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平成13年5月16日評議会資料17−5 平成13年5月16日
法人化問題検討WG「検討経過の中間報告」目次

はじめに
1 検討の趣旨
2 国立大学の存在理由
3 国立大学の法人化の意味
 (1)法人格の取得
 (2)管理運営の主体としての大学
 (3)設置形態
 (4)国立大学法人のための法律
 (5)国立大学法人法(仮称)と独立行政法人通則法の関係
4  基本的な考え方
 (1)国を設置者とし国が財政責任を負う大学法人であること
 (2)「学問の自由」の確保と大学の自主性・自律性の拡大
 (3)大学にふさわしく,権限と責任が明確な体制
 (4)社会に開かれた大学
5.法人の基本
 (1)法人の名称と単位
 (2)法人の目的と業務
 (3)法人化により大学に委ねられる事項
 (4)法人の長
6 目標と評価
 (1)制度の意味
 (2)国立大学への適用
 (3)「中期目標」
 (4)「中期計画」
 (5)評価者
 (6)評価作業
 (7)「改廃勧告」
7 人事
 (1)基本原則
 (2)職員の身分と教員にかかる特例
 (3)法人の長(学長)
 (4)役員
 (5)教員
 (6)教員以外の職員
 (7)給与
 (8)服務・兼業等
 (9)人員管理
8 財務と会計、
 (1)基本原則
 (2)運営費交付金
 (3)施設整備
 (4)外部資金等
 (5)特別会計債務

                         平成13年5月16日
                          評議会資料17−5

                     		平成13年5月16日

             「検討経過の中間報告」	

                         法人化問題検討WG座長
                        井 上 芳 郎


はじめに

(1)報告の趣旨:
この報告は,「法人化問題検討ワーキンググルーブ」(以下本WGという。)の
これまでの検討を要約し評議会に紹介するための「検討の途中経過」である。

(2)WGの設置目的:
2001年3月21日,北海道大学評議会は「本WG」を設置した。本WGが設置された
目的は以下の3点であった。

1)法人化する場合、国立大学および本学の設置形態の基本的な在り方の検討

2)その場含の本学の機能,人事制度,財務会計に関する基本的な考え方の検討

3)その場合の法人の基本形態,目標と評価,人事制度,財務会計などの制度
設計の検討

(3)WGの構成と開催日時:資料1および2を参照。

なおこれまでに開催した7回分の議事要旨を作成し評議員に送付した。8回目の
議事要旨は確認か済みしだい送付する。

(4)参考資料:
本WGの検討が進められている間に,国立大学協会,文部科学省調査検討会議,
文部科学省などで国立大学法人法の草案準備のため,「基本的枠組み(案)」
の検討が進捗している。
  そのため,本WGは,下記の@〜Cなどの資料を随時参照した他,東大・名大・
阪大・一橋大などが法人化について検討した資料を随時参照しながら検討を進
めている。


@資料3は,国立大学協会設置形態検討特別委員会委員長長尾眞(京大総長国
立大学協会次期会長)名で提出された「長尾試案BJの関連部分である。

A資料4は,国立大学協会設置形態検討特別委員会で検討された文部科学省作
成の資料(「モデル案」)である。

B資料5は,文部科学省調査検討会議の目標評価専門委員会の作業委員が作成
した作業文書(「イメージ案」)で,未定稿であるが一例として参考に供する。

C資料6は,文部科学省調査検討会議の組織業務専門委員会の作業委員が作成
した作業文書(「運営組織機構図案」)で,末定稿であるが参考に供する。

(5)「検討経過の中間報告」の項目
1 検討の趣旨
2 国立大学の存在理由
3 国立大学の法人化の意味
4 基本的な考え方
5 法人の基本
6 目標と評価
7 人事
8 財務と会計

