別紙資料2 (※差替版) 2001年3月28日 法人化問題検討WG 国立大学の法人化に関する検討状況 ****作成 I 概要 (1)国立大学法人法: 各国立大学、文部科学省、調査検討会議、国大協設 置形態特別委員会などは、国立大学が法人化された場合の枠組みの検討を急速 に進めている.そこで目的とされるのは、国立大学の法人化後の制度枠組み、 法律としては「国立大学法人法(仮称)または国立大学法人特例法」を立法す るための準備作業である. (2)日程: 文部科学省および調査検討会議においては、「国立大学法人法」 の原案作成に向けての作業日程がほぼ固まっている. 2001年4月2日 調査検討会議各専門委の作業委などからなる「連 絡会議」第2回会合・国立大学協会諸会議 2001年5月連休明け 「国立大学法人の枠組」が提示される予定 2001年6月 国立大学協会総会 2001年夏休み中乃至夏休み明け 文部科学省調査検討会議「中間報告」 II 検討状況 (3)国立大学の検討: 2000年以前では、国立大学のうち、東大、名大、一 橋大、広島大などが、法人化後の制度枠組みに関する詳細な報告書を発表して いる.また、20 01年以降、東大は「東京大学が法人格を持つとした場合に満 たされるべき基本的な条件」を評議会で決定し、名大は「国立大学法人名古屋 大学法(仮称)案」をまとめるなど独自に検討を進めている.3月には阪大が 「大阪大学国立大学法人化問題中間報告」を発表した.これらの案は本学の検 討の参照になる. (4)国立大学協会の検討: 2000年7月、国立大学協会は設置形態検討特別委 員会を設置し、精力的に検討を行なっている.丹保憲仁総長は委員であり、宮 脇淳教授は専門委員である.また2001年1〜2月には設置形態検討特別委員会 の委員長である長尾眞京大総長の名で「長尾試案」(後述)が提示され、検討 されてきた.ただし法人化の具体像の検討に踏み込めば、とくに人事や財務会 計などで、99国立大学の意見対立が顕在化する可能性が高まり、合意形成が容 易でなくなっている.99国立大学の学長先生方の認識や意見の隔たりもある. また本年4月より長尾眞京大総長が、国立大学協会会長に就任される予定.こ の「試案」の検討過程は、混乱し錯綜したが、それは学長の集合体たる国立大 学協会の特徴などが反映しており、今後、同会長のリーダーシップによって、 案が検討されるかというと、そこに大きく依拠できる状況にはないと考えられ る. (5)「長尾試案」: これまで発表された国立大学協会の名のもとに出され た唯一の案は、長尾眞京大総長の「国立大学法人の枠組についての試案」 (「長尾試案」)のA版、B版である.これは長尾総長(国立大学協会設置形態 特別委員会委員長・次期国立大学協会会長)が、2000年12月31日に第一次素案 を作り、ご自身が修正を重ね、また他の国立大学教官・7大学副学長会議・国 大協設置形態検討特別委などの批判や指摘を受けて順次に改訂を重ねたものて ある.2001年2月7日、圧縮されたA版のみが国立大学協会事務局長名で各国立 大学に送付された.この「長尾試案」は、なによりまとまって文章化したこと に意味がある.このA版およぴ包括的なB版には、国立大学側の多元的な主張・ 事情が、読み手の勝手な解釈が可能なように最大公約数的に盛り込まれており、 また読みようによっては国立大学外の主張が取り込まれているようにも読める 部分もある.言い換えれぱ国立大学に都合のよい「検討の出発点」である.諸 国立大学が一致した態勢のもとに、国立大学の特性を盛り込んだ国立大学法人 法素案を作るには、この「長尾試案」は、少なくとも国立大学の主張をまとめ た国立大学側の「叩き台」として重要である. 〈6)調査検討会議: 2000年7月、文部(科学)省は調査検討会議を設置した. 調査検討会議のメンバーのかなりは国立大学の学長・教官・関係者であり、本 学関係者としては伊藤大一名誉教授、広重力元総長、宮脇淳教授、若松澄夫事 務局長が参加している.またそのメンバーには私大学長・教官、マスコミ人、 経済人などを含んでいる.彼ら国立大学関係者以外のメンバーの意見のかなり の発言は、国立大学の現状に批判的トーンが強く、後述する調査検討会議・組 織業務専門委員会では、「経営と教学を分離した運営体制をつくれ」という形 で、国立大学批判が噴出した.