通信ログ
国公立大学通信 2003.05.30(金)

--[kd 03-05-30 目次]--------------------------------------------
[1] 愛知教育大学憲章(2003年4月16日制定)
[2] [he-forum 5649] 東北大の年俸制報道について
[3] 大学改革情報ネットワーク サイト
[4]  [reform-664] 任期制導入で問われているもの 97.6.7
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国立大学法人法案が国会で審議されている最中に、各大学では中期目標中期計
画の準備が急ピッチに追われているようです。東北大学ではすでに中期目標・
中期計画案が評議会で了承されたとのこと[2]ですが、「任期制」に言及があ
ります。中期計画に「任期制」を書くことがどの大学でも指導されているよう
ですが、任期制導入は大学の判断に委ね、決して財政誘導などしない、と旧文
部省は、任期制法案を審議した1997年の国会で誓っています。
(http://cue078.e.chiba-u.ac.jp/reform/reform-546.html)

当時、任期制について議論が深められ、多くの問題点が指摘されました。(現
在、法人化に無関心な大多数の教員と同じように、編集人も当時、任期制の法
制化に無関心でした。)6年を経て、任期制が大学全体に強要されようとして
いる今、当時の深められた議論の記録は、経営者気取りの「大学幹部」の妄言
を許さない強力な武器庫となるでしょう。ぜひ、多くの人が読まれますように。
ここでは、そのなかの論考を、少しずつ紹介したいと思います。(編集人)


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[1] 愛知教育大学憲章(2003年4月16日制定)
http://www.aichi-edu.ac.jp/kaikaku/kensho.pdf
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愛 知 教 育 大 学 憲 章
(2003年4月16日制定)

【愛知教育大学の理念】

愛知教育大学は,学術の中心として,深く専門の学芸を教授研究するとともに,
幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い,豊かな人間性を涵養する学問の府
として,日本国憲法,教育基本法,ユネスコの高等教育に関する宣言等の理念
を踏まえ,教育研究活動を通して世界の平和と人類の福祉及び文化と学術の発
展に努めることが,普遍的使命であることを自覚し,愛知教育大学憲章を定め
る。

愛知教育大学は,学部及び大学院学生,大学教職員,附属学校教職員等を構成
員とし,大学の自治の基本理念に基づき,大学における自律的運営が保障され
る高等教育機関として,また国により設置された国立大学として,その使命を
果たすため,本学の教育目標と研究目標,教育研究及び運営のあり方を定め,
これを広く社会に明らかにするものである。

【愛知教育大学の教育目標】

愛知教育大学は,平和で豊かな世界の実現に寄与しうる人間の教育をめざす。
学部教育においては教養教育を重視し,教員養成諸課程では多様な教員養成プ
ログラムを通して,平和な未来を築く子どもたちの教育を担う優れた教員の養
成をめざし,学芸諸課程では,社会の発展と文化の継承及び創造に貢献できる
広い教養と深い専門的能力を持った多様な社会人の育成をめざす。

大学院教育においては学部教育を基礎に,学校教育に求められるさらに高度な
能力を有する教員の養成をめざすとともに,諸科学の専門分野及び教育実践分
野における理論と応用能力を備えた教育の専門家の育成をめざす。また,大学
院を教員の再教育の場としても位置付け,教師教育の質的向上を図る。

【愛知教育大学の研究目標】
愛知教育大学は,教育諸科学をはじめ,人文,社会,自然,芸術,保健体育,
家政,技術分野の諸科学及び教育実践分野において,科学的で創造性に富む優
れた研究成果を生み出し,学術と文化の創造及び発展に貢献する。さらに,そ
の成果を社会へ還元することを通して,人類の平和で豊かな未来の実現,自然
と調和した持続可能な未来社会の実現に寄与する。

【愛知教育大学の教育研究のあり方】

1. 学問の自由と大学の自治
愛知教育大学は,自発的意思に基づく学術活動が,世界平和と持続可能な社会
の形成に寄与することを期して,学問の自由を保障する。また,大学の自治が
保障された自律的共同体として,教育が国民全体に責任を負って行われるべき
であることを自覚し,不当な支配に服することなく,社会における創造的批判
的機能を果たす。

2. 世界の平和と人類の福祉への貢献
愛知教育大学は,学術の基礎研究と応用研究をはじめ,未来を拓く新たな学際的
分野にも積極的に取り組み,世界の平和と人類の福祉及び学術と文化の発展に貢
献する。

