通信ログ
Subject: [kd 03-05-20] 「フンボルト理念から大学資本主義へ」
Date: Tue, 20 May 2003 

国公立大学通信 2003.05.20(火)

--[kd 03-05-20 目次]--------------------------------------------
[1] 山口二郎「国立大学の独立法人化に反対する理由」
[2] 大崎仁「株式会社大学容認を憂う」抜粋
[3] 中山茂「研究の100年--フンボルト理念から大学資本主義へ--」抜粋
[4] 大学別国立大学特別会計借入金残高ならびに資産確定経費 
 [4-1] 大学別国立学校特別会計借入金残高
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「独立法人改革の問題点をあげればきりがないが、最低限来年4月からの移行
を凍結すべき理由がある。」(山口二郎[1])

「それにしても、この問題(株式会社大学容認)について大学関係者、教育関
係者の声があまり聞かれないのは、なぜだろうか。教育基本法、学校教育法の
基本に係わる問題である。悔いを千載に残さないよう、関係者間で徹底した論
議が尽くされることを強く期待したい。」(大崎仁[2])

「今日問題になっている日本の大学のエイジェンシー化、独立行政法人化のね
らいの一部、あるいは大部分は,こうした大学資本主義である。そして,腕に
自信があり、産学協同に野心を燃やす理工系、バイオ系の純粋よりも応用的な
分野の教員によって推進される。」(中山茂[3])

「今や基礎研究・応用研究という学問分類よりも、ファイアウォールなしの研
究と、ファイアウォールの中の研究とに分類される。」(中山茂[3])

「金をもうけることも知的に興味あることではあるが,それには限定がある。
それに対して無限定なのが学問の自由である。」(中山茂[3])

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[1] 山口二郎「国立大学の独立法人化に反対する理由」 2003.5.11   
http://note3.nifty.com/cgi-bin/note.cgi?u=MLH05564&n=1
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「国立大学教官有志による独立法人か反対声明の呼びかけ人に加わることにし
た。いままでは、独立法人なる改革にはきわめて懐疑的ではあったが、負け戦
が見えているので余分な手間をかけたくないという気持ちがあった。しかし、
このまま座して、理念不在の改革を看過することは、日頃の政治評論に矛盾す
る行為と思った次第である。

  独立法人改革の問題点をあげればきりがないが、最低限来年4月からの移行
を凍結すべき理由がある。国立大学が国の行政機関でなくなると、労働基準法
等、労働関係や安全関係の様々な法規の適用を受けなければならない。そのた
めの体制づくりが来年4月に間に合うはずはない。国立大学協会は、それらの
法規制の適用を「弾力化」するよう要望を出そうとしている。要するに、この
まま独立法人になれば、大学は違法状態の塊になるのである。

 このこと1つを取ってみても、独立法人化がいかに拙速なものであるか、明
らかである。大学の中にいて、様々な改革がまともな論議もないままに所与の
前提とされるのを見ていると、戦争というのはこうして始まったのだなあと分
かったような気になる。もちろん、今敗北主義に陥っている場合ではない。」
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[2] 大崎仁「株式会社大学容認を憂う」抜粋 2003.5
   『IDE現代の高等教育』2003年5月号p449
       定価600円(送料120円)購入問合:IDE 事務局 03-3431-6822 
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「大崎氏は文部省高等教育局長、国立学校財務センター所長などを歴任。

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 アメリカに少数の営利大学があることは、事実である。だからといって、ア
メリカで営利大学が積極的に認められているわけではない。米国の代表的営利
大学であるフェニックス大学とその姉妹会社に籍を置くスパーリング、タッカー
両氏の著作『営利大学(For-Profit Higher Education)』を読むと、アメリ
カでも営利大学を認めてもらうのが難しいことが、よくわかる。

国としての統一的大学制度のないアメリカで大学として認められるには、州政
府の許可と民間のアクレディテーション(大学資格認定)機関による認定が必
要である。ゆるやかといわれる州政府の審査でも、営利大学については、不許
可を明文化するなど厳しい態度をとる州が多いという。アクレディテーション
機関の認定は、さらに厳しいようである。

