通信ログ
国公立大学通信 2003.06.04(水)

--[kd 03-06-04 目次]--------------------------------------------------
[1] 国立大:独立法人化で東大の学長、教授が賛否意見 参院文教委 
[2] 6/3首都圏ネット情報:国大協定例総会では法案の議論をしない
[3] 3/19 衆議院文部科学委員会での任期制についての質疑 抜粋
[4] 6/3大阪府大学教職員組合:公立大学法人化に反対する声明
[5] 6/2朝日:平子義紀「存廃論議「質」踏まえて  国立大付置研究所」  
[6] 小林 興(東京学芸大学名誉教授)「国立大学の法人化を問う」
[7] ありす氏から「教授だけに人権があり,学問の自由がある大学」
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各位 

6月10日の国立大学協会総会では任期切れで幹部の交替があるそうですが、
法案については議論せず、法案可決後に臨時総会を開催することを5月30日
の理事会で決めたとのことです。佐々木東大総長も法案に賛成であると国会で
証言した[1]そうですので、幹部が交替しても何も変らないと思いますが、な
ぜか、法案可決後の臨時総会では、現幹部が議事を司どるそうです。

現幹部の辞職を求め臨時総会で法案の問題を指摘することを求める54大学2
43名の共同意見書への賛同を求める電子投票を実施します:
http://ac-net.org/recall 本日(4日)より総会前日の9日まで投票を実施
します。国立大学関係者(教官、事務官、技官、非常勤職員、院生、学生)全
員が投票できます。やりかたはレファレンダムと同じですので、国立大学協会
が法案について責任ある発言をする事を求める方はご投票ください。(編集人)

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[1] 国立大:独立法人化で東大の学長、教授が賛否意見 参院文教委 
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『毎日新聞』Mainichi Interactive 2003年6月3日付
  
 国立大学を来年度から独立法人化するための関連6法案を審議する参院の文
教科学委員会で3日、参考人質疑があった。東京大の佐々木毅学長が賛成、同
じ東京大の田端博邦・社会科学研究所教授が反対の立場でそれぞれの意見を述
べ、“東大対決”を演じた。

 6人のうち最初の参考人の佐々木学長は15分間の陳述で、「基本的に(法
人化を)支持する立場に立つ」と明言し、最大の理由として大学と社会の関係
を変える必要性を挙げた。「大学がどのような目標を立て、どう実現するか社
会に直接メッセージを発することで説明責任を果たせる。大学がずっと官の一
部という姿は異常」と述べた。

 これに対し、田端教授は、独立法人化が大学改革の議論の結果として出てき
たのではなく、行政改革の一環として官公庁の独立行政法人化にならって始まっ
たことを指摘。そのうえで「(効率化を目指す)この制度は教育研究をになう
大学になじまない」と述べ、97年当時に独立行政法人化を否定した文相の発
言を引用して反論した。

 また田端教授は「(法案は)役員会や経営評議会など内部組織の構成につい
て詳細に規定されている」として、大学の自治の観点から問題点を挙げた。

 関連法案は、学長中心の経営を目指すとともに、大学の中期目標を文部科学
相が定め、目標を実現するための中期計画を文科相の認可とするなど、国の関
与が残っている。【横井信洋】
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[2] 6/3首都圏ネット情報:国大協定例総会では法案の議論をしない
    http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/030603syutjouhyo.htm
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【情報】5.30国大協理事会、驚くべきことに「定例総会では法案の議論を
しない」という執行部方針を了承

           2003年6月3日
    独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局

 国大協理事会は、去る5月30日に開催された。これに出席した複数の理事
から寄せられた情報によれば、理事会の主な内容は以下の通りである。

○数名の理事から、「国立大学法人法案には色々批判が出ているのに、執行部
は何も対応していない」という批判が相次いで出されたという。しかし、長尾
会長、石副会長は、例によって真摯な態度をとらず、議論をうやむやな形で終
息させてしまった。

