Subject: [kd-02-10-27] (転送)破綻しはじめた『最終報告』
From: TSUJISHITA Toru
Date: Sun, 27 Oct 2002 23:54:11 +0900


--[begin kd 02-10-27 ]------------------------------------------------
(転載) 独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局声明 2002年10月15日
----------------------------------------------------------------------

#(4月19日の国立大学協会臨時総会で強行採決した「最終報告了承」は、
「法人化了承」以外の内容を失いつつある。国立大学協会は、11月の定期総
会で新たに意思を明確に表明することにより、「最終報告了承」が政治的に
「悪用」されることを未然に防止することで大学社会に対し誠意を示してもら
いたい。)

----------------------------------------------------------------------
    http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/021015syutokenseimei.htm

           拡がる混迷、激化する矛盾

          国立大学独法化を白紙に戻せ!

                                                       2002年10月15日

                              独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局
----------------------------------------------------------------------

1.拡がる混迷

(1)崩れ始めた文科省スケジュール

 『文教速報』9月11日号は、"成立は来年の通常国会会期末ギリギリか"とい
う見出しで、文科省の「国立大学法人化のスケジュールのイメージ」を図付き
で報じた。
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/020922syutoken.htm
同記事で注目すべきことは、国立大学法人法案の閣議決定が3月と想定されて
いることである。重要法案であれば、議会における民主的ルールからして通常
国会冒頭に上程されるべきものであり、実際、8月20日の国大協特別委員会で
は1月閣議決定→上程と説明されていた。ところが9月11日段階では上記のよ
うに3月となっている。このような短期間のうちのスケジュール変更をみると、
国立大学法人法案策定作業において多くの困難が生じていることが予想される。
例え3月に上程されても、03年通常国会には深刻な議論を積み重ねなければな
らない有事法制等の審議が予定されており、また4月には統一地方選挙が実施
される。国立大学法人法案への反対運動も当然予想され、同案の会期末成立さ
え不確実なのではないか。

 一方、9月18日開催の第2回東大運営諮問会議では東大の先行独法化、大学
に対する文科省の統制排除などの意見が民間出身委員から出されたと伝えられ
ており、政財界内部が文科省の路線で一致している訳ではないことが示唆され
る。いずれにせよ04年4月一斉法人化をめざす文科省のスケジュールが崩れ始
めた可能性が高いのである。

(2)法人化の内容検討は手つかずのままひたすら法案作り

 こうしたスケジュール上の混乱のなかで、ある文科省幹部は、「法案作成ま
でが第1期、16年3月31日までが法制整備の第2期、同4月1日以降が具体的内
容づくりの第3期。第1期が山場だ。」と発言しており、内容的検討なしで、
法制上の法人移行が企図されている。内容的検討の中心的柱の一つである財政
に関しては全く具体的計画がたっていないためか、東大執行部が「平成16年度
も東大は概算要求を行なう」と言明(9月学部長研究所長会議)している。京
大でも概算要求準備をすると伝えられている。国家財政逼迫という状況を踏ま
えて始まったはずの国立大学独法化問題が、「財政問題は後回しにしてとにか
く法制の上で法人化を急ぐ」という倒錯したプロセスになっているのである。

(3)検討作業情報非公開体制の強化

 4月19日国大協臨時総会が、「この(文科省の:引用者)最終報告の制度設
計に沿って、法人化の準備に入る」という会長談話を了承して以来、文科省は
あたかも国立大学法人法が法制化されたかのような態度で、法人化準備作業を
強行し始めた。こうした立法権侵害の越権行為に対して、第154回国会の文部
科学委員会(8月7日)で「法治国家で、行政権の活動といえども、国会の制定
する法律に服すること、要求されているのではありませんか。法律ができてい
ない、制定もされていないのに、文科省が既定事実のように事をどんどん進め
る、しかも大学に押しつける。」との追及がなされ、工藤文科省大学局長は
「私の発言をもとにして、大分御心配、混乱させまして、まことに申しわけな
いんですが、(中略)先生にこれ以上御心配をおかけすることのないよう、私
ども、言葉遣いや応対等も含めて、注意しながら進めてまいりたいと思いま
す。」と陳謝せざるを得なかったのである。
http://ac-net.org/dgh/kokkai/02/807-shu-monbu-ishii.htm
これを受け、前掲『文教速報』9月11日号の図では、国立大学法人法が成立す
るまでは、公式には"準備作業"はすべて各大学ならびに国大協内部で行なうこ
とになっている。しかし、本来公開すべき文科省内部での各種検討作業の情報
は、法制定前を口実に以前にも増して非公開の体制が強化されているようであ
る。このため独法化をめぐる情勢がいっそう不明確になり、混迷が全国に拡大
している。