3. 教師教育に関わる教育研究の推進
愛知教育大学は,広く人間発達に関わる諸学問と教育方法の結合を図りながら,
教員養成や教員の再教育などの教師教育に関する実践的教育研究を行うととも
に,教師の専門性と自律性の確立をめざした教育研究を推進する。

4. 国際交流の推進
愛知教育大学は,国内外の高等教育諸機関との連携や国際交流を推進し,留学生
の積極的受け入れ及び派遣を通して,アジアをはじめ,世界の教育と文化的発展
に貢献する。

5. 大学の社会に対する責任と貢献
愛知教育大学は,学外への情報公開及び広報活動を通して,社会に対する説明
責任を果たし,学外からの声に恒常的に応え,社会に開かれた大学を実現する。
また,教育界をはじめ広く社会と連携し,社会からの要請に応えて,教育研究
の成果を還元し,社会の発展に貢献する。

【愛知教育大学の運営のあり方】
1.  大学の民主的運営
愛知教育大学は,全ての構成員が,それぞれの立場において,本学の目標を達
成するため,大学の諸活動へ参画することを保障し,民主的運営を実現する。
構成員は,大学の自治を発展させるための活動を相互に尊重するとともに全学
的調和をめざす。

2.  学生参画の保障
愛知教育大学は,学生の学修活動を支援し,教育改善への学生参画を保障する。

3.  教育研究環境の整備充実
愛知教育大学は,豊かな自然環境を保全活用し,施設設備を含む教育研究環境
の整備充実を図るとともに,障害者にもやさしい大学づくりを進める。

4.  自己点検評価と改善
愛知教育大学は,本学の教育目標と研究目標に照らして,恒常的な自己点検評
価により,不断の改善に努める。

5.  人権の尊重
愛知教育大学は,全ての構成員が相互に基本的人権と両性の平等を尊重し,教
育研究活動における,あらゆる差別や抑圧などの人権侵害のない大学を実現す
る。
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#(「愛知教育大学憲章制定に向けて 」より抜粋)

「・・・以下,憲章に記載した文脈について,その理由を述べることとする。
大学憲章には,まず,学校教育法第52条に規定されている,「学術の中心とし
て広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及
び応用的能力を展開させることを目的とする」及び大学設置基準第19条第2項
「教育課程の編成に当たっては,大学は,学部等の専攻に係わる専門の学芸を
教授するとともに,幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い,豊かな人間性
を涵養するよう適切に配慮しなければならない」を引用する形で,学問の府と
しての大学を定義した。

Ⅱ 学問の自由と大学の自治及び高等教育の課題について 

日本国憲法は,その第19条において「思想及び良心の自由は,これを侵しては
ならない」と規定し,更に,第23条において「学問の自由は,これを保障する」
としている。学問の自由とは,学んだり研究したりする対象を自らの意思で選
択し,真理探究する自由,また学問的知的研究活動で得られた成果を公表する
自由と義務,またそれらを教育活動を通して伝える自由などである。憲法は,
この「学問の自由」を保障し,何人も,思想及び良心の自由が,保障されなけ
ればならないことを述べている。

1947年に制定された教育基本法は,その第2条において,第1条に規定される教
育の目的を達成するためには,「学問の自由を尊重」しなければならないとし
ている。 科学者の国会といわれる日本学術会議は,1980年「科学者憲章」を
採択し,科学者が遵守すべき事項の第一に「自己の研究の意義と目的を自覚し,
人類の福祉と世界の平和に貢献する」ことを求め(第1項),「学問の自由を擁
護し,研究における創意を尊重する」(第2項)ことを求めている。

更に,ユネスコは,1997年11月のユネスコ総会において「高等教育の教育職員
の地位に関する勧告」(以下,「教育職員の地位」と略す)を採択し,1998年10
月パリでのユネスコ高等教育世界会議において「21世紀に向けての高等教育世
界宣言−展望と行動−高等教育における変革と発展のための優先行動の枠組」
(以下,「世界宣言」と略す)を決定し,1999年7月,ユネスコ国際科学会議
において「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言,科学のアジェンダ行動
のための枠組み」,2000年5月には世界科学アカデミー会議で「21世紀におけ
る持続可能性への移行」を採択し,高等教育に関する一連の提案を行っている。

