中村 睦男

大学院法学研究科
http://www.juris.hokudai.ac.jp/~nakamura

■I. 国立大学の独立行政法人化について

【I-1】 国立大学の独立行政法人化問題は、国立大学の将来を規定する極めて重要 な問題です。本来、設置形態のあり方は大学が自ら考えて自ら追究していくべきと思 われますが、現在の状況は必ずしもそのようになっていないようです。この点に関し て、どのようにお考えでしょうか。  国立大学は、これまで文部行政の附属機関と位置づけられ、大学総体として国の学 術・科学・高等教育全般について論議する場が極めて狭いのが実情でした。そのため 国立大学の設置形態を左右する独立行政法人問題も、行政と議会において基本的な方 向づけがなされる結果となっております。現在、国立大学協会と「調査検討会議」に おいて「調整法(又は特例法)」に関する検討がなされており、学問の自由と大学の 自治を尊重したよりよい法律を作るため、本学として、その場に積極的に参画し続け る必要があります。また、議会と行政に対しても、「国立大学の教育研究の特性」を 尊重するよう、あらゆる機会を通じて、本学の意見を反映させたいと考えております。 【I-2】 独立行政法人化の諸問題についてのお考えを是非お聞かせ下さい。大学改 革にとっての大学法人化の得失、国立大学協会・北大が各々取るべき方針、 最終的 な決断の方法、等々を含めてお答え下さい。  本学では、1997年10月に「国立大学の独立行政法人化」に反対の意思を表明 し、また、国立大学協会も「通則法はそのままの形で適用することはきわめて困難で ある」という観点から反対してきました。通則法に基づく独立行政法人化は、戦前よ り私たちの先人が営々と築いてきた学問の自由と大学の自治の観点からみれば、問題 をはらんでおります。学問の自由と大学の自治からは、大学の判断とは独立した形で、 国が一方的に大学の目標を定めることがあってはならないと考えます。また、教官人 事については、それが大学の自治の根幹でありますから、外部からの影響によって左 右されてはならないと考えます。さらに、大学人の主たる職務とする高等教育と学術 研究の評価については、専攻分野の教育研究者による相互評価(ピア・レビュー)に よる必要があると考えております。

■II. 大学の現状について

【II-1】 現在、日本の大学が直面している問題の核心はどこにあると思われますか?  教育に関しては、一方では、中等教育レベルでの学力低下と学生の多様化が生じ、 他方では、専門職業人の養成を求める社会的要請との間で、大学教育が取り組むべき 課題が多面化し、カリキュラム等の体系的再編成が必要になっております。また。研 究に関しては、一方では、科学技術の進展と国際競争の激化により、多くの先端分野 で、専門分野を再編し、新たな基軸を打ち出すことが求められています。同時に、長 年にわたって培った、大学でなければなし得ない多様な基礎的研究を継承発展させる ことが不可欠です。そして、両者の方向の間には強い緊張が生じており、それらを調 和ある形で発展させる課題に直面しております。 【II-2】 市場原理・競争と効率化の導入、大学評価・学位授与機構による評価をど うお考えですか。これらは大学の活性化に有効だと考えられますか。  国民の税金を使用する以上、国立大学は、第三者機関による評価を受ける必要があ ります。ただし、大学の主たる活動である学術研究および高等教育に対する評価は、 専攻分野の研究教育者による相互評価(ピア・レビュー)に基づかなければなりませ ん。そして、この相互評価を適正に行うために、私たち大学人は、評価能力を高める よう努める必要があります。したがって、大学評価・学位授与機構による評価はこの ようなものでなければならないと考えます。また、大学における行政運営に関しては、 国民の税金を無駄な区使用するため、適切な機関の評価を受けるべきと考えます。 【II-3】 大学のあるべき未来像を語って下さい。  教育に関しても、研究に関しても時代や社会の要請を受けて、目的が多面化してく る事態に柔軟に対応しうる創造的な知の拠点であるとともに、総合的な判断のできる 人材の養成をなしうる大学像を想定しております。そのためにも大学という場でのみ 展開できる基礎的な学術研究を維持発展させていかなければなりません。このような 教育研究の目的を達成するためには、大学の全構成員の総意をくみ上げることのでき る、機能的でかつ透明な管理運営体制を築いて行かなければなりません。