高等教育政策研究の第一人者アルトバック教授に伺ったところでは、全米6地
域に分かれて設置されているアクレディテーション機関の多くは、営利大学を
認定しない。そこで、審査のゆるやかな南部の認定機関を選んで認定を受ける
ケースが多いそうである。

前掲書では、フェニックス大学を実例として、営利大学の存在理由は、普通の
大学には不向きな企業の労働者教育にあると説いている。企業と緊密な連携を
図り、実務専門家を教員とし、標準化されたカリキュラムで、場所、時間を企
業・労働者の都合に合わせて、教育を実施する。パートタイム教員の活用や、
貸しオフィスの利用等でコスト削減に努め、営利的経営を可能にする。これが
アメリカの営利大学の代表的モデルである。

このように、規制が最もゆるいアメリカにおいても、営利大学はきわめて特殊
な存在であり、わが国での株式会社大学容認の理由になるようなものではない。

ムード的容認論の論拠の薄弱さは、以上のとおりであるが、容認論の根元は積
極的推進論にある。積極的推進論は大学の設置・経営主体としての株式全社の
メリットをいろいろ挙げているが、要すれば、「株式会社による利潤の追求が、
顧客サービスの向上と効率的経営を生む」ということのようである。

株式全社経営の効率性に見習うべき点があるとしても、利潤の追求が顧客=学
生サービスの質の向上につながるかはきわめて疑わしい。私学経営が最も自由
であり、国の支援も長期低利融資しかなかった1960年代の状況が、そのよき例
証となる。当時、多くの私学が借入金に依存して新増設・拡充にはしり、その
返済資金獲得のため、大幅な水増し入学が常態化し、授業料等の学費の大幅値
上げが相次いだ。

これによる教育条件の悪化と学費の高騰があの大学紛争を招き、私学振興助成
法の制定による経常費助成と私学の拡充抑制でその是正が図られた。この教訓
を簡単に忘れるわけにはいかない。

大学経営における最も容易な利潤の追求は、教育条件の悪化を顧みない学生増
と高額な学費の徴収である。消費者である学生が自己責任で選べばよいといっ
ても、大学教育の質をそう簡単に判断できるものではない。学生の学歴・資格
志向を考えれば、株式会社大学容認が、アメリカで「デプローム・ミル(学位・
資格発行所)」と呼ばれるような、「営利大学」に道を開く危険性も見逃すわ
けにはいかない。

積極的推進論の根底にある最大の問題は、それが、教育の全コストに利潤を上
乗せして学生に負担させる、究極の「受益者負担=学生負担」につながること
である。先進各国の大学改革において、大学運営に企業的経営の長所を取り入
れることは一つの課題になってはいるが、大学の経営主体として株式会社を想
定する国は絶無である。

大学が国家社会発展の基盤であり、国際競争力の源泉であり、それゆえにその
維持発展に国が責任を持って当たるのは、国際常識である。無償が原則だった
ヨーロッパ諸国でも、高等教育拡充の追加財源を求めて、授業料導入の動きも
みられるが、学生を大学教育の主要な買い手とする単純な受益者負担論は全く
聞かれない。

私学依存率先進国中最高(78)、公的大学学費世界最高〔州立大平均42万円、
日本国立大56万円(授業料+4分の1入学料)〕、高等教育公費負担GDP比OECD
加盟国中最低(加盟国平均1、日本0.5)。これがわが国大学の現在の姿である。
高等教育費の家計負担の重さが少子化の原因ともいわれ、少子化で私学の廃校
も予想されるなか、利潤を求めて学生の学費負担を加速する株式会社立大学を
容認することが、国際的に通用する大学づくりを目指すわが国のとるべき方策
であろうか。