1 検討の趣旨

大学の使命は高等教育と学術研究の推進であり,大学改革の目的はその使命で ある教育研究の質を高めることである。したがって,本WGは,国立大学の高等 教育および学術研究の質を高めることを目的として,大学自身が改革を推進し ていくという観点から,法人化に関する検討を進めてきた。 教育研究の向上という観点に立って,大学人が国立大学の設置形態を自ら構想 し,国立大学の制度設計に関して,立場を明確に表明することは,これまで国 民の付託によって高等教育および学術研究に従事してきた国立大学の教育研究 者の責任であり,同時に本学の125年の歴史に対する責任であろう。 これまでも国立大学に関して,本WGと同様,大学改革の観点から,あるいは行 財攻改革上の観点など本WGとは異なる観点から,国立大学の設置形態と制度設 計に関して提案がなされ,そのなかで大学人自身による大学改革が厳しく問わ れている。それに対し,本WGは「それが教育研究の質的向上という方向に合致 するならそれに賛成し,そうでないなら,それに反対し批判を加えることによ りできるかぎりわれわれの目指す改革の方向に近付ける」という基本的立場か ら検討してきた。 また現在,国立大学協会や文部科学省調査検討会議などにおいて,法人の「基 本的枠組み(案)」の検討が進められている。そこでは法人化された場合,国 立大学に新たに付け加わる権限と責務の制度的輪郭がほぼ明らかになりつつあ る。法人化に関する一つ一つの制度設計は,これまでの大学の活動の性格を大 きく変える可能性をもっている。そこで本WGは重要な論点に絞りながら,それ らが教育研究の向上に資し,そして大学本来の特質を歪めないような形での制 度設計が望ましいという観点から,真撃に対応し検討を加えた。評議会による 検討の参考になれば幸いである。

2 国立大学の存在理由

大学の使命は,高等教育と学術研究であり,知的資産の継承発展創出と有為な 未来の世代の育成である。この社会全体の要請に応えて,国自身が設置し,管 理し,その主な費用を負担する大学が国立大学であり,ほとんどの国家が国立 大学を置き,高等教育と学術研究に直接の責任を果たしている。わが国の国立 大学は,文部科学省の行政組織の一部(施設)として設置されている。 その国立大学の存在理由は,憲法第26条の「教育を受ける権利」および教育基 本法第3条の「教育の機会均等」を高等教育のレベルで保障することにあり, また特定の思想信条,宗教や団体などに中立的な大学が存在することの必要性 に基づいている。また国立大学は多様であるが,それを総体として見れば,そ の教育研究が文理農水医などのいずれにも偏ることなく全般にわたり,民間に 委ねた場合には継続が困難な基礎分野,国費による以外には成立が困難な大規 模プロジェクトの研究を行い,教師・医師・歯科医師の育成などの社会的要請 に率先して応え,各地域にあって学術研究や文化の拠点となり,比較的低廉な 授業料によって高等教育の機会均等を保障する点に存在意義がある。 本学が,125年の歴史のなかで,北方圏に位置する広大なフィールドと海洋, 歴史と文化,物質・生命・人間を対象として特徴ある教育研究を重ね,国およ び地域の発展に大きな役割を果たし,世界に通用する高次の教育研究を長期的 に続けてくることができたのも,国の機関として存立し,国費によって賄われ たことに基づいている。このように国が設置する国立大学は,わが国の近代史 において大きな役割を果たしてきたし,また今後ともその存在意義は否定しえ ないであろう。またそれに代替しうるような新しい大学の仕組みは見当らない し,長期的な大学の将来を検討する場も設けられていない. もちろん大学の意義や存在理由は固定的なものでなく,歴史とともに変化する。 また仮に国立大学が,その本来の使命や社会から期待される役割を十分に果た していないとすれば,それは今後改革によって正されるべきであり,そのよう な国立大学に対する批判や新しい要請には真摯に対応し,取り組むべきことは いうまでもない。 したがって本WGは,ここに述べたような国立大学の使命と役割が,「法人化」 の如何にかかわらず,維持され発展されるべきであることを前提として検討を 行なうこととする。