○定例総会は来たる6月10〜11日に開催される。しかし、その時点で法案
が成立する見通しが立っていないため、「定例総会では、(1)法案に関する
議論は行わない、(2)法案成立後に臨時総会を開催し、国大協としての要望
を議決する」という驚くべき執行部方針を了承した。なお、要望の原案は、5
月7日付石特別委員長文書のうち、違法・脱法措置を要望したIIを削除した
ものと思われる。だが、執行部が同原案を回収するという異常な措置をとった
ため、詳細は不明である。因みに5月22日の特別委員会でも、要望書原案は
回収されたといわれており、執行部の目に余る秘密主義が横行しているようで
ある。

○6月10〜11日の国大協総会では、会長、副会長の改選が行われ、新執行
部が成立する見通しである。しかし、総会後に予定されている臨時総会は旧執
行部が取り仕切ることが確認されたという。退陣した旧執行部が新執行部を排
除して臨時総会を開催することなど、民主主義のルールからは想定し得ない。
一体これが何を意味するのか、不明である。 
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[3] 3/19 衆議院文部科学委員会での任期制についての質疑 抜粋
       http://ac-net.org/dgh/03/319-shuu-ishii.html
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○石井(郁)委員 ですから、今省略して、流動型、研究助手型、プロジェ
クト型というこの三つに該当する場合についてという、これが例えば一つの大
学の全学部、全学科に適用になるということは考えられますか。

○遠藤政府参考人 全部まとめてそうだと言うとそれは問題だと思いますけれ
ども、一つ一つ子細にチェックをして、これはこういうことだから該当するん
だと全部やった結果、結果として全部になるということはあると思います。」

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○石井(郁)委員 ・・・・・・要するに、この任期制の法律というのは、選
択的任期制だったんですよ。選択的なんですよね、こういうところには任期制
ですよという。決して、大学が丸ごと任期制だ、こういう想定はどこもしなかっ
たんじゃないですか。それが政府の見解でもあったわけでしょう。だから、こ
の法律どおり、選択的任期制だということについてはきちんとした見解でする
べきですよ。全学的に導入、一律に全部やるんだと、しかも今言われたように
現職の教員にやるんだなどという無謀なことは、到底考えられない。このこと
をはっきりしてください。

○遠藤政府参考人 その選択的の意味でございますけれども、一律に助手だと
か教授だとか何学部だとか、こういうことじゃなくて、大学が大学の判断で、
広狭いろいろな幅があると思いますけれども、いろいろなパターンで任期制を
導入できる、そういう意味での、大学の自主性に任せ、大学がどういう形で任
期制をやるかというのを選択するという意味での選択というふうに理解してお
ります。

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○石井(郁)委員 ・・・これは、昨年の国立大学等の独立行政法人化に関す
る調査検討会議、例の調査検討会議ですね、そこで非公務員化がすっと出てき
たわけですけれども、そこに文科省が提出した文書がございますよね。「国立
大学の職員の身分―「非公務員型」の場合に考えられる対応例」というのをあ
なた方が出していらっしゃる。それを見ますと、「任期制の導入 大学教員任
期法による三類型を離れた任期制の導入が可能」だと。

 これは驚きましたよ。今まで三類型で該当する任期制ということを決めて、
範囲が、枠があったわけですけれども、三類型を離れた任期制の導入が可能だ
と。どういうことですか、これは。あなた方、みずから出したでしょう。私は、
この文書というのは本当に法律の趣旨に違反すると思いますよ。そう考えませ
んか。

○遠藤政府参考人 法制的に御説明いたしますと、今、国会にお願いしており
ます国立大学法人法におきましてはいわゆる非公務員型であるということでご
ざいますので、任期法の適用についてはいわば私立大学と同じになる、こうい
うことでございます。

