通信ログ
国公立大学通信 2003年5月7日(水)

--[kd 03-05-07 目次]-----------------------------------------------------
[1] 本日:大学の将来を考える---国会議員と大学教職員による討論の集い
 [1-1] 午後1時より衆議院文科委員会プログラム:第2回目参考人質疑
[2] 鬼界彰夫:「国立大学法人法案」批判要綱―全国民が反対すべき理由I
[3] 朝日北海道5/2:国立大学法人法案 賛否問う電子投票
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レファレンダムは本日24時が締め切りです。明日(5/8)以降の継続を予定
していますが、第二期として「学セクタのレファレンダム」という性格に移行し
投票範囲を広げることを検討しています。

鬼界さんが国立大学法人法案の内在的非整合性を具体的に3点指摘しておられま
す。2回にわけて掲載しますので、ぜひお読みください。(編集人)


--[レファレンダム 2003.5.6.24:00]-------------------------------------
 賛成   69(教官  43,事務官 5,技官  2,非常勤職員 4,院生12,学生 3)
 反対 2481(教官2071,事務官73,技官141,非常勤職員34,院生102,学生60)
  投票所:http://ac-net.org/rfr
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[1]大学の将来を考える---国会議員と大学教職員による討論の集い
     ---いま、国会で審議中の「国立大学法人法案」を考える---
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030425touronsyuukai.html
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 日時:5月7日(水)16時45分〜19時
 場所:衆議院第二議員会館 第一会議室
 主催:独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局
 連絡先:電子メール  renrakukai@u.email.ne.jp
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[1-1] 午後1時より衆議院文科委員会プログラム:第2回目参考人質疑
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/webkokaiijouhou10.html
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(国会情勢速報No.10(2003.4.25) より)

参考人の意見陳述(13:00から各15分,計60分)

  山野井昭雄 氏(味の素・技術特別顧問)
  田中弘允 氏(前鹿児島大学長)
  牟田泰三 氏(広島大学長)
  山岸駿介 氏(教育ジャーナリスト)

参考人に対する質疑(14:00から各会派15分,計1時間45分)

 森岡正宏(自民),牧野聖修(民主),斉藤鉄夫(公明),
 佐藤公治(自由),石井郁子(共産),山内恵子(社民),未定(保守)

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[2] 鬼界彰夫:「国立大学法人法案」批判要綱―全国民が反対すべき理由I
   全文:http://ac-net.org/dgh/03/505-kikai.php
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目次 (*は次号)
1.「国立大学法人法」に向き合い、批判しよう
2. 法案批判の前に−大学運営と学長に関する基礎的知識
3.「法人法」批判その1−「理事」
*4.「法人法」批判その2−学長の選出方法
*5.「法人法」批判その3−「評価委員会」
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1.「国立大学法人法」に向き合い、批判しよう

私は先日「国立大学法人法」全文を初めて通読しました。全23ページの「法案
要綱」ではなく、全75ページの法案本体です。その結果、この法案の日本の社
会と大学に対する有害性と危険性を痛感し、これは必ず廃案にしなければならな
いという認識に達しました。同時に私は、この法案の出発点そのものは決して一
部のグループや階級の利己的な策動ではなく、明確な社会的要請を根拠とするも
のであり、それゆえこの法案を批判し廃案に追い込むためにはその内容の正確な
理解と条文の内在的な批判が必要であるのに、現在の反対運動はこの点不十分で
あり、思わぬ形で足をすくわれるのではないかと危惧しています。具体的には次
のようなことです。「国立大学法人法」(以下「法人法」と呼ぶ)第一条と第三
条は次のように述べています(括弧内のページ数は文科省ホームページからダウ
ンロードした「法人法」全文のものです)。


第1条 この法律は、大学の教育研究に対する国民の要請にこたえるとともに、
我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るため、国立大
学を設置して教育研究を行う国立大学法人の組織及び運営・・・について定める
ことを目的とする。(p.2)