3 国立大学の法人化の意味

「国立大学の法人化」とは何を意味するのか。それをあらかじめ明らかにして おく。 (1)法人格の取得 国立大学は現在,文部科学省に置かれた国の施設である。(ただし多くの人々 は,国立大学は,独立した機関として「法人格」をもっていろかのように受け 取ってきた。)それに対し「法人化」とは,法人格を取得し,国とは別の法主 体となることを意味する。その場合,私立大学と学校法人の関係のように,大 学組織と区別された法人組織を設置することも論理的には可能であるが,以下 に述べるように国立大学が「経営管理と教学の一体」および「一大学一法人」 を原則とするなら,大学組織と法人組織は一体不可分のものと考えられる。し たがって,法人化とは,移行時点の国立大学に法律によって直接に法人格を付 与するものであるべきである。 (2)管理運営の主体としての大学 国立大学は現在,「国が設置し,国が管理し,その経費を国が負担する大学」 である。それに対し「国立大学の法人化」とは,「国が設置し,その経費を国 が負担するが,管理運営は法人格を取得した国立大学自身が行なう大学」に移 行することを意味する。国は設置者であり,設置者が費用を負担する点では現 行通りだが,国立大学の「法人化」は,自ら権利義務の主体となった国立大学 が,その直接的な管理運営主体となることを意味する。その反面で大学自身が 管理運営に伴う責任を国および社会に負うことになる。したがって国から国立 大学に管理運営上の権限が移行し,国立大学自身が意思決定を行う。このよう に法人格を取得し,管理運営主体となる国立大学を,以下「国立大学法人」と いう。 (3)設置形態 現行の大学の設置形態として,国が設置する国立大学,学校法人が設置する私 立大学,地方自治体が設置する公立大学,および放送大学学園が設置する放送 大学が存在するが,「国立大学の法人化」という場合には,「民営化」や「地 方移管」を意味しないことに留意すべきである。すなわち現在の国立大学が, 私法人である学校法人や地方自治体を設置者とする形態となることを意味しな い。「法人化」によっても,国立大学の設置者が国であることはかわらない。 また国が設置者として国立大学の主たる財政責任を負うことも変わらない。ま た国立大学は「国が設立する法人が設置する大学」ではない。これは私立大学 の場合,まず私人である建学者の出資によって学校法人が設立され,その学校 法人が私立大学を設置することと明確に区別される。また放送大学の場合,国 が設立した放送大学学園が設置する大学であることに対比される。 (4)国立大学法人のための法律 法人格の付与は法律によって行なう必要がある。また公法人の場合,法人格の 付与によって当然に自由度が増すわけではなく,法律にどのように規定される かによって具体的に何ができるかが決まる。さらに「経営管理と教学の一体」 の原則からすれば,その法律は法人の組織と活動のみならず,大学の組織と活 動を定あるものとなる。したがって,国立大学に法人格を付与する法律は,国 立大学の特性にふさわしい名称,事業,基本組織,目標と計画,評価,人事, 財務,会計などの大綱を定めることによって法人化を実現すべきであろう。ま た,すべての国立大学に共通する通則法的な一つの法律(「国立大学法人法 (仮称)」)によって,法人化することが望ましい。 (5)国立大学法人法(仮称)と独立行政法人通則法の関係 国立大学の改革は,本学を含む国立大学が自主的に行なうべきであるが,改革 のための法律の制定は,ひとり北海道大学,99の国立大学,国立大学協会によっ て成し得るものではない。とくに国立大学の設置形態を変えることは,社会的・ 政治的には「国立大学と社会との契約の結び直し」と意味付けられ,最終的に 国会によって決せられることはもとより,その帰趨は国立大学の設置者である 文部科学省,財政当局である財務省,行革を担当する総務省,与野党,そして 世論の動向によって大きく左右される性格をもつ。 国立大学に法人格を付与する「国立大学法人法(仮称)」は,独立行政法人通 則法の特例法として制定されるもの,とされている。独立行政法人通則法は, 予算の単年度主義をこえた柔軟な運用を可能にし,国の関与の重点を事後チェッ クに移行させ,その活動と資金の透明性を高めるなどの特徴をもった制度枠組 みである。しかし本学の「独立行政法人化に関する検討WG」の「中間まとめ」 (1999年8月)などが指摘するように,独立行政法人通則法を国立大学に適用 することには下記の問題点がある。 (A)独立行政法人通則法の「中期計画・中期目標における主務大臣の指示」 は,そのままでは憲法第23条の「学問の自由」と背馳するおそれがある。 (B)独立行政法人通則法は,企画立案と実施を組織的に分離することを前提 とするが,国立大学を企画立案機能をもたない実施機関と位置付けることは, 教育研究を大学自身が企画立案する大学の在り方としてふさわしくない。 (C)独立行政法人通則法は,行政手法として「評価における数量主義」を前 提とするが,大学の主な活動である教育研究の評価には「数量主義」になじま ない面が少なくない。 (D)独立行政法人通則法が導入された経緯は,行財政改革を目的としたもの であったが,国立大学が目的としている改革は教育研究の発展と向上であり, その両者は方向を異にする面がある。 (E)独立行政法人通則法の予定する管理運営の枠組みは,現行の国立大学の 管理運営の枠組みと乖離している点があり,調整を要する。 そのため文部大臣が,1999年9月,多くの点で独立行政法人通則法に対する特 例措置を要するとし,また自民党提言(2000年5月1)が基本組織,目標・計画, 評価,学長人事,名称の5点に関して調整を要するとしているのは,当然とい えよう。国立大学協会が主張するように,独立行政法人通則法は国立大学法人 にそのままの形では適用できない。なにより「国立大学法人法(仮称)」が法 人格を付与する国立大学およびその教職員数は,すでに独立行政法人化が決定 した機関や職員数より多い。とすれば国立大学の特性を踏まえ,また現在の国 立大学を規定する教育基本法,教育公務員特例法以下の独自の法体系との調整 を図りながら,「国立大学法人法(仮称)」が,大学にとって必要な制度を定 めるべきである。

