福迫尚一郎(ふくさこ しょういちろう)

工学研究科

■I. 国立大学の独立行政法人化について

【I-1】 国立大学の独立行政法人化問題は、国立大学の将来を規定する極めて重要 な問題です。本来、設置形態のあり方は大学が自ら考えて自ら追究していくべきと思 われますが、現在の状況は必ずしもそのようになっていないようです。この点に関し て、どのようにお考えでしょうか。 回答: ご指摘のように,また,良く言われますように,確かに独立行政法人化は重 要な問題であると思います.しかし,独立行政法人化そのものが大学の将来を規定す るとか,大学の存続の危機であるかのような問題の扱い方は,事の本質から目がそら されてしまうように思いますので注意が必要です. 独立行政法人化が,「いつ,どこから,なぜ」わき上がったかを,ただ社会の外部要 因としてのみとらえて,あたかも自分たちの城を守るかのような主張に終始しては, 社会からの納得を得るのは難しいと思います. もし最終的に,社会の要求として独立行政法人化が避けて通れないのであれば,その 中で大学として何をしなければならないのかを,自分たちの足下から見直すべきであ ると考えます. 大学の設置形態とは,大学の存在意義と価値を社会に認知してもらい,まず,自分た ちのなすべき事と責任をはっきりと示した上で,外部に対して主張するべきことでは ないでしょうか. 【I-2】 独立行政法人化の諸問題についてのお考えを是非お聞かせ下さい。大学改 革にとっての大学法人化の得失、国立大学協会・北大が各々取るべき方針、 最終的 な決断の方法、等々を含めてお答え下さい。 この度のこの問題は,行政改革会議の最終報告(1997年12月3日)で,公務員定数 を2001年から10年間で10%削減するとしたのに対して,小淵首相が施政方針演説で (1998年8月)で20%とし,さらに閣議(1999年4月)で,5%上乗せし25%とする こととしたことに,端を発しているといえます.その際,独立行政法人の職員は,総 定員法でいう定員に含まれない事になっており,数あわせの上から,目標を達成する のに,総定員の約15%を占める国立大学教官・職員(12万5000人)が対象として登場 してきたと推察されます. 21世紀の日本の高等教育をどうするのか,つまり,どのような人材を,どれだけ, どのように育てる必要があるのか,そのために,國はどれだけの負担をする必要があ るのかについて,國の考えの提示も,また議論もなく,先ず定員削減ありき,を達成 するための方策としか,現時点では考えられないのは,大変残念なことです. もし最終的な選択があればと言う点ですが,その前に,この問題に関わるあらゆる情 報が公開され,皆が等しい情報保有の条件の下で,徹底的な論議を行うことが,必要 であると思います.

■II. 大学の現状について

【II-1】 現在、日本の大学が直面している問題の核心はどこにあると思われますか? 回答: 現在の日本は,政治・教育・自由などのどれもが自分たちの血と汗で勝ち取っ たものではないと言えるのではないでしょうか.大学もしかりであります. 問題の核心は,これまで,大学の必要性や存在意義・存在価値などを,公に議論せず に来たことだと思います.大学とは,世の中が多少変化しても変わらずに存在するべ きものなのか,それとも,社会の多少の変化に追従してその存在価値が変わってしま うようなものなのか. 大学も現実としては社会の機構の一部であります.もし大学の構成員が,構成員にし かわからない言葉で,その存続を,声高にさけんでいるとすれば,社会がその必要性 を認めなければ存続はゆるされないでしょう. 逆に,大学そのもの(本質)に,不変の価値観を,社会が認知していれば,現在の問 題の捉え方も変わっているだろうと思います. 【II-2】 市場原理・競争と効率化の導入、大学評価・学位授与機構による評価をど うお考えですか。これらは大学の活性化に有効だと考えられますか。 回答: それが良い意味で大学を活性化するのであれば,競争や評価もある程度は必 要でしょう. 一方,競争や評価に目を奪われて,本来の目的や我々の役割というものを見失ってし まいがちになることも危惧されます. 大学の評価なども,いろいろなものを数字やグラフで示されても,世の中の人々がそ れを見て本当に信じて納得してくれるでしょうか? 【II-3】 大学のあるべき未来像を語って下さい。 回答: 私は,大学の形態や外観がどのように変わっても,文化と文明の拠り所であ ることがその根幹にあると考えております.未来においても,人が人として生きて行 くための文化と文明を守り,常に最新のことの発信地であるとともに,最も古いもの も守って変わらない,そんな大学であって欲しいと思います.