第3条 国は、この法律の運用に当たっては、国立大学における教育研究の特性
に常に配慮しなければならない。(p.4) 


「法人法」全体を「悪法」として一蹴しようとしたり、それが「財界主導の大学」
を目指すものであると批判しようとするなら、必ずやこれらの条文が反論として
提示されるでしょう。法案に反対するいかなる人であれ、ここで示されている
「大学の教育研究に対する国民の要請にこたえること」と「我が国の高等教育及
び学術研究の水準の向上」という大目的を批判したり否定したりできるとは考え
られません。もちろんそれは抽象的に表現され、様々な解釈が可能なものではあ
ります。しかし第3条は他の教育研究機関に対する国立大学の固有の機能を認め
ていますから、大学の根本機構に関する法律の目的の記述としてこれで十分なの
は明らかでしょう。もし「法人法」自身が(常識的な解釈下での)これらの条文
が掲げる目的を実現しうるような内容のものであれば、我々大学人がそれに反対
する理由はほとんどなくなります。従って「法人法」の批判とは、法案の具体的
内容・条文がこの第一条・第三条の精神を大きく裏切るものであることを示すも
のでなければなりません。以下においてそのことを私なりに示したいと思います。

本題に入る前に、もう一つだけ予備的コメントを述べたいと思います。第一条に
示されているように「法人法」は明らかに、現在の国立大学が大学に対する国民
の要請に十分にこたえていない、という重大な現実を立脚点としています。この
現実は否定できないものであり、我々大学人も日本社会の一部を構成するものと
してこの現実に直面し、そこから出発しなければなりません。それが意味するの
は、現行の国立大学を損なうから、という理由で「法人法」を批判することは、
決して説得力を持たないということです。現行の国立大学(あるいは「大学の自
治」や「学問の自由」)を守れという呼びかけは、「法人法」の批判としては大
きな力を持たないだろうことを我々は認識する必要があります。この意味で国立
大学はすでに大阪冬の陣にある、といってもよいでしょう。確かに外堀はまだ完
全には埋められてはいないかも知れません。しかし篭城戦にもはや勝機はないの
です。勇気を持ち自ら討って出て敵の弱点を撃破すること、日本の大学の明日は
そこにしか開けないのです。


2.法案批判の前に−大学運営と学長に関する基礎的知識

「法人法」批判の第一歩はその内容の正確な把握です。「法人法」は法人として
の国立大学の組織とその運営方法を定めるものですから、「法人法」を理解する
とは組織と運営に関してそれがどのような大学像を構想しているかを把握するこ
とです。そして大学の組織と運営に関するある構想の本質は、大学という組織の
運営最高責任者としての学長の機能と権限をどのように規定し、大学とそれに関
連する諸組織と学長の関係をどう規定するかにあります。すなわち大学の運営構
想とは

(A) 学長にどのような権限を与え、それを行使するためにどのような機構を設
けるのか

(B) そうした権限のもとで学長が行う大学の運営を誰がどのように評価し、
チェックするのか

によって決定されます。そして学長の運営行為のチェックには、学長の任期が切
れたとき留任させるかどうかを決定することによるチェックと、運営の業務に他
の人物や組織が介入・干渉することによるチェックの2種類ありますからの(B)
には次の二つが含まれます。

