2001.1.27
研究ノート『経済学論集(鹿児島大学経済学会)』第53号(2000年11月)、215-267頁。

国立学校特別会計制度と大学運営

―国立大学の独立行政法人化の問題点―

皆村 武一(鹿児島大学)

 

目次

はじめに
1. 「国立学校特別会計」制度について
2. 国立学校特別予算の推移
3. 国立大学等の施設整備の現状と課題
4. 独立大学法人化と国立学校特別会計制度をめぐって
5. 鹿児島大学の予算と教育
6. 鹿児島大学のバランスシート
むすび
参考文献

はじめに

 大学は、学術研究を発展させるとともに、その成果を体系的に教育することにより 、次代を担う人材を養成するという大きな使命を果たしている。その他、公開講座や 公的機関の各種委員、産業界との連携・協力等、社会サービスも積極的に行っている 。

 文部省編『平成9年度 我が国の文教施策』も述べているように、「大学における 学術研究の成果は、広く社会の発展や人類の幸福のために還元されるべきものである 。このような大学の使命ゆえに、各国において大学が公的な支援を受け、学術研究が 様々な助成を受けているのは、学術研究の公共財としての特性に基づくものであり、 学術研究を推進することは、未来への先行投資と考えられる」のである 。

 昭和37年度の『教育白書ー日本の成長と教育ー』によると、「教育は単に経済の 発展に寄与するという観点だけでなく、将来の社会に生活する人間像を目指し、広い観点に立って教育の使命を考えることこそ必要である」としつつ、大学や学術研究の 役割については、次のような分析を加えている。

1.「単に物的資本の量と労働人口の量とを増すことによる生産の増加よりも、飛躍 的な科学・技術水準の向上と、その広範な普及により、生産の増加が急速に伸びてき ているのが、今日の技術革新による経済成長の実態」であり、「科学的創意、技術的 熟練、労働者の資質、利用しうる資源を完全に活用しうる人間能力等」が鍵を握って いるが、その開発は「教育の普及と高度化に依存することがきわめて大きい」。

2.「高度の生産性をもつ設備・機械をつくりだす人々、またこれを操作する人々、 さらにこれらの物的資本を労働力と有効に結びつける組織と経営力をもつ人々があっ て、はじめて現代の産業は高い生産力を伸ばし続けることができ」、このような「人 間の能力の高度化が積極的に意図される」必要があるが、その「主役を果たすものこ そ教育にほかならない」。

3.「技術革新は高度の学術研究に基づくもので、開発研究、応用研究とともに、基 礎研究の重要性をますます強め、高度の研究者の育成を根本において必要とし」、「 生産技術の高度化はすぐれた技術者・技能者の養成を強く求めている」ため、「高等 教育機関において理工系部門を拡充することと、その研究体制を充実すること」等が 中心的課題であるが、「もちろんこのことは狭義の専門的知識や技術の習得のみを意 味するのではなく、広い基礎学力と豊かな一般教養を修めた、進展する産業社会の科 学者・技術者の養成でなければならない」。

 したがって、社会経済の発展にとって、大学や学術研究は、いわば要(かなめ)の 地位を占めるものといえよう。特に、キャッチアップ型の発展戦略が過去のものとな り、資源・エネルギーの制約に加え、少子高齢化が急速に進む中、大学において、民 間では十分な取組が期待できない基礎的・独創的な研究を推進するとともに、その成 果を教育・人材養成に積極的に活用していくことが、我が国の未来を拓く原動力とな るのである 。

 平成10年4月発行の経済企画庁経済研究所編『エコノミストによる教育改革への 提言』(教育研究会報告書)も経済的な側面から教育問題を取り扱っている。本報告 書は、教育問題に経済の論理を持ち込むことには「効率万能ではないか」という批判 もある。しかし、本報告書の意図する経済の論理とは「限られた資金をもとに、消費 者のニーズを最も的確に反映した質と量のサービスを提供する」という意味であり、 これは現在の我が国教育に求められている重要な視点の一つにほかならないからであ るという 。大学あるいは教育も政治・経済・社会の動きとまったく無関係ではあり えないであろう。筆者は、同報告書の基本的な主張に必ずしもに賛成するものではな いが、批判的検討の必要性を感じている。

 同報告書は、教育改革を他の改革と整合的に進めるという考え方の下で、我が国の 高等教育システムに対して提起されている問題点を改善し、グローバル・スタンダー ドに沿った形での整備を進めるに際しては、(1)高等教育における政府の役割の明 確化、(2)競争の活発化によるシステムの効率化、(3)市場メカニズムにより人 材需要の変化に柔軟に対応できるシステムの構築、という3点を目標として掲げるべ きことを示している 。

(1)の政府の役割に関しては、外部性(研究活動などが社会的便益を生むこと)、 資本市場の不完全性(低所得者にとって教育費の借入が難しいこと)という2つの市 場の失敗の是正に限定する。しかしながら、高等教育との関係が特に深い科学技術研 究については、十分な資金、人材の供給が可能となるよう環境整備に努めること、第 2点については、教育機関や教員の間に競争原理を導入すること。現在の規制その他 の政策は、既存の教育機関やその教職員の経済的な安定を保障しており、消費者に質 の高い教育を供給するための競争をむしろ阻害している。第3点については、市場メ カニズムにより人材供給の変化に柔軟に対応できるシステムを構築すること、を目標 とすべきであるとしている。

 その上で、具体的な政策課題として、公的規制、公的補助、国立大学と私立大学の 関係という3つの手段の問題を取り上げている。報告書は、結論として、「長期的に は、公的規制は撤廃し、公的補助は研究プロジェクトへの補助と奨学金に重点を移し 、大学の形態によらず競争条件を同一として、『良い教育を提供する大学では、消費 者がそのために必要なコストを負担する』という他のサービスでは当然の関係が成り 立つようにすべきである。しかし、こうした目標の達成には大学評価、学生へのセー フガード、国立大学運営の透明性といった諸条件が前提となることから、短期的には これらの整備をすすめつつ、改善を急ぐべきところから着手していく必要がある」と 述べている。

 同報告書の要旨はだいたい以上のようなものであるが、今日の教育、ここで問題に している大学教育についても、多くの改革すべき問題を抱えていることはいうまでも ない。しかしながら、同報告書が主張するような「市場万能」・「効率万能」主義で は、文化的・民主主義国家の発展の重要な一翼を担う高等教育の将来は危ういものに なってしまうであろう。教育こそ「国家百年の計」といわれるように、国家的政策の 重要課題とすべきだと筆者は考えるのである。とはいえ、われわれは国家財政及び国 立大学財政に無関心であっていいということではない。限られた資源を最大限に活用 して、最大の効用を社会に還元していくことに努めなければならないのである。


1. 「国立学校特別会計」制度について


2. 国立学校特別予算の推移

...

 平成11年度の教育研究基盤校費は、教官当積算校費が157,593百万円で7 5.8%を占め、学生当積算校費が50,319百万円で24.2%、合計207, 912百万円であったが、12年度の教育研究基盤学費は教官積算分が34,055 百万円、全体の16.0%、学生積算分が32、614百万円、15.4%で、合計 66,669百万円、31.4%にしかならない。11年度とほぼ同額にするために 、大学分として145,606百万円が予算計上された。教官当積算校費及び学生当 積算校費の基準については明示されているが、13年度以降の大学分については明確 な基準は示されていない。今後、この部分は中長期的な計画の成果に基づいて配分さ れる可能性なきにあらずである。

表7.国立学校予算歳出の推移        (単位:百万円)
(出典)表1に同じ会計年度である。平成11年度及び12年度については、歳出は人件費、物件 費と特別施設整備資金関連の3項目に分けられているが、物件費の中から国立 学校施設整備費を分けた。

