==> 北大関係文書目次
受取日時:2000.12.28 10:25:20
発信者:上出利光(遺伝子病制御研究所)他6名
保存場所:http://www.ac-net.org/home/hokudai/doc/010104.html

             北海道大学教官へのアピール

                  緒言

 北海道大学は我国の研究基幹大学の一翼として、大学院重点化を終了し、21世紀
を担う若人を教育する体制を確立した。これは、今後、充分な国際競争力を有し、次
代を託するにたる若人を世にどれだけ送りだすことができるかを、我々が(北大が)
問われているということに他ならない。また、現在大学自体の構造を根本的に変える
議論が、進行中である。

 いまこの時期に、北海道大学は、総長選挙を迎えようとしている。しかし、大学の
将来像をどのように描くのか? 大学の教育、研究体制をどうするのか、そのヴィジョ
ンは? 北海道大学としての個性をどこに求めるのか? 重点化された研究科と附置
研究所、共同利用センター等との関係は? 問題は山積している。北海道大学いや、
我国の将来を左右する極めて重要なこの時期に、北海道大学の将来を熱く語る議論が
見えないことを残念に思うのは、我々のみではないと確信する。このままでは、北海
道大学の進むべき道に教官1人1人が主体的に関与し、全学的に議論する事なく、部
局単位の運動により指導者を選ぶ事になりかねないという危機感を持つのは、我々の
みではないと信ずる。

 他人を待つのは止めよう。ただ傍観しているのではなく、まず我々自身から「北海
道大学の将来」を語り、同輩の批判を歓迎し、これを、今後の大学としての意志決定
の過程に反影させようではないか。また、総論のみならず各論の議論を進めざるして
真の変革は不可能であり、残された時間は極めて僅かであるというのが、我々の認識
である。

勿論、「新世紀における北海道大学像」一未来戦略検討WG検討結果報告書一 には、
我々が危惧する問題点に関連する多くの提言がなされており、賛同できる意見も少な
くはない。限られた期間で、これをまとめられた関係各位の御努力を多とするもので
ある。大学の将来に対して、このような委員会で決定される事項の重みが、これまで
になく大きくなると予想される。従って、未来戦略検討WGでコンセンサスを得られて
いない事項、また各論として今後重要と考えられる事項について、一部WG報告書の内
容と重複する部分も含め、我々の立場から少々意見を付記させていただく。少なくと
も、今後総長選挙の過程で、候補者として、最終投票に残る方は、我々のアピールに
対して、見解を公表されることを切に望むものである。


             
                アピール


 北海道大学では大学院重点化が終了し、名実ともに我が国の基幹総合大学となった。
しかし、現時点での重点化された各研究科は、従来の学部体制と比較し、真に将来の
教育研究を担える体制に変革されたのであろうか? 社会経済構造の変革や、分子生
物学の発展に伴う生命科学の革新的進歩により生じた新規、あるいは境界研究/教育
領域の出現に、充分に対応した体制が確立されたのであろうか?現実は各学部が、学
部の主体性という名の基に、他部局との有機的連携を充分想定せず、形式的な機構改
革に甘んじてはいないであろうか? 

具体的提案として、生命科学系を例に取ろう。医学部、薬学部、獣医学部、理学部、
農学部、工学部の生命科学系の学部教育、各研究科の大学院教育はどうあるべきか?
 従来のように、各々の研究科の教官が独自に、これを決定し、学内、学外講師を任
用して良しとするのではなく、大学として、研究科に独自のカリキュラムと、生命科
学系として共通のカリキュラムをどのように組み合わせ、北海道大学として他の大学
に誇れるカリキュラムを如何に作製するかを速やかに議論し、決定する必要がある。
決定された事項の実施に関しては強力なリーダーシップを発揮し、部局の自治の名の
もとで旧態依然として改革のなされない部局の存在を許さない担保処置をとるべきで
ある。これは、大学院学生の研究教育についても同様である。部局ごとに、各々の専
門家にまかす事のマイナスのアナロジーは、エイズ問題や原子力問題等の経験に求め
る事ができるはずである。この観点から生命科学系の教育に、倫理観、生命観等に係
わる文系研究科との有機的連携が必須であろう。

附置研究所や共同センタ−等も例外ではない。大学に属する部局として、北海道大学
における学生の教育に附置研究所等は、どのような関わりを持つべきであろうか? 
附置研究所等はまさに新規あるいは境界領域の研究/教育を担うに最適の立場にある
とも言える。従来のように単一の研究科に参加するという事で良いのであろうか? 
附置研究所等が、研究科の枠を超え、生命科学系に共通した、新規あるいは境界領域
の研究/教育を担当することを可能とするべく、ソフトの機構改革を行うべきである。
「新世紀における北海道大学像」に対する我々の危惧は、基本的には、部局を越えた
改革をうたいながら、部局単位の発想から抜けだせず、附置研究所や共同利用施設の
役割に全く触れられていない点である。

次に、来年度からスタートする校費配分と、大学による重点的予算配分の問題につい
て述べる。効率的予算配分、成果評価型予算配分、国民への成果還元、納税者への説
明責任等の名で、大学が大きく変化することを余儀無くされていることは充分理解で
きる。この点は、「新世紀における北海道大学像」の中でもかなりのスペースを割い
て論じられている。基本的にはその方向性に賛成である。しかし、成果評価型予算配
分の名の基に、外部から大型の研究費を獲得した研究者に、大学としても研究費、流
動研究員を重点配備することは、国、大学の異なるレベルで、全く同一の価値判断の
もとに予算を配分するという危険をおかす事を意味している。この方向を既に採用し
ている大学で発生している多くの問題点から、我々は学ぶべきである。時流にのらな
い研究分野、現時点で評価できる人間がいない分野等の研究者に対する、北大独自の
研究費の枠組みの設定を提案する。新規研究が本質的に内包する問題として、本当に
ユニークな研究は、その立ち上げ時期には、往々にして正当に評価されないことを我々
は研究者の本能として知っているからである。また、外部の競争的資金が、必ずしも
公正な評価によるもののみに依拠するわけでないことも、経験的に知っている。

 研究者育成の問題であるが、学部教育/修士課程教育/博士課程教育の育成にはこ
れまでも多くの提言がなされてきた。大学院化した本学では、学部教育、修士課程教
育と博士課程教育、ポスドク教育の3つに関して継続性を持たせつつも、それぞれ独
自の方策を取る必要がある。特に博士課程教育、ポスドク教育に関しては、研究科の
改革と切り離してはあり得ない。大学院大学において、新規領域/境界領域を担当す
る事の多い附置研究所が、如何なる役割を果たすべきか、早急に議論しなければいけ
ない。研究所と研究科の研究施設、設備の再配置、配分、流動研究員や研究支援員の
配分等、ハード、ソフトの両面から検討する必要がある。これを部局単位で検討する
のではなく、全学のイニシャチブの下に行う必要がある。


          アピール文 発起人(アイウエオ順)

上田 哲男 (電子科学研究所)
上出 利光 (遺伝子病制御研究所)
小野江 和則(遺伝子病制御研究所)
小林 正伸 (遺伝子病制御研究所)
志田 壽利(遺伝子病制御研究所)
西村 孝司(遺伝子病制御研究所)
細川 眞澄男(遺伝子病制御研究所)
(電子住所・電話番号等はオンライン化時に省略)