さらに私大関係者である調査検討会議メンバー などからは、国立大学の在り方を根本的に変えるような改革提案も出ている. それには世論の反国立大学的な感情が反映していることを真剣に受け止める必 要があり、そのような批判点が当を得ている場合には、本学や国立大学協会と しても真剣な検討を行なう必要がある. ただし国立大学批判には、ステレオタイプ化された通俗的な物のいい方も少 なくない.また調査検討会議の国立大学批判も、データや実情を踏まえた真剣 な検討でない場合もある.また国立大学の批判者の間でも認識に隔たりがあっ たり、またその批判点や批判の方向が異なっている場合も少なくない.それに 対し、国立大学の教官・関係者のなかにも、国立大学批判を感情的な言葉で表 出したり、また印象的な事例をあげて国立大学批判を煽るような動きもなくは ない. (7〉4つの専門委員会: 国立大学協会の設置形態検討特別委員会と文部科学 省の調査検討会議は、検討内容の対応する4つの専門委員会を設置した.設置 形態検討特別委員会の専門委員会メンバーは、すべて(対応する)調査検討会 議の専門委員会のメンバーとなっている.そして、法的枠組みの素案の作成と その準備は、この4つの専門委員会で成されている. 国立大学協会 文部科学省 設置形態特別委 作業委 調査検討会議 A1基本 <--- A ---> A2組織業務 B1計画 <--- B ---> B2目標評価 C1人事 <--- C ---> C2人事制度 D1財務 <--- D ---> D2財務会計 (8)「作業委など」: 調査検討会議の4つの専門委員会内に作られた主に国 立大学教官よりなる(それに数名の財界人が加わっている)「作業委など」が、 国立大学法人法の準備の具体案を作成している.この「作業委など」のメンバー を構成する国立大学教官は、1999年以降、国立大学協会で尽力してきた方々で、 Aは馬渡尚憲東北大副総長・小早川光朗東大教授、浦部法穂神戸大教授、Bは奥 野信宏名大副総長・内田博文九大教授、丸山正樹京大教授ら、Cは森田朗東大 教授、若杉隆平横浜国立大学副学長ら、Dは宮脇淳北大教授らである.この 「作業委など」のメンバーの大部分は、国立大学協会設置形態特別委のメンバー である.(なおABCでは正式に「作業委」を設置.Dの素案を作成するグループ は、今までのところ「作業委」という名称で呼ばれていない.) (8a)専門委員連絡会議: 検討の進捗に伴い、3月13日、国立大学設置形態 検討特別委員会は、4つの作業委の上記の先生方をメンバーとする「専門委員 連絡会議」を発足させた.現在のところ「専門委員連絡会議」が、国立大学に とって、立法準備に参加する最大のルートである.また、この「専門委員連絡 会議」は、別個の形で検討を進めている文部科学省、調査検討会議、国立大学 協会、各国立大学の全体をまとめうるような具体案を作成することが可能な唯 一の主体てある. (9)「作案委など」の作業文書: 調査検討会議の専門委員会の「作業委」 は、「意見・論点・検討の方向」「基本的考え方」「構成例(イメージ)」な どの作業文書を作成している.各専門委員会は、それらの作業文書を、まず国 立大学協会設置形態特別委に提示し、ついで調査検討会議の専門委員会に提示 するという過程をたどっている,ここで作成された各種の作業文書は、次の意 味で重要な文書である.第一に、それらは立法の準備作業である.第二に、そ れらの文書の一部は、「作業委など」が、世論、文部科学省、調査検討会議 (のうちの国立大学外のメンバー)、Dでは財務省に直面しつつ、「すりあわ せ」によって合意を形成した文書である.第三に、それらの文書の一部は、国 立大学側の主張と、国立大学外の意見との対立点が、明瞭に表現された文書で ある. (10)文部科学省: 文部科学省では、「賢人会議」など、調査検討会議とは 別の審議会も、国立大学について検討している模様である,そこで調査検討会 議における検討とは別個に、国立大学法人法の草案を準備しているか否か、そ れがどのような準備状況か、などは不明である.〈「賢人会議」の議事要旨は、 以前には公表されていたが、最近は公表されていない.) III 検討内容の概要 (3)〜(9)までの検討によって、かなりの程度、制度設計の環境条件は明ら かになっている.周知のように、これまで「法人化」によって国立大学に何が 生じるのか、大変に不透明であった(「独立行政法人化は「お化け」(実態不 明の意)である」、という表現が使われたりした)が、上記などの検討により、 そのような状態が変わりつつある.もちろん「どのような内容が国立大学法人 法に盛り込まれるか」、「財政状態がどう変化するか」などの条件によって、 流動性と未確定要素は大きい.