前出 吉光

副学長(獣医学研究科)

■I. 国立大学の独立行政法人化について

【I-1】 国立大学の独立行政法人化問題は、国立大学の将来を規定する極めて重要 な問題です。本来、設置形態のあり方は大学が自ら考えて自ら追究していくべきと思 われますが、現在の状況は必ずしもそのようになっていないようです。この点に関し て、どのようにお考えでしょうか。 大学人が自らの手で大学を改革する勇気を持たなかったためです。 【I-2】 独立行政法人化の諸問題についてのお考えを是非お聞かせ下さい。大学改 革にとっての大学法人化の得失、国立大学協会・北大が各々取るべき方針、 最終的 な決断の方法、等々を含めてお答え下さい。 現在、文部科学省の調査検討会議や、国大協の設置形態検討特別委員会において精力 的に検討されているところであり、その結論を待ちたいと思います。いずれにせよ、 大幅な人員削減に対応せざるを得なくなりますので、その状況下で教育研究のレベル を維持、発展させるためには、研究科の再編、学部や研究所の統廃合を真剣に検討す ることが必要でしょう。

■II. 大学の現状について

【II-1】 現在、日本の大学が直面している問題の核心はどこにあると思われますか? 〔I-1〕に同じですが、特に国立大学においては「大学の自治=学部の自治」 が、大学人の個人的利益を守る便利な隠れミノとなり、大学が果たすべき社会的責任 を大学人自らが軽視してきたこと、その結果、国立大学に対する社会の失望を招いた ことにあります。(独法化反対の声が国民から一向に出てこない事実を私どもは重く 受け止めるべき) 【II-2】 市場原理・競争と効率化の導入、大学評価・学位授与機構による評価をど うお考えですか。これらは大学の活性化に有効だと考えられますか。 遅まきながら、「大学(人)もまた一般社会の一員であること」を、社会が大学に要 求しはじめたということです。第三者の評価を恐れていては、大学の活性化などあり 得ません。 【II-3】 大学のあるべき未来像を語って下さい。 社会から信頼され、社会をリードする存在となること。

■III. 北大の諸問題について

【III-1】 現在、北大が直面している問題の核心はどこにあると思われますか。 札幌農学校以来の伝統の上にあぐらをかき、北海道内唯一の総合大学(旧帝国大学) という地位に安住してしまっていること。 【III-2 合意形成システムについて】 学長のリーダーシップ強化が法的に決まり、北大では総長室が新設される予定と 聞いてますが、北大における合意形成や意思決定方法に関する考えをお聞かせ下さい。 例えば、教授以外の教員や職員、学生の大学運営参加に関しては> どのようにお考え でしょうか。 大学運営に、教職員や学生が何らかの役割を持って参画することは重要と考えますが、 意志決定と、その実行が迅速になされる仕組み、たとえば総長室の強化等が必要です。 【III-3 情報公開について】 本年4月から情報公開法が施行されますが、学長裁量経費を含む大学財政や運営の 透明性をどのように確保されるお考えですか。 予算・決算の審議を、評議会、部局長会議において十分尽くすこと、その結果を教職 員に周知させること。 【III-4 教員の身分制度】 教員の身分制度、特に助手の実態をどのようにお考えですか。また、教員に対す る任期制導入についてはどのようなお考えをお持ちですか。 助手制度には一長一短があり、直ちに廃止すべきとは考えませんが、学位を有し、教 育研究業績を上げている助手は速やかに、教育義務を有する講師に昇格させることが 必要です(そのための概算要求をすぐにでも始めるべき)。また、「助手」の名称は 時代に合わないので、学内的には「講師」と呼称(学長を総長と称すごとく)すれば よい(これは学内措置として、すぐにも実現できると思います)。任期制については、 教育研究の活性化のために教員の「任期付ポスト」を増やすことが必要です。 【III-5 北大の改革について 】 北大における全学教育、学部一貫教育、重点化された大学院の教育をどう評価さ れてますか。また、大学院重点化に伴い大量に増加した大学院生が、各々の研究分野 での定職を得難くなっている現状について、どのようにお考えですか。 本学の全学教育、学部一貫教育、大学院教育は全て不十分です。本学の未来戦略検討 WGの教育検討作業部会から提案されている教育改革を早急に進めることが必要です。 (大学院学生の就職難については)大学院学生が全国的に増加すれば、限られた分野 への就職競争が激化するのは当たり前のことです。要はその競争に打ち勝つ学生を社 会に送り出せば良いわけですが、そのためには、優秀な学生を入学させ、これに最高 の教育を施すことが必要です。しかし、大学院学生を安い労働力と考えている教官が いるとすれば、それは不可能であり、結果として学生の就職難は続くでしょう。 【III-6. 北大の未来像について】 先日出された未来戦略検討WGの教育・研究に関する答申は、北大の在り方を論じ たもので、今後学内で十分に議論される必要があります。WGの答申をどのように評価 されているのか、今後のあるべき北大の教育・研究像と関連づけてお答え下さい。 未来戦略検討WGの教育検討部会では、(1)学部教育は教養教育中心、大学院は専門 教育を中心とする教育体制、(2)それぞれの教育を効果的に行うために、学部教育 では、従来の学部を廃して新たに総合教育学部(仮称)を設置して全教官の協力のも とに、専門基礎科目を含む幅広い教養教育を行うこと、大学院では高度職業人養成を 目的とする修士課程と、研究者養成を目的とする博士課程を分離すること、(3)学 部入学は、理系、文系、医系等の区分なく一括入学として、学生は入学後に進路決定 を行うこと、3年次から大学院進学ができる等の各コースを設けること、大学院につ いても全学的な大学院教育組織の下で統一的な教育を行うこと、(4)以上を実行す るため、教員組織と教育組織を分離すること(すなわち、A研究科の先生がA学部の学 生を教育するという現状を改め、各教官は全学教育カリキュラムの授業科目の中から 自己の専門に近い科目を担当することになる)等を提言している。 以上の提言は、かなり現実離れした改革のように思えるが、この提言の内容と極めて 類似した提案が教育改革国民会議から「新しい大学・大学院システム」として、つい 最近発表ました。すなわち、「学部は教養教育と専門基礎教育中心、大学院は高度職 業人養成型の修士課程と研究者養成型の博士課程に分離」、「18歳の入学年齢制限 の撤廃」等です(教育を変える17の提案)。この提案を受けて、文部科学省は「1 7歳での大学入学」、「大学3年からの大学院入学」等の大学入学資格制限緩和のた めの学校教育法の改正を次期国会に提出し、早ければ来春の入学者から実施する予定 ということです(1月11日付新聞報道)。また、九州大学では今年から、「広範な 教養を身につけた専門性の高いゼネラリストの養成」を目的として、志望学部を特定 しない入学定員枠(18名)を設け、これをAO入試によって募集しています。九大で は文部科学省での評判もよいことから、この定員を将来さらに拡大していく予定とい うことです。以上のように、大学教育の改革速度は予想以上に早いことから、北大が 遅れを取らぬためには、この未来戦略WGの提言を速やかに実行に移す覚悟が必要です。

■IV. 今回の総長候補者選挙に当って、全学に向けて訴 えられたいこと等がおありでしたら、お書き下さい。

次期総長について 今後は大学と社会との連携(入試、インターシップ、生涯教育、国際交流等)が益々 重要となります。次期総長には、大学のみならず、社会(国際社会を含む)の動きに も敏感に対応することのできる、社会的経験と実務能力を備えた実行力のある方が切 に望まれます。