この「教育職員の地位」前文において,「教育及び教育研究への権利は,高等
教育機関での学問の自由と自治の雰囲気のなかでのみ享受することができる」
とし,大学の自治と学問の自由が高等教育機関の根幹であることを強調してい
る。この勧告がすべての高等教育職員に適用されることを宣言し,「加盟国は,
高等教育機関に対するいかなる筋からの脅威であろうとも,高等教育機関を保
護すべき義務がある」(第19項)とし,政府の役割を規定している。また,「自
治は,学問の自由が機関という形態をとったものであり,高等教育の教育職員
と教育機関に委ねられた機能を適切に遂行するための必須条件である」(第18
項)と,自治の内実を規定している。

また,「世界宣言」は,「すべての人は教育への権利を有すること」「高等教
育は,能力に応じてすべての者に等しく開放されなければならない」とする世
界人権宣言第26条第1項の確認に立って,「教育は,人権と民主主義,持続可
能な開発及び平和の基本的な柱」であり,「新たな千年紀の出発において,平
和と文化の価値及び理想が支配的に広まり,知的共同体がこの目的のために動
員されるよう保障することが高等教育の責務」とその前文で規定し,「高等教
育の使命と役割」「高等教育の新たな展望の形成」「展望から行動へ」につい
て詳細に高等教育の課題について述べている。

我々は,今後の愛知教育大学が,広く社会に開かれた大学として,これらの諸
文書の精神を踏まえ,そのことを憲章に盛り込み,本学の構成員全員が取り組
むべき理念,目標,あり方を確認していくことが,現時点できわめて重要になっ
ていると判断し,このことを「愛知教育大学の理念」において提起した。

また,この憲章を,社会との契約に関わる宣言と位置付けることは,先にも述
べたとおりである。・・・」

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[2] [he-forum 5649] 東北大の年俸制報道について
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「東北大学職員組合です。

 5/20の東北大評議会で承認された「国立大学法人東北大学(仮称)の中期目標・
中期計画の骨子(案)」を確認しました。

 このことについて報道した河北新報記事(5/21付朝刊、5/20付ネット)には、
年俸制の検討について不正確な記述があります。

 記事では、「教職員の年俸制、能力給導入も検討する」とされていますが、
5/20付「骨子(案)」では、任期制教員には、年金・生涯賃金等において任期
を付さない教員との間に著しい差が出ないように配慮するとともに、年俸制の
積極的導入や、管理運営業務への一層の負担軽減を図る、という任期付教員に 
限った内容になっています。東北大で教職員全般への年俸制適用が検討されて
いるということではありません。なお、5/20付「骨子(案)」にはこの他に 年
俸制への言及はありません。

※ 同記事(5/20付ネット版)の内容については [he-forum 5599] 、全大教近畿
のサイトをご参照ください。
http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kinkyo/20030504.htm#5/23_10 」

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[3] 大学改革情報ネットワーク サイト
http://cue078.e.chiba-u.ac.jp/reform/reform.html
論考:http://cue078.e.chiba-u.ac.jp/reform/essey.html
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#(個々の論考は,[reform-964]ならば 
http://cue078.e.chiba-u.ac.jp/reform/reform-964.html
としてアクセスできます。)
[reform-964] 「教育科学技術省」は文部省より権力的 98.7.5
[reform-940] 日本の理科教育が危ない 98.6.8
[reform-918] 中教審中間報告について 98.5.7
[reform-849] 事務組織再編--「企画室」問題 98.1.26
[reform-848] 事務「一元化」は事務組織の自治か? 98.1.17
[reform-836] 教員養成カリキュラム論—教育制度論的観点から 98.1.4
[reform-814] 大学入試(個別学力試験)のやり方の詳細にまで、文部省が介入
              する道理はどこにもない 97.12.15
[reform-812] 中教審の辞書に「権利」はない 97.12.13
[reform-806] 国立大学協会第7常置委員会「助手について」97.12.4
[reform-794] 文部省廃止論 97.11.16
[reform-664] 任期制導入で問われているもの 97.6.7
[reform-604] 大学問題の所在と改善策 97.5.26
[reform-603] 「問題」現象への対処について 97.5.26
[reform-535] 朝日新聞への質問状 97.5.17
[reform-530] 「大学の教員等の任期に関する法律案」についての意見書 
[reform-494] 大学教員の任期制 南日本新聞 97.5.12
[reform-483] 朝日論壇へ投稿した原稿 97.5.9
[reform-482] 京都大学の投書活動(2) 97.5.9
[reform-481] 京都大学の投書活動(1) 97.5.9
[reform-463] 大学教員任期制の何が問題か? 97.5.6
[reform-400] 大学教員の任期制と地方国立大学 94.4.7
[reform-394] 大学教官への任期制導入は研究の活力向上につながるか? 97.4.5
[reform-392] 任期制導入問題と大学 97.4.4
[reform-351] 新刊書「挑戦する立命館」について 97.3.3
[reform-319] 「生き残り」病 97.1.29
[reform-316] 任期制と国の財政についての分析 97.1.25
[reform-278-280] 神戸大学教育学部の改組例から学ぶこと 
[reform-235]  玉垣良三氏の「任期制を考える」再掲載 96.7.17
[reform-213] 理系人間特有の素朴な三段論法 96.7.5
[reform-178] 「大学・文部省・議会」 96.6.13
[reform-159] 佐賀大学はどこへ行くのか −佐賀県の高校と大学を考える
[reform-131] 国大協の意見について 95.12.11
[reform-122] 「民間大学審議会」の提唱 95.11.23
[reform-048] obedient-universities 95.5.23
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[4]  [reform-664] 任期制導入で問われているもの 97.6.7
http://cue078.e.chiba-u.ac.jp/reform/reform-664.html
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「最近のreformを読んでいて,任期制のもたらす問題点についていろいろ触れ
られているのですが,その根本の問題について,あまり議論されていないよう
に思います.たとえば,移動にともなうさまざまな問題点なども指摘されてい
ますが,もちろんそれはそれで改善すべきことですが,それを改善すれば任期
制を導入しても構わないという問題ではありません.移動しやすい条件を整備
し,自発的に流動が進むようにせよという趣旨と思いますが,何となく,「あ
るべき任期制の姿」を議論しているような印象を受けてしまいます.