(B1)学長を誰がどのように選出するのか

(B2)学長の運営に対して誰がどのような判断に基づいて介入・干渉する権限を
持つのか

つまり大学の運営構想とは(A)大学運営に関する学長の権限とそれを行使する
機構、(B1)学長の選出方法、(B2)学長の運営業務への介入と干渉の規定、に
よって決定されます。「法人法」が意図する大学運営構想もこの三点を理解する
ことにより明らかとなります。そして「法人法」の批判は、これら3点のそれぞ
れについて「法人法」が規定する運営方法が、「大学の教育研究に対する国民の
要請にこたえること」と「我が国の高等教育と学術研究の水準の向上」という
「法人法」自身が掲げる目的達成のための適切な手段であるかどうかにのみ基づ
いてなされなければなりません。例えば(A)に関していえば様々な運営方法が
考えられます。ある方法は学長に権限を集中させ、別の方法は各部局に権限を分
散させようとするでしょう。しかしそれらについて、「学長に権限が集中してい
る」ことを理由にあたかもそれが独裁制であるかのように批判することはナンセ
ンスです。それは米国の大統領に権限が集中しているからといって、米国が独裁
国家であるというのと同じです。組織の長に権限が集中していても、その行使に
関する適切な独立のチェック機構が存在すれば組織は十分に目的を達成できるの
です。以下これら3点に関して「法人法」の構想を「法人法」自身が掲げる上記
の目的に照らして評価してゆくことにしましょう。その過程で明らかになるのは、
いずれの点に関してもこの法案が自らの目的を裏切るものであり、羊頭狗肉の詐
欺まがいの許しがたいものであるということです。


3.「法人法」批判その1−「理事」

「法人法」は「役員会」(第十一条)、「経営協議会」(第二十条)、「教育研
究評議会」(第二十一条)という三つの組織を通じて学長が大学を運営するとい
う構想に立脚しています。役員会は各国立大学の予算作成、予算執行、決算、学
部・学科の設置・廃止、等、大学にとっての最重要事項を審議、決定する組織で
す。経営協議会は各国立大学法人(各国立大学の設置者)の経営の重要事項を審
議する組織であり、例えば大学の職員・役員の給与水準を決定したりします。こ
れは国立大学の法人化によってはじめて登場する新しい組織です。教育研究評議
会は教員人事や教育課程等、各国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する
組織であり、現行の国立大学にも対応する組織が存在する、いわば我々になじみ
のある組織です。

「法人法」下で学長が大学運営に関して持つ権限は、これら三組織の構成員に対
する任命権という形で表現されますが、それは現行の学長制度とは比較にならな
いくらい大きなものです。先ず役員会は学長と学長が任命する理事から構成され
ます(第十一条、第十三条)。つまり役員会とは学長の意を体現する組織であり、
学長の内閣に相当します。このように「法人法」下では、例えば、大学の予算は
学長と学長が任命した理事が決定することになりますが、ここで我々が立ち止まっ
て考慮しなければならないのは、こうした強大な権限を使いこなし、大学をよき
方向へと導く能力を持った人材が果たして現在我が国の大学に存在するのか、と
いうことです。学長という仕事が単に経営手腕を持つだけでは勤まらないことは
明らかです。自身が大学における教育研究の経験と知識を持ち、しかも巨大な権
限をこなす経営手腕とリーダーシップを持った人材、「法人法」が学長として要
求しているのはそうした人材です。日本にそんな人材が現在存在するでしょうか
(早急に育成しなければならないことは明白ですが)。もしそうした人材が十分
にいない場合、制度が学長に与える巨大な権限を使いこなす人材がいない状態で
そうした制度を立ち上げることになります。その場合、起こり得る事態は二つで
す。大学の混乱、または、学長の傀儡化と文科省官僚による大学支配、です。ど
ちらも同じくらい望ましくありません。この点について我々は極めて現実的に考
える必要があります。もし「法人法」が成立すれば、それは今年10月1日から
施行されます(附則第一条、p.39)。そして附則第二条はこの日に各大学の学長
である人物が各国立大学法人の学長となると定めています。これが意味するのは、
もしあなたの大学で今と10月1日の間に学長選挙が予定されていないなら、現
在学長を務める人物がそのまま大学法人の学長として一夜にして巨大な権限を手
にするということです。しかし現行の学長は、あくまでも現行制度化での学長と
して選ばれたのであり、上述の大きな権限を委託すべき人として選ばれたのでは
ありません。「法人法」が成立すると各大学でどんなことが起こるのかを具体的
に想像した上で、我々はこの法案に対する態度を決定する必要があるのです。