しかし、(11)〜(14)など、検討に必要な判 断材料は,ほぼ明確になりつつある. (11)法人化によって新たに大学に委ねられる事項: 法人化後に、文部科学 省から国立大学に権限が移行する可能性の高い事項と、文部科学省が関与し続 ける可能性の高い事項との区分が、ほぼ明らかになりつつある.前者は、内部 組織の改組変更、予算配分、教職員定員管理、事務職員人事、役員人事(監事 を除く)、給与の決定、組合交渉、契約事務など多岐にわたっている.従って、 それらを含め執行し、審議する国立大学法人の運営体制を制度設計を検討して おく必要がある.しかし、文部科学省が現在国立大学に行なっている日常的な 指導監督が、実際にどの程度軽減され、事後チェックになるのか、明らかでは ない.文部科学省を含む国立大学以外の人々は、現行の国立大学の管理運営能 力、とくに改革能力に不信感を抱いている点に留意する必要がある.言い換え れぱ、国立大学が法人化後に持つ運営体制が高い信頼性を獲得できれぱ、国立 大学により多くの権限が委譲され、反対に信頼性か低ければあまり権限が委譲 されない形の運用がなされると、考えられる. (12)中期目標・中期計画: 中期目標・中期計画は、独立行政法人通則法の 中核部分であり、それをどのように評価し、それをどう考えるかが、重要な懸 案事項である.その点に関しては、これまでの検討により、たとえぱ、調査検 討会議の専門委員会では、「中期目標」の論点整理と「中期目標・中期計画の イメージ例」(案)が提示されている.そこでの論点は、「長期目標の制定、 内容」「中期目標と長期目標の関係」「中期目標・中期計画の期間」「中期目 標の作成手続き」「評価の制度」「評価の主体」「評価の方法」「評価結果の 利用」などであり、その「イメージ例」が具体的に示されている.われわれが 検討を進める素材として有用であり、参考になる. (13)人事制度: また、人事制度では、論点が多岐にわたり専門的であるが、 下記のような検討課題があることが明らかになりつつある. (A)理念的には、@教育研究に対する国民・納税者の期待に応え得るもので あること、A教育研究の多様性に配慮し、国際的競争に対応できるものである こと、B大学の自主性と自立性を尊重しつつ、社会に対するアカウンタビリティー を有するものであること、C教育研究に従事する人の潜在力を発揮するもので あること.などが指摘されている. (B)国立大学教職員の人事制度では、独立行政法人通則法によっては対応す ることが困難な諸事項に対処する法的枠組みを設ける必要はないか. (C)職員身分は公務員型を基本としつつ、柔軟な人事制度を採用するには非 公務員型とすることが妥当という意見もあり、深く検討する必要があるのでは ないか.教員の潜在力を発揮させるインセンティブ・システムを工夫する必要 があるが、その他方で、アカウンタビリティーを確保できる制度であることを どのように調整するか、など. (D)学長選考は、教育研究に精通しているものから選任する方法をとるべき こと.役員選考の方法と手続きを決定すること、教官人事に関して、内外の優 秀な研究者の採用が可能になるシステムであることが必要ではないか、など. (E)事務職員、技術職員の専門性に基づく職種待遇を可能とする人事制度が 必要てはないか、など. (F)事務職員の人事交流システムが必要ではないか、など.また具体化して はいないが、(G〉給与.(H)服務と兼業.(I)人員管理(人件費管理)な どが論点となろう. (14)財務会計: これに関しては、財務センターおよぴ調査検討会議の専門 委員会などにおいて,交付金の在り方、国からの現物出資の在り方、そして国 立大学のこれまでの借入金の処理などに関して、データに基づき、検討が進め られているが、それに関しては次回以降の機会に委ねたい, IV 本WGの検討の前提 座長が先程述べられたように、本学においても、これまで総長、評議会など が法人化について文書を発し、また、「独立行政法人化に関する検討WG」も15 回にわたる検討を行なってきた.