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北大法人化問題検討WG第2回別紙資料

法人の基本について


                                                                資料
                                                        2001年4月6日
                                                      人化問題検討WG

法人の基本について

中村研一 作成


目次  1 法人の単位について
 2 運営体制の原則
 3 「法人化によって大学の自由が失われるのではないか」という危倶について
 4 大学の責任ある運営体制について
 5 「教学と経営の一体化」か「教学と経営の分離」かの選択

図資料(全体:PDF 6頁):  作業委員 運営組織機構図案3/21PDF
 作業委員 運営組織機能図案3/21
 独立行政法人化後の大学の運営組織について
 独立行政法人化に伴う国立大学の権限の拡大のイメージ
 具体案のモデル:A−1B−1B−2


1 法人の単位について

法人の単位について,前回の本WGの議論,国立大学協会設置形態検討特別委員 会,および,調査検討会議などの検討状況と本学の事情を要約する。 (1)法人の単位に関しては、前回の本WGの際,委員より,「将来のことを考 えると「一大学一法人」でよろしいのか」という問題提起があり,若干の議論 をした。その内容については,前回の議事要旨を参照されたい。 (2)「長尾試案B版」では,「原則として大学ごとに法人格を与える」と丁寧 な表現になっている。他方「長尾試案A版」では,単に「一大学一法人」と記 されている。 (3)4月2日,国立大学協会設置形態検討特別委員会の議論においては,「当 面,一大学一法人」が多数意見であった旨,委員である丹保総長より伺った。 (4)国立大学協会の議論には,現在,99国立大学の大多数が,それぞれ大学 ごとに法人格をうることを希望している,という状況に対する政治判断が含ま れている。 (5)ただし,全国的に見ると,現在、いくつかの国立大学間で大学の統合が 進捗ないし検討されており,また町村文部科学大臣も議会答弁で国立大学の統 廃合をすすめろという趣旨の発言をしている。 (6)「一大学,一法人」という表現は,制度の在り方を規定するものであり, 現状の政治判断とは別個の検討が必要である。短・中・長期的に見て,好むと 好まざるにかかわらず,まったく予想外の状況を含め,大学の統廃合・分離が 検討される可能性を排除しえない。したがって,現在の政治判断と将来にわた る法制度とは別の判断が必要である。 (7)本学の場合,たとえば現在の北大と医短との関係は,大学・医療短期大 学部とが総長と評議会を共通にもった状態にあり,万一,このまま今の瞬間に 法人化すると,「一大学一法人」となる状態にある。 (8)検討の方向:各国立大学が希望するなら,各大学をそのまま国立大学法 人に移行させるという政治判断には,合意できるのではないか。ただし,法人 化以前に明らかになるかもしれない多くの変数が未だ不明確であり,また将来 における制度の柔軟性を失わせる意味から,現在の時点で「一大学一法人」と いう制度に固定してしまうのは,時期尚早と考えられるのではないか。制度論 としてば,たとえば「原則として」,「当面は」などの形容詞を付すことによっ て,より多様な可能性を残すほうが賢明ではないか。

2 運営体制の原則

次のような原則に基づいて,国立大学法人の運営体制を設計すべきではないか。 (1)大学の特性:「研究・教育という大学の主たる活動目的にふさわしい運 営を行なう。」 (2)責任体制:「明準な権限に基づく,効率的で責任ある運営体制を持つ。」 (3)改革の責任体制:「法人化により国から新たな権限が移管され,また学 術や社会の変化へ対応する必要があり,さらに研究と教育の質的向上をはかる ための体制をもつ運営組織を作る。」 (4)国の関与:「国立大学は国による関与を受ける。」(次回以降に検討。) (5)開かれた運営:「国民・社会に開かれた運営体制を持つ。」