それにしても、この問題について大学関係者、教育関係者の声があまり聞かれ
ないのは、なぜだろうか。教育基本法、学校教育法の基本に係わる問題である。
悔いを千載に残さないよう、関係者間で徹底した論議が尽くされることを強く
期待したい。」
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[3] 中山茂「研究の100年--フンボルト理念から大学資本主義へ--」抜粋
IDEー現代の高等教育 2000年12月号p39-43
http://ac-net.org/doc/01/218-nakayama.html
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「5.民営化の果て

90年代は,日本を例外として,欧米諸国では,原爆製造のマンハックン計画
のような第二次大戦中の科学動員体制にはじまり,半世紀続いた冷戦科学技術
構造からの脱却・構造改革,つまり科学技術の民営化の時代である。軍産複合
体への公共支出は少なくなったから,冷戦向けの科学技術よりも市場目当ての
企業が自らの資金で民営化科学技術を支える。アメリカでは90年代は科学技術
への公共投資は伸びないのに,ひとり民間支出は伸びる。その間に,80年代に
欧米が日本に学んだことが現実にあらわれてきて,IT技術などで日本を凌駕す
ることになった。平和の配当である。そして結局,欧米と日本とは同じ方向へ
収斂することになったのである。

資本は自己の中に中央研究所を持ち,そこで基礎研究もする,ということは,
冷戦時代に(軍産複合体の一環としての)公共の資金を受け入れる受け皿とし
て意味をもったが,ポスト冷戦期ではその受け皿は意味がなくなり,コマーシャ
ルベースで行なうことになると,自分のところで中央研究所を維持するよりも、
大学(そこには公共の金がまだ流れ込む)に外注したほうが安くて済む、とそ
ろばんをはじくようになった。実際にアメリカでは科学技術への民間投資が伸
びつつあるといったが,それは大企業の中央研究所ではなく,中小企業の目先
の利益のための研究投資である。基確研究は大学に持つ。

「大学や研究機関の取得する特許」が冷戦時には数百であったのが,冷戦後は
民営化の結果,数千になった。大学はそれを企業に売って巨大研究大学の士気
を支える。大学は公共資金を使って特許を取って,私企業に売る所となった。
「ただ直接のライセンス収入は研究責の1−5%にすぎないが」、研究費は政府
の金,ライセンス収入は純粋に研究者への報償となれば研究者はそちらの方向
へ血道を上げる。「このように企業は大学に研究の肩代わりをさせて研究料を
大幅に切りつめ,手数科やロイヤリティに多少の投資をするだけで利潤を得て
いる」(マサオ・ミョシ「売却済みの象牙の塔」「現代思想』2000年9月pp‐
30ff.“lvory Tower in Escrow”,p 41)。つまり,大学への公共支出を企業
と大学人が山分けするところとして大学はある。企業にとっては,大学は研究
と卒業生の人材派遺のアウトソーシングの一つに過ぎない。大学からは民間へ
技術移転する,という。

かくして,大学の研究者はそれぞれの企業とライセンス契約を結ぶ。大学当局
も個々の教授の研究契約からオーバーへッドを大学の経営資金に操り入れるた
めに,ライセンス研究を奨励促進する。そして,学会誌に無償で発表して,人
類共有の知的財産に貢献しようとする自由で開放的な古典的アカデミック・サ
イエンスは崩壊し,産業化科学が進行する。これを大学資本主義 Academic
Capitansmともいえよう。そして「旧式の純粋科学者と未未志向の企業家的教
員との対立が進行する」(「同上」p‐41)かつてジェネンティックスが大学に
進出して,研究成果の公表公開よりも,研究室間に企業秘密の壁が設けられる
ことになった,と嘆かれたが,今や基礎研究・応用研究という学問分類よりも,
ファイアウォールなしの研究と,ファイアウォールの中の研究とに分類される。