 大学という特殊な組織を反映して、歳出の中で人件費の占める割合は、昭和39年 度には43.5%だったのが、昭和50年代には50%を超え、昭和60年代以降5 5%を超えている。定員削減にもかかわらず、表10にみるように、教職員の高齢化 が進んでいるためである。物件費は教育・研究・実習・診療・治療等、大学及び付属 施設(病院、演習林・実験施設等)本来の業務を遂行するための経費である。 平成 12年度から教育研究特別経費(これは石油ショック等による水光熱費の高騰に対処 するために、昭和54年度から交付されていたもの)が廃止されたため、減額になっ た。12年度歳出は、人件費、物件費、文教施設費、特別設備整備資金関連費(その 他の項目)すべてにおいて、11年度を下回っている。物件費の中で、絶対額が最も 増加しているのは借入金償還金であり、平成11年度は906億4百万円だったのが 、12年度には992億97百万円である。なお、借入金は平成11年度は791億 円、12年度は665億円で、年度ごとの借入金償還金が借入金よりも多いのである 。

表8.国立大学教員の年齢別構成の推移 (出典)文部省編『平成9年度 我が国の文教施策』p.27

昭和52年度には40歳未満の大学教員の全体に占める割合は47.2%で、50 歳以上の大学教員の割合は26.7%であったが、平成7年度には各々33.1%と 38.3%である。大学教員の場合、大学院博士課程を修了して大学教員として勤め 始めるのが30歳前後で、一般の就職年齢に比べて7ー8年遅いのである。そのため 、人件費も高くなるのである。私立大学の場合、教員の定年がほぼ70歳であるため に、60歳以上の構成比が30%をこすところも珍しくなく、教授・助教授・講師の 構成比も逆ピラミッド型になっており、人件費だけで、経常的支出の73%を占めて いるという 。ただし、多くの私立大学は、ゴールデンエイジの時期(18才人口急 増期)に建物等の施設に巨額の金を次ぎ込み、大学受験生を引きつける策を講じた。 これに対して、国立大学では歳出の中に占める施設整備費の割合が大幅に低下した結 果、 次節でみるように、施設の老朽化・狭あい化が進んだのである。

 昭和44年に制定された「行政機関の職員の定員に関する法律」(いわゆる「総定 員法」)に基づいて、国立大学においても、昭和43年度以来、定員の削減が行われ てきた。昭和43年度から昭和61年度の間(第1次ー第6次定員削減計画)の国立 学校特別会計の定員削減数は1万7,528人であったが、医科大学等の新設等に伴 う定員増により、昭和62年度末の国立学校全機関の総定員数は、13万3,676 人となった。内訳は、教官6万5,874人、事務・技術職員3万8,595人、技 能・労務職員7,134人、看護婦1万6,003人、その他6,070人であった が、その後も合理化・効率化による教職員とりわけ職員の定員削減が行われ、平成8 年度までの定員削減数は2万6,061人に及んでいる。さらに、平成8ー13年度 の第9次および平成13年度ー22年度の第10次定員削減計画ー10ヵ年で約10 %の定員削減ーが予定されている(平成12年7月18日閣議決定) 。国立大学教 職員の定員削減に対して、国立大学の入学定員は昭和48年度から平成5年度の間に 3万3,838人増加(8,332人の臨増を含む)しているのである。     

表9.国立大学教員数(本務)と学生数の推移 出典)文部省『平成11年度学校基本調査』速報による。

表11は、大学教員数(本務)と学生数の推移を示したものである。

  国立大学の教員一人当たりの学生数は平成元年には9.49人であったが、8年 には10.47人となり、その後は若干減少している。私立大学の場合には、平成元 年度は24.37人であったが、9年度には26.95人のピークに達し、その後は 、若干低下している。18歳人口の減少に伴う、学生数の減少によるものである。平 成12年度入学者の状況は、私立大学の25%で定員割れが生じたという。今後、定 員割れは、多くの私立大学に、そして国立大学にも押し寄せてくるであろう。大学淘 汰の時代がやってくるであろう。国立大学の法人化は、その傾向にさらに拍車をかけ るであろう 。


3.国立大学等の施設整備の現状と課題

 文部省編『平成7年度 我が国の文教政策』によると、「近年、国立大学等の施設 等の老朽化・狭隘化が顕著になり、大学関係者だけでなく、産業界等からも強い危機 感が表明され、その状況が国会で取り上げられたほか、新聞、テレビ等でもしばしば 報道された 。文部省では、昭和63年度以降、老朽・狭隘建物の解消や多様化、高 度化に対応するため、基準面積改訂を含め、積極的に施設整備のための予算の増額を 図っている。平成7年度当初予算においては、1,371億円を措置し、ピーク時の 昭和54年度の88.7%までに回復を図るとともに、平成4年度以降の補正予算に おいては、施設整備費の格段の確保に努めているところである。また、この間、平成 4年度には、国立学校特別会計に特別施設整備資金を設置し、これを財源として施設 の老朽化、狭隘化の解消を図るための特別施設整備事業をスタートさせたところであ る。これは、国立大学等の移転跡地の処分益を資金源として、毎年200億円の規模 で施設の老朽化・狭隘化を計画的に解消しようとするものであり、現在、第1次5ヵ 年計画が進行中である」という 。 

図5.教育研究基盤校費の積算方法の変更 

平成7年度国立学校特別会計予算の歳出額内訳は、人件費が52.7%、物件費35 %、施設費12.3%の構成費となっている。人件費は年々の賃金上昇の結果、総額 としては増加しつづけ、197億1千万円となっている。物件費の中に占める教官当 積算校費の割合は13.9%である。施設整備費は概算要求等で建物の建設が認めら れたとき予算計上されるもので、年度によってかなりの増減がみられる。

図6.国立学校文教施設整備予算の推移 (単位:億円)    国立学校文教施設整備予算額の推移をみてみると、当初予算では昭和54年度の1 ,546億円をピークに昭和61年度には788億円まで落ち込んだ。平成4年度に は特別施設整備事業がスタートし、補正後予算額は4,324億円に達した。しかし ながら、当初予算では、まだ昭和54年度のピークを超えるに至っていない。  平成5年度には、21世紀に向けた新たなキャンバス環境を創造・再編するための 大綱的指針に関する基本的事項について調査研究が実施され、その成果をもとに、「 国立学校施設整備計画指針」が策定された。この指針において、施設整備における基 本的視点として、(1)高度化、多様化する教育研究に対応できる施設の整備、(2 )人間性、文化性豊かな環境の創造、(3)広く社会に開かれたキャンバスの整備」 を基本的視点とし、大学等の多種多様な施設の整備に当たって踏まえるべき留意事項 として、(1)教育・研究との一体性のある施設づくり、(2)情報化・国際化への 対応、(3)知的創造活動の場にふさわしい環境づくり、(4)高齢者や身体障害者 等の利用への配慮、環境保全に対する配慮など示している 。

 さらに、近年の大学改革等の高等教育の新たな展開、学術研究の高度化・多様化、 施設の老朽化・狭隘化の計画的解消等の国立学校施設を取り巻く様々な課題に適切に 対応するために、平成8年7月には「科学技術基本計画」が策定され 、平成10年 3月には調査研究協力者会議の報告書『国立大学等施設の整備充実に向けてー未来を 拓くキャンバスの創造ー』が取りまとめられた。同報告書は、「文教施設整備費は、 平成9年度から再び減少傾向に転じており、平成10年度以降においては、財政健全 化を目指した『財政構造改革』を踏まえ、厳しい財政状況が予想され、老朽・狭隘化 が進行した過去の構図を繰り返すことにならないか懸念されるところである 。 ー ーー現在、国立大学等が保有する施設の面積は2,100万平方メートルを超え、国 立大学等の教育研究活動の基盤を支える社会資本を形成しているが、ストックの半数 が機能の更新、向上を必要とする時期にあり、施設整備の状況は危機に瀕していると いわなくてはならない」と述べ、「施設に関する点検・整備の具体的方策」の検討の 必要性を指摘するとともに、国立大学等施設を取り巻く対応すべき様々な課題を示し た上で、今後の国立大学等施設の整備充実のための以下のような提言を示している 。