私は任期制を競争原理の導入の究極の姿と思っており,そこの議論が必要では
ないかと思います.任期制で生じる競争は,自らや家族の生活権をもかけるも
のであり,研究費や成果のプライオリティをめぐる競争とは,根本的に質を異
にしていると思うからです.そのような競争を行うことで研究が発展するのか
を自分なりに考え,職場の組合ニュースに投稿したのが,次の雑文です.なお,
研究所なので,教育の問題は触れていません.教育が競争となじまないのはい
うまでもありません.


		     任期制導入で問われているもの
		 —さらなる競争原理の持ち込みの是非—

 研究所の研究員や大学の教員に任期制が導入されようとしている.各方面か
ら反対の運動も進められているが,研究所については法案が既に成立し,大学
についても衆議院を通過,参議院で審議中の状況である.

 任期制のもたらす問題点は既にいろいろな方面から議論され,かなり出尽く
していると言えるだろう.例えば,任期にふりまわされてじっくり研究できな
い,特定の研究分野の優遇や誘導,任期付き職員と任期なし職員の間で起こる
であろう様々な軋轢,任命権者への従属意識が強まる,若手の切り捨てにつな
がるなどなど.それぞれはもっともであるが,一方で任期制の運用によって解
決可能という見方もできる.また,任期制の導入を推進する側は交流が盛んに
なることや,刺激を与えることによる研究の活性化を旗印にしている.交流の
活発化や研究の活性化という名目には反対しずらいし,実際問題として,もう
少し研究者の流動性が高まった方がよいかもしれないし,必ずしも全ての研究
者がそのポテンシャルを100%発揮しているかというと疑問の残るところでも
ある.従って多くの研究者にとっては,なかなか任期制の黒白を判断するのが
難しいというのが実情だと思う.

 私は,任期制は雇用という賃金労働者の根幹のところに競争原理を持ち込む
物であり,その点をもっと議論する必要があると思う.

 競争原理を持ち込むことは,既に科学技術基本法や同基本計画をはじめ,新
しい研究開発の施策を行なう時など為政者の側からは念仏のように述べられて
いる.従ってこれはもはや争点などではなく,既定の路線なのだという意見も
あろうかと思う.5/ 19の朝日新聞で大学教員の任期制導入の是非が議論され
ていたが,そこで展開されていた議論は,異動しやすい環境整備をせよという
ような,任期制の改良をするかどうかであった.また,5/17の朝日新聞の社説
では「研究者も変わらなくっちゃ」と題し,「捨てる神あれば拾う神あり」と
研究者へ競争社会への参入を促している.

 しかし,そのような競争原理を無批判に受け入れてよいものなのだろうか?
研究は競争するから発展するのだろうか?うまく整理ができていないが,私な
りに問題点を上げてみる.