■III. 北大の諸問題について

【III-1】 現在、北大が直面している問題の核心はどこにあると思われますか。 回答: 問題の核心という観点からは,本質は北大固有のものでは無く,先に申し上 げました日本の大学の問題と全く同じと思います. 【III-2 合意形成システムについて】 学長のリーダーシップ強化が法的に決まり、北大では総長室が新設される予定と 聞いてますが、北大における合意形成や意思決定方法に関する考えをお聞かせ下さい。 例えば、教授以外の教員や職員、学生の大学運営参加に関しては> どのようにお考え でしょうか。 回答: 大学に限らず,代議制をとっている組織では,基盤にある小組織の合意や意 志を積み上げていって,全体の合意とするものであります. 大学の場合は,研究室の合意から講座,専攻,部局というように全体の合意を得てい るはずです. その場合,最も重要なことは,代議者は自分が属する組織の意志を会議において正し く明確に全体に伝え,また,議論における情報を正しくフィードバックすることです. このことが正しく行われていればよいのですが,もしも,各人が代議者任せで問題に 関与せず,代議者もその情報を正しく伝えることを怠った場合,「自分の知らないと ころで上の人間が勝手に決めている」ということになります. 北大は評議会という代議制をとっています.評議員は各部局で選挙により選出される 代表者です. 代議制をとっている限りは,ワンマン社長がすべての経営責任を負ってトップダウン で運営される会社とは全く異なると思いますし,私はたとえ法的に総長の権限強化が なされても,それは総長としての責任の重さが増したととらえ,あくまで評議会を尊 重して行くことが大学の自治であるべきと思います. 【III-3 情報公開について】 本年4月から情報公開法が施行されますが、学長裁量経費を含む大学財政や運営の 透明性をどのように確保されるお考えですか。 回答: 情報公開は,社会の要求として当然行われるべきであり,大学においては個 人のプライバシーや研究の必要性から公開出来ない情報以外,とくに,会議等で議論 された内容などはすべてオープンにされるべきであると考えますし,また,その方法 はいくらでもあると思います. 【III-4 教員の身分制度】 教員の身分制度、特に助手の実態をどのようにお考えですか。また、教員に対す る任期制導入についてはどのようなお考えをお持ちですか。 回答: 教員の身分は,私自身は階層ではなく,教育や研究に対する責任と役割の分 担であると考えておりますし,教育や研究に対しては教授,助手の区別無く対等であ ると思います. 全学では,皆さんが様々な状況のなかで教育・研究のためにご苦労されておられると 思いますし,「助手の実態」という言葉でひとくくりにできることではないと思いま す. 私が担当させて頂いております分野では,助手は給料をもらっている博士課程学生で あるという認識であり,彼もしくは彼女らは,助手として学生の指導を手伝いながら 自分の研究・論文作成を行い,学位を取得して新しい道を見つけるというのが共通の 了解事項です.また,学生に最も年齢の近い立場で彼らを親身に指導してくれるとい う,最も重要な役割を担って頂いております. たとえば,制度として助手を無くするということが,学生を身近で指導するというよ うな重要な役割を無くする事では困りますし,私は特に教育に対する役割として重要 かつ必要なもので,簡単に無くするようなものではないと思います. 任期制の導入は慎重に行うべきだと思います.教員の任期制が教官の意識の向上に寄 与するのであれば良いのですが,任期更新のための評価と業績に気をとられ本来の仕 事がおろそかになるような本末転倒では困ります.また,本来教育や研究の成果が, 1年や2年で評価できるものでしょうか? どのような制度を用意しても,それが人間の行うことですからどこかに綻びや漏れが 出てくるのは避けられないことです.それをさらに制度で何とかしようとしてもうま く行かないのは歴史も証明していることです. 結局はそれを行う人間の問題に帰着するのではないでしょうか? 【III-5 北大の改革について 】 北大における全学教育、学部一貫教育、重点化された大学院の教育をどう評価さ れてますか。また、大学院重点化に伴い大量に増加した大学院生が、各々の研究分野 での定職を得難くなっている現状について、どのようにお考えですか。 回答: 全学教育,学部一環教育,大学院重点化などその推進をお手伝いしてきたも のとして申し上げますが,その時点では皆の合意で最良と考えて行ったことでも,完 璧はあり得ないということです.先にも申し上げましたが,教育に対する効果の評価 は1,2年で出来るものとは思いませんので,これらの成果がどうかはいまのところ 申し上げることはございません.ただし,すでに重点化や学部一環教育にたいする反 省点も出てきていると思います.  重要なのは,このような教育の根幹に関わる制度の改革ですから,十分な時間をか けた議論を経て行うべきで,やや急ぎすぎた感があることは否めません. 重点化により大学院生が急増したことは事実と思いますが,そのことと就職難の問題 は直接の関わりは無いように思います. 【III-6. 北大の未来像について】 先日出された未来戦略検討WGの教育・研究に関する答申は、北大の在り方を論じ たもので、今後学内で十分に議論される必要があります。WGの答申をどのように評価 されているのか、今後のあるべき北大の教育・研究像と関連づけてお答え下さい。 回答: 私自身,WGの一員として答申を提出した立場ですので,評価をする立場で はありませんが,今回の答申はご指摘のように,今後の北大のあり方についての一つ の考え方を示したものであります.問題は今後この答申をどのようにたたき台にして 学内で議論を尽くすかということです. この答申が上位下達のように誤解されて,皆さんが十分な議論をせずに何となく決まっ てしまうことは避けなければなりません.個々の提案は,一つの方向性の提示であり, そのことに捕らわれる必要は無いと思います. その際,今後あるべき大学像とも関連しますが,変わらないもの(変えずに守らなけ ればならないもの)と,時代とともに,また,社会の要求に沿って変えて行くべきも のを良く考えて区別する必要があると思います. 社会のニーズに答えることも大学の役目でしょう.また,総合大学であることは,先 進の研究による文明の担い手であると同時に,文化の拠り所でもあるとおもいます. 北大のような総合大学ならば,いま,社会が直面しつつある問題をあらゆる分野・方 向から総力を結集して解決にあたることが出来ると思いますし,それが総合大学,則 ちユニバーシティの役割ではないでしょうか. それとともに,先端の研究をこなしながらも「北大には200年経っても500年経っ ても変わらずにあるものがある」という大学になってほしいと思います.

■IV. 今回の総長候補者選挙に当って、全学に向けて訴 えられたいこと等がおありでしたら、お書き下さい。