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Date: Tue, 20 Feb 2001 09:18:15 +0900
To: hu-members
From: Toru Tsujishita
Subject: 国大協委員会委員長試案の問題点

北大構成員のみなさま

               独法化問題を考える北大ネットワ−ク会員
               辻下 徹

文部科学省の法人化法案大綱呈示が間近に迫っていることに対応して、国立大学協会
も法人化案をまとめつつあります。その手続きの一環と思われるのですが、学内で長
尾試案(添付資料1)が配付されました。これは、独立行政法人化の骨格を前提とし
たもので、文部科学省の法人化法案大綱案にほとんど取り入れられることが予想され
ます。

国立大学協会の設置形態検討特別委員会議事録を読むと「落とし所」を探すことにし
か関心がない委員も少なくありません。1999年9月に、そのような関心に終始し
てか、文部省の動きに先んじて出した第一常置委員会の中間報告が、文部省の検討の
方向に取り込まれて、身動きがとれなくなったことは記憶に新しいことです。

長尾試案は独立行政法人化容認宣言であり、通則法通りではないから独立行政法人化 
反対とは矛盾しない、というような言い逃れはできないと思います。長尾試案を各構
成員自身が検討され、明日の評議会に向けて、お近くの評議員の方々に意見などを伝
えてくださいますよう、お願い致します。

参考までに評議員の方々に送付致しました私見を添付します。

辻下 徹
理学部4号館403室
TEL and FAX 3823
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst
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                        2001年2月20日

北海道大学評議員のみなさま


               独法化問題を考える北大ネットワ−ク会員
               辻下 徹



国大協設置形態検討特別委員会の委員長名による法人化試案(資料1)(以下、
長尾試案)が2月7日付けで出され、北大を始め多くの国立大学内で配付され
ています。この手続きを経て、2月22日の設置形態検討特別委員会で、委員
会案とされ、3月2日の理事会で国立大学協会案とされる可能性は高いと思わ
れます。

 長尾試案は独立行政法人制度の骨格を前提としたもので、実質的な独立行政
法人化の容認となっています。昨年6月の国立大学協会総会前の北大評議会で
の議論に照らして長尾試案を検討し、北大の意思を代表する評議会として責任
ある行動をとることをお願い申し上げます。

                          --------------

【問題点1】<中期目標・中期計画・事後評価>形式

項目3で、国立大学法人法を設計する際、独立行政法人の基本的枠組を参考に
すると述べられています。しかも、項目9,10 では、<中期目標・中期計画・
事後評価>形式が暗黙の内に前提とされています。しかし、この形こそ、独立
行政法人制度の骨格であり、大学の研究教育活動にとっての有害性の核心部分
です。

この形式の有害性は具体性を帯び始めています:

大学評価機構の評価方法ができて明らかになったことは、事後評価の基準とな
る中期計画は具体的で詳細なものになることです。さらに、4月より独立行政
法人になる国立研究所の例から明確になったことは、中期目標・計画は法人運
営に留まらず、法人の活動全般に及ぶことです。従って大学の場合には、中期
目標・計画は教育・研究内容に及ぶことは確実であり、実際、文部科学省自身
もそのように考えていることは、調査検討会議目標評価委員会(2000.12.13)で
次のように述べていることからわかります:

「独立行政法人の制度設計をした官庁も、すでに先行独立行政法人の中期目
標を見ながら議論をしているが、その中でも特に「業務」と「業務運営」との
峻別を意識していないようであり、今のところは、むしろその機関の特性に配
慮しながらも、業務が丸ごと目標の対象になり得るという前提で考えられてい
るのではないかと受け止めている。」

長尾試案が最終的に文部科学省案に取り入れられたとしても、詳細な中期計画
の遂行に大学は存廃を賭けて励まなければならなくなります。各教官の価値観・
見識・問題意識を配慮する余地は大学にはほとんどないでしょう。目標を大学
が選び、計画を大学が建て、学長を大学が選び、評議会が大学の最高意思決定
機関となり、評価を大学評価機構がしたところで、試案に基づく国立大学法人
の自主性・自律性と、教員の自主性・自律性とは両立せず、後者を基盤とする
学問の自由は残らないのです。

【問題点2】学長選挙廃止・評議会の審議会化の容認

項目6、8は、昨年4月に施行された、改正学校教育法・教育公務員特例法を
復唱したものであり、学長選挙を廃止し評議会を最高の意思決定機関ではなく
することを、大学自身が追認することになります。この点は、東京大学の法人
化小委員会が1月30日に出した「東京大学が法人格をもつとした場合に満た
されるべき基本的な条件について」(添付資料2)の項目2で、「総長を法人
の長、評議会を法人の基本的な事項に関する最高の意思決定機関として位置づ
け、総長は教授等教育研究に責任を負う構成員の選挙によって選ぶものとする。
」と明記しています。法人化しようがしまいが、昨年4月に国立大学が失った
ものを取り戻すことは、今後の国立大学に必要な自主性・自律性の鍵であると
共に、その発露となる意思表明行為の第一歩となるのではないでしょうか。