3 「法人化によって大学の自由が失われるのではないか」という危倶について

前回WGにおいて,委員より「大学の自由にふさわしい運営」という観点から検 討すべきである発言があった。また学内の一部に「法人化のゆえに大学の自由 が衰弱するのではないか」という危倶が存在する。そこで,「大学の主目的で ある学術・科学研究・文化活動にふさわしい運営とは何か」という視点から論 点を整理する。 大学が,会社や行政など他の組織と異なる点は,下記の諸点に要約されよう。 1)具体的研究の内容と方法における自由:前回WGの常本委員による「大学の 自治J報告にあったように,大学の研究者による具体的研究の内容と方法に関 する自由は,「学問の自由」の中核であり,したがって,総長や管理組織は, 研究の具体的内容と方法について,大学研究者に対し「業務命令」的な行為を 極力さしひかえる義務を負つている。 2)「超越者・絶対者」の否定:研究の特性からして,すべてを知り,すべて に高い判断能力を持つような超越的権威・万能人を想定しえない。そのため, 研究組織たる大学は,諸研究者集団相互の多元的な信頼と協カによって運営さ れる。 3)「社会からの価値的自立」:真理や知を目的とすろ科学研究の活動は,現 在ではなく未来への価値的な賭けの側面があり、また学術・文化活動・高等教 育には,過去の世代から末来の世代への長期的な価値の継承の側面がある。い ずれも,現在という時点の一般社会の判断から自立した面をもっており,社会 的常識,通念などに基づく価値判断を,そのままの形で学術や科学研究に適用 し,社会が大学を型にはめることは,研究活動の創造性を破壊してしまう可能 性をはらんでいる。 4)「学問の自由」の制度的保障:そのような「学問の自由Jを保障するため, 大学では,(a)研究者集団が,研究者の人事を自治的に行い,(b)管理者は, 研究者の具体的研究の内容と方法に関する業務命令を差し控え,(c)研究者 集団が,選挙によって総長・学部長・研究所長などの管理者(ただし,総長の 場合は準公選方式による)を選出している. そして,そのための組織として,大学は,(a)教授会,(b)部局長会議 (学部長会議),(c)評議会を置いている。教授会は,研究活動と人事をボ トムアップ型に行なうための研究者の単位であり,部局長会議(学部長会議) は,諸研究者集団が協カと共同によって大学の運営を円滑に行なう組織であり, 評議会は研究・教育事項を一括して審議し、また研究者の身分保障の歯止めと なるなど大学の自立的決定をオーソライズする審議機関である。 5)検討の方向:とすると,教授会,部局長会議,評議会を,国立大学の運営・ 体制に適切に位置付けるならば,大学にふさわしい運営原則は保障され,法人 化のゆえに従来の自由な大学の活動が締め付けられるということにはならない のではないか。