2.激化する矛盾、破綻する文科省『最終報告』

 現在の混迷状況は、準備時間不足などという技術的理由から発生したもので
は決してない。混迷の根拠をいくつかの点で追ってみる。

(1)難航が予想される国立大学法人法案策定作業

 国大協の第7回国立大学法人化特別委員会(9月20日)で配布された「国立
大学の法人化に関する法制的検討上の重要論点(案)」(法制化グループ、以
下『法制的検討上の重要論点(案)』、
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/021012upkokudaikyou-0920.htm
には、「政府における法制化作業に当たって、以下の論点に重大な関心をもつ
とともに、その趣旨の実現等について積極的に対応すべきと考える」として、
5つの論点を提示している。現段階でこれらが強調されている背景には、政府
の法制化作業において5つの論点が蔑ろにされる危険があるとの判断があるの
だろう。以下、特に第2論点(設置者)と第4論点(管理運営)の2点につい
て検討を加える。

1)設置者

 文科省『最終報告』は「学校教育法上は国を設置者とする」とし、国大協も
「最終報告においても、国を国立大学の設置者とすることが堅持された点は評
価できる。」(4.1国大協設置形態検討特別委員会の最終報告検討結果)とし
て、重視してきた経緯がある。これは、『法制的検討上の重要論点(案)』も
言うとおり、「現在の国立大学法制における制度的な自律性を前提」にする上
でも本質的に重要である。しかし、東京大学21世紀学術経営戦略会議(UT
21)における議論によれば、まさにこの「国を設置者とする」ということに対
して政府部内から異論が出ているのである。内閣法制局サイドから対置されて
いるといわれる案としては、各大学法人を設置し管理する設置・管理法人を国
が設置する、即ち、各大学法人の設置者は国ではなく、国が設置する法人とい
うものである。この案では、1)経営と教学の分離が容易となる、2)国は設
置・管理法人に運営費交付金を一括して配分するので予算抑制も容易となる、
と考えられる。先行例としては、放送大学が挙げられる。放送大学の設置者は、
国ではなく、国が設置した放送大学学園法人なのである(放送大学学園法第20
条第1項)。

 この点に関し、文科省清水審議官は第7回国立大学法人化特別委員会で「法
人化後の大学の設置者については、学校教育法上は国を設置者とすることで努
力していきたい」(「議事録メモ」:
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/socho/agency/hojin-tokubetu-iinkai140920.htm
との発言をしているが、このことは、国を設置者とすることが政府部内で合意
に至っていないことを示している。

2)管理運営

 10月8日開催の東京大学21世紀学術経営戦略会議(UT21)全体会で「国
立大学法人法に最低限盛り込まれるべき条項」として『新国立大学法骨格案』
(『東大案』)
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/toudaihoujiann0201008.htm
が配布された。『東大案』は、学校教育法に根拠を置いて設置者を国とするこ
とを明記した上で、評議会権限を強化する、学長選考を評議会決定とするとい
う2点について文科省『最終報告』の枠組みの変更を求めていると読むことが
できる。『最終報告』に全面的には従わず、大学の自主性を最大限確保しよう
という意志の表明であろうが、ここでも大学側の意志と『最終報告』の矛盾が
表面化している。

(2)独行法会計基準を大学に適用することの矛盾露呈

 8月22日文科省の「国立大学法人」会計基準等検討会議は、『「国立大学法
人会計基準」及び「国立大学法人会計基準注解」(中間報告)』(『会計基準
中間報告』
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/kaikeikijun020822.pdf