 平成12年3月、「国立大学等施設に関する点検・評価についてー中間まとめー」 が公表された。中間まとめでは、今後の国立大学等の施設の整備充実を図るためには 、施設に関する点検・評価を踏まえた「施設の有効活用」と「重点的な施設整備」の 必要性が指摘されている。点検・評価の手法として具体的な項目として例示されてい るのは、キャンバスの整備状況であり、アメニテイーの充足状況、インフラの整備状 況、屋外環境の充足状況、バリアフリー化の状況、環境保全対策の状況等である。各 施設の点検・評価項目として上げられているのは、土地利用状況、建物配置の状況、 狭隘状況、利用状況、機器設置状況等である 。

表10.国立学校建物経年別保有・改修済面積(平成11年5月1日現在、単位万m2) (出典)文部省編『平成11年度 我が国の文教施策』p.487.  今後の国立学校等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議の答申『国立学校等 施設の整備充実に向けてー未来をく拓くキャンバスの創造ー』(1998年3月)は 、国立大学等施設の「老朽化」について以下のように指摘している。 

 現在、国立大学等が保有する全施設面積約2,100万平方メートル(平成11年 5月1日現在の国立学校建物の保有面積は2,269万平方メートル)の52%に当 たる約1,140万平方メートルが通常改修等の措置が必要な時期である経年20年 を経過しており、その7割が改築、改修等の措置を必要としている状況である。これ らの建物の多くは、経年による老朽化により、雨漏り・建具の開閉不良等の基本的機 能の欠如、外壁・ひさしの落下、鉄筋の腐食・コンクリートの劣化による構造体とし ての強度の低下等が生じ、また、電気設備、空調設備、給排水設備等の基幹設備の老 朽化による停電、蒸気漏れ、赤水の発生等による機能劣化も同時に進行しており、教 育研究に多大な支障をきたしている。これは、昭和30年代後半以降の高等教育の拡 大期に建てられた建物が改修時期を迎えた昭和50年代後半以降、財政抑制のために 施設費予算が一時期の半分程度までに減少した中で、学生増募に対応する学科等の新 増設に伴う施設整備が優先され、改修等の整備を十分実施できなかったこと等による ものと考えられる。特に、昭和30年代後半から40年代にかけての建物は、既に3 0余年を経過し、経年による機能劣化に加え、構造耐力上問題のある建物が多く、早 急に改築、改修が必要な状況となっている。また、「耐震改修の促進に関する法律」 の施行に伴い、昭和56年以前に建築された現行の耐震基準を満たさない建物につい ては、早急に耐震改修等を進めることが必要となっている。今後も、建物の老朽化は 急速に進むことが予想されており、平成9年度予算ベースで改築、改修整備が推移し たと仮定すると、およそ10年後には、経年20年以上の建物は現在の1.4倍にな り、全保有面積に対する比率は約7割に達すると見込まれている 。

 また、同答申は国立大学等施設の「狭あい化」についても次のように指摘している。

 この10年間の国立大学等施設の学生1人当たり面積は、大学院生・留学生数の伸 びとは逆に、年々減少しており、高度化、多様化する教育研究を十分支援することが できない状況となっている。このことは、文部省が平成7年に実施した「大学改革の 今後の課題についての調査研究」において、大学院学生等が実験研究用の施設に関し て、全般に不備を訴える声が強いこと、そして、その割合は国立大学の大学院生にお いて高くなっていることにも表われている。ーーー平成9年度における、新たな組織 の設置や改組拡充等に伴う不足面積、すなわち、現在の教育研究体制を支えるために 新たに整備していく必要がある面積は、約460万平方メートルを超え、そのうち、 学部、大学院施設で約7割近くの310万平方メートルを占めており、今後も大学院 の整備拡充等に伴い、その需要は増大し続ける傾向にある。

 今後の施設整備については、財政状況が逼迫している状態の中で、土地の有効活用 を含め、既存施設の効率的な利用に最大限努めなければならない。そして、老朽・狭 隘施設の改善整備等の基本的な教育研究環境の整備については、各大学等における( 1)大学改革の進捗状況、(2)全学的な視点に立った必要性・緊急性・(3)既存 施設の効率的利用、(4)施設長期計画、(5)維持管理・運営体制等に関する検討 の熟度等を勘案し、厳に抑制の上で計画的・重点的に行っていく方針が示されている 。


4.独立大学法人化と国立学校特別会計制度をめぐって

 国立大学協会(国大協)第1常置委員会は、平成11年9月7日、『国立大学独立 行政法人化問題について』(中間報告)をまとめた。この中間報告書が公表された時 点では、国大協は、平成9年11月13日の「国立大学の独立行政法人化に反対する 」という国大協表明、つまり、「現在論議されている独立行政法人は、定型化された 業務について、短期間で効率を評価しようとするもので、個性的な教育と自由闊達な 研究を長期的視点から展開しようとする大学にはふさわしいものではない」という見 解を撤回ないし変更を行っていなかった。しかしながら、平成11年1月26日、独 立行政法人制度に関する大綱などを踏まえて、国大協第1常置委員会で独法化問題に ついて検討を加え、まとめたのが本報告書である。同報告書は、「国立学校特別会計 との関係」について、次のように述べている。

(1)高等教育の質を維持・向上させ、また授業料・受験料等による負担を抑制して 国民の教育を受ける権利を保障していくためには、少なくとも現行の国立大学への財 政的投入の実質は安定的に確保されることが必要である。そのため、現在の国立学校 特別会計制度は維持されるべきである。

(2)国立学校特別会計への一般会計からの繰入額は、歳入規模の約57%(平成1 1年度当初予算)に達しており、国立大学の独立行政法人化の検討でも、国立学校特 別会計制度を存続させるかどうかについての議論は避けて通れない。国立学校特別会 計の存続意義を再度確認する必要がある。

 国立大学が独立行政法人化した場合を想定して、同報告書は「独立行政法人化と特 別会計制度の関係」についても以下のような言及している。

(1)仮に国立学校の独立行政法人化とともに、国立学校特別会計制度について見直 しを行う場合、現在の国立大学が基礎的研究や新領域の開拓、高等教育の機会の保障 等、民間主体に任せていたのでは十分な成果が期待しがたい分野において基本的な役 割を担っていることに鑑み、外部資金の導入が容易に期待されない場合においても、 学問分野の継承発展や大学運営に支障を来すことがないよう財政措置を確保するため に、特別会計的機能は維持することが不可欠である 。

(2)仮に国立大学の独立行政法人化とともに国立学校特別会計制度の見直しを行う 場合、現在同会計が抱えている債務を、独立行政法人が実質的に引き継ぐことがない よう措置する必要がある。

 また、同報告書は、独立行政法人化に伴う資産の移譲等については、

(1)国立大学が使用している国有財産等を独立行政法人に対し現物出資等で移譲す る場合、現行の資産維持を前提として行われるべきである。また、資産の譲渡にあた っては、将来必要となる維持更新等の費用をあらかじめ考慮する財政措置、予算制度 を組み込むことが不可欠であり、国立大学の建物の老朽化、狭隘化の問題は、これを 引きずったまま法人化を固定することがないよう配慮すべきである。

(2)資産の全部あるいは一部について、国からの無償貸与や有償貸与方式を考える 場合については、定性的、長期的な教育研究機能の安定性を損なわないよう配慮する 必要がある 。

(3)現金以外の資産移譲で現物出資方式が採用される場合、移譲される資産の価値 は取得原価で評価することを基本とし、資産を過大に評価し資産の移譲後における大 学の財務運営等を圧迫することがないよう十分配慮すべきである 。

(4)施設費等に関連して、現在の「公債発行対象経費」の枠組みを維持すると同時 に、試験研究などソフト面も公債発行対象経費として繰り入れる必要がある。

(5)出資された現物・現金資産について、機動的・弾力的な運用が可能となるよう に措置する、等のことを要望している。

 その他、「余剰金の取り扱い」、「運営費交付金、施設費交付金等財源措置」「基 金等の設立」、「職員定員」、「短期借入金等」、「会計基準等」、「税制等」、「 合併、解散、組織改廃等」についても検討し、提言を行っている 。以下においては 、「会計基準等」についてみることにする。