そのなかから、本WGの検討の前提となる点を 整理する. (15)基本的立場: 大学人が国立大学の設置形態を自ら構想し、国立大学の 制度設計に関して、立場を明確に表明することは、これまで国民の付託によっ て学術・科学研究・高等教育に従事してきた国立大学の研究教育者の責任であ り、同時に本学の125年の歴史に対する責任でもある. (16)私立大学と区別される国立大学としての存在理由: 社会に対して、大 学・国立大学・北海道大学の存在理由の明確化が求められているが、その場合、 大学一般の使命だけでなく、とくに国立大学〈私立大学と区分された)の特定 化された存在理由に明確化して、同時に、私立大学とは異なる国立大学法人と しての制度設計が必要になっている. (17)独立行政法人通則法の間題点: これまで国立大学の内外から、多くの 国立大学の法人化に関する構想が提示され、法人化に際して参照の基準となる 法的枠組みが作られてきた.独立行政法人通則法は、その重要な1つである. この法律を参照する場合には、本学の「独立行政法人化に関する検討WG」の 「中間まとめ」などが指摘するように、下記などの諸問題に留意する必要があ る. (A)憲法23条「学問の自由」は、独立行政法人通則法の「中期計画・中期 目標における主務大臣の指示」と背馳する. (B)独立行政法人通則法は企画立案と実施を組織的に分離することを前提 とするが、国立大学を企画立案機能をもたない実施機関という位置付けること は、大学のありかたとしてふさわしくない. (C)独立行政法人通則法は、行政手法として「評価における数量主義」を 前提とするが、大学の主な活動である研究・教育の評価には「数量主義」にな じまない面が少なくない. (D)独立行政法人通則法が導入された経緯は、行財政改革を目的としたも のてあったが、国立大学が目的としている改革は研究教育の発展と向上であり、 その両者は方向を異にする面がある. (E)独立行政法人通則法の予定する管理運営の枠組みは、現行の国立大学 の管理運営の枠組みと乖離している点があり、調整を要する. ただし、国立大学法人法の規定の仕方やその内容によって、独立行政法人通 則法などの法的内容は、変化する可能性がある.したがって法人化の検討に際 しては、それらの構想や法的枠組み、あるいはその一部分が、われわれの考え る法人化の方向に合致するならそれに賛成し、また、そうでないなら、それに 反対ないし批判を加えることによって、できるかぎりわれわれの意図する改革 の方向に近付けるように努めるべきである. V 設置形態論の特徴 (18)国立大学の設置形態を決めるのは誰か: 国立大学の設置形態を変える とは、制度的には、国の附属機関の地位から離れて法人格を持ち、そして、そ れをどのような法人とするかを法律て定めるという問題である.(詳細は、こ の後に報告される畠山武道委員のぺ一パー参照.)ただし、社会的・政治的に は「国立大学と社会との契約の結び直し」と意味付けられる.一般的にいって 国立大学の改革は、北海道大学を含む国立大学が自主的に行なうべきである. ただし、設置形態の決定は、ひとり北海道大学、99の国立大学、国立大学協会 によって成し得るものではない.最終的には国会によって決せられ、その帰趨 は、国立大学の設置者である文部科学省、財政当局である財務省、行革を担当 する総務省、与野党、そして世論の動向によって大きく左右される性格をもつ. (19)まとめ: 国立大学にふさわしい内容を必要十分に盛り込んだ国立大学 法人法を立法することが望ましい、と考えられる.そしてそのために、本学と して貢献することが重要な課題となっている.しかし、なにより国立大学とそ の関係者の味方・理解者は多くない.とすると、国立大学協会から文部科学省 までの多くの諸関係主体を統合したような案を形成できるか、が事態の推移の 鍵になると考えられる. ただし、国立大学の特性を踏まえた人間で、立法の準備を行なうことのでき る立場にある人は少なく、その能力を持ち、かつそのための正統性をもった人々 はより少ない.学長の集まりである国立大学協会やその会長・副会長が、立法 に関して指導力を発揮することには、大きくは依拠できない.また各国立大学 がそれぞれに立法準備にあたることは、きわめて困難である.さらに国立大学 協会がバラバラになれば、国立大学の立場はより低下する. 加えて文部科学省は財務省、総務庁などに対し、強い交渉立場にあるとはい えない.万一、「作業委など」の案がまとまらない場合、文部科学省がそれと の連携なしに国立大学法人法を準備することが考えられるが、国立大学など他 の主体が賛成しない時には、「国立大学は納得しているのですか」ということ になり、その交渉力は弱まる.とすると、「作業委など」「専門委員連絡会議」 が、国立大学法人法案をまとめられなければ、個々の国立大学が直接に立法の 準備をするか、貧弱な個別法に従うかしかない、という難境に追い込まれるこ とも考えられる. (以上) |