                          --------------

私たち大学にいま在籍する者は、独立行政法人化のもたらすものを何度でも初
心に戻って根気よく直視すべきであると思います:大学も学部も学科も講座も
教官も、それぞれの零和ゲ−ム(実際は負和ゲ−ム)に投げ込まれ、大学は容
易に民営化される体制に移され、教育の機会均等が損なわれ、大学が<科学技
術>だけの場となり学問の多様性が破壊され日本社会の知的ポテンシャルが急
速に失われ、そして何よりも、大学と学問が全面的に国家に従属させられ,先
人たちが何とか守り続けて来た学問の自由が破壊されてしまうのです。

国大制度の中でも出来る改革は無数にあることが、この1年余の間に、明らか
になりました。私たちが努めるべきことは、国大制度に留まっての改革の方法
を真剣に検討し、形の上の改革を静かに拒否し勇気を持って国大制度に留まり、
各教官が社会に感謝しつつ落ち着いて自分の信じる所に従って研究教育に励み、
日本の精神風土を豊にしていくことに努め、白川博士が強調されたように、大
学と社会との直接的紐帯を時間をかけて強めていくことではないでしょうか。
産学連携もその一環として初めて長期的な効力を持つようになるのではないで
しょうか。

北大評議員の皆さま、明日、評議会が開かれると聞きました。北大評議会を今
一度、日本全体の将来をも視野に入れた議論の場とし、未来世代に対する責任
を意識した決断をされることを、お願い致します。

辻下 徹
理学部4号館403室
TEL and FAX 3823
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst

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   国立大学法人の枠組についての試案



             国立大学協会
             設置形態検討特別委員会
             委員長  長 尾  真



国立大学協会設置形態検討特別委員会は昨年7月発足以来、今回まで9回の討
議を重ねて来た。その間に扱ったテーマは多岐にわたる。一方、この特別委員
会の下にもうけた4つの専門委員会でも設置形態の詳細を検討して来た。今後
さらに検討を進めてゆくためには、今後の国立大学のあるべき形態の検討とと
もに、仮に国立大学が法人格を取得した場合にも教育・研究の質の向上、国際
競争力の強化や地域貢献につながるものとなる枠組について、現時点での特別
委員会の意見の集約をすることが大切であり、これまでの委員会での議論、お
よび2度にわたる各委員・専門委員からの意見の集約を行い、この試案を作成
した。


1.大学の名称は国立大学法人○○大学とする。

2.国立大学法人は国が設置し、その経費を国が負担するが、その管理運営は
国によって法人格を付与された国立大学自身が行う大学である。

3.法人格の取得によって、大学は自主性・自律性が高まり、個性化とともに
教育研究の質が向上するものでなければならず、これを保証する国立大学法人
法を独立行政法人の基本的枠組を参考にして作る。

4.一大学一法人とし、法人の長である学長のもとに経営と教学を一致させて
運営する。

5.大学の管理運営を適切に行うために、副学長その他の職を置き、学長を補
佐する体制を各大学に適した形で作る。

6.大学に評議会を置き、最高の審議機関とする。部局に部局教授会を置き、
部局の重要事項を審議する。

7.大学に外部の有識者からなる運営諮問会議を置き、大学に対して助言・勧
告を行う。

8.学長の選考は、運営諮聞会議の意見を聞いて評議会が定める選考基準にし
たがって評議会が行い、その申し出によって主務大臣が任命する。学長の解任
についても同じ。

9.大学の中期的な活動の目標とその目標達成のための具体的な計画は、数年
の期間について、主務省と協議して大学が決定する。

10.大学の評価は、計画期間の終了時に、設定した目標に対する計画の達成度
を中心に行うが、教育・研究に関しては大学評価・学位授与機構などの機関に
よる多元的評価に基づく。

11.国は、大学の教育研究を維持するために必要とされる運営経費および施設
整備費を負担する。運営経費は、計画に記載する必要のない基盤的教育研究経
費と計画に記載された事項に関する経費とを含む。

12.計画期間終了時点における計画の効率化による節約分、および外部から導
入した資金の余剰については大学が留保し、基金に組み入れる等ができるもの
とする。

13.国立学校特別会計が抱えている債務を個別の法人に継承させない。

14.大学教職員の身分等については、国家公務員型とし、教員の身分等につい
ては、現在の教育公務員特例法の精神を生かし、勤務条件等の弾力化をはかる。

15.大学共同利用機関については、国立大学法人法にそのための条項を設け、
国立大学と一律に論じられない点は別途規定する。

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(資料2:東大職員組合ホ−ムペ−ジより)#評議員の方には全文を添付
「東京大学が法人格をもつとした場合に満たされるべき基本的な条件について」
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/010218kihonjouken.html

 2.国の設置する大学である東京大学においては、自律的な意思に基づく教
育研究の推進のために、教学と経営は一体化したものでなければならない。そ
のためには、総長を法人の長、評議会を法人の基本的な事項に関する最高の意
思決定機関として位置づけ、総長は教授等教育研究に責任を負う構成員の選挙
によって選ぶものとする。他方で、東京大学は、与えられた使命を実現するた
めに従来以上に責任ある大学運営体制を確立するとともに、第三者を含む会議
体の設置などにより、大学運営の透明性を高める必要がある。

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