「法人法」下での学長が権限を行使する機関的組織に話を戻しましょう。経営協
議会は学長、理事に加え、学外から学長が教育研究評議会の意見を聞いて任命す
る委員から構成されます(第二十条)。従って役員会ほどではないものの、経営
協議会も基本的に学長の意を体現する組織です。それに対して教育研究評議会は
学長、理事に加え各部局の長から構成され、大学の各組織の意向をくみ上げると
いう色彩の強いものです(第二十一条)。このように「法人法」は学長に巨大な
権限を与えるのですが、学長がそれを行使し大学を運営する上で学長の閣僚とし
て機能すべき重要な役割を担い、これら三組織のすべての構成員となるのが「理
事」です。従って(仮に学長の人材がいるとして)学長の権限とその行使機構と
いう側面に関する「法人法」の評価のポイントは、理事という存在がどのように
規定されていて、それが学長による大学の効果的運営にどのように役立つかです。
この点に関して「法人法」には極めて重大な問題があります。というのも、学長
を中心とする「法人法」の大学運営構想と「法人法」による理事の規定に全く整
合性がないのです。具体的に見てみましょう。「法人法」は理事の役割を次のよ
うに規定しています。


第十一条第三項 理事は、学長の定めるところにより、学長を補佐して国立大学
法人の業務を掌理し、学長に事故があるときはその職務を代理し、学長が欠員の
時はその職務を行う。(p.9)


  この規定と大学の組織の中での理事の上述の位置を合わせて考えるなら、理事
とは副学長に相当するものであると考えられます。こうした観点から理事とはど
のように規定されるべきポストか、そして適正な理事のポスト数はどれくらいな
のかを現実的に考えて見ましょう。すでに25年以上にわたって副学長制度を採
用している我が筑波大学の例が参考になるでしょう。筑波大学には、教育担当、
研究担当、学生生活担当、医療担当、総務担当、の五つの副学長職が存在します。
もし各国立大学が法人化され、教育と研究を目的とした独立の組織として運営さ
れ、それが学長を中心とする内閣的な組織によってなされるのだとすれば、そし
て閣僚に相当するのが理事であるのならば、大学の規模や性格(総合か単科か)
によらず、教育担当、研究担当、学生生活担当の三理事はどうしても必要です。
加えて法人化により大学は財政的に独立し、給与水準や授業料の決定権や起債の
権限などを手にします。従って大学の財政は長期的・総合的な財務計画によって
のみ運営可能となるわけで、財務担当の理事がどうしても必要となるでしょう。
これら以外にも大学には広報、渉外、入試、等様々な全学的業務が存在します。
仮にそれら全てを一つにするとしても総務担当の理事1名がどうしても必要でしょ
う。従って大学を独立した法人として、内閣的組織を通じて責任を持って運営す
るためには、総理に相当する学長には最低5名の有能で信頼できる閣僚、すなわ
ち理事が必要です。「総務」の業務を分割するとすれば、6名と言う定員も論外
ではないでしょう。もちろんこれら理事は役員であり、その高額な報酬は大学会
計から支出されますから、大学の財務体質の健全化という観点から理事の定数は
必要最小限に押さえなければなりません。従って独立法人となった大学の理事の
定員は5−6名が基本であるといってよいでしょう。これから大きく外れた定員
数は無意味であり、理事の存在意義を疑わせることになります。では「法人法」
は一体どれだけの理事定員を大学に割り当てているのでしょうか。ここで私達は
驚くべき数字に遭遇することになります。

  「法人法」第十条第二項は「各国立大学法人に、役員として、それぞれ別表
第一の第四欄に定める員数以内の理事を置く。」と述べています。そして法案
pp.66-74に示されている別表第一によると「法人法」によって法人となる89の
国立大学の理事定員は次の通りです


定員8 筑波大学、神戸大学、九州大学、(計3大学)

定員7 北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、
岡山大学、広島大学(計8大学)