4 基本的な考え方

(1)国を設置者とし国が財政責任を負う大学法人であること 国立大学の法人化は,学術研究と高等教育のコストを低下させるための方策と して行なわれてはならない。国が学術研究と高等教育に責任を負い,それらに 財政的責任を負う体制を堅持・拡大すべきである。そして国が国立大学を設置 し,国立大学に対して法人格を付与し,設置者としての国が負うべき財攻的責 任を維持・拡大する制度的な枠組みが必要である。それに対し国立大学は,社 会・納税者の期待に応えるべく,学術研究と高等教育の質的向上に最大限の努 力をはらう。 (2)「学問の自由」の確保と大学の自主性・自律性の拡大 国立大学の法人化は,「学問の自由」を侵害するものであってはならず,また 大学の自主性・自律性を拡大するものでなければならない。国立大学は,従来, 国の行政の一部とされていたことによって様々な制約を受けていた。しかし国 立大学に法人格が付与されることは,ただちに「学問の自由」の確保や自主性・ 自律性の拡大を意味するわけではなく,法令がどのように国立大学法人を定め るかによって,その自由度や自主性・自律性が規定されてくる。したがって, 自由の確保と自主性・自律性の拡大を盛り込んだ法的枠組みが必要となる。こ の自由と自主性・自律性の拡大に伴って,国立大学は当然により大きな自己責 任を負い,より厳しい自己規律を行なうべき責務を負う。 なお大学における,(i)「具体的研究の内容と方法における自由」,(ii)「全 ての判断を超越した神のような絶対者や独裁的権威の否定」,(iii)「社会から の価値的自立」を確認し,教育研究は内発的自由に依って立つという大学の特 性を担保する機関として,教授会,部局長会議,評議会を,国立大学法人の運 営体制のなかに適切に位置付けるべきである。 (3)大学にふさわしく,権限と責任が明確な体制 法人格を付与され,また大学の直接の管理主体となることによって国から新た な権限が移管され,また学術や社会の変化に適切に対応する必要があることを 考慮して,国立大学法人の制度設計がなされる必要がある。法人化された国立 大学は,国を設置者としつつ自律的な意思決定を行うことから,教学と経営と が一致している必要がある。国立大学は,教育研究という大学の主たる活動目 的にふさわしい運営体制をもつ必要があり,また教育と研究の質的向上をはか り,それらを活性化・高度化するために,明確な権限と責任に基づく効率的な 運営体制をもつ必要がある。大学は,多くの点で行政や企業とは異なった組織 体であり,また独立行政法人通則法の前提とする企画立案権をもたず実施機能 のみを担当する行政組織とは特性が異なっていることを踏まえ,管理運営と教 学の枠組みを定めていく必要がある。 (4)社会に開かれた大学 主に国費によって運営費が賄われる国立大学は,国の財政負担,とくに負担増 を伴う組織の新設や拡大などについて,国や社会の同意を必要とし,国の関与 を受けることは当然である。また公金や外部資金の不適正な使用を防止する仕 組みも必要である。また国立大学は,その学術研究や高等教育の成果などを適 切に社会に還元し,またそれらが国民・社会にとって役立つものであること (それが直接的即時的に役立つものでなくとも,長期的文化的な存在意義,あ るいは現在とは異なる未来を創る上で存在理由があること)を説明する義務を 負う。すなわち,学術研究と高等教育の特質を阻害しないで,社会に開かれた 大学を作り出すことが国立大学にとって童要な課題となっており,社会に対す る説明責任(アカウンタビリティー)を果たすためにも,たとえば現行の運営 諮問会議を検討の出発点として,学外有識者が大学運営の重要事項に助言・勧 告し,審議の過程に一定の範囲で加わるような制度的な仕組みを構想すること も可能であろう。また法人化後の大学運営に必要な能力をもったものを,学内・ 学外を問わず役員・職員などに任命・採用することも可能であろう。ただし, どのような学外者をどのような範囲で大学運営に加えるべきかは,それが何を 目的とし,どのような機能を期待するかによって異なっているため,それが何 のでこめであるかを明確にした上,それに適切な形で制度設計される必要があ る。

