中小企業が出資し新会社を設立し、大学生まれの技術を事業化したケース

機械D社は、技術の事業化を目的に尼崎市内の中小企業16社の出資により設立 された有限会社であり、市場開発及び技術開発に関するプロジェクトを立ち上 げ、中小企業が1社では交流が難しい大学や研究機関と交流を、マークテック ジャパンとしてまたはプロジェクト参加企業のネットワークを活用して進めて いる。その中で、同社の社長を通じて個人的な関係からアイオワ大学と交流が でき、出資企業の1社が同大学内に研究所を設立したことから関係が深まった。 そして、技術指導を受けて同大学からのスピンアウト企業の製品を事業化した。

○ 成果を上げるに至ったポイント

●研究室への製品納入を通じて交流が営業担当から研究者へ拡大していった企業

金属製品B社では、同社の製品を東北大学や名古屋大学、理化学研究所、高エ ネルギー物理学研究所などに納めることを通じて、研究者と同社の営業担当が 知り合いとなり営業担当を通して、または研究室が主催する取引先とのパーティ で社長を通して、研究者同士の交流が築かれるようになった。現在では自社の 研究担当のリーダーを養成するために大学に研究者を派遣している。

○ 成果を上げるに至ったポイント


6.まとめ

産学連携に関して、調査した企業のほとんどが、自社の研究開発に大学の力を 活用したいと考えていた。大企業の中では、依然としてリクルート中心の連携 を進めている企業がある一方、研究開発中心の連携へ方針転換した企業も多く、 基本的に奨学寄付金を廃止した企業も現れた。また、中堅企業の中には、長年 にわたり大学との連携を続け、自社の研究開発や製品開発に活用している企業 も多い(特に東北大学を中心とした仙台地域の企業)。このように、わが国に おいても、一般的な傾向としては研究開発を中心とした産学連携が進められる ようになりつつあるといえる。しかし、わが国の産学連携による研究開発では、 5〜10年先の基礎的な研究が中心となっており、米国のように基礎的な研究だ けでなく製品開発に至るまでの幅広い領域において産学連携が進められている のとは対照的である。わが国においてフロンティア型の研究開発を進めるため には、米国のように幅広い領域で産学連携による研究開発が行われるようにな らなければならない。

そのためには、以下のことが求められる。

(1)産学連携による研究開発におけるマネジメントの実施

現在の産学連携による研究開発では、企業側が主体となって研究開発のマネジ メントを行うことが難しいと共に、基礎的な研究が中心であり、製品開発のよ うにスピードが要求される研究はほとんど行われていない。そこで、産学連携 により企業の期待に応えうる研究テーマや期間で研究開発を行うためには、企 業と大学間の協議により決められたスケジュールに沿って研究開発を進めてい く必要があり、産学連携においてもマネジメントの手法を導入することが求め られる。

(2)産学連携による研究開発における実施形態や兼業規制の見直し

現在、国立大学と産業界との研究協力制度(共同研究、委託研究)による研究 開発においては、大学内で研究しなければならないことになっており、また国 家公務員法により大学の研究者が兼業として企業内で研究することは難しい状 況にある。大学の研究者が企業で研究することは、自身の能力の活性化に寄与 でき、企業のニーズや研究開発に対する考え方など企業の研究に対する理解が 深まるなどのメリットがある。産学連携を成功に導くには、今までの産学連携 における研究開発の実施形態や大学の研究者の兼業規制などを見直すことが必 要となる。

(3)知的財産権の取扱いの見直し

産学連携による研究開発の成果の取扱いについて、現状では特許権、実用新案 権についてしか規定がないこと、権利の取得・維持費用は全て企業負担である こと、優先実施権の付与期間が短いこと、守秘義務規定がないことなど、企業 にとって大きなメリットとは言えず、重要な研究を共同研究や委託研究により 実施することができない。このため、著作権などの他の権利についても規定を 整備すること、共有特許の取得・維持費用について国も持ち分に応じた費用負 担にすること、優先実施権の付与期間を長期化すること、守秘義務規定を整備 することなど、知的財産権の取扱いについて検討する必要がある。

(4)大学の研究者に対するインセンティブの付与

米国では、大学における研究者の評価項目の1つに産学連携があり、それがイ ンセンティブとなって産学連携が促進されている。わが国では、大学教官に産 学連携に対するインセンティブが少ない。産学連携を推進するには、産学連携 の実施状況を大学の研究者の人事評価の対象とすること、特許権を大学との共 有にすることなどにより、大学の研究者に対するインセンティブ付与を検討す る必要がある。


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