 私立大学教員と任期法との関係でございますが、これによって初めて教員に
任期制がつけられるということではございませんで、現行の労働法制の枠内で
も任期制はとれますが、任期制で任期をつけられるということを確認的に規定
したというふうに理解してございます。

 任期をつけたということについての合理性をどう判断するかという法制、何
かややこしい話で恐縮でございますが、そこで、任期法に基づいた任期制でご
ざいますと、これは任期制なんだからということですべて片がつくけれども、
任期法に基づかない任期制の場合については、仮に争いがありましたら、一つ
一つのケースについて労働法制上どうかということが問われる。そういう違い
はありますけれども、基本的には、私立大学の教員の場合につきましては任期
法がなくても任期制がとれる、こういう趣旨でございますので、そういったよ
うな趣旨から、法制的にいえばどうかというと、そういうことだという趣旨だ
と思います。

○石井(郁)委員・・・・・・今のは全然おかしいですよ。だって、任期法に
は私立の大学の教員の任期ということで、第五条にちゃんと書いているじゃな
いですか、これも。そしてそれは、国立大学でさっき三つの要件をつけたこと
と同じようにしなきゃいけないと。その場合でも、例えば規則を定めておかな
ければいけないとかいろいろありますけれども、その要件は一緒だと書いてい
るんですよ。」

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○石井(郁)委員 ・・・予算の配分と任期制の導入というのは別問題だとい
うのは、当時の小杉文部大臣も雨宮局長も繰り返し述べられていたんですよ、
それは。ところが今、あなた方は、それもどんどん何かあいまいにしていくと
いうようなことになっている。

 そして、法人化の中では、中期目標・中期計画の項目の中にも、教職員の適
正人事ということで任期制のことが入っていく。そして、どうも、これで数値
目標達成の対象にすべきだということになっていくと、結局予算とリンクして
いくじゃありませんかということで言っているわけで、非常になし崩し的にこ
の法律の解釈がどんどんゆがめられていくという点では、私は、今きちんとす
べきだということで考えているわけでございます。

 最後に、大臣の、その点でのきちんとした文科省の姿勢を少し示していただ
ければ大変ありがたいかなと思いますが、いかがですか。

○遠山国務大臣 先ほどもお話がありましたように、やはり教員の任期制とい
うのは、大学の活性化を図るために教員を流動化していく、流動性を高めるこ
とによって教育研究等の諸活動を活性化するというためでございます。ですか
ら、任期制を考える際にも、そのことの理念というのをしっかり考えてそれぞ
れの大学で判断をしてもらうということだと思います。

 予算につきましては、これからは法人化が達成されますと運営交付金という
ことになってまいると思いますが、その場合には、任期制あるなしといいます
よりは、その大学において教育の質がきちっと担保されているかどうかという
のは、もちろんその評価においてあらわれてくることだと思っております。そ
のようなことで、制度の趣旨というものはしっかり体しながら、新しい法人化
の際には、予算の配分等についても、それは透明性を持って運用していくべき
問題だと考えます。」
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[4] 6/3大阪府大学教職員組合:公立大学法人化に反対する声明
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/030603fudaiseimei.htm
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「地方独立行政法人法案」による公立大学法人化に反対する声明

                           2003年6月3日 大阪府大学教職員組合

総務省は、地方独立行政法人制度の平成16年4月導入を目指し、「地方独立行
政法人法案」を4月25日、国会に提出しました。地方独立行政法人法案は、地
方行政の行財政改革を目的とする地方独立行政法人制度の中に、公立大学法人
を地方独立行政法人の特例として規定し、国立大学が独立行政法人通則法では
なく、独自の国立大学法人法案によって法人化されようとしていることと大き
く異なります。地方独立行政法人としての公立大学法人は、国立大学法人法案
の審議の過程で明らかにされた大学の自治・学問の自由を保障する制度上の枠
組みを、国立大学法人に比べても著しく弱体化させるものであり、大学におけ
る自主性・自律性の確立に背くだけでなく、これまで地域の大学高等教育の責
務を担ってきた公立大学の発展に重大な影響を及ぼすものです。