5.法人の基本

(1)法人の名称と単位 北海道大学が法人化した場合は,「国立大学法人北海道大学」と称する。法人 の単位は,先述のように,教学と経営の一体不可分性に照らし,一大学一法人 を原則として検討を進めるべきものと思われるが,大学の業務を規定する大学 法人制度の詳細や中長期的な財政動向など、なお未確定の要素が多いことを考 慮すると,現時点で法人の単位を過度に固定的に考えることは適切を欠く恐れ がないとはいえないという指摘もある。 (2)法人の目的と業務 国を設置者とする国立大学法人北海道大学は,高度の学術研究,全人教育によ る社会に有為な人材の育成,憲法が保障する均等な教育機会の提供,国及び地 域の科学技術・産業・文化・医療への貢献等を通じて国民の福利の増進に寄与 することを目的とする。国立大学法人北海道大学は学術研究と高等教育及びこ れに直接付帯した業務を行う。直接に収益を目的とした事業は,これに含まれ ない。 (3)法人化により大学に委ねられる事項 法人化した場合に国立大学が権限と責任を負うことになる管理運営事項の具体 的内容については,なお検討すべき点が少なからず残されているが,少なくと も下記の事項は含まれることになろう。 (i)大学院研究科・学部・研究所・附属病院等の設置・改廃は,政令または文部 科学省令によって定められるが,研究科・学部・研究所等に属する専攻・学科・ 部門・講座等の設置・改廃は,中期的な目標・計画に含めることにより,大学 において決定することができる。 (ii)これまでと同じ教員人事に関する権限に加え,教員以外の職員(監事を除 く。)の人事が大学(直接には法人の長)の権限に含まれることになる。 (iii)常勤教職員の総数や総人件費等については国の関与を受けようが,教職 員の職種の在り方,職種別の常勤教職員数の内訳および常勤職員数の内部組織 間の配分は大学に委ねられる。 (iv)運営費交付金の総額と施設費は国が決定するが,それらに関する予算の決 定,および自己収入に関連する予算の決定は大学に委ねられる。 (v)借入金の受け入れ,財産運用と会計処理の方法等は,基本的に大学の権限 と責任に含まれる。 (vi)役員の報酬,教職員の給与水準及び各人の給与は大学において決定する。 (vii)大学の教育研究等の事業活動,財攻と経理等を国民に公開し,説明する 責任を大学が負う。 (viii)その他,大学は契約と訴訟の当事者となり,危機管理などの責任を負う。 (4)法人の長 法人の長を学長とする。学長は,法人を代表し,その業務を掌り,職員を統督 するものとする。 (5)役員 法人の役員を,学長及び監事並びに若干名の副学長等とする(後掲「7人事」 参照。)。 (6)運営組織 大学法人の管理運営の組織として,現行の評議会,部局長会議及び教授会に加 え,上記の役員からなる役員組織(「運営会議(仮称)」)を置き,法人化に 伴って拡大する大学の権限と責任は,基本的に役員組織が担うものとする方向 で検討すべきであろう。 (7)運営会議(仮称) 運営会議を学長が統括する法人の執行機関とするが,法人の運常に関する重要 事項については,評議会の審議を経なければならないものとすべきである。 (8)大学運営への学外者の参画 国民・社会に開かれた大学運営を実現し,法人化に伴って拡大する権限と責任 を担うために必要な能力・知見を導入し,かつ,学内の諸利害を公正に調整す るために,大学運営に学外者の参画をはかることは,大学の自治に配慮し,適 材を適所に任用できる限り,有意義なことであると考えられる。 現行の運営諮問会議の延長線上に,革として経営に関する重要事項について の審議にも携わる機関を,学長が指名する学外者及び役員等の挙内者によって 構成されるものとして構想することは,大学運営への学外者の参画の一方策と して検討に値するであろう。