(1)企業会計原則に基づく独立行政法人の会計基準設定においては、大学の業務の 特殊性・多様性、さらには大学ごとの運営形態や業務内容の違いを認識の上、柔軟か つ弾力的な取り扱いができるよう多くの処理の選択肢を設定すべきである 。

(2)また、法人ごとに個別に会計に関する規定を設定する場合、高等教育の性格を 尊重し、企業会計原則による処理に適さない部分の明確化等に努力すべきである。

(3)独立行政法人が作成する財務諸表については、営利企業の財務諸表にとらわれ ず、高等教育の特殊性・多様性が明確となる形態を別途検討する必要がある。

同報告書は、国立大学が仮に独立大学法人化された場合においても、高等教育に対 する一層の国の財政資金の投入を要望するとともに、一般の営利企業の財務諸表とは 異なった高等教育の特殊性・多様性を反映できる財務諸表を要望している。

 北海道大学の宮脇教授は、この中間報告書を踏まえて平成11年12月17日、「 北大を語る会」で講演をした。会計制度の問題に関する氏のコメントを引用しておこう。

(1)運営費交付金を受け取った時点で、負債の項目下に同額が記載される。このこ とは、複式簿記による必然性ではなく、別の選択肢としては、「資本」のところに記 載することもありうる。

(2)収益に相当する部分は、大学の活動に応じて国が放棄する債権の量になる。こ の調整を通して、国も政策通りに動かない独立行政法人大学は、すぐに破産し民営化 (廃学)に追い込むことができる。

(3)余剰金は中期計画に合ったことにしか使えない。

(4)長期的資産等は策定権のある国に属するため、独立行政法人大学が関与するの はキャッシュフローだけになり、「基金」のようなものを容れる余地はない。そのた め、寄付金や受託研究などへの誘因がなくなる。

(5)資産は独立行政法人に移管されるかどうか未定である。国立学校特別会計の1 兆円の赤字の返済に使う検討もされている。この赤字は独立行政法人大学が受け継が ないことを国立大学協会第1常置委員会の中間報告では要望していたが無視された。

(6)授業料は文部省が大蔵省に予算要求するもので、独立行政法人が勝手に決めら れない。

(7)公務員身分を保つ独立行政法人では、人数の報告が必要で、勝手に人員は増や せない。

(8)退職金は労使交渉事項となる 。財源は運営費交付金である。

国家財政の逼迫、規制緩和、効率化という潮流の中での国立学校特別会計制度の見直 しであるだけに、劣悪化が懸念されるところである。そしてまた、「独立行政法人会 計基準」が「独立大学法人」の会計にも適用されるとすれば、「独立行政法人の会計 は、財務諸表によって、国民その他の利害関係者に対し必要な会計情報を明瞭に表示 し、独立行政法人の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない」 。

 東京大学国立大学制度研究会『国立大学の法人化について(中間報告)』(平成1 2年7月10日)は、財政・財務制度の設計の基本的考え方について次のように述べ ている。 法人化される国立大学の財政・財務制度を設計する目的は、大学における教育研究 および管理運営の自主性・自立性を高めつつ、設置者たる国から大学運営及び施設設 備に要する十分な財源措置を確保することにある。このためには、国立大学固有の使 命・責務の明確化及び教育研究のさらなる充実・高度化要請を前提に、国立大学への 国の財源措置を抜本的拡充を求めつつ、教育研究および運営・財務の自主性・自律性 及び効率性を高める財源措置の仕組を構想する必要がある」と指摘している。そして 運営費交付金の在り方については、以下の条件を備えるべきであるとしている。

(1)経営・財務の自律性・弾力性を高めるために、交付金の使途および年度繰越に 大学の裁量性を認めること。

(2)教育研究の中長期的な計画性に合致するよう、交付金措置の少なくとも中期的 な確実性・安定性を大学に保障すること。

(3)経営・財務の責任・自律性を明確にするため、大学の自己収入(学生納付金、 受託研究収入、寄付金収入等)は各大学の収入に直入(直接計上)すること。

(4)財務の充実に向けた大学の自主的な資金確保努力を損なわないよう、公私の競 争的研究資金(科学研究費、委任経理金等)は交付金算定において収入要素から除外 すること。

(5)運営・財務の自律性と効率化努力を促すため、運営効率化の成果として発生す る剰余金および積立金の処分(使途)に大学の裁量性を認めること。

(6)大学自ら教育研究の高度化・活性化を促すため、高度・先端的な教育研究経費 に充当される交付金部分の算定・配分には、大学内部での学術研究評価を導入すること。

 運営交付金と並んで、法人化される国立大学の基本財産(資本等)および施設整備 経費についても次のような条件整備を要望している。

(1)国立大学の教育研究活動に現在用いられている土地建物は、当該国立大学に国 が現物出資をする。現物出資が困難な場合には国有財産を無償使用できるようにする こと。

(2)重要な財産の処分は主務大臣の認可を要するとしても、可能な限り大学運営の 自主性と計画性を尊重すること。

(3)大学への寄付金については特定公益法人並みの扱とすること。

(4)地方公共団体による国立大学への自主的な寄付行為を可能とするよう関係法令 を改正すること。

 施設整備費についても次のような条件整備を要望している。

(1)大学の施設整備中長期計画及び施設の減価償却状況を踏まえ、経常補助金とは 別に、国が施設整備に要する費用を大学に交付すること。

(2)財政事情による施設整備費交付金の不足、大学による施設整備計画の特殊性な どを考慮し、施設整備における大学の自律性と計画性を確保するために、共同財務処 理機関だけでなく、大学にも国の債務保証の下に長期借入金および債券発行が行える ようにすること 。

 以上が東京大学国立大学制度研究会の財政・財務に関する考え方の骨子であるが、 地方国立大学でも独自の大学に相応しい財政・財務制度を検討していく必要がある 。

 平成13年4月1日から各国立大学は、財務諸表を作成して経済資源に関する情報 を公開しなければならない 。その準備を早急に取り組む必要がある。

 最後に、参考のために、官庁(自治体)会計と企業会計及び法人会計の比較表を資 料として示しておくので、参照されたい。


5.鹿児島大学の予算と教育

 表13にみるように、鹿児島大学の教員数は昭和55年度以降も学生定員の増加に 伴って少しずつ増加してきたが、臨時定員の償還時期を迎えて、平成10年度から減 少の方向をたどっている。今後、新規定員の増加は困難な状況にある。職員の定員は 相次ぐ定員削減により、昭和57年の1、261人をピークに減少している。さらに これから実施される予定の第10次の定員削減計画で10%以上も削減が予定されて いる。学生数及び大学院生の総計は、昭和55年度には7,791人であったが、平 成12年度には10、927人になった。昭和55年度から平成12年度にかけて学 生(大学院生を含む)は40.3%増加したのに対して、教職員はわずか4.1%増 加したにすぎないのである。平成12年度の教員一人当たりの学生数(大学院生を含 む)は10.1人である。少人数教育が実施可能な学生対教員の比率である。

表11. 鹿児島大学の教職員及び学生数の推移

表12.国立学校特別会計予算額に占める鹿児島大学決算の状況(単位:百万円) (出典)鹿児島大学『鹿児島大学の現状と課題』平成9年3月

 鹿児島大学の国立学校特別会計予算の決算額は、昭和49年度には118億78百 万円で、国立学校特別会計当初予算額5,704億円の2.1%を占めていたが、5 0年代に入って医科系大学が相次いで新設されたため、本学の決算額の国立学校特別 会計に占める割合は次第に低下し、平成7年度には1.5%、平成11年度には1. 4%になってしまった。  ちなみに、東京大学の平成3年度の決算額は、 1,1 30億円で、国立学校特別会計予算の5.4%をしめ、鹿児島大学の決算額301億 円の3.75倍であったが、平成10年度の東京大学の決算額は2,101億円で、 国立学校特別会計予算の7.8%、鹿児島大学の決算額381億円の5.51倍であ る。近年、国立学校特別会計予算の配分は、旧7帝国大学を中心にした重点大学への 傾斜配分と重点研究(科学研究補助金等)への傾斜配分の方式が採用されつつある 。 