法案は、公立大学法人の運営組織について、国立大学法人法の制度とは異なり
その重要部分を法律で規定せず、地方自治体の裁量に委ねています。経営審議
機関、教育研究審議機関の構成や学長の選考機関などを設立団体が議会の承認
を経て定款で定めるとされていることは、憲法23条に謳われた学問の自由、
「教育は不当な支配に服することなく」と謳われた教育基本法第10条の精神
に反するものです。また法案は、公立大学法人の教員を教育公務員特例法の適
用を受けない非公務員としていることを含め、学長・学部長選考や教授会によ
る教員人事の決定、教育課程の自主的な編成、教育研究活動の自主性を保障す
るしくみを大学が自主的、民主的に決定することを阻害し、大学の自主性・自
律性を大きく後退させるものです。

国立大学法人制度においては、中期目標や中期計画を文部科学省が決定・認可
することは「世界に例がないこと」と指摘されていますが、公立大学法人の中
期目標や中期計画は設立団体(地方自治体)の長が決定・認可することとされ、
中期目標、中期計画に基づく公立大学法人の評価については、設立団体が条例
で設置する地方独立行政法人評価委員会が評価することとしています。教育研
究を担う大学の普遍的な役割と評価が、これまでの大学評価と大きく異なり、
地方独立行政法人の枠組みの中で、設立団体によって大きく歪められることが
危惧されます。

公立大学法人が公立大学を設置し管理することは、設立団体(地方自治体)の
財政責任を曖昧にするものであり、厳しい財政状況にある大阪府をはじめとす
る地方自治体の行財政改革方針の下で、公立大学の財政基盤は極めて不安定化
され、現状の教育研究水準さえ維持することが困難となることは容易に予想さ
れます。また、設立団体の定める中期目標、中期計画によって、効率化の名の
下に公立大学法人の教育研究条件の切捨てと教員の削減、大幅な学費値上げが
安易に行われるしくみとなり、設立団体の行財政改革方針によって公立大学の
教育と研究の発展が阻害されることが懸念されます。

私たちは地方独立行政法人法案に反対し、同法案の審議にあたっては、国立大
学法人法案の問題点も踏まえ、法案趣旨も含めて慎重な審議を行うことを求め
ます。」
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[5] 6/2朝日:平子義紀「存廃論議「質」踏まえて  国立大付置研究所」  
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030602asahi-6.html
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『朝日新聞』2003年6月2日付

  存廃論議「質」踏まえて  国立大付置研究所
      
 科学医療部 平子 義紀
      
 国立大学法人化の波の中で、多様な専門分野の研究を担ってきた大学の付置
研究所もその存廃を巡って大揺れに揺れている。議論に火をつけたのは文部科
学省だが、その内容はいかにも生煮えで、各研究所の言い分とかみ合わず、関
係者の理解を得られるものでは到底ないからだ。日本の知的研究を支える基盤
の弱さが露見したものともいえる。
      
 国立学校特別会計下の研究所のうち20大学にある58の「付置研究所」は、各
分野の中核的研究拠点として学部や大学院と同様に政令(国立学校設置法施行
令)で設置が定められている。
      
 付置研究所を設ける利点は、集中的な研究や長期的視野に立った取り組みの
継続、新たな領域の開拓などができることにある。全国に関連研究者の多い分
野では、共同研究の要としても重要な役割を担う。
      
 こうした研究所とは別に、政令より扱いが自由な省令に基づいて、大学や学
部に482の「研究施設」も置かれている。付置研究所には平均57人の教官がい
るが、研究施設の教官数は一部例外があるとはいえ平均4・8人と小規模だ。
      