を発表したが、同報告は冒頭から「現時点では最終的な報告を出すことは困難」
として検討作業難航を示唆するという異例の文書である。そもそも独行法会計
基準については、宮脇北大教授が財政学の専門家の見地から、「独立行政法人
制度そのものは,国立大学を直接念頭に置いたものではないが、文部省がその
枠に入りたいとしている以上,通則法や会計基準の原則に沿うことが要求され
る...。経営努力によって剰余金が出た場合は、独立行政法人によって使用で
きるが,経営努力の結果の証明責任は法人側にあり、その情報を財務当局が把
握するため、次年度の運営費交付金の配分をその結果によってコントロールで
きるなど、財務評価を通じて,教育研究活動に影響を及ぼすことが可能であ
る...」(広島大学教育研究センター 平成11年度第12回公開研究会「独
立行政法人会計基準と国立大学」
http://www.bur.hiroshima-u.ac.jp/~koho/new/h12/0003-4.htm
と根本的矛盾を指摘していたものである。『会計基準中間報告』はこうした矛
盾を克服しようと、《第11章 国立大学法人固有の会計処理》で国立大学の
固有性を強調し、「教育・研究という業務の実施に関しては、一般に進行度の
客観的な測定が困難であるため、...一定の期間の経過を業務の進行とみなし、
運営費交付金及び授業料債務を収益化する」とまで言い切っている。また、授
業料、寄付金、受託研究費、研究費補助金等を運営費交付金と同様の「流動負
債」とするとして、大学側のインセンティブを確保しようとしている。しかし、
前記引用文下線部は本来の独行法会計制度とはなじまないものであり、当然の
ことながら、総務省・財務省等から強い反発が予想される。独行法会計基準を
大学に適用することは原理的に不可能であることを、『会計基準中間報告』は
示しているといえよう。

(3)予算算定方式の議論、入口にも至らず

 文科省『最終報告』によれば、予算措置の手法の基本は「中期計画において
計画期間中の予算額確定のためのルールを定め」る「ルール型」とするとして
いる。さらに、「運営費交付金等の算定・配分の基準や方法を予め大学及び国
民に対して明確にする」とある。しかし、この件に関する検討経過は提示され
ておらず、従って各大学における議論は入口にさえ至っていない。このような
議論を欠いたまま各大学で続けられている中期目標・中期計画準備作業につい
て、財務省サイドは運営費交付金算定基準が不明として否定的見解を表明して
いると伝えられている。

(4)雇用継承が否定される可能性は十分ある

 国家財政の破綻が進行している今日、かつて公務員型の独行法を繰り返し主
張して文科省が非公務員化を何の抵抗もせずに受け入れたこと、組合側も有効
な闘争も組めないままであったことを踏まえて、経費削減の矛先を雇用継承に
向ける政策が政府内部で支配的になることは十分ありうるのである。文科省の
いう雇用継承は政府の意志として決定されている訳ではない。現段階ではっき
りしているのは、国立大学法人化は組織の改廃に相当するので身分保障の法的
根拠がないことである。なお、2003年から特定独立行政法人(公務員型)に移
行する国立病院(厚生労働省)において、雇用継承が約束されている定員職員
の業務・職種が移行後も同一であるか明確にされておらず、行(二)職場への
業務委託攻撃の可能性もあると、全医労の運動方針は指摘していることに留意
しておこう。

(5)膨大な予算を伴う法人化準備

 国立大学の非公務員型独法化に伴い、新たに膨大な予算が必要となる。まず、
労働安全衛生法対応の労働環境整備がなされなければならない。これは独法化
かどうかにかかわりないことであるが、これに要する予算は巨大である(例:
日本化学会会長野依良治「国立大学法人化に伴う労働安全衛生法適用への対応
に関するお願い」)。さらには、広大な演習林を含む敷地測量経費、雇用保険、
国家賠償に代わる保険などなど、加えて新システムに対応する新たな財務処理
ソフト...。これらには巨額の経費が用意されなければならないが、この経費
は国立大学法人化に伴うコストであって、教育研究活動が前進するものではな
い。「旧7帝大」のある大学での試算によれば、法人化準備予算として数十億
円を越えるという。一体、全国立大学で総額いくらの予算が必要なのか。現在
の国家財政状況でこれらの予算を用意できるのであろうか。