表13.科学研究費補助金の推移 (単位:総額は億円、鹿大は百万円) (出典)文部省編『平成11年度 我が国の文教施策』及び『鹿児島大学概要』による。 ( )の数字は平成2年度を基準(100)にした指数を示す。

平成2年度以降の科学研究費補助金の推移は表15にみる通りである。科学研究費 補助金総額は平成2年度を基準年=100とすると、平成11年度は235であるが 、鹿児島大学への配分額は平成10年度までは、ほぼ総額と歩調を合わせていたが、 平成11年度はかなり低くなっている。総額にしめる鹿児島大学への配分割合は、平 成10年度までは平成4年度を除いて0.4%を超えていたが、平成11年度は0. 35%となっている。国立学校特別会計に占める鹿児島大学予算の割合が1.5%前 後であるのと比べると、科学研究費補助金の割合はかなり低いということができる。

 ちなみに、鹿児島大学とほぼ同規模の千葉大学、熊本大学、群馬大学、信州大学へ の平成12年度科学研究費補助金の配分額は、各々、12億55百万円、12億2百 万円、6億4千万円、5億53百万円である。科学研究費補助金の配分額が大学評価 の一つの基準とされるという今日の御時勢だけに、もっと科学研究費補助金の申請件 数と採択数及び配分額を増やす努力をする必要がある。

 平成9年度の全国立大学の受託研究の件数は4、499件、金額332億55百万 円であるが、鹿児島大学の同年の受託件数は82件、1億9千万円である。全国立大 学にしめる鹿児島大学の割合は、件数で1.8%、金額で0.57%である。

表14.鹿児島大学の歳入 (単位:百万円) (出典)表2ー1に同じ。雑収入には、奨学寄付金、共同研究経費、受託研究経費等 が含まれている。

 鹿児島大学の歳入についてみてみると、昭和49年度の歳入額は19億50百万円 で、うち付属病院収入は15億19百万円で全体の77.9%を占め、授業料等の収 入は2億51百万円、12.9%である。平成10年度の歳入額は189億円で、う ち病院収入が118億41百万円、62.6%、授業料53億94百万円28.5% となっている。歳出額に占める歳入額(自己収入)の割合は、昭和49年度には16 .4%だったのが、平成10年度には49.3%に達したのである。

 鹿児島大学付属病院は医学教育・研究実践の場であると同時に、地域医療における 中枢的医療機関として、そしてまた特定機能病院として、重症・難病患者の診療、高 度先進医療、末期医療への取り組みなど重要な役割を担っている。平成11年度の入 院患者総数は22万7、398人、外来患総数は22万8,108人、合計45万5 ,506人が同病院を利用した。県人口に占める割合は25.4%で、じつに県民4 人に1人が毎年大学病院を利用しているということになる。「大都市に国立大学付属 病院なくても、鹿児島県に鹿児島大学付属病院がなければ大変なことになる」といわ れるゆえんである。大学付属病院も経営感覚を磨かなければならないが、民間病院な みの病院経営をすると、大学付属病院本来の使命が疎かにされるようになるであろう 。

図8.鹿児島大学の歳入額の推移

 近年、相次ぐ授業料等の値上げと長引く経済不況のために、授業料納入が困難にな り、休学や退学をするものが増えてきている。全大学または全国立大学の休学者・退 学者・除籍者に関する資料は手元にないが、平成11年度の鹿児島大学についてみて みると、休学者288人、退学者241人、除籍者37人、留年者815人である。 休学・退学・除籍の理由をみてみると、「経済的理由」というのが一番多いように見 受けられる。留年生に関しても経済的理由によるものが多いと思われる。というのは 、授業料や生活費を稼ぐために、アルバイトに専念した結果、留年をするというケー スが多いからである。手元にある平成11年度の全国大学の留年生(大学院生を含む )の数をみてみると、総数12万1、952人にのぼり、うち、国公立大学生は、4 万7、032人、私立大学生7万4920人である (文部省『平成12年度学校基 本調査』速報による)。

 平成21年度(2009年度)には大学進学者数と学生定員がほぼ等しくなり、数 字的には全員入学時代を迎えるであろうということが予測されている。しかしながら 、授業料が年々値上げされていくならば、大学進学率が低下し、大学入学者の絶対数 は大幅に減少し、多くの大学が定員割れのために倒産に追い込まれるであろう。

 教育・研究・社会サービスという幾世代にもわたるとともに、全世界にわたる人類 普遍の公共財を供給する大学に短中期的な独立採算制を求めるのは適切な方策ではな いと考えられるのである 。 

表15.鹿児島大学の歳出    (単位:百万円) (出典)『鹿児島大学の概要』各年度版により作成(4捨5入のため、合計額が合わ ないことがある)

 昭和49年度の国立学校特別会計と文部省予算の合計額は118億86百万円で、 うち国立学校経費が66億91百万円、付属病院費が30億5百万円、施設整備費が 21億82百万円である。平成10年度には歳出合計額は383億65百万円で、う ち国立学校特別会計が344億67百万円で、全体の約90%を占めている。 平 成10年度から産学連携研究費が予算措置され、3億8千万円が支出された。 平成 10年度の歳出総額に対する歳入(自己収入)の割合は、昭和49年度には16.4 %であったが、平成10年度には49.3%に上昇している。付属病院のみをとると 、病院経費として138億円を支出し、118億円の収入を上げている。支出に対す る収入の比率は88.5%である。ちなみに、ある有名大学の平成11年度の歳入及 び歳出は次のようになっている。

表16.A国立大学の平成11年度の歳入と歳出       (単位:千円)

A国立大学の自己収入(歳入)合計額は381億35百万円、歳出合計額は1,16 4億12百万円で、歳出総額に対する自己収入合計額の割合は32.8%である。  東京大学の平成10年度の自己収入額は505億75百万円、歳出総額は2,101 億47百万円で、自己収入額の歳出総額に対する比率は24・7%である。東京大学 付属病院の場合、病院経費として310億円が支出され、病院収入は217億円で、 支出に対する収入の比率は70%である 。ゆえに、鹿児島大学及び同付属病院の方 が、A国立大学や東京大学及び同付属病院に比べて自己収入/支出の割合はともにか なり高いのである 。

表17.鹿児島大学の費目別歳出額の推移  (単位:百万 (出典)『鹿児島大学の現状と課題』p.473,および『鹿児島大学50年史』による。

鹿児島大学の歳出の99%以上は国立学校特別会計でまかなわれており、文部省一 般会計からの支出は1%未満である。しかしながら、近年、私費外国人留学生の増加 にともなって外国人留学生関係経費が増加したため、一般会計からの支出も増加傾向 にある。

表18.鹿児島大学の教職員の年齢層別人数 (出典)鹿児島大学経理部人事課資料による。

鹿児島大学の教職員は国家公務員であり、職員の場合には国家公務員試験に合格し た後に採用され、60歳で定年を迎える。教員の場合は、大学院修士課程または博士 課程修了後に採用され、65歳で定年を迎える。国家公務員の定員削減等により、2 0歳未満の者はわずか2人である。その代わり、国家公務員の身分保障等があり、永 年勤務の50ー59歳層が639人と27.4%を占めている。

%++表19.鹿児島大学の教員の年齢層別人数 (出典)表18に同じ

 鹿児島大学教員の年齢層別構成比をみてみると、20歳代と40歳代は、ほぼ全国 平均の4.6%と28.6%で、30歳代と50歳代は各々4.2%と4.5%全国 平均より高く、60歳代は全国平均の半分以下の6.9%である。このような構成比 の相違は何に基づくものなのか検討を要するように思われる。

表20.教官研究旅費額の推移    (単位:千円) (出典)平成12年度『共通経費予算要求書』鹿児島大学による。

 教官の一人当たりの年間の研究旅費額は平成12年度の場合、135千円である。 平均的な教官の年間の研究のための出張(学会・資料収集等)は、7ー8回に及ぶも のと思われるが、上記の旅費では、東京と大阪に各1回出張すればなくなってしまう。 後は自費で出かけなければならないのが実情である。