6 目標と評価

(1)制度の意味 目標・評価制度は,合意された「目標」のもとに,「計画」を定めて活動を展 開し,一定期間後,その活動の結果に対して「評価」を受けるシステムである。 「計画」は,国の予算支出の基礎となる。また「評価」は,国費などの使途の 透明性と説明責任を担保する機能を果たす。仮に独立行政法人通則法がそのま ま適用されるならば,(i)主務大臣による「中期目標」の指示・公表,(ii)各 法人の「中期計画」の作成と主務大臣の認可,(iii)各法人による年度計画の 届出,の3つの手続きによって独立行政法人の業務目標・計画が明示され,同 時に予算枠組みが定められる。そして5年後に,主務省評価委員会および総務 省評価委員会による評価が実施され,その結果は運営費交付金の配分に反映さ れる。 (2)国立大学への適用 この制度は独立行政法人制度の中核であり,国立大学への適用は,外形上,外 すことが極めて困難であると考えられる。しかし国立大学と他の独立行政法人 とは異なる。独立行政法人制度は,企画立案とは切り離された実施機能のみを 担う行政的な業務を念頭において構築された。しかし国立大学法人は,教育研 究という特性をもち,また自ら企画立案し,その上で実施する機能を有してい る。そのため,「中期目標」「中期計画」などの名称を残すにしても,独立行 政法人制度を大幅に修正する必妻がある。 (3)「中期目標」 独立行政法人通則法の定める「主務大臣が目標を設定し,それを独立行政法人 に指示する」という一方的指示は,大学の本質を損なうため,国立大学法人に 適用することは不適切である。それに対し,文部科学省は「検討の方向」 (1999年9月)で部分修正を提案し,「文部科学大臣が「中期目標」を定める 際には,大学の教育研究の自主性・自律性を担保するために,大臣は各大学か らの事前の意見聴取義務を課す」としているのは当然である。その結果,大学 と文部科学省の企画立案が併存することになり,その間で調整を行い,合意を 形成する必要がある。また各大学が,その個性に基づき重点的に取り組む事柄 は「中期目標」に記載されるベきである。 (4)「中期計画」 「中期計画」は,大学の社会に対する意思表示の意味をもつほか,期間を通じ た概算要求の基礎としての機能をもつ。「中期計画」の記載事項は,大学の新 規事業分,教育研究や管理運営の改革をはかる事項,各大学の事業の根幹とし て継続すべき事項など,重要な事項に限る方向で,検討を進めるべきである。 また教育研究は常に変化していく性格をもっているので,「中期計画」は必要 に応じて期間中にも弾力的に見直すことができるようにすべきである。 (5)評価者 国立大学の特性は他の独立行政法人とは異なることから,文部科学省に「大学 評価委員会(仮称)」を置き,同委員会は評価の項目,基準,方法,プロセス などについて,公平で透明な評価の実施に努め,評価委員には大学の教育研究 に深い知見を有するものを選任すべきである。 (6)評価作業 教育研究に関する事項については,大学評価・学位授与機構その他の機関の行 なうピア・レビューを尊重すべきである。また大学評価・学位授与機構その他 の評価においては,各大学の特徴や個性などに配慮し,各大学の実施する自己 点検評価を尊重すべきである。ただし,これらの何重にもわたる評価作業が大 学の過重な負担になり,いわゆる「評価疲れ」を招かないように制度設計すべ きである。教育研発を活性化するための評価制度は,未だ構築されておらず, 今後検討が必要である。 (7)「改廃勧告」 総務省評価委員会は総務大臣に「改廃勧告」を行なうことができるが,大学の 「社会からの価値的自立」という観点から,国立大学の評価にあたっては政治 状況からできるかぎり距離を置くことが望ましい。