4 大学の責任ある運営体制について

上記 3)の「学問の自由Jは研究の論理である。それを直接に批判したものと はいえないが,調査検討会議のうち,国立大学と同様に研究教育を担う私立大 学幹部からの意見,また,国立大学の運営に精通した文部科学省幹部などに, 国立大学の運営に対する批判が少なくない。その典型は、「国立大学(の学長) 0には改革の当事者能力がない」、「決定・対応が遅い」、「何も決めない自 由はない」などの批判である。加えて文部科学省のいわゆる「賢人会議」(そ の大部分は国立大学の有力な元総長・学長)には,とくに教授会の一部が大学 全体の改革の動きを止める傾向のあることに対して,きわめて強い批判があり, 学長の権限や資質にも活発な議論がある。これは,国立大学の運営を経験した, 大学内部の意見であることに注意する必要がある。そこには,精査の上,真剣 に受け止めるべき問題点が含まれているが,そのうち管理運営に限定して,論 点を整理する。 6)総長の権限抑制:総長は,従来,国立大学を代表する象徴に止まってきた。 総長は,人事上の「任命権」や予算上の配分に関して,形式的な権能をもって いた。しかし,人事上,研究内容上,そして近年まで予算上で,実際の運営上 は無権限状態に近かった。その理由の一部は,総長が「学問の自由」を尊重し, 大学研究者の具体的研究の内容と方法に,大学の長として「業務命令」を行な うことを差し控え,さらに人事を研究者集団の自治に委ねてきたことの反射的 効果である。しかし理由の大部分は,大学の業務のうち,研究・教育の基本方 針,組織編成,管理運営などについても,具体的な人事や研究上の「業務命令」 と同様に,抑制気味に運営する傾向,ないし長年の慣例の産物であった。 7)権限と責任の乖離:しかし,総長の責任は実質的に加重される。(a)とく に法人化に伴って,総長が運営交付金の受け入れ,借入,契約,財務,予算配 分,大学の統廃合,評価プロセスなどの当事者となり,(b)対外的な当事者 能カと対外交渉能力をもつ必要がある機会が増大し,(c)その他の改革課題 においても短期間のうちに意思決定すべき機会が増えている。なにより外部の 大学批判に直面し,説明責任を第一義に負うのは,総長である。単純化すれば, 総長は,教官集団から選挙で選ばれたにもかかわらず,学内では実質的に無権 限で,しかも責任のみ負わされ,学外からの批判を一身に浴びている。それに 対する総長集団の苦吟やそこから発する大学批判は,正当な面があると考えら れる。したがって,総長のもつ実質的権限と総長の負わされる機能・責任との 乖離を,できるだけ埋めるようるような制度が不可欠ではないか。(また類似 した事実は,学部長・研究所長など(部局長)と教授会との関係でもあてはま る。)国立大学が,意思決定,企画立案,執行の実質的な権限と責任を明確化 した運営組織を制度化する必要があるのではないか。 8)学部長・研究所長などの実質権限:学部長・研究所長など(部局長)は, 現在,実質的な権限は大きい。また,とくに古い大学では,憤例上,権限がき わめて大きい。学部長・研究所長など(部局長)は,それぞれの学部と研究所 の管轄の範囲で,企画立案と執行を実施している。したがって,小さな実質的 権限をもつのみで大学全体をかかえた総長よりも,小規模な組織において大き な実質的権限をもつ学部長・研究所長など(部局長)が,変化に対して効果的・ 機動的に対処する可能性が高いものと考えられる。 また学部長・研究所長など(部局長)が大学全体の運営に占める比重も大きい。 したがって,全学的な運営の一部に総長に協カして企画立案し,大学の執行の 一部を総長と共同して執行するかが,大学の機動的で円滑な運営を左右する重 要な条件になっている。 9)検討の方向 その1:上記3に述べた「学問の自由」の保障制度を維持する ことを確認したうえで,総長の権限の明確化をはかるべき(で)はないか。と くに総長が,研究の基本方針,教育・経営に関する,企画立案および執行の基 となる権限をもつことを明確化し,部局長会議,評議会,運営諮問会議などを 主宰する権限,包括的な議案提案権など,意思決定のための諸権限を持つこと を定める必要があるのではないか。また,本学の未来戦略WG報告が「総長補 佐体制」に関して論じた点の延長上に,総長のもとに,総長が実質的な(形式 的でない)任命権をもつ「運営会議」を置き,対外的な当事能カ,企画立案, 執行の責任と権限を明確化することにしてはどうか。 10)検討の方向その2: 学部長・研究所長など(部局長)を,その管轄する範 囲内における研究・教育に関して,総長と調整のうえ,意思決定するための諸 権限を持つことを明確に定めてはどうか。また,学部長・研究所長など(部局 長)が,全学的運営の一部に関し,企画立案を総長と調整・協力し,また全学 的な執行の一部を総長と協同して実施するよう,運営全体のなかに「部局長会 議」を位置付けることにしてはどうか。