6.鹿児島大学のバランスシート

 鹿児島大学は、土地・建物・図書・器材等の物的資本と人的資本を活用して、教育 ・研究・社会サービス等を生産し、社会に提供している。大学が年々作り出す教育・ 研究・社会サービスの価値(価額)を金額に換算することは困難であるが、近年、大 学の教育研究に対してもコスト/ベネフイット効果を重視するようにとの要請が強ま っている 。

 さしあたって、鹿児島大学は、どれほどの物的・人的資源を利用して、教育研究、 社会サービス(いわゆる公共財)を作り出しているのであろうか。

 平成12年5月1日現在、鹿児島大学が保有する国有財産のうち土地面積は、郡元 地区23万3,630平方メートル、桜が丘地区21万8,726平方メートル、下 荒田地区4万9,153平方メートルで、3キャンバスの合計面積は50万1,50 9平方メートルである。その他に演習林、牧場、果樹園、試験場等の土地3,600 万6,925平方メートルがあり、それらを総合計すると、3,662万6,444 平方メートルに達する広大な土地を保有している。演習林には立木竹が、牧場には牛 ・豚・ニワトリ等が飼育されており、果樹園には種々の果樹類が栽培されている。

 鹿児島大学の建物延面積は、大学発足当初の昭和24年には約2万平方メートルに すぎなかったが、その後順調に増設され、昭和45年には約15万6千平方メートル 、49ー50年には桜が丘地区の医学部キャンバスの新設に伴って、大幅に増加し、 昭和50年には約26万平方メートルになり、平成2年には約30万平方メートル、 そして、平成12年5月1日現在、33万6,906平方メートルである。うち木造 3,619平方メートル、非木造33万3,287平方メートルである。建物の築年 数をみてみると、10年未満のものは35,931平方メートル、10ー29年12 ,668平方メートル、20ー29年28,307平方メートルで30年未満の建物 面積は76,906平方メートルで、全体の22.8%である。30年以上の建物が 全体の77.2%を占めていることになる。かなりの建物が老朽化していることにな る。

%++表21.年次別建物保有面積と経年数別建物面積(単位:平方メートル) (出典)『鹿児島大学50年史』及び『鹿児島大学概要』(平成12年度)による。

表22.経年数別面積          (単位:平方メートル)

 船舶は3隻(鹿児島丸1,297トン、敬天丸860トン、南星丸83トン)で、 総トン数は2,240トンであるが、26ー19年を経過しており、かなり老朽化し ている。

図書館の蔵書数は、昭和39年度の統合時には和書が26万514冊、洋書7万9 ,742冊、合計34万256冊であったが、昭和40年度には和書27万4,45 4冊、洋書8万5,325冊、合計35万9,779冊、平成2年度には和書74万 4,177冊、洋書30万4,512冊、合計104万8,689冊、平成12年5 月1日現在、和書91万250冊、洋書37万4,251冊、合計128万4,50 1冊となった。昭和40年度から平成12年度までの35年間に和書が63万5,7 96冊、洋書が28万8,926冊、合計92万4,722冊増えた。なお、平成1 2年5月1日現在の購入雑誌の種類は20,956点に及んでいる。図書費について みてみると、昭和40年度から平成12年度までの間の図書資料費(書籍、雑誌、新 聞、製本等の費用)の合計額は88億8,762万円である。

 鹿児島大学には生物や地質・化石標本、考古資料など約135万点に及ぶ貴重な研 究資料(文部省の13年度概算要求に鹿児島大学総合博物館の新設が盛り込まれた) やその他の有形・無形(施設・備品、インフラ、環境等)の資産がある。

 国立大学等が保有する資産(国有財産、行政財産)は、取得原価主義(台帳価格) をとっており、「独立行政法人会計基準」も、「貸借対照表に記載する資産の価額は 、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない」となって いる 。とはいっても、取得原価(台帳価格)は、ほぼ3年ごとに時価倍率(取得価 格を時価に換算するための修正率のこと)によって改訂が行なわれている 。国大協 第1常置委員会『国立大学と独立法人化問題について』(中間報告)は、国立大学が 、独立大学法人へ移行する場合には、「資産の価値は取得原価で評価することを基本 とし、資産を過大に評価し、資産の移譲後における大学の財務運営等を圧迫すること がないよう十分配慮すべきである」と要望している 。現在国立大学等が管理保有す る国有財産は無償移譲すべきであり、また、国大協が要望しているように、資産の過 大評価によって大学本来の使命である教育・研究・診療および大学運営等に支障をき たすことがあってはならないことはいうまでもないことである。

  国立大学の資産はほとんどが行政財産であり、営利目的に利用するものではない 。したがって、資産を過大評価したり、逆に過小評価したりして営業利益(率)を操 作(粉飾決算)する必要はない。現実的に妥当な資産評価を行ない、この資産を有効 活用していかなる教育・研究・診療等のサービスが行われているのかを評価し、正確 な情報を国民に開示し、大学改革に役立てることが重要であると筆者は考えるのであ る。 

さて、鹿児島大学が保有する国有財産(行政財産)の現況はどうなっているのだろ うか。鹿児島大学が平成11年度に作成した『鹿児島大学が保有する国有財産現況に ついて』という報告書は、国有財産の資産価値を取得原価(台帳価格)で評価したも のになっている。鹿児島大学が現在保有する土地資産の大部分(郡元キャンバスの3 0ha,高隈演習林3,079ha、佐多演習林313haなど)は、明治41年3 月に開設された鹿児島高等農林学校時代に取得されたものである。創立当時の取得原 価はもはや参考にならない。おそらく、台帳価格は何度も見直しをされているものと は思うが、時価評価額とは大きな乖離がある 。国立大学あるいは独立大学法人にとっ て望ましい資産評価方法はどうあるべきか、検討すべき事項であると思われる。

 平成11年度現在時点の鹿児島大学が保有する国有財産の資産評価額は表23のよ うになっている 。

表23.鹿児島大学が保有する国有財産の資産評価額(平成11年度現在額) (出典)鹿児島大学『鹿児島大学が保有する国有財産現況報告書』平成11年度

 鹿児島大学が保有する土地面積は約3,666万平方メートルで、その価額は12 3億56百万円である。建物の延面積は353,495平方メートルで、価額は26 3億39百万円、その他、工作物、立木竹、船舶等を含めた総資産額(行政財産総計 )は568億49百万円となっている。土地の評価額は、所在地によって大きく異な るであろうことは容易に理解できる。しかし、実際の評価額は一般の常識とは大きく かけ離れている。それば、時価による評価ではなく、取得価額を基礎にして評価され ているからである。主要なキャンバスの土地評価額をみてみよう。

表24.主要キャンバス別土地評価額(台帳価額)      (出典)鹿児島大学『国有財産現在額』(平成11年度)

 表24によると、明治30年代に取得された荒田キャンバスと教育キャンバスの1 平方メートル当たりの評価額は2,534ー2,679円となっており、昭和40年 代後半に取得された桜が丘(当時は原野であった)の価格は32,616円となって いる。平成12年度の路線価格は、前者が250ー200千円で、後者は85千円程 度である。いかに時価評価額と異なっているかが分かるであろう 。 

 上記の主要なキャンバスを含めた他の保有地の台帳価額(取得原価)及び時価評価 額(路線価格または基準評価額)は表25にみる通りである。

 取得原価で評価した価額は123億56百万円で、時価(路線価格・基準地価)で 評価した価額は1,119億53百万円である。約10倍の差がある。その主な原因 は、荒田・教育キャンバスや水産キャンバスの地価評価に著しい相違があることによ るものである。平成12年7月1日現在の郡元キャンバスや水産キャンバス付近の路 線価格は1平方メートル当たり250ー190千円、基準地価(住宅地)は200千 円前後であるが、現況報告書では荒田キャンバス2,679円、教育キャンバス2, 534円、水産キャンバス13,692円という路線価格(時価)とは大きくかけ離 れた単価である。桜が丘キャンバスも路線価格の約3分の1である。高隈・佐多演習 林や入来牧場、寺山自然教育研究地などは標準基準価格にほぼ等しい価格になってい る 。国立学校特別会計法は「原則として、取得原価を基礎にして計上しなければな らない」と定めているため、時価と大きくかけ離れていても問題にされることはほと んどなかったが、行政(国有財産等についても)に関する情報公開が実施されるよう になったときには、これまでの評価方法では国民に正確な財務情報を提示することは できないであろう。たとえば、平成12年7月1日現在の農学部や法文学部前の住宅 地の基準地価は約200千円であるのに、大学内の敷地は国有財産だから地価は2, 679円ですよ、といっても納得してもらえないであろう。