定員6 千葉大学、新潟大学、金沢大学、福井大学、山梨大学、信州大学、島根
大学、香川大学、高知大学、佐賀大学、長崎大学、熊本大学、大分大学、宮崎大
学、鹿児島大学(計15大学)

定員5 弘前大学、秋田大学、山形大学、群馬大学、東京医科歯科大学、富山医
科薬科大学、岐阜大学、三重大学、鳥取大学、山口大学、徳島大学、愛媛大学、
琉球大学(計13大学)

定員4 北海道教育大学、旭川医科大学、岩手大学、福島大学、茨城大学、宇都
宮大学、埼玉大学、東京学芸大学、東京農工大学、東京芸術大学、東京工業大学、
東京海洋大学、お茶の水女子大学、電気通信大学、一橋大学、横浜国立大学、富
山大学、静岡大学、浜松医科大学、愛知教育大学、滋賀大学、滋賀医科大学、京
都工業繊維大学、大阪教育大学、奈良女子大学、和歌山大学、九州工業大学、北
陸先端科学技術大学院大学(計29大学)

定員3 室蘭工業大学、宮城教育大学、東京外国語大学、長岡技術科学大学、上
越教育大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、京都教育大学、兵庫教育大学、
鳴門教育大学、福岡教育大学(計11大学)

定員2 小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学、大阪外国語大学、奈良教
育大学、鹿屋体育大学、総合研究大学院大学、政策研究大学院大学、筑波技術短
期大学、高岡短期大学(計10大学)


これらの数字は理事の存在意義と「法人法」の真意について重大な疑いを抱かせ
るものです。もし理事が学長の閣僚であり、副学長に相当するものであれば、そ
の定員数をこのように各大学毎に法律で予め決めることには意味がありません。
大学運営に必要な基本的閣僚数と職務を規定し、特別な理由によりポストを増や
す必要がある場合の手続きを規定することこそ法律に要求されることです。しか
もその定員数がこの表にあるように8−2と大学により大きな格差があるという
のは全くのナンセンスとしか言いようがありません。「法人法」が規定する学長
と役員会の権限の重大さを考えると、2名や3名の理事で何かできるというので
しょうか。これば、「法人法」の「理事」の実体とは、条文が述べる機能とは全
く別なものではないか、という疑いを引き起こさずにはおかない事態です。中国
の人口は日本の数倍ですが、中華人民共和国に日本の数倍の閣僚が存在するわけ
ではありません。閣僚と知事とは違うのです。大学である限りその運営に必要な
閣僚数にはおのずから合理的な範囲があるのです。それを8から2までなどと大
きな幅で大学によって変化させるというのは、「法人法」の起草者が実は「理事」
を学長の閣僚とは理解していないのではないか、と考えざるを得なくなります。
その場合「理事」とは名目的な職務しか持たない官僚の天下りポストとして理解
するしかありません。そしてそう理解すると、様々な謎が一挙に氷解するのです。
第一は「理事」という不可解な名称です。もし「法人法」が本気で学長に巨大な
権限を与え、第十条にあるように「理事」が学長の大学運営を補佐するものであ
ると本気で考えているなら、「理事」は「副学長」と呼ばれるべきです。しかも
大学運営に必要な業務は予め決まっていますから、「教育担当副学長」等のよう
に職務を明確にするような呼称を用いるべきでしょう。もしそのような呼称が採
用されたなら、各副学長にはそれに要求される知識と経験を持った人がなること
になり、官僚がそのポストに天下り、何もせずに高給を取るということはきわめ
て困難になるでしょう。他方、「理事」という曖昧で漠然とした呼称が、無為高
給の天下りのカモフラージュに最適であることは言を待ちません。実際、最初に
「理事」と聞いたとき、私は学長を選出・監督する「理事会」の役員のことと考
えたのであり、学長の指揮の下で働く人であることなど夢想だにしませんでした。
完全にだまされたといってよいでしょう。もし「法人法」で「理事」という名称
がそうした意図で選ばれたのだとすれば(そうでないというなら、どうしてはっ
きりと「副学長」と呼ばないのですか、文科省の方々?)、「法人法」とはより
よい大学運営のために大学を独立させるためと謳いながら、実は官僚の焼け太り
だけを狙った詐欺まがいの法律だといわなければなりません。ここで我々が最も
憂慮すべきは、そうした焼け太り策動によっていいように弄くりまわされた国立
大学が組織としてめちゃくちゃになってしまうということです。整合性のない制
度を、しかも隠れた別の目的のために押し付けらた組織は必ず機能不全に陥りま
す。