7 人事

(1)基本原則 法人化された後の国立大学における教職員の人事は,以下の原則を踏まえて行 われるべきである。 (i)大学の自治の根幹にある教員人事の自律的決定を尊重するとともに,大学お よび教員個人の厳しい自己規律と社会に対するアカウンタビリティを有するも のであること。 (ii)教育研究に従事し,およびそれを補佐する教職員の潜在的能力を十全に引 き出しうるものであること。 (iii)教育研究および職種の多様性・専門性に対応できる柔軟性をもち,かつ 学術の国際的競争を支えられるものであること。 (2)職員の身分と教員にかかる特例 大学の教職員の身分は,長期的視点に立って教育研究に取り組むことを可能に し,かつ大学間の人事交流を円滑に行うためにはいわゆる公務員型とすべきで あるが,採用その他における人事制度の柔軟性を確保するための非公務員的制 度の可能性を含め,最終的な結論は,今後の人事および財政制度の具体的検討 の中で求めるべきである。大学の自治の基本は教員人事の自律的決定にあるこ とに鑑み,教員の任免,分限,服務等の法定に際しては,教育公務員特例法の 精神を取り入れるとともに,それらの具体的制度については,各大学の自主的 決定に委ねるべきである。 (3)法人の長(学長) 法人の長としての学長は,教学と経営の双方に責任をもつ法人の代表者である。 法人の目的が教育研究にあることに照らすと,大学における教育研究に精通す る者が学長に選任されることが最も重要であるが,同時に,法人の経営という 杜会的責任を担う者としての学長の選任に,社会の意見を活かすことも必要で ある。したがって,学長は,教員による公選を踏まえた評議会の選考に基づき, 文部科学大臣が任命するものとすべきであるとともに,その選考に学外者の意 見が適切に反映される途を検討すべきであろう。学長の任期については,大学 が定めるものとする。また,法人の長としての学長が法人の運営について適切 でないとされた場合には,任命権者によって解任されうるであろうが,その職 の特性に照らし,評議会の審査等の手続を経るものとしなければならない。 (4)役員 法人の役員のなかには,法人の長(学長)と監事の他,若干名の副学長等が含 まれるであろう。長と監事以外の役員の任免は,教育公務員特例法の考え方を 踏まえ,大学が定めた手続によるべきである。役員には,事務職員および,学 内において最適任者が得られない場合は,学外者を加えることができるとする 方向で考えるべきであろう。これらの役員の任期は,学長の任期に従うものと する。 役員のうち監事は,その職務が法人の業務の監査であること,および,法人の 目的が教育研究にあることに照らし,大学における教育研究について高い識見 を有する者のうちから,大学の意見を聞いて,文部科学大臣が任命するものと すべきであろう。 (5)教員 教員の人事については,学問の自由が保障されることと並んで,国民の信頼を 得られる手続によって行わなければならない。そのためには,公募制を導入す るなど採用手続の透明性を高めるとともに,教育公務員特例法の精神を踏まえ, 専門性を有する部局の判断が尊享されるような制度をとるべきであろう。また, 大学の組織的柔軟性を確保し,教員人事の流動性を高めるために,大学教員任 期法附帯決議の精神に配慮しつつ,任期制の選択的導入を検討すべきであろう。 あわせて,海外の優れた人材が教育研究および管理運営の職務に就くことがで きるようにするために,外国人教員に関する格差を早急に廃止すべきである。 (6)教員以外の職員 教員以外の職員についても,各大学が人事制度を決定し,学長が任免権を有す るものとすべきである。ただし,職員の資質の向上および事務組織の活性化を 促進するためにも,大学間の人事交流をはかるべきであろう。また,教育研究 を適切に補佐する必要性に照らし,専門性に基づく職種・待遇を可能にするた め,公正さに配慮しつつ事務職員・技術職員の選考採用の範囲を拡げるべきで ある。 なお,当分の間,全国異動の対象となっている職員についての経過措置を適 切に講じるべきであろう。 (7)給与 教職員の給与基準は大学が決定するものとするが,給与の一定部分については 成果・業績を反映させることとして,教職員の潜在的能カの発揮を促す可能性 を検討すべきであろう。また,任期制が活用されうるような給与体系を設ける とともに,競争的研究費のオーバーへッドの一定割合を,任期制教員の人件費 等に充当できる制度をとることなども考えられよう。 (8)服務・兼業等 教育研究に従事する教員の特性および大学法人化の趣旨に照らし,教員の服務・ 勤務時間等は大学において弾カ的に決定するものとすべきである。 教員がその専門的知見を活かして社会に貢献するために活動することを広く 認めるべきである。ただし,教育研究に対する本来の責務をいささかも損ねる ことのないよう,十分に配慮されなければならない。 (9)人員管理 大学の特性に照らし,人員(人件費)の管理については,人事計画において一 定の欠員を認めるなど,中長期的計画に沿って行うべきである。