表25.土地の取得価格及び時価評価に基づく評価額(総額は百万円、単価は円)

表26.主要なキャンバス別の建物評価額

(出典)『鹿児島大学30年史』及び『鹿児島大学50年史』

(注1)荒田キャンバスは農学部、工学部、理学部、法文学部、旧教養部、本部等の 建物で、教育学部    キャンバスは付属小学校・中学校を含むものである。

(注2)備考のパーセントは『鹿児島大学30年史』及び『鹿児島大学50年史』の 資料(年次別建物    一覧)により皆村が計算したものである。

 表26は、鹿児島大学『国有財産現在額』(平成11年度)によるキャンバスごと の建物の資産額である。4キャンバス合計の建物面積は309,488平方メートル で、鹿児島大学が保有する建物面積総計353,495平方メートルの87.6%を 占め、価額は23,131百万円で、総額の87.8%を占めている。

 建築物に関しても取得原価で評価されている。しかも、評価の見直しも減価償却も おこなっておらず、建築当時の取得原価(台帳価格のまま)で計上されている 。し たがって、桜が丘キャンバスの建物のように87%が20年を経過しているにもかか わらず、単価は71,702円となっているのである。   表27は、公立文教施設整備費単価の推移を示したものである。

表27.公立文教施設整備費単価の推移(単位:円/平方メートル) (出典)財政調査会編『国の予算』(はせ書房)各年度版による。

 単価は小中学校の鉄筋コンクリート校舎の建築単価である。鉄骨の場合は、鉄筋コ ンクリートの約80%、木造の場合は、55%である。 国立大学等の建物について は、大学としての品位を保持するために、若干予算の上乗せがあるという。また、図 書館や付属病院等の特殊な建物の場合には「特工」(特別工事)のために、単価が2 倍前後になるという。 。 

表26の建物の価額を表27の建築単価によって時価評価しなおすとすれば、表28 のようになる。但し、鉄筋コンクリート建物の耐用年数を40年とし、定額減価償却 法により資産評価(未償却資産残額)をおこなう。ただし、40年を経過した建物に ついては、残存価額を 10%とする 。

表27.主要なキャンバスの年度別建築面積・単価・未償却残額 (出典)『鹿児島大学30年史』及び『鹿児島大学50年史』の 付録の「主要団地別施設整備状況調」   をもとに、校舎建築単価(鉄筋コンクリ ート)によって算定した。

(注)ー(マイナス)は、建物の取り壊しを意味し、合計額に算入していない。 教育キャンバスは郡元   キャンバスに含まれる。

鹿児島大学の3つのキャンバスの建物の平成12年9月現在の資産評価を「学校法 人会計」基準に基づいて算定した結果は、136億63百万円となった。経年による 減価償却を考慮していない台帳価格263億39百万円の51%に相当するものであ る。建物には建築費のほかに、電気・ガス・上水道及び付帯設備がついているから、 実際の資産価値はこれよりも3割程度高いものと思われる 。

 船舶は3隻(鹿児島丸1,297トン、敬天丸860トン、南星丸83トン)で、 総トン数は2,240トンであるが、26ー19年を経過しており、かなり老朽化し ている。船舶の価額は4億円程度と推測される 。

 付属図書館(中央・下荒田・桜が丘)の蔵書数及び資料費の推移は表26に見ると おりである。

表28.附属図書館の蔵書数の推移    (単位:冊) (出典)『鹿児島大学概要』および『鹿児島大学附属図書館概要』による。

表29.附属図書館資料費        (単位:千円)  (出典)『鹿児島大学附属図書館概要』各年度版による。合計の中には製本費が含ま れている。

附属図書館の蔵書数(雑誌・新聞類は含まない)は、統合時の昭和39年度には  35万9,779冊(和書27万4,454冊、洋書8万5,325冊)であったが 、昭和55年には約2倍に増加し、平成2年度には100万冊を超え、平成12年5 月1日現在128万4,501冊を数えるに至っている。昭和40年度から平成12 年度までの図書館資料費の総額は、約90億円(平成11年度までの総額は85億4 2百万円)である。図書資料費の中には、図書購入費、製本費、雑誌・その他消耗品 的資料費が含まれている。昭和57年度までは図書資料費総額の中で図書購入費が5 0%以上を占めていたが、昭和57年以降、雑誌等消耗的資料費が図書購入費を上回 るようになり、平成11年度には図書資料費総額の70%は雑誌・その他の消耗品的 資料に費やされ、図書購入費はわずか27.9%を占めるにすぎない。昭和49年度 以前の図書購入費及び雑誌等消耗的資料購入費の内訳は不明であるが、仮に、各々の 割合を50%ずつとすると、昭和40ー平成11年間の図書購入費総額は35億34 百万円、雑誌等消耗的資料費総額48億22百万円である。雑誌等消耗的資料が30 %の残存価額をもっているとすると、14億47百万円となる。昭和40年度以前の 蔵書・資料費を約3億75百万円(蔵書数X1,000円)とすると、図書館の蔵書 ・資料の価額は約53億56百万円程度と推計される 。

大学の保有する資産はその他に、病院の診療機器、理系の実験施設、農場の牛・馬 ・農機具、演習林の果樹・立木竹等がある 。

 病院の診療機器類は施設費や物件費で購入されるが 、『鹿児島大学50年史』の 付録の資料には付属病院の施設費は昭和54年度以降ずっとゼロになっており、(項 )国立学校の歳出の中に組み入れられている。理系の実験機器類も高価なものは施設 費で、小額のものは物件費によって購入されているようである。

鹿児島大学が創立された昭和24年度から平成元年(1989)までの期間中の 物件費総額は約1,460億円、平成2ー6年度に579億円、平成7ー12年度に 約812億円が投じられている。物件費の約42%が教育研究費、28%が病院診療 経費である。物件費で購入される教育研究用の機器等(パソコン、ビデオ、OH機器 、テレビ等、診療用機器等の備品)の耐用年数は5ー6年であるから、平成7年度以 前に購入された機器類(備品)のほとんどは耐用年数を超えていることになる。した がって、耐用年数を超えてまだ使用されている備品(平成2年度以前に購入された備 品は既に廃棄処分されていると考える)の残存価額を5%とすると、その金額は約1 2億円となる。平成7ー12年度の物件費の3割を未償却資産とすると、約102億 円(812億円X0.42X0.3)となる 。両者を合計すると、114億円となる。

 高隈演習林の立木の状態は、総面積の約半分程度が人口林で残りは雑木が占めてい る。立木の標準価格は、1ヘクタール当たり、40年もので、杉683千円、ひのき 942千円、松273千円、雑木50千円である。これをもとに立木価格を算定する と、人口林(演習林の職員によると、1年ものから80年ものまであるが、平均する と30ー40年ものが中心を占めているという)平均単価を400千円とする)が約 68億円、雑木7億円、合計75億円となる。佐多演習林はほとんどが雑木であるか ら、総額は1億53百万円となる。唐湊果樹園(727アール)の果樹類の標準評価 額は、みかん園の場合、樹齢16ー20年(成熟樹)で10アール当たり133,0 00円(温州みかん)であるから、総額967万円となる。