 文科省は国立大学の法人化を機に、付置研究所と研究施設を再編することを
狙って、昨年10月に見直し作業を始めた。今年1月、同省科学技術・学術審議
会学術分科会の特別委員会が打ち出した、見直し対象とすべき付置研究所の条
件は▽組織の見直しが10年間行われていない▽教官が30人より少ない▽総合評
価が低い−の三つだった。
      
 研究の質の本格的な評価は避け、外形的に判断しやすい安直なものさしを持っ
てきた感が強い。
      
 今回、同分科会は九つの研究所にヒアリングを実施し、4月に出した報告書
の中で、教官数が最も少ない東大社会情報研究所(49年設置、教官14人)と二
番目に少ない大阪大社会経済研究所(66年、18人)に厳しい評価を下した。
「組織としての活動状況が十分に見えず、組織の見直しも長期間にわたって行
われていない」と指摘したのだ。
      
 両研究所の関係者は一貫して「質」の高さを主張してきた。92年に新聞研究
所から名称を変え、マスコミ研究の中核とされる東大社情研の花田達朗所長は
「ジャーナリストとの共同研究や研究対象の拡大に取り組んできた。業績には
自負がある」と話す。阪大社研の常木淳所長も「論文数も、引用される機会も
多い」と存在意義を強調。日本経済学会も「経済系付置研究所の中で、1人当
たりの論文数は阪大社研が1位」と後押しした。しかし報告書を見る限り、十
分理解されたとは言い難い。
      
 結局、東大社情研は来年4月に大学院情報学環と合併する道を選んだ。阪大
社研は、学内に隣接しナノテク拠点として存在感を高める産業科学研究所(同
112人)との統合を検討したものの、文系・理系の違いなどから決裂し、単独
存続を目指すという。
      
 今国会に提出された国立大学法人法案では、付置研究所、研究施設ともに、
組織の存廃は大学の判断に任せられている。文科省主導で再編を進めることに
与党から異論が出たためで、当初もくろんだように国が直接大なたを振るうこ
とにはブレーキがかかった形だ。だが、吉川晃・同省学術機関課長は「大学が
生き残り策を次々と打ち出す中、付置研究所も現状のままでは社会に受け入れ
られない」と厳しい姿勢を崩さない。
      
 たしかに付置研究所の見直しは終わったわけではない。法人化後の大学が自
己評価する際には、付置研究所についても言及しなければならないからだ。運
営や学問の活性化は大学に課せられた宿題である。
      
 一方で忘れてならないのは、学問はすぐ実用に役立つものもあれば、そうで
ないものもあるということだ。多様性があってこそ新しい時代に対応できる。
研究の質を問う営みを置き去りにしたままでは、将来の芽を摘むことになりか
ねない。存廃論議を巡る今回の混乱からくむべき教訓は、そこにある。 
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[6] 小林 興「国立大学の法人化を問う」
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「昨今の国立大学独立行政法人化に伴う文部科学省の振舞いは目に余るものが
有る。独立行政法人化により大学を文部科学省の支配下に置こうなどという錯
覚は持たない方がよい。何故なら、学問と行政は異なるからだ。文部科学行政
は本来大学(主人)を助けるための補助役(脇役)である。行司を含む裏方
(脇役)が相撲取りになることは出来まい。裏方はあくまで相撲取りを助け、
相撲取りが存分活躍できるようにするのが本来の役目である。しかるに、近頃
の文部科学官僚の振舞いは、自分が相撲取りになったかのような言動である。
分をわきまえずはなはだ見苦しい。脇役はあくまで脇役に徹すべきである。た
とえ主人が理不尽であっても主人を翻意させるのは本人の自覚を待つしか方法
はないのだ。脇役が余りに幅を聞かすのは国を滅ぼすことになる。