(1)すでに研究現場にはある程度の競争/評価のフィードバックのシステム
は存在する.たとえば,論文の雑誌掲載等成果発表の手順,予算やポストの獲
得などである.実はこのことはあまり世の中に知られておらず,研究者は勝手
なことをやっていると思われがちになってしまう.確かに,そのプロセスは透
明でなく,それゆえ一部ボスの恣意的な運用などに歪められていることも多く,
それが話題にされることが多い.まず,競争/評価のシステムの存在を知らせ
ること,そして,それをきちんと行うことが,大事な点であり,それ以上に競
争をあおるようなことは必要ないと思う.

(2)競争の際には競争に参加する権利や競争を行う条件が平等であるべきで
ある.しかし,昨今の改革は,プロジェクトや競争的資金重視で基本的な研究
条件にますます格差をつける方向であり,経常的な研究費では最低限の研究活
動すら行えない状況が生まれている.必要最低限の研究費はもちろん分野や研
究の展開の状況によって異なるだろうが,それぬきに競争させても初めから勝
負にならない.近ごろはそれほど額の大きくない研究を競わせ,大きなプロジェ
クトはむしろ政策的に決定される傾向があるように見受けられるが,むしろ,
大きなプロジェクトこそ本当に競争的に行い,小さな研究テーマは自由にやら
せるべきだと思う.その方が結果的に独創的な研究が行われると思う.管理さ
れた競争のゆきつく先は,批判が浴びせられている公共事業や建設業界の談合
の体質であり,けっして独創的な研究は生まれ得ないだろう.

(3)ここ数年の科学技術政策は,科学技術基本法とともに,行政改革や財政
構造改革などの動きが加わりかなり複雑だと思われる.前者と後者において,
科学技術に対するスタンスは異なっており,前者はかなり幅広く科学技術の価
値を考えているのに対し,後者,とりわけ財政構造改革の議論では,科学技術
は新規産業の創造という目的で位置付けられている.両者の重なりあう部分が
最も実現されうるとするならば,新規産業の創造に役立つ科学技術というのが,
クロースアップあれるかもしれない.この目的にあうような研究はある意味で
競争になじみやすいかもしれないが,それ以外の研究はどうなるのであろうか?

(4)競争においては何を競うのか,結果をどう評価するかが大事である.た
とえば,100mのタイムを競うとか,得点を競うという場合には,非常にドライ
に勝ち負けの判定できる.コストに置き換えられる実業の世界もある意味でド
ライにいく.しかし,研究の競争となると,得点やタイム,コストとなるべき
基準が非常に多様化する.そこを厳密に評価しようとすればするほど,その評
価は複雑になる.そのような中で任期制などで問題になる研究者個人に対する
評価は,いきおい多面的でいわば”全人格的なもの”にならざるをえない.そ
うまでするような評価は可能だろうか?あるいは,そもそも必要なのだろうか?
多面的評価の難しさやそれのもたらす歪は,入試や内申書,成績通知などをめ
ぐる教育現場の荒廃などでよくわかると思う.

(5)現在われわれが直面している南北の経済格差や地球環境問題などは,は
てしない生産拡大の自由競争の結果ではないだろうか.むしろ,これからいか
に果てしない人間の物質的欲望や競争心を地球の有限性と調和させていくかが
大きな人類的課題ではないだろうか.そういう時期に,研究活動にさらなる競
争原理を導入する意味はあるのだろうか?日常の生活は「やさしい生活」,仕
事は競争というような使い分けは,うまくいかないのではないだろうか?


 最後に,研究者の意識も変えていかねばばらないだろう.先に見たようにマ
スコミの研究者を見る目はかなりドライだし,つきはなしている.マスコミだ
けでなく,普通の人達の意識もそれに近いかもしれない.研究者が自分たちの
からにとじこもらずに,広く世の中に訴えるとともに,世の中の声に耳を傾け,
風通しをよくしていくことが必要だろう.近ごろの改革の中でさかんに言われ
るように,「インセンティブを与えることで活性化させる」ということがその
まま通用するようならば,それでは”にんじんを前にした馬”や”パブロフの
犬”と何ら変わらないではないか.札束をちらつかされなければ研究しないと
思われているとしたら,悲しいことだし,そうなってしまったら原爆を開発し
た研究者や細菌兵器を開発した731部隊の研究者たちとどこが違うのだろうか?
」

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