 家畜類の標準価額は、肉用牛(18ヵ月以上)290,000円、6ー12ヵ月未 満150,000円である。乳用牛の場合、1年6ヵ月以上3年未満が190,00 0円、3年以上ー5年未満170,000円、5年以上6年未満が150,000円 である。入来牧場では約500頭飼育している。成牛を8割、子牛を2割とし、成牛 のうち3割を乳牛とすれば、肉用成牛280頭、乳用成牛120頭、子牛100頭と なる。各々の価額は、肉用成牛8,120万円、乳牛成牛2,040万円、子牛1, 500万円となり、総額1億1,660万円となる。入来牧場では豚約70頭も飼育 している。1頭当たり5万円とすれば、総額250万円になる。ほかにも博物標本や インフラ的資産等が存在する。それらの資産評価額を約10億円とすると、鹿児島大 学の総資産額は、下表にみるように、約1,608億78百万円となる 。

表  鹿児島大学の有形資産額(未償却資産額)  (単位:百万円)

 鹿児島大学は1,608億78百万円の資産(ストック)と約380億円の年度予 算(フロー)のコスト投じて、教育・研究・診療治療・各種の社会サービスを供給し ているが、各々の割合を40%、30%、25%、5%と仮定する。ストックの減価 償却期間を40年(耐用年数40年とし、定率法による減価償却で計算すると、スト ックの2.5%がコストに計上される)とすると、年々のコストは約420億円にな る。年々のコストに見合った教育・研究・診療・社会サービスを供給していると仮定 すると、総額420億円のベネフットを作り出していることになり、教育が168億 円、研究が126億円、診療治療105億円、社会サービスが21億円となる。教育 については、168億円を学生数10,927人で割れば、一人当たり154万円の 教育サービスを受けていることになる。研究については、140億円を教員数1,0 82人で割れば、1,164万円となり、診療治療については入院・通院患者数45 5,506人で割れば一人当たり23,051円となる。社会サービスについては、 21億円を教員数で割れば、194万円を提供していることになる 。

 以上のようなサービスが供給できているのかどうか検証してみる必要があると思わ れる。また今後、どのようなサービスに重点をおいて鹿児島大学を運営していくのか も課題になるであろう。もちろん、大学の教育.研究・診療治療・社会サービスの供 給は教員のみによって行われているのではない。事務系・技術系・その他の職員の大 きな支えがあってはじめて可能であることはいうまでもないことである。したがって 、これらのサービスは、鹿児島大学全体が社会に提供しているサービスの総計である といえる。大学が供給するサービスは、有形・無形のもの、直接的・間接的なもの、 短期的・長期的なもの、金銭に換算可能なもの・不可能なもの等、多岐・多様である 。特に、教育や研究を短期的に評価することは不可能またはきわめて困難である。し たがって、このような試論(私論)は暴論であるとの非難をうけるであろうことは覚 悟している。

 ともあれ、「独立行政法人会計基準」が「独立大学法人」の会計にも適用されると すれば、「独立行政法人の会計は、財務諸表によって、国民その他の利害関係者に対 し必要な会計情報を明瞭に表示し、独立行政法人の状況に関する判断を誤らせないよ うにしなければならない」 とある。国立大学の設置形態が今後いかようになろうと も、正確な財務(予算)状況を把握して、限られた資源を最大限に有効活用し、教育 研究の改善に役立てるとともに、社会に対する説明責任を果たす必要がある。


むすび

 “はじめに”でも述べたように、「大学における学術研究の成果は、広く社会の発 展や人類の幸福のために還元されるべきものである。このような、大学の使命ゆえに、 各国において大学が公的な支援を受け、学術研究が様々な助成を受けているのは、学 術研究の公共財としての特性に基づくものであり、学術研究を推進することは、未来 への先行投資と考えられる」からである。だからこそ、大学審議会答申『21世紀の 大学像と今後の改革方策ー競争的環境の中で個性が輝く大学ー』(平成10年10月) も、「高等教育を取り巻く21世紀初頭における社会状況は現状からさらに大きく転 換し、人類にとって真に豊かな未来の創造、科学と人類や社会さらにそれらを取り巻 く自然との調和ある発展等を図るため、多様で新しい価値観や文明観の提示等が強く 求められるようになると考えられる。このため、その知的活動によって社会をリード し、社会の発展を支えていくという重要な役割を担う大学等が、知識の量だけではな く、より幅広い視点から「知」を総合的に捉え直していくとともに、知的活動の一層 の強化のための高等教育の構造改革を進めることが強く求められる時代ー「知」の再 構築が求められる時代ーとなっていくものと考えられる」と指摘しているのである。

21世紀の日本は、「経済大国」から「文化国家」へと成長発展することによって 「成熟社会」を迎えることが期待されている。国家財政が厳しい状況にあるとはいえ、 「国家百年の計」を誤らないためにも、高等教育の財政基盤の弱体化は是非とも回避 する必要がある。教育への投資は短期的・直接的にその成果が表われ、量的に計測で きる性格のものではない。 

東京大学の蓮実重彦総長は「大学の質は統計的に測れるものかどうか疑問である」 と言われたそうであるが、国立大学が公的資金を使ってどれほどの価値を社会に還元 しているのかを、質と量の側面から計測することも非常に困難または不可能に近いで あろう 。しかしながら、国や地方自治体などでも貸借対照表(バランス・シート) を作成して国または地方自治体の財政運営や国民・住民への情報開示に役立てる努力 がなされつつある。

独立行政法人は、毎事業年度、貸借対照表、損益計算書、利益の処分または損失の 処理に関する書類その他主務省令で定める書類及びこれらの附属明細書(「財務諸表 」)を作成し、当該事業年度の終了後3ヵ月以内に主務大臣に提出し、承認を受けな ければならない(「独立行政法人通則法」第38条)。そしてまた、それらの書類及 び監事の意見を記載した書面を、各事務所に備えて置き、主務省令で定める入ってい の期間、一般の閲覧に供しなければならない(同第38条4項)。

国立大学でも平成13年4月1日から公文書等の情報公開が義務づけられる。国立 大学の教職員も国立大学をめぐる財政状況を認識しておく必要に迫られている。本稿 はそのような認識から急遽準備を進め、取りまとめたものである。今後、資料等を収 集し、正確な情報に基づいて訂正を加え、Version Upのうえ、正確度を増していき たい。そのための研究ノートである。ご意見・ご教示を戴ければ幸甚に存じます。

本研究ノートの取りまとめに際して、法文学部及び本部の事務官、付属図書館の係 員の皆様に大変お世話になった。ここに深く感謝を申し上げる次第である。


(参考文献)   

参議院文教委員会調査室『国立大学財政制度の沿革』1964年

神山 正著『国立学校特別会計制度史考』文教ニュース社、1995年

文部省編『わが国の文教施策』各年度版

文部省『学校基本調査』各年度版

鹿児島大学『鹿児島大学30年史』1980年

鹿児島大学『鹿児島大学50年史』2000年

鹿児島大学『鹿児島大学概要』各年度版

鹿児島大学『鹿児島大学の現状と課題』1997年

鹿児島大学『国有財産現在高』(平成11年度)

インターネットによる文部省及びYahoo! JAPANからの各種資料

大蔵省『国の予算ー』各年度版

大学審議会答申『21世紀の大学像と今後の改革方策についてー競争的環境の中で個 性が輝く大学ー』1998年

岩崎・小沢編『激震!国立大学ー独立行政法人化のゆくえー』未来社、1999年未

佐藤三郎編『世界の教育改革ー21世紀への架ヶ橋ー』東信堂、1999年

臼杵市役所総務部規格財政課『臼杵市 バランスシート作成備忘録』1999年

熊本国税局『平成12年度財産評価基準書ー路線価図ー』、『平成12年度財産評価 基準書ー評価倍率表ー』2000年

経済企画庁経済研究所編『エコノミストによる教育改革への提言ー教育経済研究会報 告書ー』1998年

今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議『国立大学等施設に関 する点検・評価について』2000年3月

東京大学国立大学制度研究会『国立大学の法人化について(中間報告)』2000年

監査法人太田昭和センチュリー公会計本部/編『独立行政法人の実務ーその制度と会 計基準の要点ー』ぎょうせい、2000年