学問には歴史が有り、その奥深さは計り知れない。単純な業績評価や表面に現
れた業績だけで、大学や大学の研究所(以下研究所という)を評価してはなら
ない。自然科学系の学問はインパクトファクターに基づき、ある程度表面的な
評価はできるかも知れない。その時代に合っていれば研究費も付き、多くの論
文が書け、一見評価されよう。しかし、人間社会を構成している学問は必ずし
もその時代の流れに沿った学問ばかりではない。哲学や倫理学、芸術や文学、
歴史学や教育学、法律学や経済学などはその時代に合っていないからといって
必ずしも評価の対照とならない訳ではない。否、むしろ五十年あるいは百年後
に、世の中を変え、人類に多くの幸せをもたらせて来たことは歴史が証明して
いる。大学や研究所は会社とは異なる。会社は営利を目的としているが、教育
と研究を行う大学や研究所は会社と同じであっては、本来の目的を損なう。大
学にも利益をあげる部門が有るかも知れないが、それはほんの一部に過ぎない。
大学の本来の目的は、その成立過程から明らかなように、時代の流れに左右さ
れず、独創性を発揮し、人類に夢と希望を与えることである。それを実現する
には時間と無駄が必要である。ゆっくりと考え、失敗をし、また繰り返し、毎
日その試行錯誤の連続である。その中から新しいアイデアが生まれる。時代に
淘汰された研究成果を生み出さなければ、それは一瞬にして消滅してしまう。
ある時代に評価されようとも、時代を経れば塵埃のごとくなってしまうのであ
る。歴史に耐え得る研究をするには多くの無駄や時間的余裕が必要である。そ
れを会社(独立行政法人)と同じに考えるのはあまりに早計である。時代の流
れを客観的に見て、考え、批判し、新しいアイデアや提案をすることができる
のが大学である。それゆえに大学はその存在価値が有る。それがなければ人類
は悲劇に陥る。日本は第二次世界大戦を通じて、そのことを深く学んだはずだ。
その歴史の反省もなく、ただ闇雲に経済効率だけを追求するような発想は果た
して正しいのか。それが日本社会における大学に相応しい考え方なのか。日本
の将来を考えればそのようにはならないはずだ。国を憂え、日本の教育や社会
をどのようにするかを真剣に考えた発想と言動が求められている。経済効率と
いう単純な発想で大学の将来の結論を急ぐべきではない。」
(東京学芸大学名誉教授・日本植物学会教育委員)

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[7] ありす氏から「教授だけに人権があり,学問の自由がある大学」
       #(http://ac-net.org/kd/03/602b.html#[9]への疑問)
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「神戸大学教授 阿部泰隆氏の,

  大学教員任期制法への疑問と再任審査における公正な評価の不可欠性
		ー京大は学問の自由を自ら踏みにじるなー
             #(http://ac-net.org/kd/03/602b.html#[9])
の以下の<>の文に,こうした発想をする教授でも,助手という弱者は切り捨
てて考えているのだなとショックを受けました.
 このため,この論文は,「厳しい競争を生き残った優秀な我々を殺すのか」
という,自分達の立場にだけに立った論理を展開されているように感じてしま
います.

>  二 任期制法への疑問
>
> 1 任期による入れ替えと流動化・活性化との合理的な関係の希薄さ
>
>  任期制には特定のプロジェクトを行うために特定の期間だけ採用され、任
> 期が来たら業務消滅により再任がないことが最初からわかっているものや、
> 万年助手を避け、多数の研究者の卵にポストを与えるための研究助手の任期
> 制のほか、流動化型がある。そして、本件のように、再任可とされているも
> のがある。プロジェクト型で、再任なしのものは、恣意的・人為的な人事を
> 行う余地がないので、問題はないし、<研究助手は研究者としてまだ評価が
> 定着しない段階の任用であるから、任期を付すのも当然である。>

 このような教授集団の利害だけを考えた論理では,大学の多くの若手教官の
エネルギーを結集できず,世間の普通の人々の共感も得られないのではないで
しょうか.