(6)文科省『最終報告』破綻の根拠

 以上、噴出する矛盾のうち中心的なものを示したが、その根拠は大きくいっ
て次の2つであると推察される。

 第1は、法案作成過程で政府内部の対立が顕在化してきたのではないか。ま
ず、「国を設置者とする」文科省の方針が、恐らく財務、経済産業両省からの
反対を受けていると思われる。財務省サイドからは経費の定常的削減と統制を
容易にする点で、経済産業省サイドからは文科省の統制排除の見地からである。
雇用継承という文科省の方針も、経費削減をめざす財務省サイド、競争原理の
一層の貫徹をめざす経済産業省サイドからの圧力によって放棄される危険があ
る。膨大な法人化準備経費も雇用継承放棄への要因となろう。「国を設置者と
する」ことと「雇用継承」は、国大協執行部が文科省『最終報告』に屈服する
ギリギリの線であったが、今や財務省流行政改革と小泉流構造改革の圧力によっ
て危うくなってきているのではあるまいか。とにかく期限を切って法制化を急
ぐ文科省の方針の焦りの根拠はそこにあるといえよう。

 第2に、国立大学独法化がもともとはらんでいた原理的矛盾が準備作業の中
で急浮上していることである。管理運営に関しては『新国立大学法案(東大
案)』の提出によって、会計制度については『会計基準中間報告』第11章で
独行法会計基準と相いれない国立大学の固有性を主張しなければならないこと
によって、そしてまた運営費交付金算定・配分の基準や方法の検討が手つかず
状態であることによって、劇的に表現されている。法人化に伴う膨大な経費な
ど、原理的矛盾の財政面での表現でもあろう。

 上記のように、文科省『最終報告』は、一つは内在的・原理的矛盾の顕在化
によって、もう一つは行政改革・構造改革への純化を要求する外圧によって、
破綻が明白になりつつある。

3.独法化を白紙に戻せ

 文科省『最終報告』による独法化の矛盾は劇的な形態をとって浮上してきた。
期限を切った法制化によって乗りきろうとする路線は、矛盾をさらに深刻化し、
事態を泥沼化させる。泥沼化は、本来、教育と研究に費やすべき貴重な時間と
予算を呑み込み、大学を再起不能な状態、やがては崩壊へと導く。混迷が誰の
目にも明らかになり、矛盾も顕在化しつつある今日、その根源である独法化を
白紙に戻す勇気がすべての大学関係者に求められている。とりわけ国大協は
『最終報告』を受け入れた4.19臨時総会決定を取り消し、外部からの圧力に屈
することなく根本から真の改革の道を探り直すべきである。

 最後に、現局面打開の重大な鍵は組合とその全国組織が持っていることを強
調しておこう。独行法大学での労働は低賃金下での管理されたラットレースと
なる。人間らしい雇用・労働条件の下、教育と研究を軸とした諸階層の豊かな
協働をめざす組合は、雇用継承が危ぶまれている今こそ、13万大学教職員の
先頭に立って独法化白紙撤回の闘いを展開しなければならない。

--[end kd 02-10-27 ]----------------------------------------------
 
----------------------------------------------------------------------
凡例:♯で始まる文は発行人が挿入したもの。
----------------------------------------------------------------------
連絡等は以下を Subject 欄に記して(引用符「"」は不要)管理者へ
 配信停止:"unsub kd"
 転送等で受信された方の直接配信申込:"sub kd"
 配信希望の情報・意見・提言等:"[kd]・・・"(・・・はタイトル等適当に)
匿名希望の場合は明記してください。
----------------------------------------------------------------------
発行人:辻下 徹 tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp 
関連ページ:http://ac-net.org/dgh
国立大学通信ログ:http://ac-net.org/kd
----------------------------------------------------------------------