太田原高昭
大学院農学研究科長
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設問はすべて部局長の一人として考えを持つべきことであり、また部局長会議およ
び評議会の一員として責任を持っている事柄ですので、農学研究科長の立場でお答え
します。
■I. 国立大学の独立行政法人化について
【I-1】 国立大学の独立行政法人化問題は、国立大学の将来を規定する極めて重要
な問題です。本来、設置形態のあり方は大学が自ら考えて自ら追究していくべきと思
われますが、現在の状況は必ずしもそのようになっていないようです。この点に関し
て、どのようにお考えでしょうか。
独立行政法人問題は、もともと公務員の総数削減の手段として考えられたもので、当
初は誰も国立大学が対象になるとは考えていなかったが、その後霞ヶ関の横並び体質
の下で、大学も対象にせざるをえなかったものと聞いております。したがって大学に
とっては迷惑な話であり、本来は相手にする必要はないことと考えています。
国立大学の存在意義が、高等教育についての機会均等を保証するところにあると思
いますので、法人化ということはそもそもなじまないと考えますが、その点では私た
ちがこれまでの授業料の際限のない値上げを事実上認めてきたことが、外堀を埋めら
れる結果を招いたという反省もあります。
【I-2】 独立行政法人化の諸問題についてのお考えを是非お聞かせ下さい。大学改
革にとっての大学法人化の得失、国立大学協会・北大が各々取るべき方針、 最終的
な決断の方法、等々を含めてお答え下さい。
農学研究科ではすでに全教官で構成する拡大教授会において「通則法による法人化
反対」の決議を行っています。同趣旨の運動は全国的におこなわれ、こうした大学人
の取り組みが、通則法による法人化をゆるさないところまできていることを成果とし
て確認する必要があります。現在進行している「調整法による法人化」が何をもたら
すのか、答はまだ出ていません。
国大協はこの問題をめぐって一時分裂の危機にさらされましたが、「自主・自律」
「財政確立」「公正な評価」の3原則の確認と、文部省の調査検討委員会の過半
>数を国立大学関係者が占める公正にし、それに連動する特別委員会を国大協内部に設置
するなどのシステムを構築した上で、調整法づくりの議論に参加しています。
針の穴を通すような可能性にかけているとも見えますが、残された選択肢の中では
最大限の努力をしたのではないかと評価しています。
大事なことは、北大評議会における議論と、その議論を受け止めた丹保総長の行動
が、国大協のこうした選択に大きな影響を与えているということです。したがって私
たち(評議員)は、現在進行中の事態にすでに責任を負っていると考えています。
国大協の特別委員会および文部省の調査検討会議の討議内容の要約は、その都度イ
ンターネット等で公表されています。このことも私たちが要求したことです。いま必
要なことはそれを注意深く監視し、意見があれば直ちに国大協に申し立てることです。
直接でもよいし、評議員に伝えればルートはあります。こうした大学人の監視と行動
がなければ、結局は通則法の大枠の中での決着ということになりかねないと危惧して
います。
■II. 大学の現状について
【II-1】 現在、日本の大学が直面している問題の核心はどこにあると思われますか?
直面している問題はたくさんありますが、核心はやはり独立行政法人問題にあると
考えます。
【II-2】 市場原理・競争と効率化の導入、大学評価・学位授与機構による評価をど
うお考えですか。これらは大学の活性化に有効だと考えられますか。
市場原理・競争と効率化の大学への導入ということが具体的にどういう状態を指すの
か、定型化されたイメージはまだないと思います。もしそれがサッチャー首相のもと
でイギリスの大学に導入されたようなものを指すのなら、留学した私の教え子の経験
からみても、およそ活性化とはほど遠いものになるでしょう。
私は農業経済学で協同組合を専攻しておりますので、もともと市場原理に基づく競
争というものをあまり信用しておらず、「競争から共生へ」というのが21世紀のト
レンドであると考えています。大学もこの方向で努力することが活性化への道ではな
いでしょうか。
大学評価機構の発足は、これまでのような中途半端な外部評価をやらされている立
場からは一歩前進であると思っています。しかしそれが「公正な評価」につながるか
どうかは、やはり大学人の監視と、「内部評価」の力量にかかってくると思います。
【II-3】 大学のあるべき未来像を語って下さい。
難しい質問ですが、近未来で言いますと、企業の開発力は「効率化」の下で低下に
向かい、国公立試験研究機関は独立行政法人化で5年先の結果が見える課題にしか取
り組めなくなると言われています。大学における研究活動への期待は強まらざるを得
ません。
少子化の影響が心配されていますが、生活を守る国民の運動と連携して進学率を向
上させる展望を持たなければなりません。その時、大学進学を心から薦めることの出
来る教育力を私たちが持つことが出来るかどうかが問われるでしょう。
国立、私立をはじめ、大学にも多様なカテゴリーがあります。これを市場原理型の
競争にさらせば結果は見えています。多様な大学が「共生」していくためには、国大
協の掲げる「自主・自律」(大学の自治と学問の自由)、「財政確立」(先進国並の
研究投資)がそのための条件となります。
何れにせよ、国民との連携という視点を持てるかどうかが、共生の道を歩むか、際
限のない競争に自らを追い込むかの分かれ道になるでしょう。
■III. 北大の諸問題について
【III-1】 現在、北大が直面している問題の核心はどこにあると思われますか。
対外的には独立行政法人問題への対応、内部的には一斉大学院重点化後の教育研究