今日問題になっている日本の大学のエイジェンシー化,独立行政法人化のねら
いの一部、あるいは大部分は,こうした大学資本主義である。そして,腕に自
信があり,産学協同に野心を燃やす理工系.バイオ系の純粋よりも応用的な分
野の教員によって推進される。いまや欧米と同し路線に収斂したのだから,80
年代までのように,日本が金儲けのための研究に専心して,欧米を抜くという
ことはできなくなった。同じ路線の上での競争となると,アメリカなどに負け
そうである。そういう危機意識から,産業界も独立行政法人化を支持する。教
育レベルでは古典的教養科目派のいう「いやらしい専門主義 grim
professionalism」がはびこり,径営,法律,コンピュータ科学のような「金
になる」学科が跋扈し,大学の専門学校化が進行する。その目的とするところ
は役に立つこと,それも深い意味で有用というのではなくて,目先の「金にな
らないか,なるか」によって,古典的リベラル・アーツ(そこには研究面では
基礎科学・アカデミック・サイエンスが対応する)か,プロフェッショナリズ
ムかが分かれる。金をもうけることも知的に興味あることではあるが,それに
は限定がある。それに対して無限定なのが学問の自由である。無限定な学問の
人文系はもとより,社会科学系も,純粋科学系も,企業化した大学を支える科
学技術の余禄,捨て扶持で支えられることになる。」
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[4] 大学別国立大学特別会計借入金残高ならびに資産確定経費
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/030513kariirekin-sisankakutekeihi.html
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                    2003年5月13日

               独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局

平成14年(2002年)度現在の「大学別国立大学特別会計借入金残高」な
らびに「国立大学法人等への移行時に必要な資産確定経費」という基礎的な資
料が、日本共産党国会議員団からの要求に基づいて、文部科学省から公表され
た。国立大学特別会計借入金残高は1兆円を超え、2,500億円に達する利子と
合わせるとその総額は1兆2,600億円余りとなる。利子は借入年次等によって
異なるが、最高で年率6%になるという。また、移行時に必要な資産確定のた
めに必要な諸経費は総額で36億円を超えることが明らかになった。

このような基礎資料の公開は今回が初めてである。始まったばかりの国会審議
に活用され、国立大学法人法に基づく大学財政についての厳密な検討に用いら
れることを期待したい。

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[4-1] 大学別国立学校特別会計借入金残高
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/030513tokubetikariirekinzandaka.htm
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          (大学附属病院施設整備事業)(単位:億円)

	  大学名  14年度末債務額  利子    合計

	  北海道      423   119   542
	  旭川医科    177    38   215
	  弘前      219    56   275
	  東北      458   101   560
	  秋田      111    28   139
	  山形       89    24   113
	  筑波      104    27   132
	  群馬      274    66   340
	  千葉      124    32   156
	  東京      758   184   941
	  東京医科歯科  571   168   739
	  新潟      243    54   297
	  富山医科薬科  120    32   152
	  金沢      313    69   382
	  福井      111    27   138
	  山梨      116    27   143
	  信州      350    84   433
	  岐阜      392    72   465
	  浜松医科    100    26   126
	  名古屋     411   108   519
	  三重      106    28   134
	  滋賀医科     98    25   123
	  京都      456   124   580
	  大阪      542   186   728
	  神戸      324    69   393
	  鳥取      241    81   322
	  島根       92    23   115
	  岡山      250    53   304
	  広島      261    54   315
	  山口      205    61   266
	  徳島      292    57   349
	  香川      105    24   130
	  愛媛      187    38   225
	  高知      105    26   132
	  九州      516   104   620
	  佐賀       99    24   123
	  長崎      127    34   161
	  熊本      231    48   279
	  大分       82    22   104
	  宮崎       97    25   122
	  鹿児島     118    32   151
	  琉球      126    31   157
	  筑波技短      1     0     1
          --------------------------------------------------
	  合計   10,126 2,511  12,637

※1 この債務額については14年度末現在の決算見込額により算出しており、
実際の承継する金額とは異なる。
※2 参考欄については、債務額に基づく一定の計算により算出した利子予定
額とその合計額である。
※3 特別施設整備事業に係る借入金は除く。
※4 係数は、それぞれ四捨五入によっているので、合計とは合致しない。
※5 大学名は16年4月(予定)のものである。
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
国公立大学通信ログ:http://ac-net.org/kd
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