講談社現代新書2002.3.20 ISBN 4-06-149597-6

日本経済50の大疑問

森永 卓郎


p35 デフレ経済を考えるときには、デフレが深化すればするほど得をするのは誰かを考える必要があります。ローンも終わり、年金も確保し、教育費もかからず、蓄えもある高齢者世代は、デフレの被害を直接受けない安全地帯にいて、むしろメリットを享受します。

さらに「おいしい」思いを味わうのは、現金を大量に抱え込んでいる経済強者たちです。いま、デフレによって現金の相対的な価値はどんどん高まっています。そして土地や株式がタダ同然にまで下がったときに買い入れれば、デフレが止まりインフレに転しだときに、濡れ手で粟の莫大な利益を手にすることができる。私は日本の経済強者たちとアメリカの「ハゲタカファンド」が手を組んでそれを狙っていると考えていますが、デフレが少数の強者と大多数の弱者との経済格差を拡大することは間違いあうません。したがって、一日も早くデフレを阻止する経済政策を断行しなければならないのです。


p82 Q17 「銀行や生保が外資だらけになっても、 国民にとってプラスであればかまわないのでは?」

日本の大手金融機関が外資に買収されるとどういうことが予想されるでしょうか。旧・日本長期信用銀行は、リップルウッドという外資に買収されて、新生銀行と名前を変えました。この新生銀行は、「よくなった」と評価する人と、「あそこは鬼だ」とまで酷評する人とがいて、評判は真っ二つに分かれています。私自身は後者の立場です。彼らは「強いところにしか貸さない、弱いところに貸すなら高い金利をとる」という理屈で銀行経営をしています。つまり銀行の仕事イコールお金儲けだと割り切っているのです。

これは日本では新しい銀行のビジネスモデルともいえますが、要するにサラ金です。中小企業からも高い金利をとれば採算も合います。大企業に比べると破綻の可能性は高いけれども、破綻したら高い金利をとって儲けた分の中で償却をしていけばいいからです。・・・・・


p110 アメリカ経済は「弱肉強食型」でうまくいっていますし、ヨーロッパはヨーロッパで、みんな手をつないでうまくいっています。経済的にどちらが強いのかは、なんとも言えません。だだし私は、暮らしやすさはずいぶん違うでしょう、と言いたい。

いまの日本の「改革」がそのまま進んでいったときに必ず起こる事態は、ひと握りの金持ちが富をひとう占めしてしまって、残りの人たちは極端に貧乏になっていくことです。そういう社会のほうがいいというのなら、いまの改革の方向でいい。

しかし、富を独占するだけでなく、貧乏のほうに落ちていく人たちを「負け組」として落伍者の洛印を押し、軽蔑した目で見下ろすという彼らの論理を、私は感情的に許しがたいのです。お金のない人間を「負け組」と呼び、安い給料で大人しく勤勉に働いてさえいればいいのだと言って人間性を否定するような社会は、絶対におかしいと思います。


p145 いまは多くの中高年サラリーマンが年収六○○万円から八○○万円くらいの中流にいますが、このレンジがずっと下がっていって、一部の強者だけが富をひとり占めする社会になるというのが構造改革の本質です。そのことは、「構造改革派」の大半がモデルと仰いでいるアメリカにおける貧富の格差を見れば、容易に想像できるでしょう。

そればかりか、いまの「構造改革派」の議論は、アメリカ以上にドライな方向に暴走しているのではないかとすら思えます。ですから、実際に改革の痛みを受けるのは国民の大部分ですが、改革の効能を享受できるのは一部の支配者層だけということになります。それを口にしてしまうと国民は誰も支持しなくなるので、小泉首相もあえて言わないようにしているのではないでしょうか。首相が「改革後のビジョン」をいっこうに示さないのも、そのだめだと思います。この現実に国民は一刻も早く気づくべきです。