体制の確立、そして北キャンパスへの展開に対するソフト面およびハード面の体制整
備。
【III-2 合意形成システムについて】
学長のリーダーシップ強化が法的に決まり、北大では総長室が新設される予定と
聞いてますが、北大における合意形成や意思決定方法に関する考えをお聞かせ下さい。
例えば、教授以外の教員や職員、学生の大学運営参加に関しては> どのようにお考え
でしょうか。
独立行政法人問題への対応のように「北大の意志」を問われる場面がますます増え
てくる中では、それにふさわしい体制が必要なので、総長室設置等の措置については
了承しています。ただしそれが部局自治の空洞化につながってはならないので、評議
会では旗本政治にならないように」との注文をつけておきました。
この点では昨年6月の全国農学系学部長会議の声明が、部局自治を土台にした「ネッ
トワーク型合意形成」を提言しているので参考にしていただきたいと思います。
大学構成員の参加については制約が多いのですが、農学研究科では拡大教授会の積
極的開催のほか、独立行政法人問題についての職員への説明討論会の開催等の努力を
してきました。
【III-3 情報公開について】
本年4月から情報公開法が施行されますが、学長裁量経費を含む大学財政や運営の
透明性をどのように確保されるお考えですか。
学長裁量経費を含めて大学財政については、公費である以上、公開するのが原則だ
と考えます。
【III-4 教員の身分制度】
教員の身分制度、特に助手の実態をどのようにお考えですか。また、教員に対す
る任期制導入についてはどのようなお考えをお持ちですか。
農学研究科では、助手会が恒常的に活動している関係で、助手会の申し入れにより部
局長会議等で発言する機会が何度かありました。その中で「助手の英文表記」の問題
が未解決の問題として重要だと思っています。現在北大ではInstructorで統一してい
ますが、農学部助手会はAssistant Professorが妥当としています。私は部局によっ
て実態の開きが大きいので、大学一本の呼称でなく部局にまかせよと主張しましたが、
いまだ改善されていません。国際協力課の調べでもInstructorで統一している大学は
5校しかなく、完全に時代遅れになっているので、いずれ是正されるでしょう。
呼称の問題だけでなく、助手制度そのものを見直さなければ、とくに大学院重点化
後の教育研究はなりたちません。この点については丹保総長が国大協での責任者であ
り、任期中に抜本的な提案をすることを約束しておられるので大きな期待を持ってい
ます。
教員の任期制については反対です。これはどこかの思いつき的発言を無批判に取り入
れたものであり、教育研究の向上につながる何の根拠もありません。
【III-5 北大の改革について 】
北大における全学教育、学部一貫教育、重点化された大学院の教育をどう評価さ
れてますか。また、大学院重点化に伴い大量に増加した大学院生が、各々の研究分野
での定職を得難くなっている現状について、どのようにお考えですか。
私は世代的に、かつての制度に郷愁を感じている一人ですが、今は現在の制度をより
よいものにしていくことが大切だと考えています。その点で北大の全学教育が、たと
えば一般教育ゼミが質量ともに全国的に抜きんでたレベルにあると評価されているこ
となど、大変な努力によって支えられ成果を上げていることを正しく評価しなければ
ならないと思います。学部一貫教育は、それなりの理念に基づいて発足したのですが、
受験戦争の現実の中で「複数志願制度」が維持し得なくなるなど、矛盾をはらんでい
ます。入試制度はその都度改善しながら、長期的には次項の将来計画について議論し
ていく必要があります。
重点化された後の大学院教育は、大変な努力をはらって皆で支えているのが実態です。
この点でも助手制度を見直して教育スタッフとして正式に位置づけることが急務となっ
ています。
学位取得後の就職問題は、大学、研究機関だけでは間口減がさけられません。社会
のより多くのところに修士、博士のニーズを広げていく大学側の積極的な働きかけが
必要になっています。社会人入学制度をそうした戦略的な位置づけで活用していくこ
とも大切です。
【III-6. 北大の未来像について】
先日出された未来戦略検討WGの教育・研究に関する答申は、北大の在り方を論じ
たもので、今後学内で十分に議論される必要があります。WGの答申をどのように評価
されているのか、今後のあるべき北大の教育・研究像と関連づけてお答え下さい。
私は検討WGの一員であり、学内の論議の叩き台として十分役に立ちうるものとして了
承し、提案しております。学部については「総合教育学部」への統合、大学院につい
ては研究科の再編がどこまで全学の合意を得られるかが焦点になると考えています。
後者については、北キャンパス、函館キャンパスなどのキャンパス問題との具体
>>的な連関をも念頭に置いて、建設的な議論をお願いしたいと思います。
なおこの間、未来戦略検討WGの他にも、基盤校費配分、情報公開、男女共同参画な
ど北大の将来にとって重要な諸問題についてのWG答申が公開されていますので、併せ
てご検討いただきたいと思います。
■IV. 今回の総長候補者選挙に当って、全学に向けて訴
えられたいこと等がおありでしたら、お書き下さい。
今回の総長選挙の重要性については、ネットワークの依頼文にある通りだと思ってい
ます。とくに北大は沿革的には日本最古の国立大学であり,全国の国立大学のいわば
兄貴分です。他の犠牲によって「生き残る」などといえる立場ではないことをわきま
えなければならないと思います。
北大を誤りなく導きながら全国の大学の共生をはかる、そういう人材を皆さんの眼力
で選び出し、さすが北大といわれるような結果が出ることを期待しています。