5 「教学と経営の一体化」か「教学と経営の分離」かの選択

国立大学の運営体制に関しては,2001年2月28日および3月21日開催の調査検討 会議の組織業務専門委員会と,2001年4月2日開催の国立大学の設置形態検討特 別委員会において,ほぼ同じ4つの案が検討されている。そこで主要な論点と なっているのは,「教学と経営の一体化」か「教学と経営の分離」かの選択で ある。すでに組織業務専門委員会の資料(2月28目案)は前回WGで配付し概略 を説明した。そこで,本日のWGでは設置形態検討特別委員会に文部科学省が出 した案(4月2日案配付資料3参照)に基づき,検討状況を要約する。まず,配 付資料3を見ていただきたい。 11)「経営事項」とは何か:同資料2頁目を見ていただきたい。右上の四角内 が「現在,国立大学が有している権限」(これを「教学事項」と呼ぶことがあ る),左の四角が,「法人化により新たに国立大学に移管される権限」(これ を「経営事項」と呼ぶことがある)である。「法人化によって新たに国立大学 に付け加わる業務」の内容を見ると,(a)目標・計画の策定,(b)評価プロ セス,(c)内部組織の決定,(d)運営費交付金その他の予算の配分,(e) 役員・職員の人事,(f)借入金の受け入れ,(g)資金と財産の運用,(h) 労使交渉,(i)法務,(j)危機管理などである。このうち、(a)〜(e)は, 教学と不可分の管理運営であり,これらを「経営事項」と呼ぶことは,適切な 表現とは言えない。したがって,「法人化により新たに国立大学に移管される 権限」を,一括して「経営事項」と呼ぶごとは誤解を招きやすい呼称である。 (反対に「現在,国立大学が有している権限」のうちにも,「教学事項」以外 の業務がないわけでない。)単純化して言えば、国立大学に付け加わる「経営 事項」(のうち「教学事項」と切り離しうるような性格の業務)は,財務,労 務,法務、危機管理などである。「経営」の意味は,これまでのところ明確で ない。また「主な経営事項」とは,実際の運用のなかで決まっていくのではな いか。 12)国立大学における「教学」と「経営」の分離について:調査検討会議組織 業務委員会において,かなりの数の委員より,国立大学における「教学」と 「経営」の分離を主張する意見が強く表明された。それに対する.組織業務季 員会作業委員の反論が,配付資料「組織業務委員会の状況と作業委員の立場」, 「別案についての作業委員の立場」である。ただし,委員間の対立と不信感は 克服されておらず,どう決着するか明らかでない。しかし,作業委の反論は, 大学人から見てかなり説得的ではないか。また国立大学が,なぜ一部の私大が とっている教学と経営の分離をとれないか,という理由の一つは,「文部科学 大臣が理事長を任命し,その理事長が学長に指示する」(したがって,文部科 学大臣が学長に間接釣に指示する)という権限関係の問題がある。また,教学 と経営か分離されるなら,両者一体の場合より,非効率になりうると考えられ よう。以上の諸点より,教学と経営を分離した配付資料3のC案は論外と考え られよう。 13)B一2案について:このB−2案は,運営会議と評議会の間に「運営審議 会(仮称)」を挟む案である。「運営審議会(仮称)」は半数前後の学外者を 含む。そして教学・経営双方に関する「大学運営の重要事項」を,評議会より 先に審議するものと想定されている。その案は,学長の提案が,「運営審議会 (仮称)」によって事実上,拒否権の発動を受ける可能性をもっており,審議 過程を寸断する危険がなくはない。また学外者が半数前後を占める「運営審議 会(仮称)」が,「経営事項」のみならず,「教学の重要事項」を評議会より 先に審議することは,大学の特性にはずれたものと言わざるをえず,反対すべ きではないか。 14)B−1案について:「主に経営に関する重要事項を審議する」ことを目的 とする「運営協議会(仮称)」が置かれる案である。11)に述べたように, 「経営事項」の概念はあいまいである。そして国立大学の純然たる「経営事項」 は,財務,労務,法務,危機管理などに止まり,それらは国立大学の主たる業 務である研究・教育に比べて著しく比重が低い。しかも,それら「経営事項」 の多くは,研究・教育事項に附従して審議される性格のものである。とすると, 主要な論点は,なにが「経営に関する重要事項」とされるか,「運営協議会 (仮称)」はどのような構成か,誰が議題を整理し,誰が会議を主宰し,審議 の結果を総長がそのように対処するか,などになろう。おそらく,「経営に関 する重要事項」は定義されていないが,総長が主宰し,審議すべき議題を決め, 審議結果を解釈することになろう。また,この「運営協議会(仮称)」という 名称は,大学審議会答申に盛られた組織の名称としていったん用いられたが, 法制化される際,現行制度である「運営諮問会議」に格下げされた経緯がある。 なお「2月28日案」では,「運営協議会(仮称)」は「運営評議会」と表記さ れており,そこでは「評議会」を2つに割ることが含意されていたが,「4月2 日案Jでは,表現が変更され,大学審議会答申と同様の表現に格下げされた。 つまり「運営協議会(仮称)」は,評議会と同格の比重は持たず,評議会より 意味の低い審議体であると解釈できよう。このような経緯からするならば, 「経営に関する重要事項」,「運営協議会(仮称)」の構成などの未確定要因 はあるものの,現行制度であるA案(「運営諮問会議」)と,このB一1案 (「運営協議会(仮称)」とは,本学における運用において,大きな相違は生 じないのではないか。 15)検討の方針:現在,調査検討会議の組織業務専門委員会,および国立大学 協会の設置形態検討特別委員会で検討されている国立大学法人の運営組織図を 参考にして考えると,下記の方向で検討すべきではないか。 1「A一1でも,B一1でも,北海道大学の運営にとって,大きな差はないのでは ないか。(ただし小規模の国立大学にとっては,「学外者」のあり方によっては問 題となりうるかもしれない点に留意したほうがいいのではないか。)」 2「B一2は,問題があり,反対すべきではないか。」 3「は論外ではないか。」