  「理事」が官僚の天下り先としてのみ構想されているという観点に立つと氷
解する疑問がもう一つあります。それは各大学の「理事」定員数です。上の表は
文科官僚が全国89の国立大学法人を何らかの原理の従って分類していることを
うかがわせます。しかし誰もが疑問に思うのは何故、筑波、神戸、九州の三大学
の定員が8と突出しているのか、ということです。この三大学の共通点は何なの
でしょうか。答えは法案pp.64-66に記載されている附則別表第三にあります。そ
こに示されているように、これら三大学はそれぞれ、図書館情報大学、神戸商船
大学、九州芸術工科大学、との統合を経て独立法人となることになっています。
従って8という定員は「2+6=8」、「1+7=8」という計算の結果出てき
たのだと考えられます。これは理事定員が理事の機能に即してではなく、天下り
官僚の「知行地」として考えられた国立大学の「石高」のごときものと考えられ
ていることを示しているといっていいでしょう。

  国立大学に独立性を与えることや法人化することは大学のよりよい運営によっ
てプラスであると考えている皆さんにここで訴えたいと思います。私もそうした
意見の持ち主です。しかしこれまでで明らかになったように、「法人法」はそう
した目的を掲げながらも、その実体は国立大学を犠牲にして一部官僚に天下り先
を確保するだけのちゃちな仕掛けにすぎません。それは羊頭狗肉もいいところで
す。それに反対することは国立大学を無意味な機能不全から救うことであって、
必ずしも大学の独立化に逆行する行為ではありません。この法案を廃案にするこ
とは、よりよき国立大学を求める全ての国民の責務だと考えます。

(次号へ続く)
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[3] 朝日北海道5/2:国立大学法人法案 賛否問う電子投票
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030505asahi.html
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『朝日新聞』北海道版  2003年5月2日付

「国立大学法人法案 賛否問う電子投票

北大教授ら呼びかけ

 国立大学を法人化する国立大学法人法案の賛否について、国立大の教官や学生
らに問うインターネット上の電子投票を国立大教官有志が始めた。7日まで続け、
結果は公表するとともに国会議員に送る計画だ。責任者の辻下徹・北海道大大学
院教授は「法案について現場の意見が集約されてこなかった。結果をふまえ国会
での審議を深めてほしい」と話している。

 呼びかけ人は池内了・名古屋大大学院教授ら国立大教官22人。対象は全国立
大の教官、事務官、技官ら約13万人をはじめ学部学生や大学院生、15の大学
共同利用機関の職員ら。それ以外はシステム上、投票できない。

 賛否の理由について、賛成の場合は「企業的経営となり、教育研究活動の選択
肢が広がるから」など、反対なら「行政と企業に従属し、研究と教育の独立性と
公共性が損なわれるから」など各5項目から選べる。

 1日午後7時現在、賛成は約40人、反対約1500人。集計状況などはだれ
でも閲覧できる。アドレスはhttp://ac−net.org/rfr」

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「・・・・・・」は、省略部分
連絡等は以下をSubject欄に記して編集発行人へ
 配信停止:"no kd" (停止まで時間がかかる場合があります。ご容赦下さい)
 転送等で受信された方の直接配信申込等:"sub kd"
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
国公立大学通信ログ:http://ac-net.org/kd