■III. 北大の諸問題について

【III-1】 現在、北大が直面している問題の核心はどこにあると思われますか。  北大は今、新しい研究対象の台頭、学生のあり方の変容、地域社会との関係、そし てついには設置形態も論議されるに至っております。これらの問題はいずれも難問で あり、従来の方式のみでは解決に到達しえないものも少なくありません。新しい課題 群には積極的に研究基軸を打ち出し、同時に基礎的研究は着実に蓄積を重ねる必要が あります。この両者をどのように両立させるかが問題に核心であり、そのためルール を変えていくためのルールを学術研究と高等教育の原則に立脚して、形成していく必 要があります。もとより万能薬的な新しい解決法は容易に見いだせるものではなく、 それは大学人の相互理解と討議のなかから生まれてくるものと考えます。 【III-2 合意形成システムについて】 学長のリーダーシップ強化が法的に決まり、北大では総長室が新設される予定と 聞いてますが、北大における合意形成や意思決定方法に関する考えをお聞かせ下さい。 例えば、教授以外の教員や職員、学生の大学運営参加に関してはどのようにお考えで しょうか。 社会の要請に大学が全体的に応えるために総長が適切に企画調整にあたることは重 要であり、それを補佐するために総長室が設置されることには意味があるといえま す。しかし同時に、大学の存在基盤が研究者の自由に基づく部局自治の原則にあるこ とを忘れてはならないと考えます。事務職員は教育研究の条件を整備し、これを補佐 するのに重要な役割を果たしております。事務職員の専門性を高めることは益々重要 な課題になると思います。学生については、学生の声が聞こえてこないことが気に なります。学生の自治能力を高める方策が必要と考えます。 【III-3 情報公開について】 本年4月から情報公開法が施行されますが、学長裁量経費を含む大学財政や運営の 透明性をどのように確保されるお考えですか。  一般論として、大学財政であっても国民の税金が支出されているわけですから、説 明責任(アカンタビリティ)を高めていくことが必要です。学長裁量経費についても 同様ですが、さしあたり、研究費の配分等について透明化を図るべきと考えます。 【III-4 教員の身分制度】 教員の身分制度、特に助手の実態をどのようにお考えですか。また、教員に対す る任期制導入についてはどのようなお考えをお持ちですか。 助手のあり方は部局によって多様ですが、自立的研究の環境を整備することが大切 です。任期制については、教授についていえば、社会との交流やプロジェクト研究等 の推進にとっては有用ですが、教育研究の継続性を損なうような制度は大学になじま ないと考えます。 【III-5 北大の改革について 】 北大における全学教育、学部一貫教育、重点化された大学院の教育をどう評価さ れてますか。また、大学院重点化に伴い大量に増加した大学院生が、各々の研究分野 での定職を得難くなっている現状について、どのようにお考えですか。 全学教育については、教養部の廃止によって初年次学生をケアする教官集団がなく なったこと、また、教育を実施する責任主体が曖昧になっていることが気がかりです。 従来の教養担当教官を引き継いだ責任部局が責任主体になって全学が協力するシステ ムを改めて確認する必要があります。大学院重点化を踏まえて、学部専門教育および 大学院教育にあっても、総合大学の特色を生かして、学部・研究科の壁をこえて共通 化を推進して行くべきと考えます。大学院生の就職については、研究職はもとより新 しい多様な進路を開拓するよう大学および教員の努力が求められます。 【III-6. 北大の未来像について】 先日出された未来戦略検討WGの教育・研究に関する答申は、北大の在り方を論じ たもので、今後学内で十分に議論される必要があります。WGの答申をどのように評価 されているのか、今後のあるべき北大の教育・研究像と関連づけてお答え下さい。  大学運営部会の「総長補佐体制」に関する報告は、現実的に考えられており、適切 と考えます。他の三つの部会の報告では、現状の問題点が指摘されており、今後の検 討の素材として重要な文書と考えます。新しい研究分野の環境整備は、早急に具体化 すべき課題として理解しております。」

■IV. 今回の総長候補者選挙に当って、全学に向けて訴 えられたいこと等がおありでしたら、お書き下さい。

 現在は、戦後の大学改革期以来の最も難しい時期にありますので、全学が多角的に 結束し知恵と力を出し合って、難局にあたるための態勢とルールを作る必要がありま す。