 助手に任期を付すのも当然と考えるのなら,失業保険などを整備するのが最
低ラインであるし(現在人事権を持っているのは,私の理解では教授会なので,
仮に非公務員方の採用における任期制導入を支持して準備するなら,導入を決
定する現時点の教授会に条件整備についての責任があると思います.文科省だ
けに責任転嫁するのは許されません),

<多数の研究者の卵にポストを与えるための研究助手>の変わりに,ポストド
クター制度や奨学金制度,所属が大学に限らない研究費助成などの制度の充実
を,教授会自らが提唱して,次世代に多くの平等な研究機会を与えるべきだと
思います.

任期が切れて,再任拒否されても研究を続ける熱意がある場合,他大学に採用
されなければ,民間で働きながら研究を続けるしかないからです.こういう研
究に対する熱意を国は大切に育むべきではないでしょうか.

 また,短い任用期間中には助手の研究環境を充分に保証する必要があり,雑
用事務処理係代わりに使ったり,自分の担当講義をシラバスに名前も書かずに
代行させたりして,貴重な研究時間を奪わないようにするべきだと思います.

 しかし,任期のある短い研究期間で,継続性のある独創的な研究ができるの
かも疑問です.結局,教授などの研究成果を補助する業務に使われてしまい,
論文数はあっても,独創性のある研究は芽生え難くなるような気がします.

 したがって,助手の任期制を導入するくらいなら,助手制度など廃止して,
その人件費をポストドクター制度や奨学金制度,所属が大学に限らない研究費
助成などの制度の充実にあてたほうがよほど良い研究が育つと思います.
 また,対等に教育にも従事できる講師以上のポストを増やし,教員の多忙を
少しでも緩和することが必要なのではないでしょうか.

 研究生活に夢を持てる国にしなければ,次世代の良い研究は育たないと思い
ます.

自分たちが切り捨てて来た,また,今後切り捨てるであろう,「優秀でない」
とレッテルを貼った研究者の中に,自分たちの限界を超えた,自分たちでは理
解できない,自分たちでは見いだせない才能を持った研究者がいた・いるかも
知れないことに考えも及ばず,平気で切り捨ててゆく・・・.もしくは,若手
研究者に追い越されるのを恐れるからこそ,切り捨て,潰して行く.

この論文は,「優秀な」自分たち教授だけはバカにするな,と主張しているよ
うに響いてしまいます.
(京都大学再生医科学研究所の井上一知教授が再任を拒否されたいきさつを不
当だと主張する主旨には,もちろん同感できますが.)

今後,時流の圧力に対して「助手の任期制導入」を中期計画に盛り込むことで,
教授に実害がないように対処して乗り切ろうとする教授が多くなるような気が
します.教授だけに人権があり,学問の自由がある・・・・.

こういう発想で,<一握りの天才研究者しかわが国には必要ない>という政府
の論理(私にはそう思えます)に対抗できるのでしょうか.

生き残ったのは,いったいどんな研究者だったのか,また,これからはどんな
研究者なのでしょうか.

>プロジェクト型で、再任なしのものは、恣意的・人為的な人事を行う余地が
>ないので、問題はないし、

とも書かれていますが,プロジェクト型で再任なしとわかっていて,優秀な研
究者を集められるのか?も疑問でした.

 プロジェクトが終わった後はどうやって生活するのですか?企業がその期間
だけ出向させ,任期後は企業に戻すということですね,きっと・・・.企業と
大学が一丸となってプロジェクトを成功させるということですね.」

「[4]  [reform-664] 任期制導入で問われているもの 97.6.7
> 任期制で生じる競争は,自らや家族の生活権をもかけるものであり,研究費
> や成果のプライオリティをめぐる競争とは,根本的に質を異にしていると思
> うからです.               #(http://ac-net.org/kd/03/530.html#[4])

ということばに,私は非常に共感を覚えます.」
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
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