8 財務と会計

(1)基本原則 教育研究活動の一層の高度化を促進するために,科学研究費をはじめとする競 争的研究資金の拡充をはかるとともに,国立大学でなければ十分になしえない 基盤的な教育研究活動を充実させるため,大学法人の設置者たる国は,中長期 的に安定した大学の財政基盤を形成しなければならない。 また,大学における教育研究活動の自主性を確保するためには,会計年度や予 算費目,国の規格等に拘束されることなく財政資金を有効に活用できなければ ならないのてあり,財政資金の使途等について大学の裁量権を十分に確保すべ きである。しかし,同時に,納税者たる国民の信託に応えられる内部統制制度 を確立し,透明性の確保と説明責任が果たせる財務会計制度の構築に向けて努 カしなければならないであろう。 (2)運営費交付金 大学法人の財政資金の中核的存在となる運営費交付金は,透明性を確保しつつ 中期計画等を基礎として措置されるべきである。また,運営費交付金のうち, 基盤的教育研究経費として中長期の財政基盤を安定的に保障する部分の算定に あたっては,収入・支出両面において大学法人の業務内容,財務構造,規模等 を反映する算定方式,算定要素を導入すべきであるとともに,大学法人による 外部調達資金を算定要素に直接組み込むことのないよう留意すべきものと考え られる。なお,災害補償に関する費用等の臨時的支出については別途措置すべ きである。 (3)施設整備 国は,大学が現在使用している土地建物を,大学法人に現物出資または無償使 用させるとともに,施設の維持管理・更新等をはかるため,計画等に従って施 設費を大学法人に措置すべきである。 (4)外部資金等 寄付金をはじめとした外部調達資金等,自らの努力により獲得した資金につい ては,積み立てを含め管理運用等に関する大学の自主性が確保されるべきであ ろう。また,地方公共団体が国立大学に寄付することを可能にすべきである。 (5)特別会計債務 国立学校特別会計が抱える財政融資資金からの借入債務の返済については,将 来の借入れの可能性を踏まえつつ,大学法人の財務活動や教育研究活動の制約 とならないよう慎童に制度設計を行うべきものと考えられる。